きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで |
2009.11.16(月)
メタボ対策で箱根・駒ヶ岳に登ってきました。登ったと言っても山頂近くまでロープウェイで行きますから、それだけでは運動になりません。駒ヶ岳の隣にある神山を目指して歩きましたけど、これが結構キツイ道でした。神山まで往復するだけの時間がなく、駒ヶ岳と神山の間にある山裾に降りて、そこから引き返してきました。急な山道を降りて行きましたので、帰りはこの道を登るのかと思うとウンザリでした。でもまあ、なんとか登れましたけどね。
すれ違う人は5〜6人で、なかには若い白人の女性2人連れも。さすがは世界の箱根。良い思い出になったでしょうか。
写真は駒ヶ岳山頂付近からの富士山。生憎の曇り空でしたが、富士山だけはよく見えて、不思議な光景でした。
ところで、ロープウェイに乗る前に箱根園の中にある蕎麦屋で昼食を摂りましたけど、珍しいほど不味い天麩羅蕎麦。ネットリとした天麩羅と腰のないふにゃふにゃの蕎麦。おまけに汁は味があるのかないのか分からないという代物。よくこれで1000円近い金を取るものだなと感心しました。口上には、お客さまのご注文をいただいてから天麩羅を揚げますので、少々お時間が、と。おいおい、それって当り前だろ!
こんなことをやってたんじゃ箱根も客足が遠のいてしまいますね。320円の駅の立ち食い蕎麦の方がよっぽどオイシイ。件の白人女性2人が食べなかったことを祈るばかりです。
○颯木あやこ氏詩集『やさしい窓口』 |
2009.11.20 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
T
ルゴール
巣 8 朝食 12 僕たち 16
桃と星空 20 少年 22 籠 26
渋谷ララバイ 30 ルゴール 34 光る風 40
夜想曲 44
U
夜の歌
ドラゴン 48 夜の歌 52 ペラリペラリ 56
飛翔 60 名前 64 青い病 68
ひとつの朝 72 出発 78 バスルーム 82
V
傷口
傷口 90
Lost Myself 94 穴だらけの聖書 98 早春エレジー102
オーロラ 106. 人形の夜明け 110. 二千]年ある告白(胴体と星屑) 114
水色の卵 118. 免疫 122
あとがき 126
ひとつの朝
ため息と足跡が重くて眠れなかった石畳は
今しがた上がった雨に洗われ
濡れた光を足元に投げかける
芽生えかけの太陽が
淡く生み落した一掴みの時間が
少しの速さで巡り
大陸や海の
すべての目覚めを伴って
ひとつの朝が
私のもとに来た
気球に乗って
あるいは はためくものさえ得て
抱擁のために授けられたこの腕を
届けに行きたい
薄月と幼い朝日とを掲げた燭台に
朝を朝と感じられる震えを
昔ピアノのレッスンで教わった
卵をそっと包む手の形≠ノ収めて
(こんなことは珍しいのだけれど)
体と心が結びついて
ちゃんと立てている
最初に立ち上がった赤ん坊の頃のように
左の耳に当たる黒い羽音が
夜の記憶を呼び起こしても
たとえここが 何かの深い底でも
この空の明るさを飲み込めば
見上げる視線は崩れない
でも
古びたスリッパや
くたくたになった大事なメモの紙切れは
捨てないでおこう
小さな背きがキャンディになって
口の中で甘辛く滲む
揺らぎがちな影に
さよならを言えない私に
どうしてか訪れた
海と地とを空が抱く
彫り込まれた私が踊りだす
一枚のレリーフのような世界の目覚め
丹念に彫りつける指が
魂の肌に触れるのを感じる
信じる苦しみが
軽くなっていく
透き通っているけれど
つらい治療のようだった苦しみが
こんな朝を処方してくれたのは
どんなやさしい窓口だろう
第1詩集です。ご出版おめでとうございます。この詩集にはタイトルポエムがありません。紹介した詩の最後の行から採っていると思われます。〈苦しみ〉の多い数々の〈ひとつの朝〉。その〈つらい治療のようだった苦しみ〉を〈処方してくれた〉、〈海と地とを空が抱く〉〈こんな朝〉。それは〈どんなやさしい窓口だろう〉と見る視線が新鮮です。今後のご活躍を祈念しています。
○文芸同人誌『暖流』復刊13号 |
2009.11.1
静岡市駿河区 苫米地康文氏方事務局 江馬知夫氏代表・暖流文学会発行 700円 |
<目次> ◇目次カット <詩誌「汎天苑」(昭3)>より
■詩■
悲しみをこらえて/松尾庸一 2 知ってしまった 今は/江馬知夫 4
雷鳴・他四編/吉塚はつ枝 25 桜祭の朝・他三編/吉田直行 44
幻の墓地・他二編/江馬知夫 50
□短歌□ 妻との日々/佐藤 隆 20
■創作■ 空蝉/細田哲男 6 青春慚愧録(承前)/斗真康文 53
□戦場の記録より□ 左手の小指/橋本理起雄 22
☆暖流サロン☆
世襲四総理が自民党をぶっ壊した・他/斗真康文.30 全く報道されないこと・他/江馬知夫 32
■エッセイ■
わが青春の響想曲/石井敏之 34 余白の美/松尾庸一 47
自分探しの旅/江馬知夫 48
◇ふるさと散見:73 ◇編集後記 ◇執筆者名簿 ◇会の規約抄
悲しみをこらえて/松尾庸一
<アメリカ従軍カメラマンが長崎で写した写真をテレビで見て>
少年が唇をぎゅっと噛みしめて
直立不動で立っていた
命を奪われた幼い弟を背負って
支配者は自分の都合よい理由をつけて
始めた戦争は
毎日 子ども達のために汗水流して
働いている両親
未来を夢みて 目を輝かせながら
勉強に取組んでいる子ども達
武器を何一つ持っていない彼らを
虫けらのように扱っている
今日もパレスチナやアフガニスタンの
どこかの町で悲しみの声が聞こえてくる
支配者達よ 聞いてほしい
釈尊の言葉を
「すべてのものは暴力に脅えている。
すべてのものは死をおそれている。
(他人を)自分の身にひきあてて
殺してはならない 殺させてはならない。
すべてのものは暴力に脅えている。
すべての(生き物)によって生命は愛しい。
(他人)を自分の身にひきあてて殺してはならない。」
写真の少年のその後の消息はわからないままだ
〈アメリカ従軍カメラマンが長崎で写した写真〉というのは有名な写真で、私も写真集か何かで見ています。〈少年が唇をぎゅっと噛みしめて〉〈命を奪われた幼い弟を背負って〉、当時、小学生でも訓練された〈直立不動で立ってい〉る写真ですが、他の人が書いた詩かエッセイでは、少年は火葬の順番を待っていた、とありました。〈写真の少年のその後の消息はわからないまま〉なんですね。〈武器を何一つ持っていない彼らを/虫けらのように扱ってい〉た、当時の施政者への新たな怒りが噴き出す思いのした作品です。
○詩と評論『PF』38号 |
2009.11.10
静岡県菊川市 ピーエフ編集部・溝口章氏発行 500円 |
<目次>
溝口 章 聖考 二十 歌曼陀羅/桂……2 溝口 章 無のコスモロジー序説(十四)…9
武士俣勝司 地のうつろいに…………………17 嶋田 峰子 還り来ぬもの……………………19
編集後記…………………………………………22
地のうつろいに/武士俣勝司
地球がゴロリとひとまわり
地を這う俺もひとまわり
今日は 想像妊娠で暴れまくる愚犬を共連れに
かれこれ四年 一五〇〇余の地巡りを知らせたのは
雨上がりの夕ベには白々と暎え
晴れ渡る夕ベには赤焼ける 陽のうつろい
繰り返される 音無き行き交いのあでやかさよ
我知らず涙したのは いつからであったか
川沿いの桜並木をのぼり行く
一匹また一匹と 仰向けに縮かんだ蝉の骸(むくろ)
枯れゆく葉桜が 時雨れるように降りそそぐ
この夏の 騒々しき生きものと
この春からの もの言わぬ生きものと
生の終わりに睦みあう 神なき土塊に溶けていく
−咲くや木の花
今年も 地空の創造する里山の華やぎに こころ震わせてはいたが
刈り入れの始まった田に 黄の輝きがたなびいている
ぽつんと 枯れ草だけがぼうぼうと
今冬に 伐採の山木からころげて命を落とした老夫の田だ
穏やかな老夫が手塩にかけた 草生(くさむ)す墓場となりて
−あてなき汝(な)が墓標はいづこ
白鷺が五羽 橋のたもとに舞い降りた
春先に姿を消した渡りの鳥だ
橋から橋の間(あわい)をゆるやかに舞っている
木木の葉波が散りゆくなかを つるつる茎に花開く曼珠沙華の群生
川辺りに 畔沿いに 里山のそこここに萌えさかる彼岸の花
くるくるとした花輪の紅の重なり
淡く紅映える地の逆光に照らされて 白い絵模様を描いていく
木の花の終わりを告げるかのごとく
−慕わしき 彼岸の白き女(ひと)よ
今日もゴロリとひとまわり
火の燦きをひとまわり
ゴロリゴロリとふたまわり
だから 巡りゆく友よ
うつろう地の韻に 頭(こうべ)垂れ
ただ頭垂れ
汝が明日の寂蓼を行け
〈地球がゴロリとひとまわり/地を這う俺もひとまわり〉で始まり、〈今日もゴロリとひとまわり/火の燦きをひとまわり/ゴロリゴロリとふたまわり〉というフレーズへ繋がる、構成的にも優れた手法の作品だと思います。〈想像妊娠で暴れまくる愚犬〉というのは面白いのですが、〈穏やかな老夫が手塩にかけた 草生す墓場〉は衝撃的でした。最終連の〈うつろう地の韻に 頭垂れ〉、〈汝が明日の寂蓼を行け〉という締めも見事だと思いました。