きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近 |
2009.12.8(火)
父親の実家があった地域の郵便局に行って、父親の転居通知を出してきました。売却した実家に父親宛の郵便物が行っても困りますから、拙宅に転送してもらうようにしました。電気も水道もガスも、電話もぜんぶ停めましたけど、これが最後かなあと少し不安です。私が若い頃は転居を繰り返していて、たぶん20回ぐらいだろうと思いますが、最後の転居からそろそろ20年。転居の勘が鈍ってきたようです。まあ、何か遣り残したことがあったら、実家の新住人から言ってくるだろうと腹をくくっておくしかありませんね。
○ブリングル御田氏詩集『次
曲ります』 現代詩の新鋭14 |
2009.11.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 1800円+税 |
<目次>
さんどう 6 いもむし 10 しろいとり 14
しゅうまい 18 寝言 26 公園 34
にもの 40 揺り動かす五感〜嗅ぐ〜 44
ルーシー 48 冬虫夏草 54 でかけてきます 58
おまた 64 キューピーちゃん 68 何が 72
卵を 76 迷子 84 口寄せ 96
身籠もる 106
あとがき 108
いもむし
おはよう空 おはよう庭
わたしいもむしになることにした
今日のわたしはいもむしです
オレンジと黒の角をのばし
もじもじと3mmずつすすみ
庭の桜の木の葉を食べる
がしがしがし……やや、これはなかなか
もしゃもしゃ…むむむ…こっちもすてがたい
食い散らかした無数の小さな穴は
まるで緑色のパンチカード
コンピュータに入れたら何かわかるかしら
桜の木の記録や太古からの生命の記憶
それとも昨日までのわたしかな
昨日までについた嘘 喧嘩の数 バイトの数
追試の数 失恋の数 体脂肪率 血糖値
2人姉弟 5人家族 子供3人 引越7回
042143 き23 は保険番号
0218197034373984……
この数はなんだか忘れた数
あきらめた数、うれし涙の数、指切りの回数
数えた数も数えなかった数も(グゥィーン)
(……ブルルルル……カシャカシャ)
「カクニンデキマセン」
エラーを起こしてハッパがはらり落ちていく
いまどきパンチカードじゃだめかぁ
上が糞で汚れていたしなぁぁぁぁ……(おっ)
バランスを崩してわたしも墜ちた
めげずに、にじにじとまた上るわたし
だっていもむしなんだもん
もじもじすすんでがしがし食べる
あとはぷりぷりぷりっと糞をする
突っつかないでね
食べたらだめよしんじゃうよ
触ってもだめよへんな汁だすよ
第1詩集のようです。ご出版おめでとうございます。紹介した作品はまるでカフカの「変身」のようですが、カフカのような暗さはありません。21世紀の「変身」と呼んでもよいでしょう。〈まるで緑色のパンチカード/コンピュータに入れたら何かわかるかしら〉というフレーズで30年も前のコンピュータが出てきて驚きましたけど、やっぱり〈いまどきパンチカードじゃだめ〉でしたね。でも〈食い散らかした無数の小さな穴〉をパンチカードと見立てたところは、この詩人のセンスの良さが光っていると思います。今後のご活躍を祈念いたします。
○児童文芸誌『こだま』35号 |
2009.11.30
千葉県流山市 保坂氏方・東葛文化社発行 非売品 |
<目次>
おみずやり あおきともみ 4 写真 佐藤美羽 5
詩 前川智弘 6 海のうつわ 中島梨紗 7
ごほん あおきともみ 8 せみ 相良のどか 9
空 渡辺果穂 9 せみ 廣瀬雄大 10
かがみといもうと 山田純也 10 テレビ 青木隆文 11
じかん 佐藤楓歌 12 弟 中原真愛 12
まほう 柴田亜弥香 13 やさしいおばあちゃん 阪口優衣 13
ペット 鶴岡彩乃 14 すうじ 蔵満日向 15
なみだ 岡部莉帆 15 鳥 高井真子 16
水たまり 平岡実彩 16 絵 高橋佳音 17
かまきり 山口智之 17 ポップコーン 菅原美帆 18
走った 市川裕彬 18 ねえ知っている? 森 常治 20
いるかいるかわ 島田陽子 22 ふたごの赤ちゃん 久野美惠 23
まほうびん 関口隆雄 24 きこえてくるよ 滝 和子 24
草とり 国吉節子 25 花は 宮本智子 26
わたしは女の子です 高木ふさ子 27 天使の羽 青山かつ子 28
かざぐるま 井立輝子 29 時々わたしは 徳沢愛子 30
あるときは「よう姫」 中村洋子 31. ユリ根物語 大石玉子 32
産まれる 中井ひさ子 33 ファッショナブルな霊園にて 武石(たけいし) 剛(つよし) 34
シャイニング 多田ひと瀬 35 花暦 秋−錦づた 神崎 崇 36
秋の空の下で 小沢千恵 37 虹 志村宣子 38
ほくろと竹の子 星乃絵里 38 真夜中のボール 江本あきこ 40
にわか雨 三本康子 41 どこへ いったの 田中眞由美 42
たくま 品田美恵子 43 公園 原田 慶 44
輪 江部俊夫 45 蛇と蛙 卜部昭二 46
木更津市立南清小学校−一年生のお教室から− 48
こんにちは 中嶋早紀 60 みんなのめざまし 三輪春呼 60
かげ 検校実柚 61 ふでばこ 山田彩愛 61
世界 古田 楓 62 心と手 西村桃香 62
意味無しでも意味あり 美濃地弘樹 63 なみだ 羽田野郁恵 63
つり 清水一樹 64 きょうりゅう 杉原歩武 64
ゴミ 山樹貴 65 気持ち 名和美咲 65
心のねっこ 岡崎大生 66 サイン 野村宗平 66
かばんと心のかばん 喜多美月 67 一週間 丸山美佳 67
人間と木 大澤拓朗 68 世の中 吉田元輝 68
かべがとうめい 岡嶋 芽 69 友達 坂手優里 69
おばあちゃん 廣瀬愛佳 70 つぶやき 三橋美希 70
こどくなハイヒール 新川和江 72 バッタくん 絹川早苗 73
蟇蛙の源さん 菊田 守 74 ともだち 佐伯多美子 74
虹のしっぽ 高島清子 75 その樹について 江島その美 76
自分がたより 岡島弘子 77 夢 前原正治 78
ぼくらのステージ 西隈哲夫 78 明日への夏 大石規子 80
友だち 柳生じゅん子 81 たましい(遠い日の遊び) 松下和夫 82
笹舟 村尾イミ子 83 満月 高橋絹代 84
先生のことば 渡辺京子 84 おしりしきのお話 前田裕子 86
夕やけ 伊藤ふみ 87 観覧車 葛城久美子 88
教室のけしごむ 星 梨津子 88 蚊柱 津坂治男 90
鯉太郎の川遊び 大倉 元 90 折り鶴万華鏡 市川つた 92
かえってきて 佐野千穂子 93 8、八、ハッ は人生だ 松尾美成 94
領有 村田 譲 95 初めて… 尾崎昭代 95
地球を大切に 谷田俊一 96 ほうとう 高橋あかね 96
小鳥の贈り物 保坂登志子 97
佐久市立臼田小学校−五年生の教室から− 98
インドの詩 プラヤグ・シュクラ作 ウニタ・サチダナンド、谷口ちかえ共訳 104
フランスの詩 比留間恭子訳 108. なんでもないこと クロード・ロワ 水谷 清訳 116
アイルランドの詩 星 梨津子訳 120. オーストリアの詩 高橋あかね訳 122
ドイツの詩 高橋あかね訳 126. ドイツ紀行 高橋あかね 128
韓国の詩 徐正子(ソチョンジャ)訳 132 台湾の詩 保坂登志子訳 144
編集後記 154. 表紙絵 内山 懋(つとむ)
秋の風景/キム
ジュ ヨン 小一 徐正子訳
秋はまほう使い
黄色い木 赤い木作るでしょう
秋はお金持ちになるでしょう
たくさんの実をもらうからです
秋はおしゃれさんです
人々をすてきな詩人にさせるでしょう
秋は働き者です
近づいてくる冬に備えているからです
韓国の子どもの詩を紹介してみました。本当に小学校1年生なの?と驚きます。〈黄色い木 赤い木作る〉のは〈秋はまほう使い〉だから、という第1連から瑞々しさを感じます。〈たくさんの実をもらうから〉〈お金持ちになる〉、〈人々をすてきな詩人にさせる〉から〈秋はおしゃれさん〉。そして何より最終連が佳いですね。〈近づいてくる冬に備えている〉という発想は、大人の頭の中ではできるかもしれませんが、なかなか言葉として出てこないのではないでしょうか。さすがは詩の国、韓国の小学1年生!と感心しました。
○詩誌『りんごの木』23号 |
2009.12.1
東京都目黒区 荒木氏方・「りんごの木」発行 500円 |
<目次>
一本の樹 峰岸了子 2 少年の時間 さごうえみ 4
オーロラ 小野支津子 6 [p⊃] 山本英子 8
道 宮島智子 10 月夜 横山富久子 12
空間 川又侑子 14 予感 粟島佳織 16
ひまわり 東 延江 18 眠り姫よ 青野 忍 20
晩春 田代芙美子 22 今では 藤原有紀 24
アンニュイ 尾容子 26 仮想遊園地 荒木寧子 28
表紙写真 大和田久
一本の樹/峰岸了子
遠く
霧の中から近づいてくる一本の樹
墓地を抜けた山頂に聾え立つ 大きな樹
――君は覚えているだろうか
君にしがみつきよじ登った男のこと
めったに笑わないその男が
熟れたアケビを両手に
都会人の客に振舞った際の
あの無邪気なはしゃぎっぷりを
長いこと君が抱いて温めた巣のこと
山鳥や鼠や鼬などを巣に運び
自分の食べ分も与え育てた親鷹よりも
つやつやと美しい翼をひろげ飛立った
成鳥が残したぬくもりと 空き巣の軽さを
最後に君を選んだ女のこと
麓からやってきた女が
君の腕にロープを結び
さきっぽで揺れるわっかに 自分の命をぶらさげ
晒し者になった日を
君が大怪我をした夜のこと
天と地を瞬時に走る稲妻が
君をめがけ鉈を振るい
悲鳴とともに裂けた肩のつけ根から
血のような樹液を流した 傷口の白さを
ああ 語ることはないが
自足してそこに在る
樹よ
〈一本の樹〉にも様々な出来事があるのだなと改めて感じます。〈熟れたアケビ〉を這わせ、〈巣〉を〈温め〉、そして自殺者までも受け入れる…。その上雷にも打たれ、なお〈自足してそこに在る〉。人間と比べるのは愚かというものかもしれませんが、古老の長い人生をも感じてしまいました。