きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近




2009.12.13(日)


  その1

 日本詩人クラブ「国際交流インド2009」の今日の行事は、
国立国会図書館・国際子ども図書館で、同館企画のシュニルさんの講演「インドにおける児童文学の今」が予定されていましたが、私は参加しませんでした。明日はインド大使館でのイベントが予定されていますから、今日でかけると4日連続になり、さすがにキツイです。今日はサボらせてもらって、いただいた詩書をせっせと拝読していました。




萱野笛子氏詩集『五丁目電停 雨化』
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2009.10.30 高知県高知市 ふたば工房刊 1905円+税

<目次>
穴 8        行灯 12       闇 16
巾着袋 20      蛸焼 24       董 28
裳裾 32       花電車 36      28 40
白い靴 44      はりまや橋 48    青蛙 52
小町忌 56      半夏生 60      銀杏 64
ペンギン 68     端縫い 72      縫いぐるみ 76
シクラメン 80    小袖貝 84      シャボン玉 88
終電 92       草原 96
あとがき 101
表紙装幀・乙丸みち




 
はりまや橋

路面電車をはりまや橋で降りる
柳が萌える掘川に架かる
〈坊さんかんざし買うを見た〉の
朱塗りの欄干の太鼓橋の
はりまや橋を渡らずに
電車通りにそって西に行く
掘川と電車通りに挟まれた細長い土地に
国際ホテルがあったのだが
何時とり壊されたのか
金属板で囲まれている
隙間から覗くと敷地跡はならされて
秘色
(ひそく)がかった砕石が敷き詰めてある

国際ホテルの西側の一角は
あたしのお気に入りの書店で
入口の目立つ場所に郷土出版物が並んでいた
本棚の配置も本の種類の場所までも
目をつむっていても歩いて行けるくらい
慣れ親しんだ書店なのだが
『季刊銀花』の定期購読も頼んであった

堀川の方にまわってみる
書店の裏手が堀川だ
掘川は埋めたてられてはりまや橋公園になっている
池があり両岸に十本ほどの桜が丁度満開
書店の裏口に一つのドア
ドアの近くに地下の書庫に行く階段があって
うす暗い地下には本の物語の主人公たちが
ひっそりと佇んでいるようだった
裏口から出てかつての堀川だった公園を横ぎって
ビルとビルの間の一m位の路地を抜けると
京町
高知のメイン通りにふっと出る
謎々を解くような書店の裏手も私のお気に入り

秘色がかった砕石の書店の敷地に
岩波文庫のページが捲られ
白い紙から言葉がひらりひらりと
脱け出して
風に運ばれている
蝶になるのだわ

しあわせの黄色い蝶がいい

 4年ぶりの第8詩集です。“五丁目電停”は著者のライフワークと言ってもよいでしょう。高知市在住の著者が路面電車(土佐電気鉄道・愛称とでん)を舞台に作品を書き続けていますが、本詩集も全編に路面電車が登場します。ここでは、私も20年ほど前に1度だけ訪ねたことのある「はりまや橋」を紹介してみました。〈掘川は埋めたてられて〉〈朱塗りの欄干の太鼓橋〉だけでしたけど、やっぱりペギー葉山を思い出しましたね。作品からは〈お気に入り〉の地域への愛着が感じられます。それが端的に表現されたのが〈しあわせの黄色い蝶がいい〉という最終連ではないかと思います。
 なお、本詩集中の
「終電」はすでに拙HPで紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、合わせて萱野笛子詩の世界をお楽しみください。




『栃木県詩人協会会報』24号
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2009.12.1 栃木県芳賀郡茂木町 森羅一氏発行 非売品

<目次>
アンソロジー09発刊記念・朗読会 綾部健二 1
会員エッセイ
五行歌エッセイ『南瓜の微笑み』
.風祭智秋.2 余熱 大木てるよ 2
紫紺に寄せる 螺良君枝 2         手帳 白石英子 3
会員の詩
エンゼル・トランペット 和田正子 4    梨の木の花四月 石井 仁 4
戯言
(ざれごと)ではない 岡田泰代 4.     酒 松本ミチ子 5
指輪 神山暁美 5
高内壮介の詩 高内壮介著作の紹介(10) 6
会員の近況 7               会員の動向・受賞等 7
寄贈御礼 お知らせ 編集後記 8




 
酒/松本ミチ子

先ず
小さなため息をひとつ

それから
よそよそしく口元を窄め
ひと口
ゆったりとしたテンポで
生きている舌をあやしながら呑む

さくら刺し
つまり馬刺し
そのつやつやとした色合い
おいしさをうみだす
肴を頬張る

続いて優しい手つきで
えんどう豆の煮物を
上手に箸ですくって口に運ぶ
体が喜びそうな優しい味

ふた口
み口目が旨い

伝わってくる生温かい体温
赤らんでいくつかの間
旨さは細い路地を通って
わたしの
弱く虚ろな内面を脱がせ
届くはずない
懐かしい場所へ連れ戻す

凍りついた仮面を
無造作に剥がす酒
いささかの戸惑いもなく
わたしという素材を
溶かしている

 酒好きの私には思わず涎が出るような作品で、その通り!と膝を打ってしまいました。特に最終連が佳いですね。〈いささかの戸惑いもなく/わたしという素材を/溶かしている〉というフレーズを読んで、酒の効用を改めて感じてしまいました。今夜はこの詩を再読しながら〈届くはずない/懐かしい場所へ連れ戻〉してもらおうと思います。




個人誌『ポリフォニー』16号
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2009.12.1 東京都豊島区 熊沢加代子氏発行 非売品

<目次>
詩/外科医 2    /影 4       /青空 6
 /風鈴 8     /窓と風とカーテンと 10
コンサート・ホール/遠い呼び声の彼方へ 12
アド・リビテュウム/「統合失調症」という病を得て 14
後記/




 
青空

天気予報は見事にはずれて
今日は快晴
空はいじらしいほどに青く
七月は婚礼を終えた花嫁のように
晴れやかに夏を約束する

海の鼓動を聴く
山の涼風を感じる
それら季節の素材のほんの一部にも
その日を生きている実感があり
だから人は
自然に身を任せる生き方に共感しもする

だが
この世の雑事をこなしながら
町なかに暮らしていても
窓という窓を開け放ち
青空を呼び込むことはできる
その時の新鮮さ
こんな虚無の広がりにも
まだ未来がある

 第1連の〈婚礼を終えた花嫁のように〉というフレーズが〈青空〉を見事に物語っていると思います。第2連の〈それら季節の素材のほんの一部にも/その日を生きている実感があ〉るという表現も佳いですね。〈窓という窓を開け放ち/青空を呼び込む〉〈新鮮さ〉によって〈こんな虚無の広がりにも/まだ未来がある〉という最終連には励まされる思いをした作品です。






   
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