きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近 |
2009.12.3(木)
午後から西さがみ文芸愛好会の運営委員会が小田原で開かれました。今回の主な議題は、来年3月に開催される<第14回西さがみ文芸展覧会>の詳細決定です。ほぼ決まりましたのでアウトラインを紹介しておきます。
日 時 2010年3月3日(水)〜8日(月) 10時〜17時(ただし最終日は15時まで)
場 所 小田原・伊勢治書店3F<ギャラリー新九郎>
展 示 ・会員作品(俳句・川柳、短歌、詩、エッセイ・創作、書画、写真の6部門)
・本会の歩み
・会員著書の展示、即売
・会員所属文芸誌の展示
特別展 西さがみ文芸愛好会代表・播摩晃一の足跡
今回の特別展は8月に亡くなった播摩代表の足跡を辿ろうというもので、私の提案を受け入れていただきました。播摩さんの経歴を紹介するのはもちろん、多くの著作や蔵書も展示する予定です。播摩さんとは、間は抜けているものの40年以上のおつき合いですが、私もその著作を把握し切れていません。それを一堂に見られるという楽しみとともに、どんな蔵書があるのか、本好きには見逃せないものとなるでしょう。
また、今回は初の試みとして写真展も行います。会員でプロ級の人がいますので、その方に先頭に立ってもらいます。私も膨大な駄作の中から1点ぐらいは出品したいなと思っています。どうぞ今から予定に入れておいてください。梅薫る小田原でお会いしましょう!
○日原正彦氏詩集『夏の森を抜けて』 |
2009.12.10 高知県高知市 ふたば工房刊 1905円+税 |
<目次>
ひびき
ひびき 8 ぶらんこ 12 雪 16
雨 20 その木に 24 午後一二時三分四秒五 28
白い街路 32 ひきしお 38
嘶声
捜風悲歌 44 嘶声 48 悲しむ人 50
土鈴のように 54 一枚で 56 風のかなしみ 58
どこへ 62 かけら 66
夏の森を抜けて
葉あもにい 76 高い樹低い樹 78 黒と黒 82
会いにゆく 86 夏の森を抜けて 92 たったひとつの 98
冬のまなざし 104. 驟雨 106. 夕陽まで 112
あとがき 120
装幀*安井勝宏
夏の森を抜けて
森の入口で風はふとゆらめく表紙になる
何億ページもの綴じられた木洩れ日を透かせて
入り際のベンチでは
口づけをする男女を見たりするがそれは
まるで 森の副題のようだ
森の伏線の中にそんな汗くさい足音もあるが
黒揚羽!
それは森のどの時間の陰影にもふいに挿しこまれてくる栞だ
歩みを止めて青緑の流れゆくままにしておくと
蝉の声だけしか編みこんでいないこの森の時間の無数の隙が
見えてくる
編み目をくぐる蜘蛛の糸の細い光のすじが両眼を縫って
奇妙なさびしさをちくりと痛ませることはあるにせよ
蝉の声だけがまるで何も書いてないノートの罫線のように
耳はどんな時間の筆跡のかすかな音さえつかまえない
この真昼の底に蹲る青緑の量塊の
ほんのかたすみでさえひっかく光の爪痕もない
森はいま大きな冥あいからっぽだ
種種雑多な 未だ や 既に のなかでぶれたり揺れたりしている湿った
けものじみた青緑の匂いが
びっしりと充満している空洞だ
あらゆる深み浅みのこの青緑の爆発のなかに
耳は しん と浮かんで
顔のない驚きの奥へはりつけられようとする眼を 匿ってゆくが
やがて
森のはずれで聞く
冷やされた無口の周りを幾重もの同心円となって大きく青く黙ってひろが
ってゆくむこうの空の青の
彼方 山々のへりをこすりゆく
積乱雲の遠い怒声に
地べたの皮膚から浮き出した太い静脈のような
木の根に躓いて冗談のように転ぶ
森が重々しく振動する
影を置き忘れて光のなかへはじき出され
みあげると
鳥が囀っている
囀っているのだろうか
明るいむなしさだけが
ただこぼれていて
(青く掻き消されてゆく私の輪郭)
そのなかで 鳥の
鳥以前が
ただふるえているだけだ
むこうの丘のうえに
一本の樹が驚いたように立っている
その真上に吹き飛ばされた帽子のような雲
ふりむくと 森は
吸いこんだ一億年前からの息を
いま 吐き出そうとしているところだ
次の
一億年へ
3年ぶりの第14詩集になるようです。詩小説や評論集を加えると、この35年間では17冊目となり、その膨大な仕事量に圧倒されます。ここではタイトルポエムを紹介してみました。〈森〉を本やノートに見立てる手法が斬新です。〈森の副題〉〈森の伏線〉などの詩語、〈森のどの時間の陰影にもふいに挿しこまれてくる栞〉、〈びっしりと充満している空洞〉、〈一本の樹が驚いたように立っている〉などのフレーズにも魅了されました。
○詩誌『黒豹』122号 |
2009.11.30
千葉県館山市 諫川正臣氏方・黒豹社発行 非売品 |
<目次>
諫川 正臣 緑の季節に 2 雲のゆくえ 3
よしだおさむ ウルル 4
前原 武 坊や 5 おふくろ 6
山口 静雄 劇中歌 7
富田 和夫 襲来 8
杉浦 将江 てんとう虫 9 きずな 10
本間 義人 ちぎれ雲−屋久島にて− 11 嵐の後には 12
庄司 進 台風 13 そらまめ 14
編集後記 15
雲のゆくえ/諫川正臣
山ふところから生まれでる雲は
思いを伝えるように
ふくらみ 広がり 山肌をおおい
空を埋めてゆく
村里をおおい 巷をおおい
ひときわ暗く激情の雨たたきつけ
霽れてちぎれて離ればなれに別れて行く
ときに微睡むかに山腹に影を落とす
折ふしの迷いもあって
思案のあれこれ思いめぐらし
日一日が暮れていく
頂き近く夕映えに茜さすあたり
たなびく雲は雲につらなって
憩いの笑みを湛えているかのよう
明日は流れて何処へ
ながれ ながれて
いつかはどこかで果てるはず
晴天の日
空深く消えてゆく巻雲をなんども見た
青空こそ雲の墓場
消えても 消えても
明日にはまた新たな雲が生まれて
文字通り〈雲のゆくえ〉に思いを馳せた作品ですが、〈青空こそ雲の墓場〉というフレーズに驚きました。その根拠は〈空深く消えてゆく巻雲をなんども見た〉ことにあるわけですけれど、逆転の発想と云ってもよいでしょう。また、この視線は雲に限らず、人間そのものを謂っているようにも思います。晴れて、順調なときこそ〈墓場〉である、と。奥深い作品だと思いました。
○詩誌『Messier』34号 |
2009.11.30
兵庫県西宮市 香山雅代氏方発行所 非売品 |
<目次>
水音 牧田久未 2 銀河M51によせて 福井久子 4
春眠 内藤恵子 6 作品「クレヨン 紫」 内藤恵子 9
パストラル『天地』 香山雅代 12 音信川から 佐伯圭子 18
橋を懸けようとして 佐伯圭子 21
星間磁場
「1Q84」の衝撃. 佐伯圭子 25 詩を詩らしく見せる
短歌雑感 内藤恵子 29 一般的外形について 河井 洋 26
一人称は三人称 香山雅代 30
橋を懸けようとして/佐伯圭子
もう全て
わたしの 秘密の所作も
届かないけれど
今朝 夢を見て
わかった
届けようと思って
夢に色を塗るのだと
橋を懸けようとして
書くのだと
今朝 夢を見て
わかった
駆けていって
緑の草に 深ぶかと包まれたこと
目を瞑って 崖を落ちて
ひとつかみ 草を掴みながら
橋を仰ぎ見たこと
誰かに
わたしに
届けようとして
夢を見ている
〈夢に色を塗るのだ〉、〈橋を懸けようとして/書くのだ〉というフレーズに惹かれます。前者はその発想が新鮮で、後者は〈書く〉ことの意味を考えさせられます。〈誰かに/わたしに/届けようとして/夢を見ている〉というフレーズも佳いですね。〈夢を見〉ることの意義に納得させられました。