きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで




2009.11.28(土)


 午後から東大駒場で開催された日本詩人クラブの現代詩研究会に参加してきました。
講師は日本詩人クラブの会員でもある聖徳大学人文学部英米文化学科准教授の青山みゆきさん演題は「アメリカ先住民の詩人たち」でした。配布されたレジメは4項目の講演内容に分けられていて、とても見やすいものでした。参考のために項目を記載しておきます。
 (1)アメリカ先住民詩との出会い (2)アメリカ先住民とは誰なのか (3)口承詩と草創期のアメリカ先住民の詩人たち (4)現代のアメリカ先住民の詩人たち

 また、案内のチラシには青山さんが今年刊行した『ネイティブ・アメリカン詩集』の解説の一部が載っていました。これも講演内容と合致するものですから、ご参考までに。

<大地に根ざした彼らの生き方や詩 −それは人類の叡智!!
 アメリカ先住民はコロンブスの新大陸到達よりはるか以前からアメリカ大陸に住み、これまで白人による虐殺や弾圧、土地の略奪などありとあらゆる困難を耐え抜いてきたが、彼らの歌や物語も決して消え去ることがなかった。アメリカ先住民は代々口から口へと伝承されてきた口承詩を継承してきただけでなく、実は彼らは十七、八世紀以降から自伝や詩や物語などを書き続けてきた。そして、いま現在も一流の素晴らしい作品を生み出しつづけているのだ。
 多くのアメリカ先住民詩人が描いている大地に抱かれた生き方は、自然の生態系を急激に破壊し、すべての生きとし生けるものを絶滅させることしか知らない、現代のテクノロジー崇拝の文明を批判する力になりうる。地球上では人間もまた自然の一部であり、あまたの命に満ちた世界での人間のありようはつねに模索される。アメリカ先住民が示す大地に根ざした世界観や生き方こそ、わたしたちすべての人びとにとってのほんとうの叡智かもしれない。(『ネイティブ・アメリカン詩集』解説より)>

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 写真は講演の様子です。マイクを握っているのが青山みゆきさん、右の男性がコーディネーターの三田洋理事。アメリカの中でも先住民の詩はあまり採り上げられていないようで、書籍を探して歩き回った青山さんの話が印象的でした。青山さんが翻訳した詩も多く紹介され、スピリチャルな作品、白人との軋轢を描いた作品などに私は興味を持ちました。参加者は30名を超え、良い企画だったと思います。




内田範子氏詩集『天の野原 −私の善光寺平−
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2009.11.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税

<目次>
T
万華鏡 8                   落ちる 12
だるまさんがころんだ 14            すきまの花 16
海岸線のうた 20                孵らずの湖 24
花びん 28                   プルシアン・ブルー 32
U
釣船草 36                   魚
(うお)の季節 38
鳩の鳴き声 40                 山道 44
牽引 48                    ろうそくの火 50
彼岸花の向こうで 54              名前がつく 56
V
かずら橋 60                  なみだ 62
サルビアの赤い花は 64             浜辺で 66
胃カメラの中のトノサマバッタ 68        ハンカチ落とし 70
蟻の歩き方 72                 雪のあしあと 74
仏足石 76                   天の野原――私の善光寺平 80

跋 詩集『天の野原――私の善光寺平』の人と作品 内山登美子 84
あとがき 90
装画 内田三郎




 
天の野原 ――私の善光寺平

わずかに開けた盆地という
平らかな土地と
ほぼ真ん中を尽きない癒しのように流れる千曲川
善光寺平と名づけられた土地に産まれたが
周りは高い山にしっかり囲まれていて
そのぎざぎざの稜線のようにいつも歯軋りして
飛び出したり戻ったりしていた

実家の低い垣根を越えようとして
ばったりと両手を広げて激しく転んだ
まるで大地に抱かれるように

あわてて立ち上がったが
腕の筋を痛めた
膝や胸や掌をひどく打ちつけた
擦り傷だらけだ
からだ全体が痛い

私を生み育んでくれた大地に
抱きとめられるということは
こんなにも痛みを伴うことだったのだ

祖母も母も
それを知っていた
知っていたのだと思う
そして誰もが知っていた

庭の柿の実も 杏の実も
平らかな盆地にはえる稲の穂も
道端の草の実さえもが

善光寺平の静かな夕暮れ
何事もなかったように千曲川が流れていく

 詩作を始めて二十数年という著者の第1詩集です。ご出版おめでとうございます。ここでは詩集の最後に置かれたタイトルポエムを紹介してみましたが、内山登美子さんの跋によれば、著者の中では数少ないふるさとの詩だそうです。なぜふるさとの詩が少ないのか。その理由がこの詩にはあって、ふるさとを〈飛び出した〉人だからなのだと解説されていました。〈周りは高い山にしっかり囲まれていて/そのぎざぎざの稜線のようにいつも歯軋りして/飛び出した〉ふるさとの〈実家〉に、久しぶりに〈戻った〉のでしょう。〈ばったりと両手を広げて激しく転んだ〉のは、飛び出したことへの胸の痛みの喩と採れますが、ふるさとは〈まるで大地に抱かれるように〉受け止めてくれます。それがまた新たな〈痛みを伴うこと〉にもなって、この心理描写は巧いと思いました。今後のご活躍を祈念しています。




詩マガジン『PO』135号
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2009.11.20 大阪市北区 竹林館発行 840円

<目次>
特集 まど・みちお
野呂 昶   児童文学における作者の祈り まど・みちおの世界 自分が自分であることのよろこび…9
戸田和樹   子どもの目から見たまど・みちお作品…18
水内喜久雄  いつも高いものへと…27
佐藤勝太   まどさんの詩の魅力――新鮮な措辞にオマージュ…28
佐古祐二   「まどさん一〇〇歳展」を観て…30
藤原節子   愛とユーモアの詩人 まど・みちおの生活詩について…36
蔭山辰子   あの時 あの歌 今もなお 「まど・みちお」心の唄…40
三方 克   まど・みちおノート…42
尾崎まこと  「まど・みちお」試論 −失われた手紙をめぐる冒険−…46
詩作品
長津功三良  田舎の葬式・また年寄りが死んだ…62  高丸もと子 ナンクルナイサ…64
斗沢テルオ  自虐の詩…66             真 音   自画像T 習作…68
加納由将   強迫観念…73             三方 克  黒い米のうた…78
牛島富美二  給料袋−モノものがたり(9)…80    日野友子  祭…82
野信也   やさしい曲線/だいじな あなたへ…84 藤原節子  まびき莱…92
水口洋治   希望…95               根本昌幸  石の風景…96
木村孝夫   途方もない長さ/夢行商…98      尾崎まこと 高松塚君が、ラーメンの汁をすする時…110
もりたひらく 離婚記念日…113
.           左子真由美 愛について…114
梶谷忠大   ことばの流れのほとり…116
.      佐古祐二  抱かずにいられない…128
藤谷恵一郎  オルゴール…129
.           清沢桂太郎 みにくいあひるの子/明星を見た/自由…130
蔭山辰子   雨垂れの遊戯…139
.          神田好能  愛・それは…144
関 中子   リンゴによせる/愛のあいさつ…145
.  中野忠和  雨…148
川中實人
.  〈その時〉を捜す/季節に起つ/私的関係性…150
与那嶺千枝子 一歩前へ…160
.            北山りら  宝石箱…162
晴 静    ありがとう…164
.           宇宿一成  どこへ…166
椛島恭子   日常…168

扉詩 参観日 佐藤勝太…1
ピロティ 月の魔力に打ちかえし 湯澤利明…7
舞台・演劇・シアター 音楽と舞台 河内厚郎…74
ギャラリー探訪 開館20周年を迎えた横浜美術館にて 関 中子…76
ビデオ・映像・ぶっちぎり 愛を読む人 藤原節子…77
一冊の詩集 賀川豊彦詩集『涙の二等分』 寺沢京子…88
一編の小説 泉鏡花、そして幻の掌編「蛍」のこと すみくらまりこ…90
この詩大好き ロバート・バーンズ「鼠に寄す」 中野忠和…102
エッセイ 東尋妨に立つ三好達治の詩碑「荒天薄暮」 梶谷忠大…104
韓国現代詩の今 鄭浩承・孫
Cecilia・金言/韓成禮 訳…120
エッセイ ショートパンツ 中野忠和…140
マイ・フェイバリット・ミュージック モーツァルトのレクイエム 水口洋治…140
エッセイ 同業のよしみ 竜崎富次郎…141
エッセイ 雑感『風のかたち』と『あんびじぶる』など 門脇吉隆…154
エッセイ わたしの桃源郷 神田好能…156
詩誌寸感 多彩な錘鉛の筆 藤谷恵一郎…170
◎受領誌一覧…172 ◎執筆者住所一覧…173 ◎編集後記…174
◎お知らせ 会員・誌友・定期購読者募集/投稿案内/ホームページ/「PO」例会/広告掲載案内/「PO」育成基金…175
 詩を朗読する詩人の会「風」例会…176
編集長 佐古祐二
編集部 左子真由美・寺沢京子・中野忠和・藤谷恵一郎・藤原節子・水口洋治




 
だいじな あなたへ/野信也

あなたは そんなにも
かんたんに

教師の前で
わたしのまえで

ごめんなさいを
くちにするけど

ほんとうに
あやまるべき相手は
未来のあなたです

ここで いま
手を抜いて生きるなら

雛鳥のように助けを待つ
そんなふりだけ していたら

未来のあなたが 困るのです
あなたの伴侶が 悩むのです
あなたの子供が 泣くのです

あやまる相手は
他人ではない

あなたの未来に
あやまりなさい

 作者は中学校か高校の〈教師〉のようですが、〈ほんとうに/あやまるべき相手〉が誰なのか判って、ハッとさせられます。謝るべき相手は教師でもない親でもない、そんな〈他人〉ではない、〈未来のあなた〉だという見方に納得させられます。こういう先生に教えてもらえる生徒がうらやましいですね。




詩誌『木偶』79号
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2009.11.25 東京都小金井市
増田幸太郎氏編集・木偶の会発行 500円

<目次>
蝉の季節に/中上哲夫 1            ある夜に想う/落合成吉 3
デフォルメに祈る/荒船健次 5         この場所に待たれていた/広瀬 弓 8
あさざ/野澤睦子 11              源流/藤森重紀 13
ピンクに光る/天内友加里 15          空き地/乾 夏生 17
中村銀之助一座/土倉ヒロ子 19         懐古ブルース/沢本岸雄 21
異国の故郷は/田中健太郎 23          日々/仁科 理 25
途中下車/増田幸太郎 27

窓 荒船さんの視線の中を歩いてみた ◆詩集『ブナに会いに行く』鑑賞ノート◆ 田中健太郎 33
評論「首都高速」の伊藤桂一 4 野寄 勉 38
受贈誌一覧 43




 
蝉の季節に/中上哲夫

蝉が地上に姿を現すと
ぼくははっと生き返るのだ
孵化した鳥のように

爺、爺、爺、爺と
ちいさな蝉がひくい声で鳴き始めると
つくづくと思うのだ
馬齢を重ねたなあと。
梅雨に入ると
蝉は沈黙するけれど
雨音がしみじみと身にしみるのだ
嫉妬、嫉妬、嫉妬と。
梅雨があけると
ふたたび蝉が現れて
痔、痔、痔、痔と鳴くので
尻のあたりがむずむずするのだ

そして
眠、眠、眠、眠と鳴くと
瞼に砂をかけられたように
たちまちねむくなるのだ
昼寝をしていると
斜、斜、斜、斜と鳴くので
水の惑星の地軸がぐらっと傾いて
思わず飛び起きてしまうのだ
地震だと。
月末になると
金、金、金、金と鳴く蝉のせつなさ
つらさ
つくづく帽子と鳴く蝉が現れると
思うのだ
ぼくの夏の帽子はいったいどこへいってしまったのだろうかと
はたしてふたたび見つけることはできるのだろうかと。
地面にうがたれた無数の黒い虚無の穴たち
秋風にからころころがる脱殻たち

蝉がいなくなるほど悲しいことはない
まるで世界が終わるみたいだ

 〈嫉妬、嫉妬、嫉妬〉は〈雨音〉の擬音ですが、それ以外はすべて〈蝉〉の擬音。よくもこれだけ集めたものだと感心しました。しかも〈爺、爺、爺、爺〉には〈馬齢〉、〈痔、痔、痔、痔〉は〈尻のあたり〉、〈眠、眠、眠、眠〉は〈瞼〉、〈斜、斜、斜、斜〉は〈地軸〉、〈金、金、金、金〉には〈せつなさ/つらさ〉と、その対照も見事です。最終連も佳いですね。こんな〈蝉〉、初めて見ました。






   
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