きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.9.4 筑波山・ガマ石




2009.10.22(木)


  その2




詩誌『ERA』第二次3号
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2009.10.30 東京都目黒区      500円
東大大学院川中子研究室発行所・中村不二夫氏発行

<目次>
詩1
吉野令子  漂流 4              北岡淳子  夏の歌 6
瀬崎 祐  骨切り屋の女 8          小島きみ子 Lesson 10
川中子義勝 ふたつの庭で 12          佐々木朝子 夏の蝶V 15
岡野絵里子 永遠のカーヴ 18          畑田恵利子 華やかな死 20
田中美千代 鳩 22               大瀬孝和  義侠――総理・田中栄助 24
清岳こう  パミール高原/他 26
特集「各国文学の現在」
中尾まさみ 浮遊する自意識――アイルランド詩の現在 30
秋吉久紀夫 中国の現代詩人馮至の足跡を訪ねて 38
細野 豊  ラテンアメリカ文学の現在
       −五〇年代生まれの作家、ロベルト・ポラーニョとオラシオ・カステリャノス・モヤを中心に− 43
浦 雅春  現代ロシア文学敗走の記 48
中村不二夫 エロスと母性の解放――モランテ『アルトゥーロの島』―― 53
G・シュトゥンプ(
Gabrielle Stumpp)[ドイツ詩の現在]
ブリギッテ・オレシンスキー『諸霊(精神)の河流」を読む 61
詩2
田村雅之  鬱抜け 64             橋浦洋志  虹の地殻 67
小川聖子  断食 70              藤井雅人  かなしみの木 72
中村洋子  雀と老女 74            井手ひとみ 夏の家 76
関口裕昭  ソラリス――水の惑星 78      大森隆夫  その椅子 80
竹内美智代 汽車 82              田中眞由美 ことばたちの反乱 84
中村不二夫 泉――愛猫Cに 87
連載・評論エッセイ
橋浦洋志  詩と小説 90            北岡淳子  白い小さな花たち 石川逸子詩集『海もえる』試論 93
坂井信夫  佐野カオリ『ワルツ』への断片 102 [コラム] D・ケールマン『世界の測量』を読む 06
川中子義勝 矢内原忠雄の詩 107
編集後記  111




 
義侠――総理・田中栄助/大瀬孝和

 1
高利貸たちのためにこの村の農民たちがどんなにか困窮に陥ってい
るか また借金の返済もできないで身代限りに貶められているもの
が郡下で七百戸にも及んでいる現実 それに加えて学校費の嵩み
雑収税や村費の過重な負担 ただひとつの換金手段である生糸相場
の暴落 それらから解き放たれるためには何をすべきか

 2
御覧なさい 畑を借り入れた労働者にあなた方が払わなかった賃金
が 叫び声をあげています


 3
俺たちは死を賭している 妻子と縁を切り 戒名を懐にし 貧民を
救うがため もとより一命を抛って企てている 貧民はひとり埼玉
県にとどまらずどの県にも同様のことなれば……そうしてこのこと
は 世均し世直しにつなげられている

はっきり言っておきたい 世の人に先立ってことをなす者こそが
真の犠牲者なのだ

 4
俺たちは 俺たちのいのちによって 夕雲が花のようにかがやく村
村を 鐘の音が金星のように鳴りひびく村々を この地につくりあ
げたかったのだ そうして上への道が開かれているのだと思った
峠の道を 生きるということの車輪を 喘ぎながら押し上げて……

                連作 「秩父事件・残像」より

  参考資料 「秩父困民党群像」井出孫六著 新人物往来社
       「秩父事件」井上幸治著 中公新書 中央公論新社
       * 新約聖書 ヤコブの手紙五ノ四

 〈秩父事件〉は私も興味を持って資料を読んだり、蜂起の地・音楽寺を訪ねたりしています。おそらく私の視線もこの作者の視線も同じなのだろうと思います。〈世均し世直しにつなげられている〉と言う〈俺たち〉の言葉は、19世紀から21世紀の現在にも向けられていると感じています。過去を読むことは、現在を読み、そして将来を読むことと、この詩は教えているように思いました。




詩誌『きょうは詩人』14号
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2009.10.25 東京都足立区 長嶋氏方編集・発行
400円

<目次>
●詩
誰がロビンを 小柳玲子 1           挽歌     長嶋南子 4
カラス    長嶋南子 6           芋の葉の露  鈴木芳子 8
セールスマン 万亀佳子 10           雌花     万亀佳子 12
相談室    森やすこ 14           浦島     吉井 淑 16
白鷺温泉   伊藤啓子 18
表紙デザイン 直井和夫




 
挽歌/長嶋南子

だれも住まなくなった実家を解体すると兄がいう

玄関を開ける
庭のこぶしの花びらがいちまい 吹き抜ける

父は掘りごたつで歳時記を読んでいる

裏の部屋から姉のリーダーを読む声が聞こえる
once upon a time……

兄は新聞配達から帰って納豆ご飯を食べている
わたしの気配に
台所で母が みなこか とつぶやく

新しいスカートを着たり脱いだりしている妹たちの
見覚えのある花柄は昨夜母が縫いあげたもの

玄関のたたきで男が
酔って大の字になって寝ころんでいる
あれは姉の別れた男
裏の墓地には妹の水子が眠っている
もうひとりの妹は失恋して
死んでやると騒いでいる

座敷では母が
どうしてもあの男と別れられないのかと
わたしを責める
兄は釣りにいったまま帰ってこない

まがまがしいものは家の外に出してはいけない
玄関の鍵をきっちり閉める父

こぶしの大木が咲きほこり
遠くからでも見える家の目じるし
あの花の下で家族はいつまでも暮らす

うすいうすいわたしたちのかげ

 私事で恐縮ですが、私にも〈だれも住まなくなった実家〉があって、〈解体〉はしないものの売りに出しています。ですから、この詩の〈あの花の下で家族はいつまでも暮らす〉様子が手に取るように分かるつもりです。詩作品ですから、書かれた全てを事実と採る必要はありませんけど、まあ、どこの家族も似たようなものだろうなと思います。〈兄〉だけはただ一人3回出てきます。無意識でしょうが、それだけ存在感があったのかなと思います。最終連の〈うすいうすいわたしたちのかげ〉にも共感しました。




詩と批評『玄』63号
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2009.10.15 千葉県東金市
玄の会・高安義郎氏発行 1000円

<目次>
大野杏子特集
山鳩…………………4  烏……………………5  こしあかつばめ……6  心の空白……………7
美しい鳥「ケツァル」8  鶸……………………9  フラミンゴ・ショウ
.10  珍しい渡り鳥………11
詩作品
さくら(他一編)…………………杉浦 将江…12  君も来ないか………………………庄司  進…14
手話…………………………………春林 秀夫…16  途切れゆくもの……………………柴田 節子…18
証し…………………………………秋田 高敏…20  苦しみの夏…………………………稲葉 セキ…22
停泊…………………………………野村  俊…24  レストランひとり…………………高安ミツ子…26
政権交代……………………………森 五貴雄…28
小説・エッセイ
作多稲子の周辺……………………杉浦 将江…30  遠き海鳴り 昭和を生きる………坂口 圭子…32
訪問記『花車と五行詩のコラボ』杉浦 将江…38  島つばき油…………………………川崎 克代…39
リーフノベル                  あとがき……………………………………………48
『一億円当たった男』(他一編)…高安 義郎…44  表紙絵 篠崎康文




 


朝の太陽が少し曇ってきたとき
黒いかたまりが落ちてきた
大きなからすだった
背の高い木蓮にゆさりっと止まった
広げた羽の広さ
葉がゆれている
見ると針金の衣紋かけをくわえていたのだ
大きな口だから平気なんだ
巣作りにそんな大きな物が要るのか
一寸休憩しているかたち

やがて喰わえたまま飛び立った彼方へ
近くの公園には繁った緑の
大きい木は少ししかない
いったいどこで巣作りをするのか
近くには森も林もない
からすの鳴きが悪いと人が死ぬとか
仏事への連想が多い鳥ときいている
思いがけず知人にいま
烏を飼っている人がいてすっかり
烏と仲良しになっているそうだ
とっても可愛いそうで珍しい話である

頭の良いからすはシッと追い払われたり
悪口を言うと仕返しをされるという
千葉の田舎では今でも信じられている
残念乍ら私はなんとなく
烏には近寄らないことにしている

 今号の特集の中の1編です。日本でよく見られるカラスは、大雑把に言ってハシブトガラスとハシボソガラスで、本来は山のカラス、都会のカラスと生息地に区別があったようですが、今では両種とも都市を住処にしているのが多いようです。もともとは唄にも歌われ、愛すべき鳥だったんですけどね。♪カラスが鳴くから帰りましょー はハシブトだと思います。
 実は50年以上前に、私の家でも〈烏を飼ってい〉ました。床屋をやっていた父が小羽を切って、店で放し飼いにしていたのです。父の眼鏡の弦(つる)に止まったりして〈可愛い〉いものでした。それがいつの間にか縁起の悪い鳥ということになって、ちょっと可哀想な気もします。そんなことを思い出した作品です。






   
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