きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.3 足柄峠より箱根・大涌谷を臨んで |
2009.11.30(月)
司法書士立会いのもと、実家の売買契約を交わし、権利書を渡して、入金・手数料支払いを完了させました。これで名実ともに実家が私の手から離れました。実家を売ろうと決意してから半年弱。意外に早く終わったなと思っています。家を売るというのは初めての経験ですから、実際には早いのか遅いのか判りませんけど、仲介の不動産屋さんにも恵まれて、買手も個人ではなく建築会社でしたから、まったくトラブルなく済ますことができました。正直なところ、売れてホッとしています。築40年の、しかも借地の上の安普請ですから、本当に買手がつくかどうか心配だったのです。売れなければ借家にして、私が大家として面倒を見なければならず、最後は解体費用の捻出で苦しまなければなりません。それらの苦労から解放されたわけで、こんな嬉しいことはありません。実家に溜め込んだ本を回収、これからはその片付けという苦労は残りましたが、家の管理から比べたらたいしたことではないでしょう。一区切りできて、気分は爽やかです。
○詩誌『砦』4号 |
2009.11.30
沖縄県南城市 橋渉二氏発行 非売品 |
<目次>
萬年退屈飛蝗(マンネンタイクツバッタ) 昆虫の書24 4
やらずのあり 昆虫の書25 8
壁 14
エツセイ 我らが鳥居の下をくぐる時 20
沖縄・識名宮 24
あとがき 27
萬年退屈飛蝗(マンネンタイクツバッタ) 昆虫の書24
ああ ひまだひまだ
なんにもやることがない
わしはトノサマバッタ
食べ物は下臣どもがバタバタ運んでいる
マツリゴトは家老たちにまかせてある
てきとうにやってくれ
朝っぱらからコトリの鳴き声がうるさい
まっぴるままで油蝉の鳴き声がうるさい
まったくあんのんと昼寝もできない
キリギリスやコホロギは秋に
そして夜に鳴くと思われている
だが この南国では年がら年中
まっぴるまでも鳴いているのだ
ひまだひまだ ジッジッジッ
ひまだひまだ チェッチェッチェッ
退屈でしょうがない世襲という名の
逃れがたい繋累の枷のなかにいてなお
代々(よよ)を鳴く長い夜々(よよ)の ジッジッジッ
ああ ひまだひまだ やることがない
いまは戦争もない 地震も洪水もない
「平和だ平和だ」と家老たちは言う
わしはこの世にあきあきしている
ひとつ けんかでも仕掛けてみるか
家老よ お前たちもどうせひまなんだろう
なかよく暮らしているササキリスとか
フクワムシとかにいちゃもんをつけて
一発 いくさをおっぱじめてやるか
どうだ
連作「昆虫の書」の24ですが、今回は〈ひま〉な〈トノサマバッタ〉の話です。〈ひまだひまだ やることがない〉から〈一発 いくさをおっぱじめてやるか〉という発想ですけど、これは昆虫の話、作り話、などと言えないだろうと思っています。しばらく前に某保守党の国会議員が似たような発言をしたと新聞に出ていて、驚いたことがあります。作品はそれもおそらく念頭に置いているのでしょう。人間の心に巣食う〈戦争〉への願望、作り話では済まされないものを感じました。
○詩誌『』39号 |
2009.12.1 石川県金沢市 中村なづな氏方・祷の会発行 500円 |
<目次>
詩
空のどこかに 新田泰久 2
陽差し/学習/朝 中村なづな 4 祠/挨拶 宮内洋子 8
新しい野菜/朝のキッチンで 江田恵美子 18 まだ生まれないあなたに/ジンベエザメ 池田瑛子 22
海の沈黙/明日/鳩 霧山 深 26
エッセイ
「文燈」という雑誌 上田正行 12 よるべなき航海(二) 霧山 深 31
小文
代用母 中村なづな 34 捨て猫 霧山 深 34
ダイアリー 宮内洋子 34 ロボット・パロ 江田恵美子 35
器量よし 池田瑛子 35
あとがき 36
挨拶/宮内洋子
西郷隆盛像を背に
交叉点で
信号待ちをしていたら
目前に
桜島が立ち現れた
ビルとビルの間に見える山は
建物とがっしり肩を組んでいる
山襞のドレープはくっきりとしていて
茜色に染まっていた
俳人のちづゑさんと私は
息を止めた
山が
目の前に
走り寄ってくるのだ
あわてた
私たちは
スカートの両端をつまみ
淑女のしぐさで
挨拶をした
横断歩道の手前で
(降灰の少なかった二年程前)
実際の〈桜島〉を見たことがありませんが、きっと〈ビルとビルの間〉で〈建物とがっしり肩を組んでいる〉のでしょうね。絵葉書で見る桜島とは違う姿を想像します。その桜島が〈目の前に/走り寄ってくる〉という発想がユニークです。〈スカートの両端をつまみ/淑女のしぐさ〉をしたというフレーズは、ユーモラスながら女性らしさが出ていて好感を持ちました。
○詩誌『Violeta』17号 |
2009.11.30
群馬県渋川市 須田芳枝氏発行 非売品 |
<目次>
久保田 穣 祖母と紫陽花と海と……4 往還…………………………12
関根由美子 迷走レストラン…………16
新井 隆人「気がついたら」の生死…20 毎日くりかえすこと………23
斉藤 芳枝 貴女………………………30 インドの旅の思い出………32
小野 啓子 雷雨………………………38 歯車…………………………40
須田 芳枝 百足………………………44 半島…………………………46
堤 美代 あそぼ……………………50 小桑観音……………………53
後 記 関根由美子………………56
表 紙 新津廣子
あそぼ/堤
美代
あそぼー
と聲を聞くと
返事もそこそこに
表へとび出した
ベンキョウ キライ
カクレンボ ダイスキ
仙じいちゃん家(ち)の
藁にゅうのうしろ
西日の射す埃っぽい
ニワトリ小屋の蔭
稲荷さまと大きな欅の間の
灰暗い隙間
見つかった時も
見つからなくても
胸が破れそうに鳴った
見つけた 見つからない
を繰り返し
懐かしい方へ 曳かれる方へと
隠れた子を 探しつづけた
ほんとは
じぶんで じぶんを
見つけるほかなかったのに
カミさまも 悪戯をなさる
あなたが あそぼと云えば
あとでー と云えない 間近い
寄る年波の波打際で
身を疎ませて
立ちつくしているのに
子どもの頃の〈見つかった時も/見つからなくても/胸が破れそうに鳴った〉感覚を、久しぶりに思い出した作品です。そんな子ども時代から、〈カミさま〉が〈あそぼと云えば/あとでー と云えない〉現在を巧くまとめた作品だとも思いました。〈ほんとは/じぶんで じぶんを/見つけるほかなかったのに〉というフレーズも秀逸です。
○詩誌『青い階段』91号 |
2009.11.20 横浜市西区 浅野章子氏発行 500円 |
<目次>
何と呼ぼうか 荒船健次 2 蓮の種 小沢千恵 4
躾糸 廣野弘子 6 Just
the Right Shoe 浅野 幸子 8
卒業旅行 鈴木どるかす 10 虹 森口祥子 12
質問 坂多瑩子 14 利尻コンブ 福井すみ代 16
ピロティ 鈴木どるかす・小沢千恵・廣野弘子
編集後記 表紙 水橋 晋
質問/坂多瑩子
幽体離脱の経験なんてない
と答えたのはあたしだけだった
仲間たちは
さわがしくしゃべっている
そのとき
あたしは
自分の葬式をみていた
祭壇の写真 気に入らないな
もっとかわいいのが
あったろうに
妹が着てる服はあたしのだ
読経がはじまった
自宅のようだ
今どきねえ
つい声がでてしまった
すっと寄ってきて
にこにこしている子がいる
ちょっとむっとした
葬式なのに
―生きているふりしてるの
歌うみたいにいう
ふりむくと
ずらずらっと
おおきな子やちいさな子
あたしに似ている
あたしの顔のまわりは花がいっぱい
―だからどっちなの
にこにこした顔がうすくなっていく
待ってよ
柩にくぎをうちだした
仲間たちはまだしゃべっている
うまく解釈できない不思議な詩ですが、なぜか魅了されます。理屈で考えると〈幽体離脱の経験なんてない/と答えたのはあたしだけだった〉のに、いつの間にか〈あたしは/自分の葬式をみていた〉となり、矛盾します。本当に〈―だからどっちなの〉と言いたくなりますね。タイトルの「質問」はそこから来ているのでしょうか。それでもこの詩には見過ごしにできない何かを感じさせられます。妙に明るいのです。下手な解釈など寄せ付けない詩は、そのまま受け止めて、何年かして思い出せば良いのかもしれません。