きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近 |
2009.12.10(木)
その1
日本ペンクラブの「国際ペン東京大会2010」第11回実行委員会が開催されました。今回は開会式のスケジュールや展示会の概要などが報告されました。東京都の行事として都庁の展望台でカクテルパーティーができるようですけど、これはまだまだ煮詰めないといけないようです。詩部門としては11月19日に開催した部会の状況を報告しました。事務局が詩アンソロジーの作品募集要項を配布資料に添付してくれましたので、それに基づいて詳細を報告し、了承を得ました。この募集要項は会員の皆さまに近々お送りする会報に同封されます。P(現代詩)会員はもちろん、EやNで入会されている方も詩集を2冊以上出版している人には参加資格があります。日本語と英訳または仏訳併記の記念の詩アンソロジーはCDも作りますから、海外からおいでの皆さまは重い本を持ち帰らずに済みます。海外でも読んでもらえるわけですので、またとない機会と言ってよいでしょう。どうぞ奮ってご応募ください。くどいようですが参加費用は無料です。作品をお待ちしています!
○岩アゆきひろ氏詩集『宇宙にかかる木』 |
2009.11.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊 2000円+税 |
<目次>
T
不思議な記憶 8 迷い犬 10 なごり 12
ガラスの箱の中 14 うしろ歩き 18 社員食堂 20
うらはら 22 迷路の先 26 運動会 28
こころ 32 通夜 36 四歳の記憶 38
写真 40 買出し 42 床下の声 44
土の中から 48 蛙の声 50 虹 54
誰もいなくなった村 58
U
顔 62 くしゃみ 64 咳 66
寄生虫 70 あの世から 74 あなた 76
呼びかけるもの 78 柊 82 宇宙にかかる木 86
俺が恐竜だったとき 90
あとがき 94
不思議な記憶
わたしの中の遠い記憶
それが何かいまだにわかりません
それはいつのことだったか
あるいは前世のことだったかも知れません
確かこの辺りで上から下まで真っ黒な影のような人と出会ったのです
その人は連れの人としばらく立ち話をしていましたが
促されて霊柩車のような車の下の引き出しのようなところに横たわり
ゆっくりとどこかへ運ばれていきました
何者だったんだろう
あの影のような人
もしかすると
あの時わたしの心に侵入してきて
今も居ついてしまっている
暗い影の部分かも知れません
第1詩集です。ご出版おめでとうございます。ここでは巻頭の作品を紹介してみました。誰もが持つ〈暗い影の部分〉の由来を語った詩と思ってよいでしょう。〈あの影のような人〉は〈何者だった〉か、おそらく誰も生涯に渡って知ることはないかもしれませんが、その感覚だけは持ち続けたいものだと思いました。
本詩集中のタイトルポエム「宇宙にかかる木」は、すでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて岩アゆきひろ詩の世界をご鑑賞ください。
○詩誌『北の詩人』78号 |
2010.1.1
札幌市豊平区 非売品 日下新介氏方事務局・北の詩人会議発行 |
<目次>
版画・詩 ドームを望む むらさきの畑 高畑 滋 1
新しい年 佐藤 武 2 基地撤去を 佐藤 武 2
戦没者・札幌に柿が 佐藤 武 4 再起 かながせ弥生 5
初仕事 大竹秀子 6 今 沖縄で 大竹秀子 7
死を迎えるとき 大竹秀子 8 傷病兵 大竹秀子 8
私の宝 たかはしちさと 9 磁気共鳴(MR)の洞 たかはしちさと 10
妖怪が踊る 高畑 滋 11 悩みの発展的解消 高柳卓美 12
蚊柱 高柳卓美 12 通り過ぎる人に 日下新介 13
署名の届け先は・希望 日下新介 13
衝撃のたび 4 もりたとしはる 14 トンパのことわざ もりたとしはる 16
啄木の下宿先を追う もりたとしはる 17 本の紹介・ストップ風力発電−巨大風車が環境を破壊する 高畑 滋 19
エッセイ タイガーテンプル 倉臼ヒロ 20
友へ 八木由美 21 ルオー展を見て 八木由美 22
愛宕山に立つ 阿部星道 22 光は拉致家族を救える 仲筋義晃 23
短歌 晩秋の陽に 幸坂美代子 25 詩 希望への手紙 日下薪介 28
北の詩人77号 作品評 阿部星道 25 お便り 「錨地」入谷寿一さんから 29
寄贈詩誌紹介 佐藤 武 30 北の詩人78号もくじ・あとがき 32
初仕事/大竹秀子
一月二日は初仕事の日
何をしようかと考える
そうだ 夫の久留米緋を縫おう
八十六歳でも 二十代で習った和裁は
忘れないと思い縫い始める
雪空の窓ガラスからの光りは薄暗い
二日は太陽が時々照ってくれたが
三日は全く薄暗い光りにはまいった
生地は黒 糸も黒
目は薄くなって針に糸が通しづらい
とにかく仕上げてしまわないと
気が焦るのに あちこちと雑用がくる
後始末は明日にしようとやめて
片付け始めたら 待ち針三本が落ちていた
誰かに刺されなくてよかった
母の教えを思い出す
「糸くずを着物からきれいに取らないと
病気をする」という
昔からの戒め
〈一月二日は初仕事の日〉だから〈夫の久留米緋を縫おう〉と、〈八十六歳でも〉仕事をするという態度に感心します。さらに感心したのは〈「糸くずを着物からきれいに取らないと/病気をする」という〉〈母の教え〉です。〈誰かに刺されなくてよかった〉という思いの延長なのでしょうが、糸くずを取ることによって針の取り忘れなども防止するという〈昔からの戒め〉と受け止めました。母上は明治の生まれでしょうか。詩的な言葉で教訓を遺す先人に敬服した作品です。
○季刊『樂市』67号 |
2009.12.1
大阪府八尾市 楽市舎編集・創元社発行 952円+税 |
<目次>
●詩
火の子 中神英子…6 贋作−にせものときまりし壺の夜長かな 木下夕爾 木村草弥…9
コロンス島の赤い花 福井千壽子…10 書割り 永井章子…12
さくら さくら満開 谷口 謙…14 袖 椋原眞理…18
影絵 加藤雅子…19 靴下 福井栄美子…20
幾何学模様 太田和子…22 温もり 川見嘉代子…23
八月 内田るみ…26 百日紅 小西照美…28
十三夜 斎藤京子…30 父 松井喜久子…32
マスク 司 茜…33 かなしみ 三井葉子…56
山田英子さんを悼む
玉井敬之…4 木村三千子…60 小西照美…60 三井葉子…61
●随筆
新聞の切り抜きから 玉井敬之…38 対幻想の彼岸 萩原 隆…43
断想(29) 木内 孝…51 荷風をたどる(二) 渡部兼直…57
●編集後記…64
書割り/永井章子
海の側のキャラボクの森は
潮風に痛めつけられ
丈低く
枝を広げている
こんな書割りの森の前で
永訣のドラマが始まっている
セリフが
絶え間なく発せられ
劇場の中は
あふれる言葉で
飽和され
包囲され 私は
人いきれから
外れて 背景の
ほの暗い森の道を
言葉を選ぶように
木漏れ日を選んで歩く
無人の昼下がり
潮の香りの方角へ
光の方角へ
少しずつ
体温が奪われ
言葉の意味が奪われ
濃度のある水を
そそぎ終わっても まだ
時間はある
吐息が
思い出に変わる程の
そんな時間を
一枚の木の葉になって
訣れ行く人のうえに
訣れ行く人たちのうえに
そっと
舞いおりたい
〈あふれる言葉で/飽和され/包囲され〉ている時間から〈外れて〉、〈書割り〉の〈背景の/ほの暗い森の道〉へ入って夢想するという作品ですが、第4連の〈濃度のある水を/そそぎ終わっても まだ/時間はある〉というフレーズがおもしろいと思いました。本来、水そのものには濃度がないんですが、よほど〈人いきれから〉逃れたかったのでしょう。その気持ちが〈濃度のある水〉という詩語に凝縮されているように思いました。