きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近 |
2009.12.2(水)
売却した実家の残務整理を行いました。NTTに来てもらって電話を廃止し、神棚を神社に収めて処分してもらいました。それで2日ぶりに実家に行ったわけですけど、驚いたことに売却先の工務店の社員が工事をしていました。昨日からやっているようで、畳を上げて根太の補修をして、別枠で依頼した家財の処分まで進んでいました。買い上げた実家を借家にするとは聞いていましたけど、ちゃんとリフォームして貸すんですね。工務店に家を売るということはそういうことかと納得しました。私が個人として個人に売った場合には、こうはいきません。もうすでに入居者も決まっているようですから、新しい住人には気持ちよく使ってもらえるでしょう。その面でも一安心です。
○今井文世氏詩集『青い指を持った』 |
2009.11.26 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
桜を炊く日々 6 桜をめぐる時間 10 春の約束 14
春を染める 18 透過光 22 時の中の道 26
柿渋染のある庭 30 楊梅を染める 34 指先の藍 38
地上の草木に 42 落葉降る 46 風に鳴る 50
ヨモギ 54 ギシギシ 58 オオマツヨイグサ 62
クサギの実 66 ケナフ 70 カワラマツバ 74
ドングリのハカマ 78 ハナミズキの落葉 82 サザンカの花びら 86
山藤 90
あとがき 94
指先の藍
今朝 布を染めた藍が
指先を染め 爪の間に入って取れない
本の頁をめくる
畑でトマトをもぐ
幼子とジャンケンをする
まな板の上で魚をおろす
指先が青い
青い指を持った この一日
空に吸い込まれ 海の底を漂い
私は私から遠くなる
藍華(あいばな)と呼ばれる 濃い泡の浮いた
新しい藍を建てた朝
鮮やかな緑に変った布を引き上げて
空気にさらすと
一つのドラマが進んでいくように
藍の色が滲んで広がっていく
いくども いくども繰り返す
指先の青が消える頃
藍は薄い布の奥へと深まって輝いていく
人の眼を引きつけるほどに
雨の日も くもりの日も
見上げる空は 青い
5年ぶりの第7詩集のようです。草木染を始めて15年という著者が、草木染の詩だけを取り出して1冊にまとめた、と「あとがき」に書かれていました。この詩集にはタイトルポエムがありません。紹介した詩の第3連から採っていると思います。草木染についてはまったく知らないのですが、〈青い指を持った〉というフレーズが生きていると思いました。〈新しい藍を建て〉るという表現もおもしろいと感じた作品です。
○詩誌『石の森』153号 |
2009.12.1 大阪府交野市 非売品 金堀則夫氏方・交野が原ポエムKの会 美濃千鶴氏発行 |
<目次>
時の標本/夏山なおみ 1 はざま/夏山なおみ 2
誰かがわたしを/美濃千鶴 3 時差/山田春香 4
束縛/山田春香 4 おくるとき/石晴香 5
彼岸への架け橋/西岡彩乃 6 とりかえ/ほりみずき 6
他人/上野 彩 7 そら/上野 彩 7
勿入淵/金堀則夫 8
《交野が原通信》二六八号 金堀則夫記 9 石の声 10
編集後記
誰かがわたしを/美濃千鶴
きれいな貝殻を捜して
浜を歩いていると
ふいに腕を捕まれて
びっくりする
行方がわからなくなった子どもを
大人は総出で捜していたのだ
うつむいた目に両親の姿は映らず
名を呼ぶ声も聞こえず
追うことだけに夢中だった
幼い日のわたし
わたしが巻き貝を捜すように
いま 誰かがわたしを捜している
そんなことを思いもしなかった
かつてのわたし
時を 立ち位置を
間違えては 取り残され
ふと気づけば 誰もいない浜辺
冷たい指先で耳をなぞれば
夕闇が浸潤する三半規管
だからここから帰れない
誰かがわたしを捜している
わたしが巻き貝を捜すように
それなのに
わたしは貝の中にいて
螺旋の巡礼を続けている
〈幼い日のわたし〉、〈かつてのわたし〉を回想している作品ですが、実は現在の姿でもある、と謂っているように思います。〈時を 立ち位置を/間違えては 取り残され〉るのは大人になっても同じ。〈だからここから帰れない〉のも同じでしょう。
最終連の〈わたしは貝の中にいて/螺旋の巡礼を続けている〉というフレーズがとてもよく効いていると思いました。
○文藝同人誌『金澤文學』25(終刊)号 |
2009.11.27 石川県金沢市 金沢文学会発行 1524円+税 |
<目次>
追悼特集・千葉龍詩選
消えた おれ…14 「魂のありか」序詩…16
告白…18. ことしも雪でおめでとう…20
わが狂騒曲…24. 椿の花の挿話 −ある女の日記−…26
あるたびびと.−喪われた風景のなかの−…28 踏みつけられた草…32
男のメルヘン…36. 夕闇のさくら谷 −輪島二本松公園−…38
千葉龍略年譜…42. 愚直というロマン 三木英治…44
千葉龍−追悼
追悼・千葉龍 高田 宏…48 破格な詩人が見詰めたもの −千葉龍追悼 竹中 忍…50
ソフトの似合う人 三田村博史…59. 龍さん 森 啓夫…60
お別れ 千葉龍さんへ 岩崎清一郎…62. 友よ 清水 信…64
詩人.千葉龍さんを惜しむ 日高てる…66 龍のごとく翔んで行った千葉龍氏 西岡光秋…67
いまも生きている千葉龍 中原道夫…69. 北陸の龍、天に還る −千葉龍さんの死を悼む 長津功三良…71
君やいずこに 梶井重雄…73. 千葉龍を偲ぶ 岡崎 純…74
別離 中山純子…76. 金澤文学主宰千葉龍氏のお別れ会に出席して おしだとしこ…78
すだちを百個 清水恵子…79. 千葉さんを偲ぶ 尹 章根…80
千葉龍さんを偲ぶ 陳 千武…82. そっと未来を置いて逝った 名古きよえ…84
やさしくなければ 徳沢愛子…86. 悼 千葉龍先生 天馬竜蹄と/ご縁を思ふ 吉岡 治…88
哭 千葉龍先生 河 五明…90
エッセイ
能登・四方山のこと 吉岡昌昭…93 母が選んだ緋色のアルバム 西村 薫…98
おちゅわり! 研 まち子…101 井上俊夫詩集『八十六歳の戦争論』について 外村文象…104
母からの手紙 池端一江…105
小説
逆雨 畔地里美…106 百年目の不況 北村ともひで…115
私生活 吉村まど…123 心の父 下林昭司…128
冬支度 −千葉龍先生に捧ぐ− 柴田みひろ…137
千葉龍−追悼
追憶 園田 晃…142 慈しみの光 清水隆久…144
さらば千葉龍 四位例 章…145 起死回生後の無念 清水 巍…147
池端さんを憶う 円山義一…148 池ちゃん 山田省悟…150
ファイルの中の千葉龍さん 金 秉権…152 はなちゃんと龍さん 大橋のり子…154
千葉龍先生どうぞ、お安らかに 高名光夫…156 確然として今も在る 広岩近広…157
名もなきものの矜持 松田秀敏…159 反骨の「義」の人、千葉龍さん 能登隆市…160
いつまでも 児玉弘毅…162 自分で惘れた“熱い男” 山本春雄…165
鶴彬と池さん 角島広治…167 池端さんの思い出 今宮久志…169
書斎でのひと時 奥平三之…170
詩
真夜中の犬/夏のひかり/ひまわり 清ア進一…172 鳥は星形の庭に舞い降りる 池田星爾…175
来らっせよ 宇都宮 野村道子…176 雨音とモーツァルトと私のこころ 川野謙一郎…176
壊れて行く地上 坂 勤…177 レンガ色の街で/知覧再び 外村文象…178
ただ1つのこと/考える存在 柳沢むつ子…180 冥界通信 池端一江…182
冬の海 名古きよえ…183 輪になる 半田信和…184
川柳 十一月三十日 上田政代…187
童話 にじの色のぼうし 西村彼呂子…188
詩評・評論
高橋協子歌集『真弓坂』小感 −自在さと温もり−岩田記末子…190
真実と誤解 池田星爾…192
エッセイ
画廊の人 高橋はる美…201 魔法の箱 高橋協子…203
いつまでもあこがれの人 村上八重…204 天草にいらした先生 吉本加代子…205
千葉龍−追悼 同人・誌友
千葉龍を偲ぶ会にて 北村ともひで…210 哀寂 三木英治…212
追悼歌 昇り龍 高橋協子…215 ヌクテの生涯 −千葉龍追悼 南 邦和…216
龍さん、メッセージを! 中林速雄…218 もうひとりの池端さんへ 池端大二・一江…220
千葉龍先生追悼 清沼 覚…221 最後の出会い 下林昭司…222
千葉先生 野村道子…223 惜別の日 松井郁子…224
千葉先生の思い出 坂 勤…225 主宰の責任感 池田星爾…226
暖かい手 吉井一美…227 ほうやれほ 尾木沢響子…228
先生 ありがとうございました。西村彼呂子…230 千葉龍を偲ぶ会 −閉会あいさつ 中田邦雄…231
介護屋の独り言 緒方隆生…232 追悼、千葉龍さん −風花のとぶ 高橋はる美…235
千葉先生の思い出 吉岡昌昭…236 今も鮮やかに 佐々木栄志…238
血を流すということ 大湊一郎…240 追悼 あの日の先生 村上八重…241
千葉龍さんとの出会いと別れ 外村文象…242 千葉龍の流儀 畔地里美…248
夢の世界に龍が逝く 平野幸彦…250
展望(詩と小説)
詩誌東西南北 池田星爾…251 誌界・読点 吉岡昌昭…256
金澤文學の人 渡野玖美・谷かずえ 262
●グラビア…1 ●バックナンバー…265 ●広告索引…275 ●「残心(ざんしん)」編集後記…276
●金沢文学会からのお報らせ…280
【題 字】竹中晴子(同人。書家=石川県かほく市)
【表紙の絵】西のぼる(画家)
消えた
おれ/千葉 龍
朝起きたら
おれが
いないのです
アッ。
アッ。
りょう。
わたくしよ。
りょう。
おまえ。
わたくしよ。
そんな残酷なことをしないでくれ
おれ
ゆうべ
どこへ行った
のだ
寝床にはいる
どうなってもええ
そう。
そう覚悟してる。
だが
それは
覚悟だけだ
一言ぐらい
断ったっていい。
だろう
そう。
だろう
おれ。いま。
りょう。
わたくしよ。
おまえたちとまで
別れてしまって
いや
喪ってしまったら
どうすりゃ いい
もう ない
なにもない。
ただ
肉体も
精神も
自我も
ない
すべて
あると思うものの
すべてが ない
ない と思う心すら
ない
と
思うには
はるかに はるかに遠いのだ。
せめて
おれ。
あの 生きることに
傲岸だった
おれの
あの
影
いま。
おれは探している。
『玄』(甲陽書房 '84・9・9)より
昨年11月に東京品川で客死した主宰・千葉龍さんの追悼号で、かつ終刊号となっていました。生前は私も親しくさせていただいていましたから、残念です。豪快な笑い声を思い出します。本当に〈消え〉てしまった龍さん、改めてご冥福をお祈りいたします。