きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.8.18 佐渡・沢崎鼻にて




2009.9.24(木)


 小田原のアオキ画廊で開催されている「火曜パステル会作品展」を観に行ってきました。先月、私のオフ出版で刊行した『見捨てられた人々』の著者・本多廣光さんが責任者をやっている会ですから、これは観ておかなくてはなと思っていたのです。地域の詩の仲間、二人に連れられて、と言った方が正確かもしれません。
 本多さんは3点を出品していましたが、お孫さんの絵と薔薇の絵は力強く、ヨーロッパの街中の川を描いた絵は繊細な感じを受けました。特に川の絵は、一部を切り取って本の表紙に使えるなあ、と、一端の編集者気分で眺めていました(^^; 他にも力作が揃っていて、なかにはパステル画とは思えない厚塗りの作品もあって、この人は油絵もやっているのではないかと思ったりもしました。

 豊かな気分になったあとは、3人で近くの居酒屋へ。個室になっていて、ゆっくり話をすることができました。年齢の違いはあるものの3人ともすでに退職していますから、在職中はお互いに口に出せなかったことも話すことができました。30年も前の様々な大きな事件を振り返ってみて、当時考えていたことが正しかったり、認識が甘かったことが判ったり…。改めて退職の良さを認識しました。本当は現職でもそういう話をしなければいけないのでしょうが、まわりへ大きな迷惑を掛けることにもなるので抑えてきました。その反動がこれからの人生を突き動かしていくのではないかという予感に捉われました。
 佳い夜でした。Tさん、Oさん、ありがとうございました!




北川朱実氏詩集
『電話ボックスに降る雨』
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2009.9.17 東京都新宿区 思潮社刊 2400円+税

<目次>
夏の演習 4      電話ボックスに降る雨 8
眠らないもの 12    ヌーをいっぱい 16   インドの雨 20
麦わら帽子の穴 24   星座 28        舌あそび 32
ラジオ体操の朝 36   昭和四十五年 40    さがされるもの 44
角間川小学校 48    モアイ 52       海岸列車 56
高島屋 60       アマゾンの文字 64   チベットの羊 68
コーンパインの木 72  縁台の人 76      きのう、シャボン玉の木を買った 80
虹のはなし 84     砂売り 88
装画=浅川洋




 
ラジオ体操の朝

踏切を渡ったとたんに
とても大事だったことが
どうでもよくなった

伊藤組の前で
ニッカズボンの男たちが
五、六人
ボリュームをあげてラジオ体操をしている

誰のものでもない夜明けの空を
ひとりぶんずつ与えられて

旭山動物園のキングペンギンは
運動不足の解消のために
まいにち早朝散歩があるけれど
あくまでも自由参加で
無理強いはしないのだという

気が向かないペンギンは
反対向きに歩いていったりするのだが

ラジオ体操の
あの誰かの使いのような
すこやかで礼儀正しい言葉を聞くと
理由
(わけ)もなくあやまりたくなる

今日一日
名前と住所だけはきちんと書いて
誰にも迷惑をかけずに生きてゆきます
と宣言したくなる

私にも あんなふうに時間を止め
大きな声を出して
空や山に聞いてもらいたいことがあった

朝の容積からはみ出して
手足をふり回した若者が

うまれたてのかなしみのような
鼻水をたらして
今もあの朝にとり残されている気がして

石けんで手をきれいに洗う

 詩集としては3冊目のようですが、以前から注目している詩人の詩集を初めて手に取って、嬉しくてたまりません。たった22篇の詩群ですから、もっと読みたい!と感じさせる詩集です。紹介した詩はすべての連でいちいち頷きながら拝読しました。〈伊藤組〉の〈ラジオ体操〉が〈旭山動物園のキングペンギン〉に飛び、登場人物の〈理由もなくあやまりたくなる〉気持ちへと見事に繋がっています。強制されているわけでもないのに〈誰にも迷惑をかけずに生きてゆきます/と宣言したくなる〉庶民の生活態度、そして〈うまれたてのかなしみのような〉ものを感じて〈石けんで手をきれいに洗う〉。これぞ詩。詩でしか描けないものを結実させた作品だと思いました。




詩誌『ササヤンカの村』20便
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2009.10 宮城県栗原市
ササヤンカ出版局・佐々木洋一氏発行 100円

<目次>
「現代詩」であること……畠山義郎の二冊の著書から
夜の甘み/伊藤啓子
食器/佐々木洋一
打ち上げ花火/佐々木洋一






   
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