きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで




2009.11.26(木)


 夕方から東京會舘で開催された日本ペンクラブ「ペンの日」に参加してきました。冒頭には森ミドリさんのピアノ演奏とバス・バリトン歌手清水宏樹さんの歌があって、500名ほどの人が楽しみました。恒例の福引で私が当たったものはタオルだったらしいのですが、タバコを1カートン当たった女性と交換。お互いにしょうもない物より好きな物。これもまあ福引の楽しみかもしれません。

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 写真は会場の片隅。パネルでペンクラブの紹介と10月にリンツで開催された国際ペンの様子が掲げられていました。その前に置かれた12冊の本は、「国際ペン東京大会2010」のロゴが入ったものです。来年の「国際ペン東京大会2010」に向けて、会員が出版する本にそのロゴを入れて、書店で本を取ってもらう人に“日本ペンクラブが何かやるようだな”と気づいてもらおう、アピールしようという目論みです。阿刀田高会長を始め、浅田次郎さん、松本侑子さんなどの本が出ています。どうぞ書店でご覧になってください。ついでにお買い求めいただけると嬉しいです。

 2次会は小中陽太郎さんに誘われて、10人ほどで新橋の居酒屋に繰り出しました。小中さんの馴染みの店らしく、店主から店の自慢だという日本酒が差し入れられました。私の知り合いは半数ほどでしたから、残りの半数の人と自己紹介やら名刺交換やら。夜遅くまで呑んで喋って、愉しい時間でした。お誘いくださった小中さん、皆さん、ありがとうございました!




溝呂木邦江氏詩集『猫が散歩する夜』
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2009.11.30 東京都千代田区 砂子屋書房刊 2500円+税

<目次>
猫が散歩する夜 8   幻鳥 14        水の扉 18
脱皮 22        橋 1 28       まちぼうけ 34
水辺の町 38      アクアリウム 42    食卓 48
サンクチュアリ 52   阿呆船 1 56     阿呆船 2 60
舟唄 64        想愛 70        アエラリウム 76
乱 82         訪れ 86        短い時間 90
もうひとつの旅立ち 98 馬頭観音 104
.     ゴジラ 108
橋 2 112
あとがき 118
.     装本・倉本 修




 
猫が散歩する夜

晩秋の空に
ひかりを吸いとって
熟した月が 架かっている
葉がほとんど落ちた枝に
柿の果実 ひとつ

帰るあてもない猫が
塀のうえに じっとうずくまり
飽きもせず 眺めている

どのような生まれ方をするのか
選べるはずもなく
どのような死に方をするのかも
知ることはできない
この不確かが恐ろしい けれど
もっと怖いのは
愛しいひとが 先に逝ってしまうこと
しがみつき 留めようとしても
腕からすり抜けていってしまう
残されるのは ほっかり掌にできた暗い祠

〈見つめられないものがある
 それは
 太陽の光 そして 死〉

誰の言葉だったろう

かさかさ 乾いた風に揺らぎ
虫に食われた果実を
誰が手にとるというのだ
道を失った老犬の遠吠えに
誰が応えてくれるのか

曖昧な時間のなかで
わたしの生が 爪先立つ
砂山が 徐々に波に洗われ
懸崖に架けられたロープは
風に揺れている

心臓の鼓動
これが とりあえず
おまえが生きているという確かな信号か
今は 手に しっかり刻みこめ
これを抱きしめよ

太陽の光を見つめられないのなら
果汁の滴りそうな月を
夜通し むさぼればいい
そんな夜には
九つの命を持つ猫が
朗らかに笑ってくれるだろう

塀のうえで
ひらり 身を返せば
小さな瞳に
熟れて落ちそうな橙の月

        *ラ・ロシュフーコーの箴言

 あとがきによれば、詩集としては第1詩集の刊行から10年以上を経た第2詩集のようです。ここでは巻頭詩でもあるタイトルポエムを紹介してみました。〈ひかりを吸いとって/熟した月〉、〈果汁の滴りそうな月〉、〈熟れて落ちそうな橙の月〉という喩がおもしろいと思いました。それに〈帰るあてもない猫〉を絡ませ、〈わたしの生〉を絡ませ、構造としては複雑なのですが、〈心臓の鼓動〉がキーワードと云えましょうか。猫もヒトも〈これを抱きしめよ〉と読み取った作品です。




詩と評論『日本未来派』220号
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2009.11.15 東京都練馬区 西岡光秋氏発行 800円+税

<目次>
<眼> 立ち上がる言葉 壷阪輝代 表紙2
<特集> 佐川英三 緒方 昇 植村 諦 上林猷夫
『絶望』の思想−佐川英三の死生観を読む 石原 武 24
『天下
(テンシア)』の詩人 緒方 昇さん 山田 直 28
植村 諦−詩人と世界観 倉持三郎 32
スペイン語訳の「ネクタイ」から始まった縁 −上林猷夫さんとの思い出 細野 豊 36

五鈷杵
(ごこしょ) 山内宥厳 2.          後の憂い 小倉勢以 3
魚集
(よまつめ)の森 藤森重紀 4         石南諸共(はなもろとも) 金敷善由 5
ミラボー橋の上に立ち 安森ソノ子 6      ペリカンの群れ 田井淑江 7
追憶 林 柚維 8               鍋の味 今村佳枝 9
よもつひらさか 川村慶子 10          いたみ 野上悦生 11
アンモナイト 森 れい 12           雨の蝶 建入登美 13
星に願いを 瀬戸口宣司 14           血のこぶ 星 善博 15
小さな奇蹟 まき の のぶ 16         白い風 角谷昌子 18
中天に 杉野穎二 20              おせっかい 小山和郎 21
夏の終わり−A・Tさんへ 福田美鈴 22     白い病室 天彦五男 23
<海外> フランス 魔法(マジック)荒唐無稽(ヴィジョン)アンリ・ミショー 鈴木美枝子・訳 42
<書簡往来> 無名性を希求の生涯−「四季」派最後の詩人 日塔 聰 木津川昭夫 46
<詩との出会い> 詩との出会いと現在 武田 健 48
<日本未来派の詩人たち> 石田永知の詩 まき の のぶ 50
<私の処女詩集>
屈折した詩的徘徊 南川隆雄 52         北海詩人文庫−シリーズ第一巻目 綾部清隆 53
<なつかしい一冊> 「夏の花」 平野秀哉 54

菜の花幻幻 内山登美子 55           川 松山妙子 56
蜜柑 井上敬二 57               法然寺晩秋抄 水野ひかる 58
突然風が 伊集院昭子 59            ATMに行かなくちゃ 青柳和枝 60
揚羽 南川隆雄 61               風の通り道 西田彩子 62
ただれた文明のうめき 前川賢治 63       野ザラシノ唄 高部勝衞 64
あじさい 堀江泰壽 66             八月の仕事は 若林克典 67
負荷はどんどか 石井藤雄 68          砂の温度 大河内美佐 69
震える秋 壷阪輝代 70             あさ おきると くらもち さぶろう 71
両脚の間を川が流れ 細野 豊 72        ムーンライトソナタ 中原道夫 73
二人の文人 鈴木敏幸 74            山の童子が目覚める−蔵王高湯にて 日塔 聰 木津川昭夫 75
くるり 綾部清隆 76

噛むとき 井上嘉明 88             森−異端調組曲 川島 完 89
遷化する 平野秀哉 90             男の一生 植木肖太郎 91
「きれいなひと」 小野田 潮 92         潮騒 武田 健 93
よかった 平方秀夫 94             躍動(2) 磯貝景美江 95
それぞれの場での体験抄 島崎雅夫 96      汝の道を 菊地礼子 97
異常 宮崎八代子 98              阿修羅 柳田光紀 99
きらきら光る 中村直子 100
.          風たちの証し 水島美津江 101
中州のひるぎ−浦内川河口 藤田 博 102
.    仕合わせに気付いて 後山光行 103
霊魂の道 山田 直 104
.            午後の歓談 安岐英夫 105
物語 西岡光秋 106

二つの鳥居峠 内山登美子 77          水源は知らない、しかし川は流れている 川島 完 78
職業の詩 野上悦生 79             晩年−私の場合 小野田 潮 80
心を癒す二つの映画 星 善博 81        詩の種とは 金敷善由 82
創作、その向こうにあるもの・あれこれ 後山光行 83
ほととぎす 建入登美 84            芭蕉の足跡、出羽三山 角谷昌子 85
戦国の智将−直江兼続の足跡を訪ねて
.柳田光紀.86 ペンで熱い東京を 磯貝景美江 87
<詩書瞥見> 倉持三郎 40・西岡光秋 41・伊木 透 114
<ボワ・ド・ジョワ>
韓日交流・詩と音楽の集い 西岡光秋 107

第42回文化選奨受賞(埼玉県文化団体連合会)およびじゅうにん45周年企画「広く文芸交流」詩の部門入賞の記 松山妙子 108
暑気払い−林 柚椎『愛』を歌う−に寄せて 林 柚椎 109
書評
新・日本現代詩文庫(59)『水野ひかる詩集』…中村不二夫 110
綾部清隆詩集『北の浜辺と木道』…文梨政幸 111
林 柚維詩集『眩惑』…保高一夫 112
短信往来113・41 投稿作品 植木肖太郎・松山妙子115 同人住所録119 投稿詩応募規定47 編集後記120
表紙・カット 河原宏治




 
白い病室/天彦五男

やや生臭い春風が去ったと思ったら
麦秋の匂いがする
もっとも麦の水一合がこたえられない
そろそろかなあと思ったら
稲穂から二番穂が出て小鳥がよろこぶ
もっとも街も村も不景気だといっているが
そう見えないのが不思議だ
今年も紅葉を観たいと思っているが
枯れ葉の音を聞くことはあるまい
制限され氷かけらだけ飲ませてもらっている
最後の水を飲みたいだけ飲みたい
これが今の希望だ
末期の水はいらない

 この8月23日に74歳で亡くなった、元日本詩人クラブ会長・天彦五男さんの作品です。詩誌の入稿時期から考えると、おそらく絶筆に近いのではないかと思われます。〈枯れ葉の音を聞くことはあるまい〉というフレーズが現実となって、残念です。〈末期の水はいらない〉と締めたところに詩人の矜持を感じます。改めてご冥福をお祈りいたします。




季刊詩誌GAIA30号
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2009.12.1 大阪府豊中市
上杉輝子氏方・ガイア発行所 500円

<目次>
象と蟻        小沼さよ子 4      「家」         前田かつみ 6
ひとりか みんなか  前田かつみ 7      膝          横田 英子 8
喉          横田 英子 9      どうしたら良いのか  国広 博子 10
フィロゾーマの旅立ち 平野 裕子 12      條件について     立川喜美子 14
ねむりに続く道    水谷なりこ 16      夏を越す       水谷なりこ 17
彼岸         中西  衛 18      時間について     中西  衛 19
地平線と水平線    猫西 一也 20      庭園で        熊畑  学 22
林道で        煎畑  学 23      親冥利        竹添 敦子 24
数字         上杉 輝子 26      秋          上杉 輝子 27
同人住所録            28      後記         上杉 輝子 29




 
親冥利 竹添敦子

あのひとは
賢い子だ良い子だと褒めて娘を育てた
娘はそのとおりの賢い良い子に育った
けれども手をかけすぎて
娘は家からあまり出ない

私は
阿呆だ気無しだとなじりながら息子を育てた
息子はそのとおりの阿呆で気無しに育った
けれども早く手放したので
友人だけはとにかく多い

掛合漫才のように
娘を慰め息子を励まし
時には怒鳴って受けとめて
二人でなければ
身体の弱い娘も心の弱い息子も
育てきれなかった

あのひとから届いたメールには
子どもで命が削がれるとあった
しかしそれが親冥利
娘にも息子にも決して言うなの追伸がある

あの夜
娘の巣立ちを確認したら
ここに越してくるよと言った
奇妙なほどきっぱりと

それが最後の会話になった
そう
あのひとは
親だったから生きられた
親冥利に尽きる二十年
始まりから終わりまで
それが私たちの暮らしだった

 〈賢い子だ良い子だと褒めて娘を育て〉ても、〈阿呆だ気無しだとなじりながら息子を育て〉ても、〈それが親冥利〉ということには説得力があるように思います。私個人としては、子どもに対して何も言えませんけど、おそらくあと何年か、何十年かしてそういう気持ちになるのかもしれません。作品の〈あのひと〉と〈私〉の関係が明確ではありませんが、それもまたこの作品の魅力だと思います。






   
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