きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで




2009.11.18(水)


 地元の訪ね歩きの会「木ごころの会」に誘われて、松田山山頂近くにある最明寺史跡公園を巡るハイキングに参加してきました。標高差280mほどを4時間ほど掛けて往復しましたけど、曇りがちながらも爽やかな秋の一日、地元の自然を堪能しました。
 曇りがちながら遠くが見えたのは、昨日の雨で大気が洗われたせいでしょうか。伊豆大島はもちろんのこと、利島、新島まで見えて感激しました。大島でさえ見えない日が多いのに、3島も見えて、それだけでもラッキーな1日だったと思います。

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 写真は、松田山山頂付近で眼下の足柄平野や島々を見る参加メンバー。女性が多かったのですが、歩き慣れた人ばかりで余裕のハイキングでした。歴史に詳しい人からは、史跡となった最明寺の由来などを教えてもらえて勉強になりました。集合場所には拙宅からクルマで10分という近さも魅力です。私のメタボも少しは減少したかな? 誘っていただいてありがとうございました!




小野ちとせ氏詩集
『ここに小さな海が生きている』
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2009.11.20 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊
2000円+税

<目次>
 T
小さな波音 8     水の嘆き 12      水の足跡 16
水のかたち 20     水たまり 24      水の果実 28
水の忘却 52      水の沸騰 36      水の浮力 40
水の重さ 44      4度Cの水 48     水の結晶 52
ねむる水 56      砂漠の水 60      そしてここに 64
 U
秋風 68        小石と影 72      ハンカチの木 76
みえすぎるひとには 80 夕立 82        カラスウリ 86
秋の空へ 90      落葉 94        冬の林で 98
白い子守唄 102
.    オオイヌノフグリ 106. クローバー 110
ニセアカシア 114
.   黙示 116.       バオバブ 120
喜望峰 124
あとがき 130




 
そしてここに

                 未来
                連続する
               夢
      生まれて   分散する生き物の
      わたしは  海
      死んで  すべてを受け入れる
      **  川
      *  ひとつの方向をめざす
        休むことなく
       水は地球の血液

透明な水をのむわたしのからだのなか真紅の川が流れている
透明な時をのむわたしのからだのなか小さな海が生きている

       時は宇宙の血液
        休むことなく
      *  ひとつの方向をめざす
      **  渦
      死んで  すべてを受け入れる
      わたしは  流れ
      生まれて   分散する生き物の
              化石
               連続する
                過去

 第1詩集です。ご出版おめでとうございます。この詩集にはタイトルポエムはありません。紹介した作品の第2連から採っていると思われます。文字の配置も面白いのですが、ブラウザの制約上、縦書きを横書きに変換しているから判りにくいかもしれません。縦になった状態を想像してみてください。実は“水”を模しています。柔軟な思考に敬服しています。対になった〈水は地球の血液〉、〈時は宇宙の血液〉というフレーズも良く、〈未来〉から始まり〈過去〉に終わる構成もよく考えられていると思います。今後のご活躍を祈念します。




季刊詩誌『タルタ』11号
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2009.11.30 埼玉県坂戸市
千木貢氏方・タルタの会発行 非売品

<目次>
小特集 柳生じゅん子の詩集/千木貢の詩集
土田晶子   滴りとなって響く詩篇 −柳生じゅん子持集「水琴窟の記憶」を読む 2
田中美千代  進化し続ける詩人 −特集「暗きより冥きに渡る花見坂」書評 8
  *
柳生じゅん子 宴のあと 16
千木 貢   天神社 18            寺田美由紀  三人目 20
伊藤眞理子  木犀の匂うころ 23        米川 征   予感 26
田中裕子   滑翔 28             峰岸了子   誰がわたし達の体から石鹸を作ったのか 30
現代詩のいま
米川 征   言葉/志向 32
  *
峰岸了子   ただただ らくだ 36       寺田美由紀  世界 38
柳生じゅん子 霧が降りてくるまで 41      伊藤眞理子  窓の雪の 44
田中裕子   決心 47
詩論
千木 貢   文体の確立・第四章 50




 
滑翔/田中裕子

つばさの角度をピタリと決めて
風のない午後の気流をつかむ

森のへりの少しうえ
ひとつひとつの梢をはかるように小さな円を描き
高度を保ちながら左の方からゆっくりと
目の前の樹のうえへ
中心をずらしてくる

ベランダという出っぱりに乗っかって
急降下を期待するわたしは
大きな羽でひとなでされて
秋の粒子になってしまった

一度も羽ばたかない両翼が
輪をつなぎながら稜線のむこうに傾いて
磨かれた空が残る

 トンビでしょうか、鷹でしょうか、〈滑翔〉する鳥の様子をよく捉えていると思います。第1連で〈風のない午後の気流をつかむ〉と簡単に書いていますが、実は科学的な裏づけがあって、この通りなのです。トンビや鷹が滑空するために上昇しますけど、これにはサーマルと呼ばれる気泡状の上昇風を使います。その上昇風以外の風があると、せっかくのサーマルの効果がなくなります。ですから〈風のない〉状態が必要になります。また、サーマルは地表が暖められることによって発生します。ですから、午前中より午後の方が発生する確率が高くなります。それらをたった13字で見事に表現しました。
 最終連の〈磨かれた空〉という詩語が素晴らしいですね。滑空をこのように表現した作品に初めて出会いました。




個人誌『緑』23号
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2009.11.20 岡山県新見市 田中郁子氏発行
300円

<目次>
【詩】
猫と歩く    2 宮地眞里子         ある日の内景  4 宮地眞里子
テクノロジスト 6 田中 俊輔         メッセンジャー 8 田中 俊輔
向こうの声   10 中桐 あや         願い      12 中桐 あや
八月の湖    14 田中 郁子         老女と薔薇   16 田中 郁子
【エッセイ】
「深き淵」より 18 田中 郁子
【VOICE】 21
【後記】    22               題字・表紙切り絵  福江 茂栄




 
ある日の内景/宮地眞里子

悪口を言いました
ぶちっと音をたてて
一番上のボタンがちぎれました
首まわりのきつい服だったので
まあいいかと思いました
続けてふたつめのボタンがちぎれ
胸のあたりが少し楽になりました
けれど食べ過ぎた後のようなつかえに
みっつめのボタンもちぎれかけ
あわてて胸元をかき寄せました
が すでにどうしようもなく
カーディガンのように羽織って着ることにしました
着心地はイマイチでしたが当分の間これで大丈夫です
思わずため息がもれました

と 同時に次の案も浮かんできました
肩の回りがきつくなれば袖を切り離しベストにするという
さらに傷みが進めば
きれいな部分だけをパッチワークの一角に使い
クッションや座布団カバーにもなるというもの
元のかたちから複雑な多面体に作り変えるには
縫い合わせていくむずかしさや苦しみはありますが
捨てきれない理由がありました
それは自分を脱ぎ捨てることであり
何かと交換することであり
誰かと取引することであり
こちらに向かって近づくものを待ち受けることでした
一枚の服に執着しているのではありません

もはや空
(うつ)ろな部分の方がはるかに多いのですから

けれどちぎれたボタンが気になるのです
やはりあった方がよかったのだと

 〈ボタン〉が次々に〈ちぎれ〉て〈カーディガンのように羽織って着ることにしました〉という第1連から、〈きれいな部分だけをパッチワークの一角に使〉うようにした第2連まで見事な繋がりです。さらに〈それは自分を脱ぎ捨てることであり/何かと交換することであり/誰かと取引することであり/こちらに向かって近づくものを待ち受けることでした〉と、〈内景〉を深く表現していると思います。それは〈空ろな部分の方がはるかに多い〉としながらも〈やはりあった方がよかったのだ〉と、最後は安着して、読者が共感する構成にもなっていると云えましょう。身近な日常の素材を使った佳品だと思いました。






   
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