きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで




2009.11.10(火)


 特に予定のない日。久しぶりに部屋を少しだけ片付けて、あとはいただいた本を拝読していました。少しでも部屋が片付くと嬉しいものですね。




山本楡美子氏詩集『森へ行く道』
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2009.11.15 東京都豊島区 書肆山田刊 2600円+税

<目次>

中庭のある宿屋 10               マロニエ 14
ただ口をぱくぱくさせるときには…… 18     隣国幻想 22
森へ行く道 26                 陽の落ちるとき 30
ポンペイのパン屋の夫婦 34           声をさがして 38
義経 42                    ヴァルヴァーラへ 46
わたしの髭 50                 朝練
(あされん) 56
十一屋酒店 60                 一枚の絵 64
展覧会の絵 68                 劇場 72

スべリヒユ 76                 グリズリー(白くま) 78
カラコルム幻想 80               午後の一部 84
見えない体 88                 茅茸の家 94
木を抱く子ども 98               赤い松 102
サンザシの冬 106
.               シナの木 110
風よ 118
.                   春の種族 122
チェロとヴァイオリン 126
.           半島の鷹 130
妹へ 134
あとがき 140
.                 初出一覧




 
森へ行く道

遠吠えは近くにある
理由なく近くにある
ターミナルの構内の
移動する人々の背後から
声がやってくる
夕刻の
人の蝟集するプロムナード
森から始まる道
(いっぴきの蜂と)

耳や足がはえて
四つ足の
遠い声だとわかる
垂れる耳は
疥癬を病む
山麓から高麗川へ
山襞を縫って

東京駅で
大勢の人と
列車を待っているわたしの
べンチを巡り去り
遠いあなたはどうしているか
どこにいたかと
小道へ出て
吠える

すでにいない人にむかって
のどの奥から
癖のあるホルンで
あなたやわたしにむかって

遠吠えは近くにある
理由なく近くにあるもの
その声を
あなたも聞いたことはないか

 9年ぶりの第5詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。このタイトルついては「あとがき」で触れていますので、その部分も紹介してみましょう。
<タイトルの「森へ行く道」は、「森は地上の無秩序としてではなく、わたしたちの世界と同じくらい豊かでその代わりにさえなるような、惑星の新世界として現れるのだ」(『レヴィ=ストロースの庭』)という文章からいただきました。>

 〈森から始まる道〉の〈ターミナル〉である〈東京駅〉で〈吠える〉〈四つ足の/遠い声〉。〈その声を/あなたも聞いたことはないか〉という問いかけは、私たちが失くしたものは何であったのかを問われているように思います。そんなことを感じた作品です。




二人詩誌『風(ふう)創刊号
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2009.10.31 埼玉県上尾市
春と風出版社・日高のぼる氏発行 非売品

<目次>
創刊にあたって
「精霊流し」他1編 日高のぼる………2      「セメン橋」他2編 山田典子…………6
「小学校最後の運動会」 牧葉りひろ…10      「梢」50号感想紹介………………………13
あとがき…………………………………16      表紙−福島・鏡石のアケビ 山田典子




 
因縁/日高のぼる

電車を待つ人たち
列をつくらずに散らばっている
乗り降り指定のラインの前に立った
するとそのうちのひとりが
なんで割り込むのかという

割り込むというのは列をつくって並んでいるなかに
強引に入り込むことをいうのだ
いまは列もなく並んでもいないので割り込むという行為はない
少しの沈黙のあと
なんだとうーという

ほう あなたは算数の天才ですか
なんだ という疑問形を10回繰り返さずに
なんだの10乗の形をとって
なんだとうーというのはすごいですね
するとこんどは ふざけるなーという

おお あなたは日本語の意味をよく知っていらっしゃる
ふざは膝のこと その下のすねは弁慶の泣き所
つまり人間の急所ですね
ですから ふざけるなとは
痛い思いをしないようにとの正しい日本語の使い方
思いやりの心ですね

電車に乗り込む
がらんとしたホームに
落花生の殻が散らかっていた

 新しい詩誌の出発です。ご創刊おめでとうございます。冒頭の「創刊にあたって」に創刊の意義が書かれていましたので、それも紹介してみます。
<「風」と書いて「ふう」と読みます。
 「梢」は終刊し、さてと膝をはたいてみたものの、しばらくはなにも思い浮かばず、さてどうしたものかと頭をたたいてみましたがなにもでてこず、そこでこのさい「二人詩誌」でいこうと思い立ちあげました。
 二人とは、日高と山田の二人です。それだけではさびしいので毎回といっても、3号までもつかどうかわかりませんが、ゲストをむかえることにしました。元「梢」のメンバーだけでなく、少しひろげていきたいと思います。
 「梢」は「肩肘張らず」にすすめましたが、「風」は肩肘張って肩いからせて、さてと重い腰をあげることにします。>

 〈3号までもつかどうか〉などとおっしゃらずに長く続けていただきたいと思っています。
 さて、記念すべき創刊号からは
日高のぼる氏の「因縁」を紹介してみました。〈割り込みを巡って〈因縁〉をつけられ、それを言葉で返すというおもしろい設定ですが、正直なところハラハラして読みました。しかし、最終連で〈因縁〉をつけていたのは〈落花生の殻〉だったと分かって、ホッとしています。たしかに混んでいるときの〈電車を待つ人たち〉は〈列をつくらずに散らばっている〉ことが多くて往生します。そんなときにこんな言い回しができたらおもしろいでしょうね。もちろん小心者の私は絶対に言いませんが(^^;
 楽しませていただいた作品です。今後のご発展を祈念しています。






   
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