きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.11.18 神奈川県松田町・松田山山頂付近




2009.12.29(火)


 特に予定のない日。いただいた本を拝読していました。




詩誌『火皿』120号
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2009.12.28 広島市安佐南区
福谷昭二氏方・火皿詩話会発行 500円

<目次> ■表紙画−神尾達夫
■火皿視点…津田てるお
■詩作品
・釣瓶落とし………………荒木 忠男 1   ・ラ・グルヌイエール……和泉 政宏 3
・緑の中を…………………和泉 政宏 4   ・ある春の朝………………上田由美子 5
・蜃気楼……………………大石 良江 7   ・中東の砂嵐………………大原 勝人 9
・神の分身…………………大山真善美 11   ・赤い屋根…………………川本 洋子 13
・亀…………………………川本 洋子 14   ・少女の海辺………………北村  均 15
・スケッチブック…………木塚 康成 17   ・禁色………………………橘 しのぶ 21
・白馬………………………津田てるお 23   ・あなたへ…………………豊田 和司 25
・百姓の子…………………長津功三良 27   ・姉へ………………………福島 美香 29
・秋の歌……………………松井 博文 31   ・夕暮の農夫………………松井 博文 32
・ダリア……………………的場いく子 33   ・退職………………………的場いく子 34
・一枚の写真………………御庄 博実 35   ・捨て置かれて…ロバート・フロスト 37
                                訳 大山真善美
■大山真善美詩集『恋は一億分の一の奇跡』書評
・大山真善美詩集『恋は一億分の一の奇跡』を読む…松尾 静明 39
・大山真善美の詩を読む…………………………………上田由美子 41
■長津功三良詩集『飛ぶ』書評
・長津功三良詩集『飛ぶ』寸感…………………………吉川  仁 44
・人間への愛・含羞のかたち……………………………中西 弘貴 45
・優しさと悲しみと………………………………………北村  均 48
■資料紹介(3)昭和初期広島市詩壇史研究(1)………福谷 昭二 50
■長津功三良山口県文化功労賞の受賞…………………福谷 昭二 54
■安藤欣賢さん追悼………………………………………福谷 昭二 55
■編集後記




 
百姓の子/長津功三良

何もない貧村である
急峻な谿間を奔る 川と
山あいに 僅かへばり付いた 耕地があるだけ
幕末の動乱期に 後 芥川龍之介の父となる 新原敏三が
奇兵隊に入り 江戸へ出たくらいで 名のある人もいない

祖父母は 明治初期の人で 寺子屋があるくらいで
百姓に 学問は要らない 時代のこと
小学校も 碌に出ていない はず
父も 義務教育六年の上 高等科二年をやっと出して貰った
母は 多分 小学校だけで 直ぐ 働きに出された

物なりの僅かな貧村で 祖父が早く 病に斃れたので
父は 早くから 街に働きに出た
僅かでも 仕送りをしないと 子沢山の家が 成り立たない
私も 弟も 広島で生まれ 広島で育ったが
立派な 百姓の 系譜を 引き継いでいる

 こおちゃんよ これに こうでんちゅうてかいておくれんか
 おばぁちゃんがいう
 ふででかけ という

父が兵隊に取られ 祖母の家に疎開していた頃
お祝いや 香典の 表書きは 小学生の私の担当だった
父親は 学問は無かったが とてもいい字を書いた
が 私は 活字通りに間違いの無いように書くのがやっとで
今も 練習のつもりで 手紙の表書きは 墨字にしているが
依然 下手糞のままだ

 おばあちゃんが かけばいいじゃないか とにげるが
 わしゃぁ じがへたじゃけぇ
 こぉちゃん すまんが かいちょくれぇ

私も
碌に学校にも行けないまま
働きにやられ
相変わらず
虐げられた 百姓の
目線でしか
物事が
見られない

 詩作品ですから、書かれていることを事実と採る必要はありませんけど、〈虐げられた 百姓の/目線でしか/物事が/見られない〉〈百姓の子〉という認識がこの詩人には常にあると思っています。私の〈祖父母〉も〈明治初期の人〉だと思いますから、境遇は似たり寄ったりでしょう。しかし、〈百姓の子〉という認識が私にはないことに気づかされます。良い意味での出自を常に考えよ、と教えられた思いのする作品です。




詩誌『ユタ』18号
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2009.12.15 千葉県習志野市
石井真也子氏編集 非売品

<目次>
空 くもひとつなく 白井恵子 1      欠ける 白井恵子 3
プロローグ 田中智子 5          空をあおぐ 石井真也子 7
あとがき 10




 
プロローグ/田中智子

秋はどこへ行っても木犀の香り
まるで
大気そのものが香りを宿してしまったかのように
香り立つ頃は良いのだが
樹の根元に花びらが敷きつめられると
急にわけもなく
うろたえ出したりする
深まりゆく秋
そして唐突にやってくる木枯らしに
この心身が重なり
渇きと焦燥にただただ行き暮れてしまうばかり
季節は冷涼とした横顔で
何ごともなかったかのように
数千年も前からそうしているといわんばかりに
先へ先へと歩を進めてゆく
冬への移行に気後れし出したのは
いつの頃からだろう……

 季節への感じ方が見事に表現された作品だと思います。〈樹の根元に花びらが敷きつめられると/急にわけもなく/うろたえ出したりする〉というフレーズからは、続く〈唐突にやってくる木枯らし〉が予感せられ、〈渇きと焦燥にただただ行き暮れてしまうばかり〉という心理へうまく繋がっています。最後も佳いですね。〈冬への移行に気後れし出したのは/いつの頃からだろう……〉という結びで、長い人生を振り返ってしまいました。これが〈プロローグ〉であるとしたところも成功していると思った作品です。




詩誌『シーラカンス』3号
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2009.12.25 茨城県土浦市
戸浦幸氏方・茨城詩壇研究会発行 非売品

<目次>
*作品*
創生/片岡美沙保 2            舞姫/山口阿衣 4
皺・のぞく 世界/渡邉由記 6       イチゴのケーキ/紺野喜美子 8
ベンチ/栗屋トク 10            菊祭り/石原知枝 12
荊棘の海に/山中和江 14          別れ路/丸山メイ子 16
ある日の夢/山本史子 18          ポポー/黒羽翔子 20
旧奏楽堂の椅子/川澄敬子 24        キウイ/斎藤れい子 26
父の日々/大畠大作 28           思い出の絵・笑顔で 泣いた/青柳芳子 30
スケッチ/福冨眞澄 32           マチ子/岩間喜義 34
金木犀/谷垣恵美子 36           亀裂/石橋 充 38
早乙女幻影/会沢盛三郎 40         手紙/大久保まり子 42
扉/戸浦 幸 44
*エッセイ*
尾崎放哉を読む/渡邉由記 22        特集 あなたにとって詩とは 46
*挿画* 武子 泉




 
イチゴのケーキ/紺野喜美子

ぬりえの苺たちが
はみだしそうに
豊潤な美味しさを
誇っている

遠い昔 伯父の家は
酒の卸小売業を営んでいた
酒が面白いように売れて
私は賑やかさを求めて
入り浸りの日々を

伯母が東京へ
帰りには必ず
銀座不二家のケーキを
ぶらさげて

一口食べては 心の中まで
とけてしまうほどに
美味しくて この世に
こんな素敵な
魅惑的な食べ物が
あるなんてことを
伯父の家で知ったのです

今でこそ
美味しさ盛り沢山
買えるけど

なぜか
ぬりえのいちごたちが
せつなさそうに−

 〈イチゴのケーキ〉という文字を見て考えるのは、ショーウィンドウのケーキです。ところが第1連で〈ぬりえの苺たち〉と書かれていて、思いがけない展開になりそうで惹きこまれました。この第1連がまず成功していると云えるでしょうね。第2連以下も読ませる作品です。そして最終連で再び〈ぬりえのいちごたち〉で締める構成が全体をキリリとさせていると思いました。ノスタルジーだけで終わらせない佳品と云えましょう。






   
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