きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.9.4 筑波山・ガマ石




2009.10.19(月)


 山梨県・清里のギャラリー譚詩舎滞在3日目。今日は特にイベントがないので、昨日までの片付けを手伝ったり、残った皆さんとおしゃべりをして過ごしました。朝から五月雨式に帰る人を駅までお送りし、17時過ぎの電車で帰る人が最後で、その足で私も帰宅しました。所要時間は2時間半。行きも帰りも同じ所要時間でした。

 所要時間といえば、中央高速でおもしろい経験をしました。須玉IC入口はゲートがETCと一般が一つずつ。そのETCゲートに小型トラックが立ち往生していたのです。やむなく一般ゲートに入って、通行券を取りました。一宮御坂ICで出るときは、一般ゲートでETCカードと通行券を係員に渡すのですが、領収書を見て驚きました。なんと550円! 通常は1050円のようですが、迷惑料として500円割り引くと書かれていました。こんな“迷惑”なら毎回でもOKです(^^;




吉貝甚蔵氏詩集『夏至まで』
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2009.10.21 福岡市中央区 書肆侃侃房刊
2000円+税

<目次>
 *
朝を待つ 8      夏至まで 12      あしたに向けての 16
最後の次に 20     声の行方 26      たずさえながら 30
うつむく季節 32
 **
話を続けて 38     遥かへの対話 42    そこにいる 46
月夜の散歩 50     まん中にいる 52    海をわたる 56
直方体は夢の形象?
.58. 磁場まで 62      「不思議の国のアリス」奇想曲 64
 ***
スウィング・バイT 76
. スウィング・バイU 84. スウイング・バイファイナル 94
☆から始まり 100
 ****
美野島橋通り商店街
.108 色の階梯 112.     衝突する囁き 116
多面の明日へ 120
.   反・出・森記 122.   そして たぶん 126
あとがき 130
.     初出一覧 132




 
月夜の散歩

流星の降る湖に行こう
月をかじるねずみは
ぶらさげたシッポで
夜を揺らす

草原を抜け
森に囲まれた湖に行こう
あの月が砕けないうちに
夜が鳴っているうちに

風につかまれた葦の群れは
さざなみを囁きにかえ
言葉の淵を抱えこむ

水面をすべる水鳥の羽根なら
救えるだろうか
落下するねずみを

 12年ぶりの第2詩集です。全体に独特なイメージと言語感覚の作品が多い詩集ですが、紹介した詩はその典型ではないかと思います。〈月をかじるねずみ〉は雲の喩でしょうか。その〈ぶらさげたシッポで/夜を揺らす〉という第1連から魅了されました。第2連の〈夜が鳴っているうちに〉、第3連の〈さざなみを囁きにかえ/言葉の淵を抱えこむ〉というフレーズには、著者の並々ならぬ言語感覚の一端が覗いていると思います。最終連の〈落下するねずみ〉も見事に決まりました。言葉をギリギリまで削ぎとって、イメージを最大限に膨らませた佳品だと思いました。




詩誌GATE217号
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2009.10.23 茨城県つくば市
会の所在・塚本敏雄氏方 非売品

<目次>
【詩】
輪廻      福田恒昭…2          さむらい    柴原利継…4
蜃気楼     生駒正朗…6          坂の途中    塚本敏雄…6
【ゲスト招待作】
茅萱      金井雄二…11          レンズ山    金井雄二…13
【特集】あらかじめ措かれた反歌に向けて…15
無明      塚本敏雄…16          風薫るもはきつ 生駒正朗…18
森のプール   福田恒昭…20          みどりのいろは 柴原利継…22
【エッセイ】断章集 EDGE7「闘牛 マドリッド\山古志」   生駒正朗…24
【同人短信】
From the GATE
福田恒昭…28  生駒正朗…28  柴原利継…29  塚本敏雄…30




 
さむらい/柴原利継

一つめのカッコをはずして家を出た
まだまだカッコはあるから大丈夫だ
二つめのカッコをはずしてタイムカードを押した
まだまだカッコはある ぜんぜん大丈夫
三つめのカッコをはずしてカウンターの客と話をする
まーだまだ カッコはあるから大丈夫でございますとも
四つめのカッコをはずして課長に決裁をもらい
五つめのカッコをはずして新規事業のプレゼンに足を運ぶ
六つめ七つめ八つめとかたっぱしからカッコをはずしていって
一日の仕事を全てやり終え
それでもまだ芯が残っていることを確かめ
安堵の深呼吸をひとつ

タイムカードを押してハンドルを握る
開け放たれた車の窓から
無数のカッコたちが
チョウのように
あるいは横殴りのベタ雪のように
舞い戻ってくる

そう 今日も僕はいつものようにたくさんの 何かをして
その何倍もの 何かをしなかった
つまり ほんの少しだけ髭が伸びた   ぐらい
すこぶる大丈夫
信号待ちでネクタイをゆるめ
シャツのボタンを一つはずす
襟元を爽やかな風が吹き抜けていく

 私事で恐縮ですが、38年続いたサラリーマンを辞めて3年が過ぎました。もうすっかり忘れていましたけど、この詩を読んで久しぶりに当時のことを思い出しています。特に〈今日も僕はいつものようにたくさんの 何かをして/その何倍もの 何かをしなかった〉というフレーズには喝采を贈りたくなりました。
 しかし、喜んでばかりはいられません。タイトルが「さむらい」ですから〈カッコ〉は裃かと思いましたが、違うようです。肩肘を張らせるものでしょうか。〈それでもまだ芯が残っていることを確かめ〉ていますから、“自分”と解釈しても良いかもしれません。シリアスな面も読み込まないといけない作品だと思いました。




詩誌『詩遊』24号
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2009.10.31 大阪市都島区 冨上芳秀氏発行
1000円

<目次>
浄水器フィルター交換・楡久子 P.1上     モノクローム・辻井啓文 P.2上
たいやき・林美佐子 P.3上          耳そうじ・中村瑞奈 P.4上
海馬界隈のこと・仲村渠芳江 P.5上      本当のわたし・吉岡尚美 P.6上
早春の贈り物・宮沢さえ P.7上        帰宅・ほしのしほ P.8上
わたしは魔女・松山由美子 P.9上       音・坂本久刀 P.10上
バニラの匂いがする女・井宮陽子 P.11上    姪っ子・福山てるよ P.13上
水割り・冨上芳秀 P.15上           あくびの舟・冨上芳秀 P.16上
私の匂い・中村瑞奈 P.1下          タチアオイ・ほしのしほ P.1下
土鍋・林美佐子 P.2下            水のおんな・仲村渠芳江 P.3下
森の同窓会・楡久子 P.4下          四月の憂鬱・松山由美子 P.5下
握手・立花咲也 P.6下            金木犀・白澤久美子 P.7下
ピンチ・辻井啓文 P.8下           再会・井宮陽子 P.9下
長江の流れ P.10下              三分間・ささき颯 P.11下
免許・吉岡尚美 P.12下            黒い石膏・福山てるよ P.12下
八月の春の日・坂本圭 P.13下         愛されごっこ・大月みや P.14下
おなら・宮沢さえ P.15下           石・中村国男 P.16下
風・みやさかとう子 P.17下          音楽・森砂雫 P.18下
ありのいいぶん・松井孝典 P.19下       喫茶室・P.17上・中
対馬・韓国紀行U・冨上芳秀 P.19上
表紙デザイン・上田寛子




 
海馬界隈のこと/仲村渠芳江

当方、息子とふたりの暮らし。
その息子にテレビの音量が大きいと注意を受ける。
「えっ、そぉ・・」
「ボケてもいいけど耳は遠くなるなよ、会話が面倒くさくなるから」
と、私が育てた子はハッキリおっしゃる。
「面倒くさくなるのはどっちも同じ」
やたら昔を懐かしがり、故郷を想う詩を作るなんてことは、ほんの
序章で、夕刻になると、逝った者生きている者、人でない者までが、
柱の影から現れ親しく言葉を交わし、散歩に出かけては人工衛星の
お世話になり、嫁が毒を盛っていると食事を拒むなど、大層面倒な
ことに。
おぉ、そうだ、お前が幼い頃に読み聞かせたオセアニアの村のあの
妖怪、夜な夜な己の皮を剥ぎ燃え盛る炎となり、家々を襲い人の血
を吸い生き延びるあの妖怪、あれも老婆。
「同じか。しょうがないな。ま、慰めに脳ドックでも受けていてく
ださい」と、動ぜずにおっしゃる。
さすが、さすが、そうでしたと出かけた病院。いくつもの画像から
私の脳を覗き見たのは若い医者、実に慣れた説明をする。「海馬傍回
と海馬の委縮が認められます。認知症の始まりでしょうね」
おおっ、
このように、さらりと至近距離から撃たれることもあったとは。

 確かに〈故郷を想う詩を作るなんてことは、ほんの/序章で、夕刻になると、逝った者生きている者、人でない者までが、/柱の影から現れ親しく言葉を交わし〉てしまうのが詩かもしれません。〈散歩に出かけては人工衛星の/お世話にな〉るのはGPS機能付き携帯電話のことでしょう。狂言仕立てにした作品で、最後の〈このように、さらりと至近距離から撃たれることもあったとは。〉というフレーズがよく効いていると思いました。






   
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