きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近 |
2009.12.26(土)
その2
○『大崎二郎全詩集』 |
2010.1.26
東京都板橋区 コールサック社刊 5000円+税 |
<目次>
T 第四詩集 走り者(一九八二年)
<T>
迷う紙 16. 乾くな 18. 紙漉きの掌 20
喘ぐ紙 21. 火 23. 靄のなか 25
楮(かじ)くさのとき 27. 雪の路上 30. 蝶の幻 32
半丈記 33. 粘性の夜 35. 紙漉きのわらい(一) 36
紙漉きのわらい(二) 39
<U>
走り者 40
<V>
京花 45. 雪の鳥形山 46. 皿・一組 47
月夜 47. 燕 49
U 第五詩集 夢の原頭にて(一九八六年)
<T>
枕 52. 蟹 52. 一篇の詩 54
栞 55. 幻肢痛 56. 牛頭を喰らう 56
物差 58. 耳 58. 蓮根 59
神戸・元町 60 近江にて 61. 塩 62
柘榴(ざくろ) 63 函館本線 66. かご船譚 66
<U>
とおふをくらう 68. 流木.−絵の話− 69 夕陽 71
夢の原頭にて 72. 睡野の走者 73. 巣山の鴉 75
港町にて 77
<V>
幻岬 78. 密航 79. 犬の貌 80
不安な地方 81. 菊の花 82. 旧−新荘村から 84
海ほおずき 85. 夜の艤装岸壁 85. 記録(台風五号) 86
失語 88. 部屋にて 89
V 第六詩集 沖縄島(一九九二年)
<T>
風の島 92
<U>
チビチリガマから 95. 首里城址にて 99. 喜屋武半島(キヤンハントウ)・米須原(コメスバル) 103
ゆうな記 106 一枚の写真 111 荒崎海岸 112
ある死 114 雨 117 指 117
ローソク 118 トマト 120 命日 120
宮城遥拝 123 コバテイシの木の下で124 群隊 127
点景 128 カミのハイ 130 縄−久米島・一九四五年八月二〇日− 132
闇の中.−アブチラガマにて− 134 風のゆくえ 136
水筒 138 黍野 139 夏至 141
一万六千五百日めの夜 141
<V>
カデナ、カデナ 143 一〇四号線 144 昼顔 146
檻 147
W 第七詩集 海色抄(一九九五年)
笛吹鯛 150 がしら 151 イワシ −畠山耕治に− 152
コウロウ 153 ヤガラ 154 ゲンナイ 156
スクサシ 157 鰡 159 鯊 160
シイラ 161 めごち 163 めひかり 164
素魚 166 アカメ 168 ヤケド 169
マンボウ 171 サイラ 173 鯖 174
にろぎ 175 どろめ 177 ヒラメ 178
シルイチャのすみ汁 180 マグロ屋で 181
X 第八詩集 きみあーゆうあ(二〇〇一年)
<T>
踏み屋 畠山耕治よ 186 狸の膏 187 蛇 188
猫柳 190
<U>
写真 191 きみあーゆうあ 192 卵 194
生きる 大阪・海遊館にて 196 海 197
<V>
みちすがら 199 輪廻の森 200 蟹 202
収骨室で.土佐文雄に.205 花の色 206
<W>
蜆 207 汁粉 佐田岬にて 208 太沽にて 210
呼ぶこえ 211
<V>
立葵 213 仮設風景 215 めしつぶ 216
西蔵 218 雨 218 一匹の蜂 220
ミミガーのエレジー 222 音のない波打ちぎわにて. 224
釧路・鴎 226
詩集解題 あとがきにかえて 227
Y 第九詩集 幻日記(二〇〇六年)
幻日記 232 曠野のラッパ 233 渇仰 235
吃音 237 胡瓜 241 ヒロシマ・中区・中の島 242
銀杏(いちよう)の記憶 244. 二〇〇三・秋夜 246 最初のヒロシマ 248
電車をまちながら 250 その日の鴉 251 流れてゆく 253
母の名前 254 鬼 260 けむりのゆくえ 261
比治山の蝶 265 木が見た 266 鳶 268
朝顔 270 思惟の木 271 笑い 三つ 272
カンナ 274 渇く 276 落日・それから 278
少女の日記 279
<初期三詩集>
Z 第一詩集 その次の季節(一九五三年)
長篇詩ジャップの歌より. 282 夕焼け 282
雑草のように 282 ニッポン・独立 282 異国的 283
三等船室 285 行列 286 封切せまる 287
職安で 287 錆 288 一九五二年の日本 289
眼 291 その時刻 292 血!暴落 292
黒の時代 293 鴉の国 293 夢じゃなかった 294
その次の季節 295 日本荒地 297 地獄にて 298
人形の島 300 母の貌 301 幻想−scenario− 302
[ 第二詩集 下水道浚渫中(一九五九年)
<T 死者の記録>
闇の証言 306 傷害致死 308 戦争 1 309
戦争 2 311 言葉の兵士 314 絵の電車 315
奴隷の朝 317 死者の記録 319
<U Capitalism>
金魚 322 貧しい平和 323 鳥の話 324
Capitalism 326 羊の肉 328 由子(ゆうこ)の掌 329
重たい夜 330
<V 下水道浚渫中>
轢かれた日本の娘 331 市営住宅抽籤場 333 バスの駅で 335
下水道浚渫中 336 ある港で 337 病巣 339
ある雨の夜に 340 工場へ行く少女 342
\ 第三詩集 その夜の記録(一九七二年)
<T>
小さい心 346 北の旅 347 雪の記憶 348
その夜の記録 349 馬の系譜 352 烏賊 354
ひまわり 355
<U>
にろぎのうた 356 足摺岬 357 桂浜の石 359
窓から 360 少年 362 鳩より鴉 363
わが祭 364 海 365
<V>
月灘にて 一九七二年秋. 366 告発 状況(T) 367
新緑異聞 状況(U) 370 仁淀川・川口にて 一九七〇年 370
ポールという男 372 ある夕景 374 風景 一九六七年冬 375
ヴェトナムの椰子 376 堺臨海工業地帯 377
<W>
旧 呉軍港にて 379 青の匂い 380 黒鯛 382
不景気な話のプロローグ. 383 蝿殺 385
御堂筋にて 385 朝鮮漬 386
] 未収録詩
【一九四〇年代】
灰色の悲歌 390 終電車点景 390
【一九五〇年代】
素描・秋 392 午後 393 昼の断崖 394
朝鮮 394 下川口で 399 この断層を埋める 400
今日と明日の間 401 蟻地獄 407
【一九六〇年代】
銭没有 409 ひろしま 409 約束 409
ハガキ−足摺岬にて−411 鹿の革 411 アメリカ製 413
ヴェトナムについて 414 魚 415 とどめのうた 415
五月のうた 418
【一九七〇年代】
海 420 江の口川 七一年 420 石の村 422
駅にて 423 くえの死 424 鋲螺(びょうら) 425
貝の血 427 不入山(いらずやま)望遠.428 せんだん 429
森のある風景 431 立秋 432 (続)せんだん 433
白樺 435 地上 435 一つの秋 436
杉の川 438 暗い九月 439 鎌の音 440
とおい音 441 もどらぬもの 442 フェリーボート 443
五月 444 一つの題・三つの題名.444 小さなれきし 446
ある地平 447
【一九八〇年代】
眼科病院で 449 永定河 449 首(上) 450
首(下) 452 藁の敵 455 海の土語 456
竹林にて 457 小尻記者への挨拶 458 推す 459
山原さんへの手紙 460 彼我の間 462 石炭 463
柿 464 塵 464 三椏の花 465
下関にて 466 麦畑 466 光りもの 467
タイ 468 群青の夏 469 朝倉・曙町 470
信州・須坂にて 472 梟 473 蝉 474
イラブチャー 475 あすへ 476 最後の戦死者たち−震洋の夏− 477
【一九九〇年代】
知覧から 481 ギーザバンタ 482 殻 483
ボラ−海色抄(十)− 484 黒いこけし 485 料理 486
吐血 487 一九四五年・知覧・春 487 他界にて 489
幽霊 490 キスゴ.−海色抄(十三)− 491
呪縛の海へ 491 遺念 495 さくら・さくら 496
骨 497 夜の食卓 498 樹影 499
雨季 500 ゴトゴト 501 対話 503
沖縄の砂 503 白い雲(一) 505 白い雲(二) −茱萸の木− 506
嘉数高地 507 スケッチ・嘉数公園 508 摩文仁 509
遊動円木 509 大磯ン駄場(おいそんだば) −中村市双海にて− 511
原罪−ヒロシマ 一九九五・九・六− 512. 白桃 ヒロシマ・一九九五・九・六(その三) 513
ある梟首(さらしくび) −膏どり一揆の件− 514. 死者の記憶 517
デス マスク 518 生きものたち 520 無許可耕作地 521
S村・残像 522 堤燈(ちようちん) 523 落雁 524
豪雨の朝 525 ライオンの歯 526 夏の終わり 528
レイテ 528 或る部品説 530 ノトロ岬 532
ハル 533 釧路の鴎 535 草の記憶 536
【二〇〇〇年代】
草の記憶(二) 539 小叙景 541 海月 542
栗の花 543 蝶の死 545 老梅 546
昭和17年 548 失語の木 549 瓶の中 550
楮のとき 551 米 552 菊(一) 553
蝉 555 青き島や 556 残波岬にて 557
九文半(ここのもんはん)の靴 559 青椒肉絲(チンジヤオロース) 564
枕 566 南洋にふる雪 −ある漁船員の死− 567
此岸にて −畠山耕治とのわかれ− 569 実験 571
朝の散歩 572 或る残党 573 中村の夜(一) 573
土佐みずき 574 字品にて 575 海辺の病院にて 576
海辺の病院にて(二) 577
XI 解説
大崎二郎と詩誌「二人」 西岡寿美子 580
剛直尖鋭な精神の軌跡 ――大崎二郎についての小試論 長津功三良 586
戦後詩の戦争責任を生きる人 ――『大崎二郎全詩集』に寄せて 鈴木比佐雄 598
XU 大崎二郎年譜 615
あとがき 628
編註 630
きみあーゆうあ
それは おそろしい夕暮れでした
瓜畑で
父はソ連兵に殺されました
その時 夕日は地平線に熟柿のようにどろりと溶け
みるまに暗紫色にくずれて
瓜畑は穴の底のように暗くなり
母は弟をおぶって暗い地平へと消えていきました
何かを繋ごうとし
私は三歳で 泣きながら瓜の蔓を必死に引っ張っていました
青臭い汁と、どろどろとした血と夕日の記憶
身体中に闇が蔓のようにぐるぐるまきついて……
私は中国人(あのひと)の硬い掌にひかれていました
〈広い野原に一本の楡の木のような棒(ポール)が立っていました〉
それから?
ほかにおぼえていることは?
通訳はつづく
〈きみ あーゆうあ〉
? もっと はっきりと言って
〈きみあーゆうーあ〉
かすかに滲んでいる“君ケ代”の呂律
耳の底で四十一年間も昆虫の羽音のように鳴りつづけていました
毎朝、地平線にのぼる真赤な太陽にむかい
みんな並んではるかに 神 天皇のおわすという空の彼方を拝(おが)み
日の丸のハタを揚げ あのウタをうたった
君ケ代は(きみあーゆうあ)……
夜毎くらい土間の、冷たいアンペラの上
黒木綿のうすい蒲団をかぶってしゃくりあげながら
口の中でおどおどとくり返し ねむった
きみあーゆうーあ
そうすると母の顔がぶよぶよとゆれながらかぶさってくるのであった
手をのばしてものばしても闇のなか
やがて母のかおもうすれ あのウタも尻切れて
最後に残ったのは
曠野の雪空に棘のように突き刺さったまま消えぬ一本のポール
と 意味不明の
きみあーゆうーあ
声を噛みころし
或は声に出して……
一万四千余日のリフレイン
その度に私の中を母の血が激しく遡ってくるのであった
母をさがしに
日本にきて
スモウのテレビをみた
満員の国技館の奥の方
そこだけ人気のない広い桟敷があって
その真中にぽつんと一人
背をこごめた老人がうつっている
(よくみろ)! 那小子(あれだ)
那家(あのおとこが) 就是 きみあーゆうあ・だ
………
………?
その 意味をいまおしえられ
おろおろとまだ生きている
あの老人をじっとみつめる
父が殺された日の朝も
私達
地平線をおがみあのウタをうたった……
いま 老人は
ぱちぱちと無表情に手を叩いている
ぎりぎり 歯を噛みながら四十一年が
わが錐先の一点に収斂していく
火が走る
目のなかをぼうぼう燃えひろがって
あの爛れるような曠野の夕景がくる
天にわたる一枚の鉄板を激しく打ちならし
叩きならしつつ
私は 追いかけていく
きみあーゆうあ
きみあーゆうあ
大崎二郎という詩人の名を頭に浮かべるときに、真っ先に思い出すのが“きみあーゆうあ”という言葉です。これが詩集のタイトルであることを承知していました。この詩集が刊行された頃、私は日本詩人クラブの理事で、日本詩人クラブ3賞贈呈の事務的な仕事をしていました。詩集は日本詩人クラブ賞にノミネートされ、記憶では最後まで競り合っていたと思います。残念ながら賞は逃しましたが、このタイトルを“君が代は”という意味だと認識し、現在まで強烈な印象を持ち続けていました。
その作品が載った全詩集を頂戴し、すぐに拝読しました。紹介させていただいたように、中国残留孤児への思いを残留孤児に成り代わったうたった詩でした。著者は敗戦前後に16歳で中国の炭鉱で技師として働いていたようですから、残留孤児が生まれる過程をつぶさに見ていたのかもしれません。それが〈三歳〉の〈私〉の視点を持ち得た所以だろうと思います。〈耳の底で四十一年間も昆虫の羽音のように鳴りつづけてい〉た〈“君ケ代”の呂律〉。ここにこの詩人の反骨精神が結晶化している佳品だと思います。多くの人に読んでもらいたい全詩集です。
○隔月刊詩誌『サロン・デ・ポエート』283号 |
2009.12.25
名古屋市名東区
中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行 300円 |
<目次>
作品
あけぼの…野老比左子…4 いろりのある風…横井光枝…5
ミニ同級会メモランダム…阿部堅磐…6 畑…小林 聖…8
蚕…足立すみ子…9 ゆずの香…高橋芳美…10
虹…田渕干恵子…11 誕生日…荒井幸子…12
椋鳥…みくちけんすけ…13 年の終わりに…伊藤康子…14
魂の根源…福田実佐枝…15 星空への思い…黒神真司…16
マジシャン…浜野よしはる…18
散文
国見ヶ丘覚え書き…阿部竪磐…19 詩集「夕陽のしずく」を読む…阿部竪磐…20
詩集「ねいろがひびく」を読む…阿部堅磐…21 同人閑話…諸家…22
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記 表紙・目次カット…高橋芳美
虹/田渕千恵子
わたしの学んだ小学校では
上級生になると
「補習」というのがあり
赤組・橙組・黄組・緑組・青組・藍組・紫組
それに 確か白組というクラスもあって
五百名余りの子ども達が
カミソリよりも切れ味鋭い「成績」という刃
で容赦なく切り分けられ
正規の授業が終わると
「私はあか 君はだいだい」と
それぞれの部屋に駈けていった
「セキ・トウ・オウ・リョク・セイ・ラン・シ」
どうも虹の色から
名前は拝借したらしいが
それだけでは足らず
桃色や藤色の方が良かった
と思うのだが
まるで 死者の顔を覆う布のように
白色というのが
一番最後に付け加えられ
八組が揃って
虹の如く輝き
一本の橋を架けることもなく
ハーモニカのように区切られた
夕暮の教室で
赤組や橙組ばかりが
高度成長期の溶鉱炉のように
煌煌とかがやいていた
作者と私は同年代なのかもしれません。田舎の小学校でしたから〈五百名余りの子ども達〉はおらず、〈それぞれの部屋に駈けてい〉くこともありませんでしたが、たしかに〈カミソリよりも切れ味鋭い「成績」という刃/で容赦なく切り分けられ〉ていました。〈どうも虹の色から/名前は拝借したらしい〉のは、それなりの学校の配慮だったのでしょうけど、〈虹の如く輝き/一本の橋を架けることもなく/ハーモニカのように区切られた/夕暮の教室〉と、作者の視線はかなり手厳しいと云えましょう。〈赤組や橙組ばかりが/高度成長期の溶鉱炉のように/煌煌とかがやいていた〉、その結果が現在の日本の姿に繋がったのかもしれません。考えさせられる作品でした。
○個人詩誌『進化論』12号 |
2010.1.1 大阪市浪速区 佐相憲一氏発行 非売品 |
<目次>
詩 チャップリンを知っているかい 1 連載 二十一世紀に生きる古典の魅力 第二回 3
連載 現代詩時評 第二回 5 詩 貨物船 6
受贈詩誌等紹介 7 受贈詩集等紹介 9
連載エッセイ 地球論・文学論 第五回 10 二〇〇九年の詩活動をふりかえって 11
第五詩集『心臓の星』(〇八.十一月刊) 12 詩 波音 U 13
新年のごあいさつ
波音
U
〈お父さんさ
海が好きだからさ
波の音 カセットにとって
夜 聴くんだよ
ザザーッ ザザーッ〉
横浜の大桟橋で父は言った
一九八一年夏
冴えない服を着て
すっかり穏やかになって
離婚後七年
何度か会ったが今ようやく彼を
中学一年のぼくは許した
飲んだくれて家に給料を残さず
最後には酔っぱらって母とぼくを殴った
幼い記憶のスクリーンに
父母が愛し合うシーンはない
結婚前にぼくが宿って
一九六七年頃の騒然とした反戦革新モードの巷
母のよく読んだ太宰治のような郵便局員の父と
いっときは革命的な熱愛だったか
ぼくの種はどこの寝床で宿ったか
大桟橋は波音がよく聴こえる
ザザーッ ザザーッ
父とぼくは何を話していいかわからず
沈黙はけれど苦痛ではなくて
まぶしそうにぼくを見る父の
新しく築いているらしい家庭はきっと幸せだろうと
ぼくが親のような祝福さえ胸にわいて
波止場を歩きながら波音を聴いた
ぼくは母の海で育った
浜辺は女性の親しみであり
小学校中学校では女の子にもてた
男の子とも仲良く泳いだが
大人になっても上の世代の男たちには身構えてしまう
父を何度も殺した幼年の内なる嵐のせいだろうか
ザザーッ ザザーッ
一九八一年夏
横浜港の大桟橋で
海が好きな父と 海が好きなぼくが
洋楽が好きな父と 洋学好きになっていくぼくが
酒好きな父と 酒好きになるぼくが
革新派の父と 革新派になるぼくが
家庭を壊してまた新しいのを見つけた父と 独身が続くことになるぼくが
大学出が嫌いな父と 大学時代から働いていくぼくが
極左的な父と 共産的になるぼくが
ずっと神奈川で暮らす父と 流浪のぼくが
父と息子が
波音を聴いていた
ザザーッ ザザーッ
詩作品ですから、書かれた内容が事実と採る必要はありませんけど、佐相憲一という詩人を少しは理解できたように思います。特に〈大人になっても上の世代の男たちには身構えてしまう〉というフレーズは分かりやすいですね。〈父を何度も殺した幼年の内なる嵐〉が収まった〈一九八一年夏〉、〈横浜港の大桟橋〉の〈波止場を歩きながら波音を聴〉く〈父と息子〉の姿が熱く浮かんでくる佳品だと思いました。