きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.9.4 筑波山・ガマ石 |
2009.10.9(金)
その2
○詩誌『撃竹』71号 |
2009.9.30 岐阜県養老郡養老町 冨長覚梁氏方発行所 非売品 |
<目次>
僻村幻秋譚 …………………………前原 正治 2 明るい時間 ………………………前原 正治 4
かたつむり …………………………中谷 順子 6 秋の日の問い ……………………中谷 順子 8
雨の日の麦わら帽子 ………………石井真也子 10 バス停 ……………………………北畑 光男 12
茜 ……………………………………斎藤 央 15 薔薇 ………………………………斎藤 央 16
足跡 −カナディアンロッキイ−…若原 清 18 地区放送 …………………………若原 清 20
梅雨 …………………………………掘 昌義 22 古鏡 ………………………………斎藤 岳城 24
ひかりが影を刻む時間 ……………頼 圭二郎 28 二通の破片 ………………………冨長 覚梁 30
わが枯野の春−天折したH子に−…冨長 覚梁 32 良寛の自在なる詩精神
撃竹春秋…………………………………………… 38 −漢詩・和歌を通して ………冨長 覚梁 34
バス停/北畑光男
行き帰りの途中に
六道という
バス停を通るのだが
車内アナウンスが
次は
六道です
というたびに
心のなかでは
停車の
ボタンを
押しているのだ
(ぼくは
下車こそしないが)
見渡せば
夏草の鬱蒼と生茂る空き地
延々と続く送電線の鉄塔
ひっきりなしに行き来する車
道路に面した通りの商店街
低い屋並み
ほそぼそと曲がる農道
ぼくは
これらの道の
どこからかやって
来たのではなく
どこからも
やって来たのだ
そしてこれからもまた
どこへでも行くのだろう
おや
こんなところにまで
ビニール袋
停留所の標識
六道に
ひっかかった
破れて使い物にならない
ビニール袋
もう一人のぼくだ
風に吹き晒されて
からっぽの自分がさらに
もう一人のぼくを
探しているようでもあり
何も無い自分を
発見して
歓んでいるようでもあり
須が谷庚申前
六道
原
今はもう
とっくにビニール袋こそないが
六道という
バス停が招きよせる
ぼくのなかの光景なのだ
〈心のなかでは/停車の/ボタンを/押している〉という詩人らしい感性に惹かれます。第6連の〈どこからかやって/来たのではなく/どこからも/やって来たのだ〉というフレーズは“我々はどこから来て、どこへ行こうとしているのか”という有名な言葉への反論とも採れます。有名な言葉に納得するだけでなく、その言葉をさらに深めるのも詩人の仕事でしょう。〈破れて使い物にならない/ビニール袋/もう一人のぼくだ〉と、己を小さく規定する姿勢にも共感した作品です。
○詩と評論『操車場』29号 |
2009.11.1 川崎市川崎区 田川紀久雄氏発行 500円 |
<目次>
■詩作品
壁 池山吉彬 1 イタダの末裔 −6 坂井信夫 2
浜川崎で 長谷川忍 3 愛があるから負けられない 田川紀久雄 4
■俳句 朝露を 井原 修 6
■エッセイ
浜川崎博物誌・3 坂井のぶこ 7 見出された時 −つれづれベルクソン草(16) 高橋 馨 8
削り屋は見た−ナースのお仕事(下) 野間明子 10 新潟フルムーンライブ 坂井のぶこ 12
末期癌日記・九月 田川紀久雄 14
■後記・住所録 24
浜川崎で/長谷川
忍
駅の改札を抜け外に出ると
小雨がぱらついている
野良猫が傍らをよぎっていった。
ホームのほうに目をやってみた
木造造りのホームは
昔とほとんど変わっていない。
土曜日の工場街は人の姿もなく
閑散としている。
大きな踏切を渡ったところで
赤い花に気づいた
夾竹桃だ。
倉庫ばかりが連なる灰色の空の下
まるでそこだけ
ぽっと色がともったかのように
鮮やかな花弁を広げている。
花を見つめた。
甦ってくるものがあった。
産業道路のほうから
次第に近づいてくる
トラックの鈍い排気音。
激しくなってきた雨に突かれながら
私は先を急いだ。
ある情景を切り取っただけの作品ですが、この穏やかさは何なんだろうなと思います。〈小雨がぱらついて〉、やがて〈激しくなって〉雨の中の〈ぽっと色がともったかのように/鮮やかな花弁を広げている〉〈夾竹桃〉。空の暗さとの対比が奏功しているのかもしれません。その視覚と〈トラックの鈍い排気音〉という聴覚も、読者に安心感を与えているように思います。何気ないものを散文ではなく詩として表現すると、こうなるのだ、という見本のように感じました。
○詩誌『宇宙詩人』11号 |
2009.10.15 愛知県高浜市 鈴木孝氏代表・宇宙詩人社発行 1000円 |
<目次>
・詩
・太田昌孝…早い春の別れへ(TOKIO・一九八三)…6 ・高田杜康…消えゆく豪華客船…10
・藤原 佯…バンブー…12 ・中川ヒロシ…遠ざかる…14
・間瀬義春…好尚…15 ・太田千尋…小町…24
・紫 圭子…フォトンのうろこ…26 ・森 和枝…擦過…28
・清水弘子…内部駅の木の改札…30 ・宮田澄子…雨期…32
・漆畑結音…マイナス7℃の息吹…33 ・いいださちこ…部位…38
・今井好子…病んでいます…40 ・山崎 啓…あ、美人…42
・名村和実…夜の図書館書棚…44 ・久野 治…コオノ兵曹いま何処…50
・遠藤昭己…永遠の桃…56 ・甲斐久子…別離…58
・林口香代子…夢の子守歌…60 ・阿部堅磐…愛猫ハッピーのお遊び…62
・大西 豊=・花のロンパリ−えぐれ笹島のうた−…67 ・佐山広平…陽の亀裂の下に/風のはこぶ時の想いを…68
・みずしなさえこ:・夾竹桃の咲く家/Hホテルのロビーでは…74
・小林陽子…会いたくて/逝く母に…76 ・角谷義子…白い紙が降りた場所…90
・人見邦子…窓…92 ・高井 泉…薬る…94
・丹羽康行…エピローグ…96 ・野根 裕…通りゃんせ…98
・尾崎淑久…義祖父の死…100. ・曽谷道子…青春記…102
・長澤奏子…春の海…104. ・村井一朗…二重奏…106
・宇佐美宏子…つつ暗…108. ・村田しのぶ…遺伝子…110
・谷和幸…赤とんぼ…114. ・近岡 礼…反転する陽…116
・中原眞理夫…人間にもなれない…118. ・尾関忠雄…秘密結社死葬団の謎…120
・鈴木 孝…されば…122
・評論・中村 誠…“so alone”の(詩)人梅田智江…16
・書評・井関常雄…中村 誠『金子光晴〈戦争〉と〈生〉の詩学』…20
・エッセイ・澁谷 義…銀シャリ弁当に想う/『映画、蟹工船と時代(とき)を撃て・多喜二』…36
・韓国現代詩/コ・ウン(高銀)…46 チェ・スンホ(崔勝鎬)…47 訳・紹介…ハン・ソンレ(韓成禮)…48
・評論・久野 治…黎明期の中部地方詩人(9)…52
・現代詩鑑賞・阿部堅磐…わが愛する詩(中山伸の詩)…64
・フランス←→日本の友情…78
・フランス現代詩・ジョエル コント…80
・ジョエル コント…会長のスピーチ…81
・報告・紫 圭子…詩誌《宇宙詩人》・第十回懇親朗読会「宇宙の波動、声の森へ」…82
・評論・駒瀬銑吾…詩的認識と散文的認識(7)…112
・後記・鈴木 孝…「共存と自我と・11」…126
擦過/森 和枝
日暮れてもなお明るい町
小学生であった私が育った町
日暮里の駅を五十年振りに通過した 見開いた目に
写った町はすっかり姿を変えていて商いの街へと発
展したようで堅いコンクリートの壁面が所狭しと
攻めぎあう恰好で立ち並んでいた 平屋建ての長屋が
隣の屋根を支えるような穏やかさを醸していたかつて
の町並みの面影など車窓から見えない
うだるような梅雨時の晴れ間 駅舎の南側上部は
今でも谷中の墓地が そのままで在った ではないか
樹木の間から墓石が古びた貌を覗かせていた
懐かしい風景のあの世からこの世を繋いでいた手前の
石橋は何処にもなくてその橋から降りて来る細いあの
道も消えていて
像の一部となったあの町を思い出しながら 人の営
みの変転
または自在さを豊かさ≠ニ読めばいい
失われたものえの寂しさと 子供心をかきたてた怖い
お話の続きがここでも切れていく明日の物語
擦過音が 山手線のこの車体の下から聞こえてくる
次は田端・・田端
妙に捻った車掌の声が
スピーカーの中ではずんでいるような
〈平屋建ての長屋が/隣の屋根を支えるような穏やかさを醸していたかつて/の町並みの面影〉が無くなり、〈堅いコンクリートの壁面が所狭しと/攻めぎあう恰好で立ち並んでい〉る〈日暮里〉で、変わらないのは〈谷中の墓地〉だけなのかもしれませんね。〈自在さを豊かさ≠ニ読めばいい〉という達観にも共感します。〈擦過音が 山手線のこの車体の下から聞こえてくる〉というフレーズから採ったタイトル「擦過」も良いと思いました。