きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.10.9 八方池 |
2008.11.18(火)
その1
夕方から東京工業大学世界文明センターで開催されているレクチャーシリーズに行ってきました。「2008秋・冬」と題して10月から12月までの5回シリーズで、劇作家や建築家が講演するというもの。今日は詩人の伊藤比呂美さんの「朗読の境域−フルエル言葉、マジワル異郷」というタイトルでした。講演内容をリーフレットから拝借しますと、
{詩の朗読は、作品の魅力やエッセンスをより強く伝えてくれます。それは、日本語の美しさ、生命力を増幅し、反響させる表現法といえます。母語の異なるひとびとの間で、日本語の詩を書き、読み、伝えること。とりわけ、「おんなの言葉」が他の文化圏以上に特異性をもつ日本語を、異郷で朗読するとはどういうことか。越境し、読み、歩き、定住するなか、見えてきた日本語表現の境域とは何か。朗読パフォーマンスを交えて講義します。}
司会・朗読は世界文明センターフェローの水無田気流さん。水無田さんの朗読はしばらく前に聴いたことがありましたけど、東工大の先生とは知りませんでした。
伊藤さんの講演・朗読はたぶん初めてだと思いますが、アメリカでの生活を交えたパワフルな講演で、まさに〈フルエル言葉、マジワル異郷〉という感じでしたね。80年代の女性詩ブームから20年、伊藤比呂美健在!を確認した思いです。
今回のレクチャーシリーズは、東工大教授ご夫妻に誘われたものです。奥様とは数年来のおつき合いですが、ご主人とは今回初めてお会いしました。とても気さくな方で、帰りは大岡山の居酒屋で一杯。〆張鶴も越之寒梅も呑んで、アカデミックからはちょっと遠かったかもしれませんけど、楽しい時間でした。お誘いいただき、ありがとうございました!
○隔月刊詩誌『RIVIERE』101号 |
2008.11.15 堺市南区 横田英子氏発行 500円 |
<目次>
僕たちの三日間戦争(2)…河井 洋(4) ピエタ…正岡洋夫(6)
境目…横田英子(8) 満月までに…泉本真理(10)
夏…藤本 肇(12) 幸鈴…清水一郎(14)
季節の変わり目に…石村勇二(16) 介護…山下俊子(18)
うたってかたって…松本 映(20)
永井ますみ詩集『弥生の昔の物語』特集(22)〜(25)
RIVIERE/せせらぎ(26)〜(30)
河井 洋/横田英子/ますおかやよい/石村勇二/永井ますみ
灯台のある町…戸田和樹(31)
風船のような…平野裕子(34) 折鶴ラン/はまなす
と あきあかね…ますおかやよい(36)
外されたぼたん…永井ますみ(38) 赤ん坊とじい…蘆野つづみ(40)
火欅…嵯峨京子(42) 夜は明けない…後 恵子(44)
邯鄲師…南村長治(46)
受贈詩誌一覧(48) 同人住所録(49)
編集ノート 永井ますみ 表紙絵・水島征夫/詩・永井ますみ
風船のような/平野裕子
しぼんでゆく風船のようだった
受験の発表のあと 家には電話がない
生暖かな早春の街をさまよっていた
憧れに届かないのは 経済のせい
体制にぶつけた不満のこぶし
秘かに種を孕ませた風船
(枯れた木に水をやるのも虚しいことと)
枯らしてしまった初恋の芽
芽を吹く虚脱感
ふみいれた世の中の本音が
透けて見えた
仮面の大人に石を投げた
酒と紫煙の混じった悪の匂いに引き寄せられる
路地裏の壁に貼りついている
汚れた哀しいくらし
何処へ運ばれようとしていたのか
乗せられていた ベルト・コンベアー
成熟のときは闇に去った
不安な時代の影が 風にゆれて
風船が通り過ぎていく
(あと一分 停車時間をくださいませんか)
受験に失敗したという想定なのでしょう。〈しぼんでゆく風船のようだった〉という第1行がよく効いていて、何度か試験に落ちた経験のある私にはよく分かりました。作品は青春時代を振り返ってという設定ですが、〈枯れた木に水をやるのも虚しいこと〉、〈ふみいれた世の中の本音が/透けて見えた〉などのフレーズにも共感します。そして最終連の最後の1行が佳いですね。〈通り過ぎていく〉時間を見ながら〈あと一分 停車時間をくださいませんか〉という思いは、それなりに人生経験を積んできた人ならではの心底からの希みだろうと思いました。
○詩誌『軸』93号 |
2008.11.15 大阪府寝屋川市 木村勝美氏事務局・大阪詩人会議発行 500円 |
<目次>
詩
おほさか暮色− 月 玉置 恭介 1 風鈴/エスプレッソの夏 佐相 憲一 2
人間喪失 おれんじゆう 3 「X軸」 中井多賀宏 4
Kが消えた しかやまぶん 6 残されて 椛島 恭子 7
投稿詩 私は十三才 もりたひらく 7
エッセイ
ロングエッセイ(一)夜の雨 玉置 恭介 8
詩
蟹工船 佐古 祐二 10 「人の温もりを忘れぬように」 そよかぜ 10
『客観死』 竹島 修 11
エッセイ
人生は詩かもしれない(1) 佐相 憲一 12
詩
結ぶ思い 迫田 智代 16 哀・偽宗教者 猫だましい 16
猫のいる家 田島 廣子 17 枕の中 瀬野 とし 18
人生いろいろ やまそみつお 19 選挙や ワッショイ みくもさちこ 20
「追想」/批評 山田 満世 21 雪のシャワーの一日 必守 行男 22
いのちを感じるとき 和 比 古 23 冤罪の構造 幽間 無夢 24
骨のぼり 脇 彬樹 25 ゴミの日 清沢桂太郎 26
サーバント・ジャポン 山本しげひろ 28 資本主義万歳 畑中暁来雄 29
エッセイ
ヒロシマ・遺言ノート(6) 原 圭治 30 反戦・平和への思い込め
鶴彬の銘石除幕式開かれる 原 圭治 35
『軸』92号感想集 36 受贈誌・詩集等紹介 41
編集後記 42 お知らせ 『軸』94号原稿募集・カンパ募集
表紙絵 山中たけし
枕の中/瀬野とし
おとなたちがひそひそ話をしていた
上の子どもたちは出て行ってしまい
末息子とその若いお嫁さんと暮す
谷田のおじいさん
中風で寝付いていたが
枕の具合がどうもおかしい
親しい近所の人が来たとき 調べてもらうと
籾殻の中から薄い布袋が出てきた
十円硬貨が六枚縫い込まれて
六文銭!
昔 お葬式で棺に入れた
三途の川の渡し賃
枕に入れるのは
早く向こうへ行ってもらうための
おまじない
田んぼや畑を作りながら
義父の世話をしなければならないお嫁さん
娘に長い介護の苦労をさせたくない 里の親の
入れ知恵だろうよ きっと――
村の人たちは 噂し合った
子どものとき聞いたその話を
このごろ わたしは何度も思い返す
六文銭を見たおじいさんの
気持を思う
・・・・・・・・・
今この国のおじいさんおばあさんの
枕の中にも
六文銭が
そして
おじいさんおばあさんの息子や娘たちも
六文銭を縫い込むように
追いつめられて。
〈十円硬貨が六枚縫い込まれて〉いた昔の〈その話〉が、実は昔ではなく〈今この国のおじいさんおばあさんの/枕の中にも〉縫い込まれているのだというフレーズにギクリとさせられます。事実として現在もそうことがあるかないかは別としても、精神的には否定できないでしょう。その理由は最終連で〈追いつめられて〉と看破されており、ここは見事だと思いました。
○『かわさき詩人会議通信』49号 |
2008.12.1 非売品 |
<目次>
詩と俳句は姉と弟=@杉田久女の作品に魅かれる/河津みのる
詩
旅立つ/さがの真紀 洗う/寺尾知紗 夢の中/山口洋子
無責任万歳/枕木一平 触発/寺尾知紗 「病いに関する詩二題」/斉藤 薫
赤トンボ/小杉知也 小さな音楽会/さがの真紀 この頃/寺尾知紗
春 花ばな/小杉知也
春 花ばな/小杉知也
早春の梅花は、せっかち
畑には、陽光をよろこぶ菜の花
ヤブツバキは、濃緑葉に女性の唇のような紅色
マンサクは、ちぢれ毛糸の黄色
ソメイヨシノは、エステによる全身美容
ツクシは、土手に筆花をもちあげ、
小鳥たちは、艶めき、さえずり放題
どうやら、渋面なのは人間ばかりだ。
第2連の〈女性の唇のような紅色〉、〈ちぢれ毛糸の黄色〉、〈エステによる全身美容〉という形容が、それぞれの花の特徴をうまく掴んでいると思いました。そんな〈春 花ばな〉に対して、最終連の〈どうやら、渋面なのは人間ばかりだ。〉というフレーズが決まっています。人間も素直に〈陽光をよろこ〉び、〈艶めき〉、自然から学ばなければいけないのかもしれませんね。短い作品ですが、自然と人間との関係を端的に表現した佳品と云えましょう。
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