きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.9.4 筑波山・ガマ石 |
2009.10.3(土)
その1
実家の売却について再び不動産会社と打ち合わせをしました。前回は驚くほど安い値段でびっくりしたのですが、今回は計算の根拠も示してくれて、それを元に所有者が売却価格を決めてくれ、そうしたら会社のチラシやHPに載せて宣伝する、と言ってくれました。それ相応の値段も出て、ホッとしています。
実家は借地です。結局、家の価格は〇ですけど、借地に権利が発生して、それが売却価格に影響することも分かりました。弟妹たちとも相談して、価格を決めていきたいと思っています。拙HPでの宣伝も問題ないようですから、近日公表します。ご自身はともかくとして、お知り合いの方などにお知らせいただければ幸いです。
○安岐英夫氏詩集『遠い国の物語』 |
2009.9.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
ガリヴァーヘの提言 6 語学講座 10 異国からの手紙 16
遠い国の物語 22 飽食の宴に 26 異国を歩くひと 30
海の記憶 34 スズメ語会話同好会 40 林 44
散歩をするひと 48 祈りを横ぎる 52 花の季節に 56
送電線のある野道 60 街角にて 64 宿泊する旅人 68
貸し倉庫 72 風の日の報奨 76 ある夏の日に蔵書を整理する 80
ひとつの願望 84 和解の日に 88 模倣する自然 92
桜のある坂道 96 さようならのリフレイン 104
あとがき 110
遠い国の物語
遠い国の物語を
語りあう青い銀河の夜
闇が白光の乱舞をあたえる時刻
もしもきみが許された想像の影であれば
わたしはおそれずにきみの物語を語ろう
きみたちの王国もまた
うつくしい誤解のうえに成り立った
狂おしい愛恋の群舞
おびただしい産卵の河床の小石
無力な苔におおわれた
むき出しにされたかぼそい生命の誕生
放浪の吟遊詩人のかき鳴らす
哀切の諸行無常
赤ひげの森の住人
ひつじ皮のやぶれかけたテントの陰で
憫笑にはにかむ敗軍の将
ついえたきみの野望のありかを
切り裂く流星の閃光 ふりそそぐ雷鳴の断片
こうしてわたしたちに関わりのない
どこかの国のおとぎばなしを
産み出された生命の化身を肴に
飲みほし 語りあう 飽食の宴は過ぎさり
丘のむこう 戦火にまみれた尖塔のあたり
暁鐘は殷々と鳴り響き
取りもどされた王者の威信
置き忘れた思い出を探りあて
覇者にのみ許された永遠の哲理を
年代記の片隅に刻みつける
一朝 目覚めの暁の寝床にあって
きみの王国が想像の所産であることに
あくまでもわだかまりを抱くようなら
わたしはおそれずにきみの物語を語り継ごう
こわれやすい幻影の集積 わたしたちの楽園
うつくしい誤解のうえに成り立った
見果てぬたまゆらの影の移ろいを
41年ぶりの第2詩集です。あとがきによれば、途中、詩作を中断した時期もあって間隔が開いたようですが、息の長さには敬服します。ここではタイトルポエムを紹介してみました。不勉強のせいで、初めて目にする漢字に出合いました。第2連の〈憫笑〉は“びんしょう”と読み、“憐れみの籠もった笑い”だそうです。“憫笑を買う”などと使うようです。作品は、〈うつくしい誤解のうえに成り立った〉〈想像の所産〉が〈遠い国の物語〉であるのかなと受け止めました。
○倉本侑未子氏詩集『真夜中のパルス』 |
2009.10.1 東京都千代田区 砂子屋書房刊 2500円+税 |
<目次>
氷結 8 畳の目 10 骨灰(こっかい) 14
真夜中の鼓動(パルス) 18 こころの情景 22 O(オー) 26
仮面舞踏会(マスカレード) 30 浄夜(じょうや) 34 スクランブル交差点 38
掌(てのひら) 42. 夜窓(やそう) 46 午前三時 48
青色モンスター 52 シュガー 54 キッチン 60
オフィスに降るもの 64 行方 68 π(パイ) 70
蠅の眼 72 紙片 76 百合根 78
泥塑人(でいそじん) 80. 堅果(ナッツ) 84 赤鬼 86
倒木更新(とうぼくこうしん).88 胡粉(こふん) 90 私室 92
光波(こうは) 94. 外環の初夢 98 ベンジャミン 102
あとがき 106
装画・金丸 眞 装本・倉本 修
真夜中の鼓動(パルス)
途切れがちな音を追う
蒲団から突きだした耳
ほつれたネットワークのどこかに
自分と同じ心音をさぐっている
伸ばしたアンテナ
小さなラジオを胸におしつけ
つめたい寝床で蟋蟀(こおろぎ)になる
浮かびあがる電波網
街から 家から どこからか
とびでたものの潜む宿
ここには少しの浮力がはたらき
誰もがひっそり漂っている
つかみかけた不揃いな信号(パルス)
肝心なところでノイズがはいるが
暗闇で共振している
もう一匹がきっといる
――それでは また来週――
DJの声が弾んで消える
触角をはずし
ほとりと沈んでいく仲間たち
幾度目かの時報
麻痺しはじめた体をこすり
拍動を強め
満たされぬ交信をつづける
第1詩集です。ご出版おめでとうございます。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈小さなラジオを胸におしつけ/つめたい寝床〉で聞き、〈幾度目かの時報〉にますます眼が冴える…。私にも覚えがありますね。その感覚を〈ここには少しの浮力がはたらき/誰もがひっそり漂っている〉と表現したところが見事だと思います。今後のご活躍を祈念しています。
○宮沢肇氏詩集『舟の行方』 |
2009.10.10
東京都千代田区 砂子屋書房刊 2500円+税 |
<目次>
T
航海記 10 海、目覚めまで 16 わが泳法 20
海の声 24 落日を拾いに 28 ジパング脱出 34
舟の行方 40 船霊 46. 〈Now〉の舟 52
U
春のジンクス 58 石の舟 62 亡きひとの柩の傍らで 66
ことばを汲む場所 72 春の恵み 78 砂の少女 84
兎さがし 90 旅の終りに 94
後記 98
題字・鈴木千和 装本・倉本 修
舟の行方
おお 今朝もまた
躯を一艘の舟にして
ひとの骨盤から出て行ったものがある
なにひとつ書置きを遺さず
別れも告げずに
ひとの一生は航海に似たり
むかしリーダーのテキストで習った
勇壮だが
けっして癒えることのない傷を負った
千年の諺を地で行くかのように
辺りに咲き始めた
緑の思想を片目で拒否して
明け方の野原をどこまでもどこまでも
水平線の彼方めざして
出かけて行った
その先に在るのは
たった一つ
黙りこくった貝の殻かもしれないのに
深層の夢の奥を
しきりに生き急いでいる一片の雲
青空に浮かんだ
きみの背姿そっくりの恰好で
あれが出て行ったことなど
ほんとうは
だれひとり気づくものはいなかった
空に消えたのか
忍者よろしく水に潜ったのか
沓として行方が知れないまま
舟足を見失った犬が
くるくる廻りながら遠吠えしている
通りがかりの托鉢の僧がひとり
持参の鉄鉢に
帆の形した日陰の欠けらを受けて
経を唱えている
道祖神の祠の立っている道端では
登校の子供たちが
ゆうべ夢でみた海の話に夢中だ
みんな風のように空を翔けていき
目には見えない水脈となって
出自の遠い記憶を
岸辺へ打ち寄せる
今朝もまた
一艘の
帆かけたる舟*
千年の時間をひと呑みにして
どこか異邦の岸辺へとその姿を消していく
なにものかの影が
あたかも〈時〉の象(かたち)のように鮮明に
その骨格を映していて
*『枕草子』第二四五段より
6年ぶりの第9詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈躯を一艘の舟にして/ひとの骨盤から出て行ったもの〉とは何かが難しいのですが、〈時〉で良いのかもしれません。〈しきりに生き急いでいる一片の雲〉は、現代人への批判として受け止めました。
なお、“躯”は正字が使われていましたが、表示できないので略字としました。ご了承ください。