2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近

2009.12.19(土)

　　その１

　特に予定のない日。いただいた本を拝読して過ごしました。

○石川厚志氏詩集『天使のいない場所』

2009.11.30 東京都新宿区 土曜美術社出版販売刊　1429円+税

＜目次＞
天使　６　　　　　　　　　　　　　　　　　　迷い子　10
あなたが望む機械は動く　14　　　　　　　　　遠足　18
僕のカラス　22　　　　　　　　　　　　　　　ヤマカガシ　26
もう春ですよ　28　　　　　　　　　　　　　　卵の処遇　32
一本の棒　36　　　　　　　　　　　　　　　　菜の花咲けるあの中に　39
私は削って消すものである　42　　　　　　　　手品　45
傷跡　48　　　　　　　　　　　　　　　　　　ブルーな野辺には薔薇を謳う　52
冬じるし　56　　　　　　　　　　　　　　　　夢の園　60
絵を描きたい　64　　　　　　　　　　　　　　純情　67
秋の休息日　70　　　　　　　　　　　　　　　絡まる髪を切る時は　72
春の日の庭にある風景　74　　　　　　　　　　君のいる場所　76
こんこん狐　78　　　　　　　　　　　　　　　売り家　81
パーラー　84　　　　　　　　　　　　　　　　白い絵　87
箱　90　　　　　　　　　　　　　　　　　　　お空に雲や風はない　92
冬の小径　94　　　　　　　　　　　　　　　　朝の終りのぽえむの如き　96
上州わるつ　98　　　　　　　　　　　　　　　へのへのもへじ　100
顔　104.　　　　　　　　　　　　　　　　　　夏の日の思い出　108
ロシアン･ルーレット　112　　　　　　　　　　最終列車に乗るのなら　116
掲載・批評一覧　119
あとがき　120.　　　　　　　　　　　　　　　装幀・写真／著者

　天使

天使よ　天使　天使はいったい　どこにいる
この家の　縁の下にか
あの湖の　緑の底にか
天使よ　天使　天使はいったい　どこにいるのさ
この国道の　灰の先にか
あの月柱の　銀の果てにか
天使よ　天使　お前はいったい　どこにいる
この荒屋(あばらや)の　朽ちゆく中にか
あの望楼の　見果てぬ夢にか
天使よ　天使　お前はいったい　どこにいるのさ
この馬穴の　生塵の奥にか
あの憂愁の　火星の裏にか

天使よ　天使　ああ　天使
ああ　慌ただしく　ああ　長たらしい
ああ　物狂おしく　ああ　物悲しい
天使はどこだ　天使はどこだ
天使をさがせ　天使はいずこ
どこの森にも　どこの風にも　天使はいるか
どこの丘にも　どこの雲にも　天使はいるか

天使よ　天使　天使はいったい　どこにいる
この心臓の　焼けた痕にか
あの掌の　砂つぶの中にか
天使よ　天使　天使の亡霊は　どこにいる
この細波の残す　貝殻の爪痕にか
あの霧笛の遺す　幻の海峡にか
ああ　天使よ　天使　お前の現実は　どこにある
この道端に焦げついた　太陽の影にか
あの丘の向こうの　素知らぬ家にか
ああ　天使よ　天使　お前の鼓動はいったい　どこに鳴る
この地べたの底の　奥深くにか
あの海に奏でる　潮騒の中にか

ああ　天使よ　天使　天使は結局　見つからず
時過ぎて　年老いて
皮だけになって　骨だけになって
そうして僕は
天使に
見捨てられる……

　第１詩集のようです。ご出版おめでとうございます。詩のすべてに写真が添えられていました。それがなかなか良いのです。略歴には［詩人・写真家・臨床心理士］となっていますから、プロとしても通用する写真を撮っているのかもしれません。
　この詩集にはタイトルポエムがありませんが、紹介した詩から採っていると思われます。〈天使〉は文字通りの天使でしょうし“精神”と考えてもよいかなと思っています。〈そうして僕は／天使に／見捨てられる……〉ところから詩人としての出発があるのかもしれません。今後のご活躍を祈念しています。

○詩誌『馬車』41号

2009.11.5 東京都新宿区 春木節子氏発行責任 非売品

＜目次＞
扉詩…車窓　春木節子
海に行きたい…小丸由紀子　４　　　　　　　　グラスの中のゼリー・深山の滝太郎…　洋子　６
月見・カクレンボ…田中順三　10　　　　　　　夕焼け買い・見知らぬ人…山本みち子　14
巻き貝・日射しの中で…丸山乃里子　18　　　　立っている人…春木節子　22
招待席
秋の比喩…川島　洋　24　　　　　　　　　　　あなたが草原に高い塔を建てたときいて−馬場晴世さんに…中上哲夫　26
悲しみの賞味期限…新延　拳　30
[詩集評]　新しい抒情詩の誕生　渡ひろこ詩集『メール症候群』…北畑光男　33
脳内麻薬…渡　ひろこ　36
[評論](水と生物文学の出会い６)…堀田のぞみ　40
空が流れている…堀田のぞみ　42　　　　　　　夜の庭園　カール・ヨハンスの夏の宵…ついきひろこ　44
眠れない夜・明け方の夢の中で…馬場晴世　48
ＭＥＥＴＩＮＧ ＲＯＯＭ　52
後記　58　　　　　　　　　　　　　　　　　　｢馬車」ホーム・ページからのお知らせ　同人名簿

　眠れない夜／馬場晴世

不眠症になった息子が深夜
出かけていく
夜の闇の中を歩くことで自分の闇を
少し薄めたいと思うのだろう

月あかりをあびた草むらでは
虫たちがしきりに囁く秋
誰もいない公園で息子がベンチに座っていると
やはり眠れないひとが来て
離れたベンチに座る
うっかり話すと闇が深まりそうで
黙っている

町には明け方まで
歌わせてくれる店があり
秋の虫のように声を限りに歌って
自分の闇を吐き出して帰宅する

私はうす靄の夜のなかをどこまでも歩いた
月が隠れると
林は暗く木々も闇そのものになっている
街灯に照らされた草や木だけが緑だった
大地も静まり　時間は沈んでいくようだった
いつもの知っている道を帰るしかなく
夜の道には花などひとつも咲いていない

　〈夜の闇の中を歩くことで自分の闇を／少し薄めたいと思うのだろう〉というフレーズに惹かれました。闇を薄めるには闇しかないというのは、言葉の上でのことだけですが、毒を制するのに毒を使うということと通じているのかもしれません。〈うっかり話すと闇が深まりそうで〉というのも分かるように思います。最終連の〈夜の道には花などひとつも咲いていない〉というフレーズも効いていると思った作品です。

○詩･エッセイ『天秤宮』31号

2009.12.5 鹿児島県日置市 天秤宮社･宮内洋子氏発行　1000円

＜目次＞
薔薇（洋画)…有馬広文　５
■詩
無邪気な瞳の先に…小倉泰明　７
はるかに／牙／秋の朝…中村なづな　10　　　　詩編３(ひくかところぃ　かきはじめよ)…谷口哲郎　15
オリーブ畑…岡田惠子　29　　　　　　　　　　あいうえおんがく　二かいだて…木佐敬久　31
這い出す／三角の時間…中村保子　37　　　　　ある女神像…八瀬生見　41
あわてんぼ…泊せつ子　43　　　　　　　　　　天体観測…谷口元子　45
彼岸花／華�T／華�U／華�V…宮内洋子　48　　　目／蝶…茂山忠茂　54
上澄み　連作　スポンジ…池田順子　60　　　　空虚…宇宿一成　62
■風紋　おとし物
小さな秋…宮内洋子　64　　　　　　　　　　　ぬいぐるみ…宇宿一成　65
落し物と拾い物の記憶…八瀬生見　66　　　　　拾う…池田順子　67
身代わり…岡田惠子　68　　　　　　　　　　　落し物…茂山忠茂　69
学習効果…養父克彦　71　　　　　　　　　　　思わぬ落とし物…満園文夫　72
■夕日（写真撮影)…大迫　満　75
■掌編小説　片手袋…木佐敬久　76
■子供の詩について　見つめることで視えてくる…茂山忠茂　79
■朝陽（写真撮影)…宮内洋子　88
■鴎外との日々　XV　清張と『小倉日記』…養父克彦　89
■表紙絵随想　マチスのような青い地面のロビンソン・クルーソー…木佐敬久　103
　＊表紙絵　歌川国芳「唐土廿四孝　子｣　個人蔵
■クリニャンクール（洋画)…有馬広文　111
あとがき…112

　子供の詩について
　見つめることで視えてくる／茂山忠茂

　　　こよみ　　　四年　大西由以子

　　バサッー
　　こよみをやぶる。
　　まるで　きょう一日を、
　　ごみばこにすてるように−

　日記の中に、これだけ書いてきた。一日の重さをずしりと伝えた日記である。たった四行で一日を書いたこの子の感性に驚かされた。

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　子どもの詩とその解説を紹介してみましたが、たしかに凄いですね。〈一日の重さ〉という評も的確だと思います。この子はどんな生活をしているのだろうと想像してしまいます。きっと充実した日々を過ごしているんでしょう。だから、その〈一日〉を破り捨てることに違和感があるのかもしれません。私たちが失くしたものを思い出せてくれています。

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