きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近




2009.12.9(水)


 父親を見舞いに行って、実家売却の諸手続きが完了したことを報告してきました。家というものに拘っていた男ですから、何かクドクドと言われるかなと思っていましたが、一言「ご苦労さん」。サバサバした口調に驚いたほどです。本人は家に戻れる身体ではないことを充分に承知していますから、すでに思いを断っていたのかもしれません。
 家という大きな入れ物、その中の雑多な日用品。それら全てを手放した今、病院のベッドに横たわる親父には、数枚の着替えと髭剃り、歯ブラシが残る程度。人生の終わり近くになって、本当に必要な物はそんなものなのかもしれません。いずれ我が身、身の処し方を考えてしまいました。




山内理恵子氏詩集『青い太陽』
現代詩の新鋭16
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2009.12.10 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊
1800円+税

<目次>
夜明けから朝へ 6  彼岸の鏡 10     思紋(ソートプリント) 14
梢に 18       星々の牢獄 22    ばらの皿 24
かがみ 28      パーツ 30      スフィア 34
青い太陽 38     空気壺 46      ブランコ 48
川 52        オバQ豆 56     夕焼けの路地 60
深海通信 64     おちた鏡 68     義眼 72
魚の体温 80     冬の幻想 88     残された夕日 90
あとがき 94




 
星々の牢獄


空では
声ばかりがひびいていて
星のすみかはみえない

――いいかけたまま
   つたえられなかったものはなんですか

とうめいなひかりが
おりたたまれ つづめられて つくった
みえない文字盤を
時間の翼が
さざめきながらすぎさっていく

そこには
いのちしかのこっていなかったので
わたしにはとてもきれいにみえたのです

     *“星々の牢獄”…カードゲーム神の記述(コナン)のカードタイトルのひとつ。
      印象に残ってしまい作品を一つ書くことにしました。

 第2詩集です。紹介した作品はカードゲームから想を得て創られた詩のようですが、どういうゲームなのか分かりません。しかし、それを抜きにしてもおもしろい作品だと思います。〈昼〉、〈星々の牢獄〉が〈みえない〉のは、太陽に邪魔されてと思ってよいでしょう。〈とうめいなひかりが〉〈つくった〉〈みえない文字盤〉という詩語も繊細だと思います。最終連も佳いですね。全体に柔軟な思考で書かれた詩集だと思いました。




北山りら氏詩集『にじのはし』
ポエムポシェット24
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2009.12.10 大阪市北区 竹林館刊 800円+税

<目次>
プロローグ
あした あい にいくから 10        おくりもの 12
T
夜桜 16       勿忘草
(わすれなぐさ).18 枯れていくほど 21
八重山吹 24     石榴
(ざくろ) 26    長雨 30
あいしあう 32    たんぽぽ 34     抱擁 36
空白 37
U
七夕飾り 40     追う 42       抜け殻 44
(ひぐらし) 46.    向日葵 48      嫉妬(ジェラシー) 50
(さい)の河原で 52  金鳳花(きんぽうげ) 54
V
紅蜻蛉
(あかとんぼ) 58  宝石箱 59      約束 62
無色の言葉 65    休息 68       片恋 72
凋落
(ちょうらく) 74.   一本の 75      サカナヲ ヤイテ 76
タビダチ 78
W
にじのはし 82    一粒の雨 84     長靴 86
むら雲 88      受容 90       三叉路 96
綿の花 98      根っこ 100
.     紡ぐ 102
ことだま 104
エピローグ
(しおり) 108     月のなみだ 110

生きることへの恋歌 左子真由美 114
あとがき 117
装幀 工房*エピュイ




 
にじのはし

鈍色
(にびいろ)の雨雲に 穴があき
ほんのり 明るくなる地上

生まれて すぐに息絶えて
影がほしいとさまよう 子どもに
あわい光が 手をつなぐ

影のない子が 光の道にすくわれて
のびやかにわたる にじのはし
はぐくまれていた つかのまの記憶
しずかな安らぎに よみがえる

空と地上をつなぐ なないろは
おかあさんとつながっていた 命の帯

 今年2冊目となる第2詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。第1連からイメージ豊かな詩だなと思いましたが、内容は甘いものではありませんでした。〈影のない子〉が〈おかあさんとつなが〉るための橋だったのですね。男には書けない、女性ならではの、女性らしい佳品だと思います。




個人誌『パープル』35号
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2009.12.21 川崎市宮前区 高村昌憲氏発行
500円

<目次>

再生……………………高村昌意(2)     革命家のように………高村昌憲(3)
静寂の音………………中平 耀(4)     時間よ とまれ…みうらたつお(6)
評 論 初期プロポ断想(その18)……………高村昌憲(8)
翻訳詩 アラン『ガブリエル詩集(三)』…高村昌憲訳(18)
編集後記(24) 執筆者住所録(24)
誌名/笠谷陽一  表紙デザイン/宿谷志郎  カット絵/高村喜美子




 
再生/高村昌憲

山肌を削り 谷底へ運ぶ
曲線の稜線が直線になる
山桜を伐り 金属が並ぶ
揺れる色彩が単色に変わる

谷底を知らない住民たち
遠い町を逃れた現代の奴隷
消えた山肌に照葉樹が立ち
オリンポスの神々への敬礼

 宅地開発をして新しく街を作るということは〈山肌を削り 谷底へ運〉び、〈曲線の稜線が直線になる〉ことだと改めて気づかされます。その〈谷底を知らない住民たち〉は、〈現代の奴隷〉だという指摘は慧眼と言えましょう。しかし〈消えた山肌に照葉樹が立ち/オリンポスの神々への敬礼〉を木々はやっています。ここに自然の偉大さを見た思いです。






   
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