きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近 |
2009.12.10(木)
その2
○季刊詩誌『舟』137号 |
2009.11.15
岩手県岩手郡滝沢村 レアリテの会・西一知氏発行 800円 |
<目次>
■エッセイ
アンリ・マティスの切り紙絵について 岩田まり 4
芸術家の生き方・考え方(要約) 上 木村雅信 6
■作品
約束 坂本真紀 12 きょう 奥津さちよ 14
朝の届け先 松田太郎 16 なぞは なぞのまま 駒木田鶴子 18
花の顔 野仲美弥子 20 ラストシーンの傘 他一篇 平山千春 22
幻景 菊池柚二 24 夜がメガネをかけている 日笠芙美子 26
結縁(けちえん) 渡邊眞吾 28 新川の土手 鈴木八重子 30
収穫期 岩田まり 32 動物園一、二、三 菊地武秋 34
■エッセイ
(連載)ドン・キホーテ、遍歴の軌跡(その一) 高橋 馨 37
■作品
土 46 松本 旻 42 イル 坂本 遊 44
眼と頭蓋骨と身体と私 日和田眞理 46 いちじくと空 飼い犬に 大坪れみ子 48
翌日の記憶 文屋 順 50 この夏の味 黒田康嗣 52
過ぎ去るもの 木野良介 54 矢 及川良子 55
秋の日 武田弘子 56 貝殻と女 森田 薫 58
人間の学校 その一四二 井元霧彦 60
■特別寄稿
(連載)韓国の詩9(訳)韓成禮(ハンソンレ) 62 チョン・ジンギュ(鄭鎮主)、ソン・ジュハク(宋在学)、シム・ボソン(沈甫宣)
■エッセイ
(連載)体験的日本モダニズム詩私観9 西 一知 68 「詩・フォルム」の動機3 少年時代、戦時下の城東商業
■作品
涙 他二篇 合田 曠 75 驟雨 日原正彦 78
コンポジション・秋桜 松本高直 80 渚にて 尾中利光 82
縮図 高橋美依 84 鬼無里(きなり)村 植木信子 86
独白 (新同人)本堂裕美子 88 藁苞(わらづと) なんば・みちこ 90
圏外 金井一穂 92 研ぎ澄ました石つぶてを 原田勇男 94
■エッセイ
(連載)ホイットマン、トローベル、長沼重隆
6 経田佑介 96
■作品
微熱 長谷川信子 100. みち 熱海一樹 102
少年復員兵 いしづかまさお 104. 蔓延 田中作子 106
花展 田澤ちよこ 108. アオバト 命のダイブ 尾形ゆき江 110
吹きさらしの階段の踊り場 岩井 昭 112. ダンディー 戸塚礼次 114
箱庭 佐竹健児 116. スキャンダル(醜聞) 西 一知 117
■エッセイ
ナターシャに会って 及川良子 120. 東名・名神雨中大渋滞 河井 洋 122
同人住所録 128
後記●発見とメタモルフォーゼ 130
きょう/奥津さちよ
電車のなかで
きょうは
きのうでなかったことに気づいた
どこで私は
きのうを抜いたのだろう
入り組んだレール
鳴らないベル
知らぬまに
きのうは発車していて
ウインク残して後ずさって行ったのだろうか
しろい昼下がり
ひるがえる屋根の広告
今の時間のきょう
急いでこのまま行っても
出るはずだった会合も
知人も本も
みんな後ろのきのうに
乗ってしまっている
自由に先に行こうか
下車してぶらぶら散歩を楽しもうか
こころを測っているところ
要は〈きのう〉の〈出るはずだった会合〉や〈知人〉との約束、返すはずだった〈本〉を忘れたということだろうと思いますけど、おもしろいですね。私もときどき〈きょうは/きのうでなかったことに気づ〉くことがあって、地団駄踏んだりしますが、あとの祭り。しかし〈私〉は〈自由に先に行こうか/下車してぶらぶら散歩を楽しもうか〉と、いたって楽天的です。この感覚は羨ましい。〈きょう〉について書かれた詩は珍しいし、このように書くのも初めてではないでしょうか。あせってもしょうがないよ、と教えられた気分の作品です。
○詩誌『ONL』105号 |
2009.11.30
高知県四万十市 山本衞氏発行 350円 |
<目次>
詩作品
土志田英介 トシにいの空 2 徳廣早苗 なごり雪 4
西森 茂 もず 6 浜田 啓 母(5) 世の中(5) 8
福本明美 つわぶき 10 藤田恵美 秋の声 11
文月奈津 メモ 12 土居廣之 継承 14
丸山全友 無抵抗 15 水口里子 枯葉 16
大森ちさと 哀しみ 17 森崎昭生 観業−農の意地 18
森田貞男 愉快な夫婦 19 柳原省三 飲み助の会話 20
山本 衞 少年と榕樹 22 山本清水 蛸壺 25
ウカイヒロシ日本蜻蛉小事典/他 28 大山喬二 橡の木の森へ(18)/他 32
岩合 秋 月見草のお部屋 34 岡村久泰 裸婦デッサン 36
河内良澄 秋祭り・神 38 小松二三子 杖 40
北代佳子 ジャズ喫茶マサコ 46
英訳作品 山本歳巳『沖縄島』を世界へ広げたい 「トマト」 42
小特集 山本清水『時の足跡』 47
エッセイ 秋山田鶴子 ダム 53 芝野晴男 宙(そら) 54
山本 衞 人が人らしく(4) 58
評論作品 谷口平八郎「君死にたまふこと勿れ」桂月の批評に対する修、寛の論駁 56
後書き 59 執筆者名簿
表紙絵 田辺陶豊《坂道》
もず/西森 茂
もずは
この秋の光景は
すべて自分だけのものだと思いながら飛び続けた
傲慢なもずは
突然脳天から嘴の辺りに
激痛が走るのを感じた
見るとさる屋敷のガラス窓に
突き当たったのだった
そしてもずはそのまま気を失ってしまった
気がつくともずは
秋の大地に抱きとめられるように
横たえられていた
秋は落ちてくるものは
たとえどんなものであっても
拒むことが無かった
もずは死に至る
絶望的な命から立ち返った喜びを
ひときわ高くたてると
新たな着地点を求めて
飛び立った
〈もず〉が〈傲慢〉かどうかは分かりませんが、拙宅でもこの20年近くで1度だけ〈ガラス窓に/突き当たった〉ことがあります。たぶん百舌だったのでしょう。そんな百舌を〈抱きとめ〉る〈秋の大地〉がこの作品を柔らかくしていると思います。さらに最終連の〈新たな着地点〉という視座が良いですね。〈死に至〉った百舌が天国に行けるように願った作品です。
○詩誌『谷神』16号 |
2009.12.1
千葉市稲毛区 楓舎・中村洋子氏発行 非売品 |
<目次>
化身 田中憲子 1 酒 田中憲子 2
ごった煮 田中憲子 3 秋から冬へ 山原まほし 4
薄命 近藤文子 6 夕映心景 石村柳三 8
虫 むし ムシ 肱岡晢子 10 時のままに くろこようこ 12
泥のヴィーナス 中村洋子 14
楓舎の窓 中村洋子 16 あとがき
泥のヴィーナス/中村洋子
かあさん と思わず声をかけた
泥にまみれた女性像は堂々と
右手には丈夫そうな早苗をもつ
トルソにちかい像は娘かもしれない
それでもその姿は母にみえる
祖母や伯母たち 近所の女たちにかさなる
田植え女と題された写真
濱谷浩撮影の一枚はわたしを釘づけにして
半世紀をさかのぼり故里の水田に連れもどす
女の健やかな胸 腰 腿 清清した美しさ
労をいとわない力づよさがある
この泥のヴィーナスは父の理想像に思われる
旅上であった大理石の像
女神は胸から膝までたわわに穀物と果実をまとう
その時わたしには一輪の花もなく博物館にいた
写真の女性は五穀や万緑を育む泥をおびて
あの女神と同じ豊饒そのもの
父の望みはこの像にわたしを連ねること
太陽や月 水のめぐり
年年くりかえされた泥の手ざわり
幾千年来の稲の穂をとるよろこび
今は機械が数日で植えつける
その前に父の意からのがれたわたし
解放されたのか 何かを手ばなしたのではないか
半身を泥田にしずめて生きいきと植える
泥のヴィーナスに問いかける
〈田植え女〉を〈泥のヴィーナス〉と呼ぶ裏に、〈わたし〉の来歴が読み取れる作品です。〈父の意からのがれたわたし〉が〈解放されたのか 何かを手ばなしたのではないか〉と自問するのは、多くの都会人共通のもののように思います。その切っ掛けを与えた〈写真〉の力を改めて認識しましたが、〈かあさん と思わず声をかけた〉〈わたし〉の感受性にも感動しました。私は農家の出身ではありませんが、子ども時代の〈故里の水田〉を懐かしく思い出した作品です。