きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.9.4 筑波山・ガマ石




2009.10.4(日)


  その2




中村藤一郎氏詩集『神の留守』
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2009.11.1 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税

<目次>
第一章 むかし戦争があった
雨 12                     天象儀
(プラネタリウム)の爆音 14
本所・深川の乙女達 18             むかし戦争があった 22
本日休業 28                  あたし 今 生きています 30
わたしの時間 36                ある寂蓼 42
第二章 二一天作の五
二一天作の五 50                鞴
(ふいご) 52
陶房 54                    ベんがら −光学ガラス研磨工場にて− 56
実験について 58                実験について U 62
地獄への階段 66                回転する歯車 70
O型の脚 74                  開墾地 78
第三章 精一杯生きた母に
山に登って 84                 序曲 86
立春 90                    春 94
春眠 100
.                   白い静かな雨が降りだした 104
みどり色の触感 108
.              橋を渡る 110
仰ぐ空は青空でなければならない−足尾にて−
.114 曲った絵 116
白痴の言葉 120
.                未決ということ 124
精一杯生きた母に 126
.             泡 132
宿痾 K病院待合室にて 136
第四章 「神の留守」 141
あとがき 202
略歴 206




 
実験について

   実験ニ於テ、否定、肯定 両結果ヲ得タ場合、否定的事実ノ
   方ガ数ガ多イカラト云ッテ、ソレニヨッテ肯定的事実ヲ否定
   出来ルナドト、決シテ信ジテハナラヌ、逆二又、肯定的事実
   ヲ以テ、否定的事実ヲ肯定スルコトハ出来ヌ、否定的事実ハ、
   如何ニ数ガ多カロウト、タッタ一ツノ肯定的事実ヲモ決シテ
   破壊シ得ヌモノデアル。(クロード・ベルナァル=実験医学
   序説)

かまきり は、ようやく、物乾竿に、しがみついていることが出来
た。もう彼の持つ前肢は、かすかにふるえていた。焦燥と懐古とが、
すでに黄褐色になってしまった五体に、ゆるやかに波打っていた。
彼の複眼を、白や黄やの、ちょうちょう が、一枚、二枚、過ぎて
いった。ちょう の姿を見つけて、いまいましそうに、舌打ちした
 かまきり が、彼女たちを見送って、けだるそうに、その長い首
を、おもむろに、かしげるように、右上に擡げたとき。彼は、自分
自身の恐ろしい新事実を発見した。彼の首の関節が、ぎりぎりと、
きしんだのだ。恐る恐る更に左に廻してみた彼は、その体に、水分
の少くなったことを、認識しなければならなかった。それから、さ
きの ちょう のことを、思い出して、動きの悪くなった前肢の関
節を、きしませながら、両手をすり合せて、彼女たちも、やがて、
リョウマチにかかるだろう、などと思って見た。
かまきり は、また、土の上を、彼らの体重の幾倍もあるだろうと
思われるような、重量物を運搬する、あり の一群を見た。〈あの
頃の俺は〉と、思った。そして、味のよかった縞紋様の、はち の
頭を連想した。
じっと、物乾竿に、つかまっている間に、自分の体の、水分が、だ
んだん少くなってくるようだった。〈俺は〉と、思っていた彼が、
いつの間にか、〈俺だって〉と、考えるようになっていた。
腹の中の、ゼンマイが、かすかなけいれんを、起したように感じた
とき、彼の眼から、最後の水分が、涙となって、にじみ出た。その
一粒が、だんだん大きく膨れ出し、彼の体を、すっかり包むほど、
大きくなっていった。彼は疾走り出した うま の手綱を、引き締
めるような気持で、表面の、のびていくのを、喰い止めようとした
が、ゴムのような、涙の表面は、ぐんぐん、ぐんぐんのびていった。
かまきり は、膨大な、更に膨らみつつある、透明な涙の中に、小
さな、青々とした彼の姿を、おぼろげに、見つけたような気がした。

 85歳になったという著者の第1詩集です。ご出版おめでとうございます。1947年、22歳から書き続けた詩群の中から、ここでは「実験について」を紹介してみました。「実験について U」と対をなすような作品で、生業だった技術者らしい視点の作品だと思います。〈クロード・ベルナァル〉の論と〈かまきり〉が、近いようで微妙にズレているのが愉しい作品です。なお、〈リョウマチ〉はママ、〈けいれん〉には傍点がありますが割愛しています。ご了承ください。
 また、詩集タイトルは
第四章「神の留守」の中の、つぎの句から採っていることが分かりました。ご参考までに。

 神の留守
鰯雲窓辺のバラの赤きこと
鰯雲おとこはひとり神の留守
鰯雲隣家の電話のベルが鳴る




詩誌『北の詩人』76号
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2009.10.5 札幌市豊平区   100円
日下新介氏方事務局・北の詩人会議発行

<目次>
版画・魚山に登る/たかはたしげる 1      短歌 八月をゆく/幸坂美代子 2
夫に寄り添う/大竹秀子 3           アライグマ/大竹秀子 4
ゲームキューブ/たかはしちさと 5       未来へ/たかはしちさと 5
有機農材/仲筋義晃 6             軍曹はヒーローだった/たかはたしげる 8
叙事詩 白石(6)/阿部星道 9         短詩 黎明 一票 黎明 鳩がとんだ日に/佐藤 武 10
平和の先進国に/佐藤 武 11          改憲派議員集団大量落選/佐藤 武 12
わたしのモンタージュは/日下新介 13      人間を救え/日下新介 14
八月の墓碑銘
.日下新介.平和新聞9月5日縮小転載 15
季節/八木由美 16               やさしさ/八木由美 16
仙台・白石市の旅/阿部星道 17         中国旅行記 衝撃の旅(1)(2)/もりたとしはる 19
エッセイ 聖書の言葉から/倉臼ヒロ 21     
本の照会「陶晶孫 その数奇な生涯 もう一つの中国人留学精神史」/たかはたしげる 22
北の詩人 75号感想 大竹秀子 23
寄贈詩集・詩誌寸簡 阿部星道 佐藤 武 日下新介 25
他誌の紹介(沃野) 27
もくじ 例会案内 あとがき 28




 今号のあとがきでは、村山のように〈まず他人の書いた作品を読むことを大切にしたい〉と書いて下さいました。実態は伴っていませんが、過分なお言葉に恐縮しています。




個人誌『コロポックル』18号
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2009.9.13 札幌市豊平区 日下新介氏発行 非売品

<目次>
鹿児島詩人会議の茂山忠茂さんからのお便り 85
詩集紹介
 堀内キミ子詩集『生命の交信』 86
 浅田隆詩集『証言』 88
 綾部清隆詩集『北の浜辺と木道』 91




個人誌『コロポックル』20号
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2009.9.30 札幌市豊平区 日下新介氏発行 非売品

<目次>
「作文と教育」1985年より 105
楽譜「八月の墓碑銘」 日下新介作詞・丸山征四郎作曲 106
詩  科二君に −五十五年目の碑前の集いに寄せて/日下新介 111
楽譜「歩き続けるぼくと君」 日下新介作詞・佐藤一彦作曲 112






   
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