きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2008.10.9 八方池 |
2008.11.20(木)
夕方から日本詩人クラブの「詩の学校」第U期<世界の詩を楽しむ夕べ>PartUが新宿区天神町の事務所で開かれました。講師は太原千佳子さん、演題は「オランダ語圏の詩 1×1の詩学」でした。
わが国ではほとんど知られていないオランダ語圏の詩。ヘルマン・ド・コーニンクの詩を中心に、よくわかっているものの助けを借りて、未知のものを表現する手法、そこから講師が発見した1×1の詩学を学びました。感嘆の声が揚がる講義を30名ほどの受講者が愉しみました。
○詩誌『きんぐさり』6号 |
2008.11.20 埼玉県南埼玉郡宮代町 向井千代子氏発行 500円 |
<目次>
詩
単純なインドの曲で/あの方はもう 平木たんま 2 かげ/最後の写真 佐藤 昭宏 6
夜景/思い出 高山真木子 10 おばあさん 金親 尚子 12
星の子守唄 神石 諸人 14 一夏過ぎ行く/百日紅の影に 鎌田 庸子 16
古いテーブル/小さい頃は 河上小枝子 20 仙人草/準備/冬木 向井千代子 26
創作 我ら花盛り 鎌田 庸子 32
エッセイ
我が恋人 河上小枝子 40 うさぎ山(6)(最終回) 向井千代子 43
新・メルヘン散歩(6) 向井千代子 47
表紙絵 三石 玄
準備/向井千代子
庭のアカシアは
夏の今から
来春の花の準備をしている
青々と茂った枝先には
やがて蕾になるはずの粒々が
レース編みのフリンジのように
付いている
そのように
ヒトがこの世を生きて
あれこれのことに手を染め
あれこれの言葉をつむいだり
絵を描いたり
世界中を飛び回ったりするのは
みんな、きっと
次の世のための準備にちがいない
今、病の床に臥せる人も
ただ、死という闇の中に入っていくのではなくて
境界を越えて
その向うの、別の世界に
生まれ変わる
そのための、一つの準備の過程に
いるにちがいない
また再び
花咲くために
〈夏の今から/来春の花の準備をしている〉〈庭のアカシヤ〉と、〈ヒトがこの世を生きて〉いることも〈次の世のための準備にちがいない〉と、並列に扱った佳品だと思います。〈死という闇の中に入ってい〉こうとしている〈病の床に臥せる人も〉、〈境界を越えて/その向うの、別の世界に/生まれ変わる/そのための、一つの準備の過程に/いるにちがいない〉と捉えたところも見事です。最後を〈花〉で締めくくったところも秀逸で、生きる希望が湧いてくる作品だと思いました。
○詩誌『豆の木』6号 |
2008.11.1 埼玉県北葛飾郡栗橋町 石島俊江氏事務局 非売品 |
<目次>
詩
むくげの花が咲いて 塩田 禎子 2 暮し 石島 俊江 4
汽笛 村田 寿子 6 雨 秋山 公哉 8
体内時計 里見 静江 10 バンザイ クリフ 松下美恵子 12
陽炎(かげろう). 松下美恵子 14
ティールーム
鉄道博物館 村田 寿子 16 郊外のレストランにて 里見 静江 17
知覧特攻平和会館 石島 俊江 18 地霊 秋山 公哉 20
言葉に惑わされない日常 塩田 禎子 21 いのちの洗濯 松下美恵子 22
三年目の思い 24 編集後記 25
同人名簿 25
表紙 松下美恵子
雨/秋山公哉
雨が降ると
製材所の匂いが濃くなる
立て架けられた材木の
滑らかな肌が水気を吸って鈍く光り
道往く人の顔を淡く照らす
重い空を傘で支えながら
街を歩く
くちなしの香りが
歩道にたたずんでいた
子供の歌う声が聞こえる
寺社の多い街だ
弘法大師が植えたという
楠の巨木が
葉の色を濃くして
雨粒を受け止めていた
この街では
雨が降ると
木も道も人も濡れて
たましいの在り処(ありか)が
濃くなっていく
詩作品ですから実生活を念頭に置く必要はありませんけれど、エッセイで名古屋単身赴任と出ていましたから、〈この街〉は名古屋市と思ってよいでしょう。〈寺社の多い街〉に暮らす詩人の視線が心地良く伝わってきます。特に最終連の〈たましいの在り処が/濃くなっていく〉というフレーズ、第2連の〈重い空を傘で支えながら〉という詩語に魅了されました。
○詩誌『衣』15号 |
2008.11.20 栃木県下都賀郡壬生町 700円 森田海径子氏方「衣」の会・山本十四尾氏発行 |
<目次>
芙容の家 横 田 英 子 2 千駄木界隈 葛 磨 りょう 3
河の向こう側 大 磯 瑞 己 4 蟻になった夜 小 森 利 子 5
石 青 柳 俊 哉 6 新体の書・三一二句(その一) 須 永 敏 也 7
寺町の秋 うおずみ 千尋 9 破れ傘 岡 山 晴 彦 10
夢 大 原 勝 人 11 春と欺瞞と 千 本 動 12
つながる 高 畠 恵 13 プチトマト −母に− 佐藤史子(あやこ) 14
朝の音 石 川 早 苗 15 漁る 佐々木 春 美 16
秋思(五題) 喜 多 美 子 17 ハリケーン・ハンター 相 場 栄 子 18
うねる雲 山 下 貴実代 19 かみなづき 小 坂 顕太郎 20
かくれんぼ 山 田 篤 朗 21 猫 鶴 田 加奈美 22
列車の旅 江 口 智 代 23 托卵 豊 福 みどり 24
調べ 森田海径子(かつこ)25 夾竹桃考 山 本 十四尾 26
『長崎を最後にせんば』
今年の夏の思いについて 山 本 十四尾 27
詩の教室再開のご案内 28 同人近況 29
後記 33 住所録 34
表紙 「衣」書 川 又 南 岳
蟻になった夜/小森利子
外で 家人の騒がしい声がする
出てみると
庭に 幾つもの蟻の巣
無数の蟻は
巣穴を出たり入ったり
右へ左へと 餌を探している
虫の死骸を見つけては
祭りの山車でも引くかのように 連なり
やがて
獲物は 小さな穴へと消えていった
地下では 子蟻や老いた蟻達が
餌を待っているに違いない
私は
パン屑らしき物を運ぶ 彼等の上から
蟻退治スプレーを吹き掛けた
数秒もしないうち
庭は 黒い小さな塊でいっぱいになった
折しも
広島では 六十三回目の
原爆慰霊祭が行われていた
その夜
私が 蟻になった夢を見た
〈地下では 子蟻や老いた蟻達が/餌を待っているに違いない〉と思いながらも〈蟻退治スプレーを吹き掛け〉てしまう〈私〉の業を見事に描いていると思います。蟻にとっては〈原爆〉と同じだという視点も秀逸です。もちろん蟻退治と原爆では質・量ともに違いますが、その思考は同じものかもしれません。最終連で〈私が 蟻になった夢を見た〉ところに作者の良心を感じました。
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