きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近




2009.12.13(日)


  その2




詩誌『詩区 かつしか』125号
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2009.12.20 東京都葛飾区 池澤秀和氏連絡先 非売品

<目次>
人間160 まつだひでお            人間161 ヴイア ドロローサ(1)ゲツマネ まつだひでお
助けて 小川哲史              王讃 小川哲史
豹変 小林徳明               理屈を越えて 小林徳明
近づいては 遠ざかる しま・ようこ     鍵 みゆき杏子
贈り物 工藤憲治              浜昼顔 工藤憲治
家族写真 内藤セツコ            風邪ひき 内藤セツコ
立ち話 石川逸子              刻の行方 池澤秀和
あったらいいな 堀越睦子          晩秋 −商店街の思い出に− 青山晴江




 
立ち話/石川逸子

立ち話がすき
近くに住みながらめったに会えず
ひょっこり道で出会って互いになつかしく
近況など語り合う 束の間の立ち話がすき

立ち話の光景を見るのがすき
たがいにふっと足を止めて
あるいは庭先で花に水やりながら
通りかけた知り人とのひとときの交流

偶然の出会いであるのがいい
茶菓子のもてなしも 手土産の気遣いも
いらないのがいい
〈では〉と別れればいつ会えるかわからないのもいい

わざわざ訪ねるのでなく  
・・
ほんのひとときの〈余分な とき〉であるのがいい
直線がひょっとそこだけ曲がったような
別れたあと 名残惜しさが胸をかすめるのもいい

立ち話している二人を 今日も見た
ふいと玄関から出てきた女性と 買い物帰りの女性
「息子に嫁が来るのよ 日系ブラジル人なの とても良い子」
「ま ○○ちゃんがねえ・・・」そんな声が聞こえてくる

駅前まで行くと ばったり 杖を突いた友に会った
「目黒の防衛技術研究所に猛毒のプルトニューム239が
保管されつづけているんですって この紙に署名してね」
体はよろめいても 友の心は健康だ 束の間の立ち話がすき

 私が男であるためか〈立ち話がすき〉ではないのですが、〈茶菓子のもてなしも 手土産の気遣いも/いらないのがいい〉というのは納得です。〈直線がひょっとそこだけ曲がったような/別れたあと 名残惜しさが胸をかすめるのもいい〉のも分かるように思います。この作品は最終連が大事でしょうね。〈体はよろめいても 友の心は健康だ〉というフレーズに〈束の間の立ち話〉の本質があるように思いました。




詩誌SPACE89号
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2010.1.1 高知県高知市
大家氏方・
SPACEの会発行 非売品

<目次>

彷徨/筒井佐和子 2            バクチに/中口秀樹 4
天使/笹田満由 7             いい日/尾崎幹夫 8
走る/山川久三 10             夏になったら行くから/坂多瑩子 12
あふれる悲しみ/弘井 正 14        AM4:00の/松田太郎 16
里山/指田 一 18             あなたが変えてくれたんよ/大石聡美 20
詩人のポートレート/秋田律子 24      キスマーク/秋田律子 26
シガークラブ/南原充士 28
  §
目撃者/かわじまさよ 42          納屋/かわじまさよ 43
国民学校正門前の家/中上哲夫 44      続・就眠試論/近澤有孝 46
還暦(2)/中原繁博 48
.           湖へ/日原正彦 50
お誕生日/木野ふみ 52           ゆうがたの僕/豊原清明 54
キャサリンの/大家正志 57         回り燈籠の絵のように(14)/澤田智惠 62
詩記 愛しいこどもたち 山崎詩織 22
俳句 内田紀久子 38            雑詠 秋田律子 40
エッセイ 望み葉 山沖素子 34
シナリオ 冬の鵙 豊原清明 36
評論 思い出と《事実》について 内田収省 70
編集雑記 大家正志 88




 
いい日/尾崎幹夫

目覚める前に見たのは
(遠くまでつづく青い空と
(綿毛のような雲 今日はいい日にちがいない
     *
ぼくはガスをつけたまま‥‥
湯わかしの電源を入れたまま‥‥
入学先の決まらない娘が失業中の男にせまる
だれのお金なの といい
風呂のコントローラーをたたいて消し
足音をたててぼくのそばをとおる
からだが動いてなにかはじめる
妻がはがいじめにする
「早く逃げなさい」と娘にいっている
やわらかいものに触れている感じがする
記憶がとんでいる

娘は 虐待だ 歯が欠けた 5発なぐったとわめく
(娘に見えない明るい空

息ができない
涙がとまらない
胃液しか出ない嘔吐を妻が洗面器でうける
大量の安定剤を噛む
(今日はいい日
妻が救急車を呼ぶ
いつものこと すぐなおると出ない声でいう
救急車の中でもう楽になっている

病院の検査で異常はない
(遠くまでつづく空
だれにも見えないこぶしがぼくをなぐるけど
     *
(青い空
(綿毛のような雲
一日の終わり 疲れはてているがやすらかに眠れる

 詩作品ですから現実のことと採る必要はありませんけど、それにしても壮絶です。〈失業中の男〉が〈目覚める前に見たのは(遠くまでつづく青い空と/(綿毛のような雲〉。〈今日はいい日にちがいない〉という思いが次々に壊れていく様子に胸が締め付けられます。〈一日の終わり 疲れはてているがやすらかに眠れる〉男に、明日こそは〈いい日〉であるようにと願わずにはいられませんでした。




詩誌『光芒』64号
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2009.12.5 千葉県茂原市 斎藤正敏氏発行 800円

<目次>
◇詩作品
藤井 章子 キミたちの夏をもっと話してください 6
武田  健 行方不明 第二回 8      立川 英明 月々のうた(六) 10
鈴木豊志夫 江南紀行 −寧波にて− 13   川島  洋 鳥よ 16
佐野千穂子 筆談ノート 18         関口 隆雄 真夜中の自動販売機 20
吉川 純子 花と線香手に持って 22     小池 肇三 ある秋の空について 24
植木 信子 響く声 27           本田 和也 野あざみ 30
本田 和也 あれから 32          中村 節子 腹が空かない 34
中村 節子 口に含んだもの 36       みきとおる 丘の上 38
高橋 博子 休日幻想 39          市川 つた 溶解 42
市川 つた 道 44             奥  重機 「槿域の人」逝く 46
奥  重機 ヤミ米 48           松下 和夫 つららの形 50
松下 和夫 秋思 52
◇エッセイ
松下 和夫 あこがれ 54          高橋  馨 読む行為と主体的体験(下)−『古事記』を益田勝実に導かれて読む−57
佐藤  鉄 血と地球 63
◇翻訳詩
本田 和也 シェイマス・ヒーニーの詩 68  水崎野里子 現代アメリカの詩 70
◇詩作品
清水 博司 秋の風 72           市村 幸子 Kへ(3)戻走
(れいそう)列車 74
市村 幸子 Kへ(4)空っぽの服 76     金屋敷文代 共共鳴 78
青野  忍 鳥の部屋 81          神尾加代子 水たまり 84
碑尾加代子 蜘蛛と蝉と私の夏 86      川又 侑子 はるはなにいろ 89
川又 侑子 花 90             吉沢 量子 地図を飛ぶ 92
吉沢 量子 星座のロマン 94        吉沢 量子 ラ・カンパニラ 96
笹目 秀光 うさぎ 98           笹目 秀光 午前三時の順路帳 100
梅本 賢次 思うこと 102
.         高橋 文雄 最上川スケッチ 104
小関  守 風 106
.            小関  守 年輪の語らい 108
水崎野里子 父の書棚 110
.         山田ひさ子 ねむれない夜 112
山田ひさ子 本日のメニュー 114
.      吉田 博哉 昼月 118
篠原 義男 バランス 120
.         篠原 義男 ハエが舞っている 121
帆足みゆき 水平線 122
.          斎藤 正敏 迷い道U 124
伊藤美智子 備忘録 その1 129
.      伊藤美智子 備忘録 その2 126
◇言葉の広場 神尾加代子 駅 130
◇光苦図書室
武田  健 詩の本質について考えさせられる 植木信子詩集『フリアの庭で』を読む 132
◇詩集評 T 斎藤正敏 134  U 吉田博哉 138  V 本田和也 144
◇詩誌評 T 高橋 馨 151  U 鈴木豊志夫 155
◇受贈深謝 162
◇詩の窓【選者】武田健・吉川純子・斎藤正敏
松本 関治 流儀の破綻 166
.        大塚 光江 「シュールなS氏の週末」 166
佐藤 義江 ママの入院 166
.        上野知代子 狭間の石 167
星野  薫 くるみのママ 168
.       金綱あき子 友達 168
飯田 規善 公園惜春 169
.         阿部  匠 虫籠の妖精 169
中山  操 過ぎし日の誓い 170
◇同人の近刊書一覧 171
◇ご案内 草原舎の近刊書 176
.       茂原詩の教室 177
 『広報もばら』の詩作品募集 177
.     光芒の会ご案内 177
◇編集後記 178              〈表紙絵/内海 泰)




 
秋の風/清水博司

どういうわけか
人柄が見えてしまう
と君はいう

下心のある人には
近づかない
嫌いだから

すぐに上下関係をつけたがる人にも
近づかない
疲れるから

情だ情だと声高にいう人にも
近づかない
結局その人には情がないから

秋の風が吹き
夏の攻撃的な緑が去ったある日の午後

一人
少しうつむきながら歩く君を
萩の花が見ている

きみは
やがて
秋の風をゆっくりと呼吸する

 あっ、この詩わかる! というのが第一印象です。特に4連目の〈情だ情だと声高にいう人にも/近づかない/結局その人には情がないから〉というフレーズは説得力があると思います。しかもこの詩は決して教訓的ではありません。〈君〉という2人称に語らせていること、〈秋の風〉を媒介させていることが成功しているのだと思います。






   
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