きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.9.4 筑波山・ガマ石 |
2009.10.30(金)
その2
○本間義人氏詩集『その日 その人々』 エリア・ポエジア叢書5 |
2009.10.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 1800円+税 |
<目次>
T
春の声 8 叫び 10 砂 12
眠る男 14 季節の麦 17 詩人の庭 20
言葉なき歌 22 長寿 24 こどもよ 逃げないで望め 29
地獄の門に真向かって33 花に似て 36
U
日曜の朝 42 ある自伝 44 日が暮れて 47
一人芝居 50 ちぎれ雲 53 ひかり野 56
零の焦点 59 いつか見た人 63 Leoの居る部屋 66
妹のことば 69 記憶の導火線 72
V
一枚の絵 76 九段下 79 ランキンさんの一票 82
夏の日に 85 新年の手帳 88 人に 90
安曇野の空 92 翁 94 春一番 96
絶唱 98 宴の果て 100
砂
知らなかったよ
砂がこれほど美しいものとは
(房総の海へ行って見たまえ)
真っ青に染み透った一望の嘆きの彼方から
唸りをあげて寄せて来る波の怒りを
砂がピタリと取り鎮めてしまうのだ
歩く足もとで
サクリ サクリと
優しい声で囁きかけてくるのだ
進む方角と振り向く方角との両方から
陽を受けてキラキラ
光を投げ掛けてよこすのだ
無数の砂の輝きの中に立って
おれは眩しくて
うれしくて仕方がない
おれは虚しいものを
砂に譬えるのを止めなければならない
こいつらはおれに似ていない
第2連の〈唸りをあげて寄せて来る波の怒りを/砂がピタリと取り鎮めてしまう〉というフレーズで、眼から鱗が落ちる思いをしました。言われてみればその通りですが、そんな眼で砂を見たことがありませんでした。さらに最終連の〈おれは虚しいものを/砂に譬えるのを止めなければならない〉というフレーズにも驚かされました。砂漠、砂利、砂を噛む…。たしかに砂には〈虚しいもの〉のイメージが強いようです。〈砂がこれほど美しいもの〉だと認識させられた作品です。
○佐竹重生氏詩集『蓮の花 開くときに』 エリア・ポエジア叢書6 |
2009.10.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 1800円+税 |
<目次>
T 生きる
蓮の花開くときに 8 時の狭間で 12
胎内 あるいは 16
1 闇夜泥海 16 2 萌芽 20 3 出生 24
朝の光の中で 30 野仏 34 地下洞穴 38
薄墨桜 42
U 水に 土に
永遠に 48 手の甲 52 晩秋の農夫 56
輪中にて 62 日常的なこと 66 治水タワー 70
溢れる 74
V 孤
群れる 78 夜の金魚 82 マンボウ孤愁 84
岩屋 88 ウナギ 92 野良猫 96
ベランダの雨蛙.あるいは.蝉 100. かゆいのだ 106
あとがき 110
蓮の花開くときに
初めてこの地を通った日
泥田には枯れ茎が風に揺れていた
あれから三か月 眼に映るのは
青く一面に広がった蓮の葉
突き出た白や桃色の蓮花
行田市では
古代の蓮が芽を出し花開いているという
我が家では
昨年採ったアサガオの芽が出ない
種は生命を宿している
だが 根を出し芽を吹いてはじめて生きる
それまでは生と死の間で揺れているのか
千数百年を揺れて生へ傾いた蓮
一年で死へ落ちてしまったアサガオ
毎年実を付けていたグミの芽が
固いままで初夏を迎えた
曲げた枝がぴしりと折れる
幹を切り 切り株を掘り起こした翌春
残った根は芽を出し 葉を広げた
根から切り離され
樹皮を剥がれた法隆寺の柱は
千年を超えて 未だ
生き続けているというではないか
しかし 芽吹くことはない
植物が生きるときとはどんなときだろう
蓮やアサガオは花開いたときか?
グミは実を付けたときか?
ヒノキは伐採されて柱になったときか?
わたしは触れたことがある
指にねっとり付いた樹脂
門柱の松が流した涙
松はどのように生きたかったのだろう
3年ぶりの第2詩集です。ここではタイトルポエムで、かつ巻頭作品を紹介してみました。「T 生きる」の中の代表的な“生きる”こととは何かを描いた作品だと思います。〈千数百年を揺れて生へ傾いた蓮/一年で死へ落ちてしまったアサガオ〉の対比に生存の不思議さを感じずにはいられません。〈植物が生きるときとはどんなときだろう〉という設問は、そのまま人間にも向けられたものと思いました。
○詩誌『1/2』30号 創刊10周年記念号 |
2009.11.1 東京都中央区 詩誌『1/2』発行所・近野十志夫氏発行 400円 |
<目次>
■作品■
東村のホタル 芝 憲子 2 生きものたちの歌(七) 黒 鉄太郎 4
季節の狭間で 青木春菜 6 サムシング 辛 鐘生 8
めだか生活 館林明子 9 爪痕 宮本勝夫 10
八重咲きオニュリ/食べる(詩二編) 枕木一平 12 夢と記憶 藻利佳彦 13
パープル.ハート/五百歳(詩二編)野川ありき 16 なんのことはないが 宮川 守 18
山のある場所 都月次郎 20 祈り 薄葉久子 22
四万年前の舞踏会 近野十志夫 24 「KOZA」燃えあがる 呉屋比呂志 26
亡き母へ捧げる 西條スミエ 30 神戸のひとへ 佐伯けんいち 31
寄稿イラスト 祝創刊十年30号 倉橋達治 32
■エッセイ特集■
「実体験と創造」雑感 黒.鉄太郎 34 迎春花のように 枕木一平 40
海より悲しい地こそ 野川ありき 43 半分くらいのところで 宮川 守 45
私にとっての『1/2』 呉屋比呂志 46 武蔵野線をまわって 佐伯けんいち 48
帰省して……人口の減る村から 西條スミエ 51 百人庵日記 都月次郎 52
二〇〇九年 夏 覚え書き 薄葉久子 54 夏・夏・夏 館林あき子 60
アマチュアからプロへ 宮本勝夫 62 幻の大江健三郎氏高校講演 芝 憲子 64
ファンタジー大好き 青木春菜 66 引用による構成 “被爆者”という言葉の翻訳から考える 近野十志夫 68
■館林明子 POEM&PHOTO『うみふーらり』に寄せて 虹がかかった日に 佐伯けんいち 58
五百歳/野川ありき
「別の保険に追いやられるの」
署名用紙を前に看護士のトモコさんが手振りで話す。
「後期高齢者医療はね…」
キヨさんは動く手を追っかけている。
「別の保険」に首をかしげるハルさん。
「七十五歳からは、あんまりお医者さんにかかるなって」
五人とも百歳を越えているので自分のことだと分った。
サヨノさんは領きながらホームの外を見ている。
コースケさんとユウジさんは
昨日の指の体操を繰り返し見せあっている。
長生きしていることが悲しくなるとトモコさんは言っているんだけれど。
「みんなは扶養家族から抜かれてね。年金から保険料が引かれるの」
「年金から引かれる」で五人はトモコさんに向き合った。
年金がないキヨさんは「扶養家族から抜かれる」ことを思った。
わたしらから引く?
いのちが不安に満たされてきて
みんなが署名したので用紙はいっぱいになった。
署名の重さにトモコさんは喜んでいたけど
五百歳の足どりが国会に届くかしらと不安でした。
〈年金から引かれる〉ことを〈わたしらから引く?〉と誤解していますが、これは誤解でも何でもなく、日本という国から〈後期高齢者〉を引きたい国家の本質でしょう。〈長生きしていることが悲しくなる〉国なぞ、国家とは呼べません。現在の民主党中心の政権は、後期高齢者医療制度に反対した党で占められていますので、こんな国民を愚弄した制度を早く撤廃してもらいたいものです。〈五百歳の足どりが国会に届く〉ことこそが民主主義国家だと思います。