きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.12.7 神奈川県湯河原町・幕山




2010.1.1(金)


 新年おめでとうございます。昨年中は多くの皆さまが拙HPを訪れてくださり、誠にありがとうございました。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
 今年は9月に日本ペンクラブの「国際ペン東京大会2010」という大きなイベントが控えています。また、日本詩人クラブでは創立60周年の年になり、何度か関連イベントが計画されています。私は、ペンクラブで詩部門担当、詩人クラブで写真担当となっていますので、昨年以上に皆さまのお力をお借りしなければなりません。それぞれのイベントを成功させるために、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

 と、まあ、今年もお願いばっかりで始まりましたが、今日一日は何をしていたかと言うと、年賀状書きです。悪い恒例になってしまったのですが、年末に年賀状が書けなくなって10年ほど。元旦は朝から年賀状書きに徹しています。朝8時に配達されてきた年賀状の返信をせっせと書いて、終わったのが午後6時。たった200枚ほどなんですけど、宛名とコメントは手書きにしていますので、さすがに手が痺れました。1年で最も多くペンを握っている日ですね。
 年賀状では多くの方が拙HPについて触れてくださっていました。楽しみにしているよ、がんばれよ、という内容には本当に励まされます。感想にもならない拙いコメントですけど、私なりに勉強させてもらっています。その上での激励には感謝の言葉以外見つかりません。これでHPがリアルタイムになると、私の精神衛生上も誠に結構なのですけどね…。今年も張り切って紹介します!




詩とエッセイ『沙漠』257号
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2009.12.20 北九州市小倉南区 河野正彦氏発行
300円

<目次>
■詩
 中原歓子 3 汽車             菅沼一夫 4 お気をつけ下さい
 原田暎子 5 ただなか、です。       平田真寿 6 '009Xmas Eve
木村千恵子 7 真筆と思う         千々和久幸 8 死ぬ前になすべきこと
 秋田文子 9 夕暮れ寸描          坂本梧朗 10 哀歌
 藤川裕子 11 熱い汗            宍戸節子 12 熱
 山田照子 13 わからん           福田良子 14 桃山の坂
椎名美知子 15 誰が袖            河野正彦 16 おれの樹
おだじろう 17 愚父−寸描         犬童かつよ 19 青空の下で
 麻生 久 20 油断できないムコ殿      柴田康弘 21 風景について
■エッセイ
 織田修二 24 種の起源について       中原歓子 24 九州詩人祭 鹿児島大会に出席して
■書評
 杉谷昭人 26 詩のモチーフの獲得――宍戸節子「ちょっと違うだけで」寸感
 麻生 久 27 おだ・じろう詩集『かわたれ星』
 河野正彦 29 おだじろう詩集「かわたれ星」に寄せて
表紙・スケッチ 麻生 久




 
熱/宍戸節子

ミツバチは襲ってくるスズメバチを
隙間なしの数で覆い
羽根振るわせ筋肉震わせ
でてくる熱で焼き殺す

「しやーべ せんと」
どかっと 熱がきた
親しいとおもっていたのに
こころほどいていたのにばっさり切りすてられた

「食べるとき 茶碗ばカチカチ いわせんと」
「朝は はよう起きらんね」
「湯沸しの種火は 消しとかんば」
つれあいにぶっつぶつぶつ言われ
聞きながしができないと
ことばのひとつひとつが発火する
との音の先から
ねの音のなかから
ばの音の後ろからも

どこまで心は生きていけるのか
焼けないで

「添加物がはいっとるけん食べとうなか」
意を通すために
私もことばを震わせ
ことばを熱にしなかったか
人の心を焼きはしなかったか
やさしさでつくってくれた赤い桜もち

「帰ってから 嗽したと」
「もうちょっと噛んで 食べんね」
「歯磨いて 寝らんば」
愛情のつもりでいうのに
ことばはきょうも熱になる

     *しやーべ せんは、口出ししないでという意味。

 〈との音の先から/ねの音のなかから/ばの音の後ろからも〉〈ことばのひとつひとつが発火する〉ということが、とてもよく分かるように思います。語尾で相手の心理を捉え、〈聞きながしができない〉のは女性の特技なのかもしれませんね。男はだいたい、ボーッと聞いてますから。それにしても〈愛情のつもりでいうのに/ことばはきょうも熱になる〉というのは、どこの家庭でも同じなんだなと、改めて感じた作品です。




詩誌『回游』36集
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2010.1.5 神奈川県相模原市
南川氏方・回游詩人会発行 非売品

<目次>
◆詩作品
半世紀           多田 f三 2  いまがいちばんたのしい    横山 宏子 4
時空            大館 光子 6  石見銀山見学記        柳原 省三 8
ひそかに結ぶ夜       植木 信子 10  加護老樹           江田 重信 12
虫の鳴く夜         吉原 君枝 14  地球は今           折山 正武 16
歌謡曲めいて        市川 つた 18  初めての歌集         松本秀三郎 20
白い名月          牧  豊子 22  いのち            伊藤 冬留 24
冬の一日          南川 隆雄 26  時効             鈴木 珠子 28
渓谷の秋          中村 節子 30  末期の兵士          富田 庸子 32
◆私に詩が芽生えたころ
  夏の終りとともに    津坂 治男 35  ◆作品「四季」(第35集)への私見 多田 f三 36
◆詩集を読む
菊田守詩集『天の虫』    中村 節子 37  長津功三良詩集『飛ぶ』    柳原 省三 38
丸山乃里子詩集『赤梨』   南川 隆雄 39
◆受贈詩誌・詩集            40  ◆あとがき                41
◆名簿                 42            ◆表紙絵 露木 恵子




 
半世紀/多田f三

知恵の遅れた少年が窓から海を見ていた。
誰も呼びに来ない夏の午後。
はまなすは渚に沿って続いている。
始めから持たなかったから破れようもない夢。
海風が少年の髪を撫でて立去りかねていた。
     ○
網代笠に黒染めの衣。
雑踏のなかの定位置に佇つひと。
花売娘も酔いどれも一顧だにしなかった。
飄々と生涯に見切りをつけた男は
無音に沈んで青い炎を立昇らせる。
     ○
夜になると廃屋にみずが流れ込んだ。
窓から月の光が射し崩れた壁がみえた。
風が運んで来るサンタルチアの唄声。
神も世界もひとを殺すことが好きなのだ。
敗戦の夏のヨコハマの街であった。
     ○
沈丁花・くちなし・木犀の香りは
唱歌冬の夜・朧月夜・紅葉を連想させる。
特別の理由があるわけではない。
ときとして人間のなかの固有の思いは
理非を越えて棲みつき伴に歩むものらしい。
     ○
百姓の子に学問はいらない。
そう言われたときはしめたと思った。
あれから半世紀。おやじのことを書くたびに
鴨居にかかっている写真が気にかかる。
ときには片眼を瞑って見下ろしているようで。
     ○
近年露草というのにとんと出会わなくなった。
学校の往き帰り雑草のなかに咲いていて
茎を引いても抜けるものではなかった。
濃むらききの花の群落が教えて呉れた夏。
遠くなるばかりである。

 今号の巻頭作品です。〈半世紀〉に渡る様々な出来事をコンパクトにまとめた詩と云ってよいでしょう。〈始めから持たなかったから破れようもない夢〉、〈神も世界もひとを殺すことが好きなのだ〉などのフレーズに魅了されます。〈おやじのことを書くたびに/鴨居にかかっている写真が気にかかる〉というのも分かるように思います。10年ひと昔どころか、50年。〈遠くなるばかりである〉のでしょうね。




個人詩誌『胚』29号
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2010.1.10 神奈川県相模原市
南川隆雄氏発行 非売品

<目次>
●連載 戦後現代詩の伏流『新詩人』−初期の足跡−(終回) 9.回顧他 2−13
●詩  雪の朝 14−15
    たまむし 16−18
●ずいひつ「スイーツ」 19
●あとがき(宣南詩社) 20




 
雪の朝

湯を金だらいに注ぎ 安全剃刀を温める
めずらしく淡い雪が地面をまんべんなく覆い
鏡に映る窓枠のなかの小世界が眩しい
けさはとくべつの朝なのだろうか

青臭いオゾンがふっと窓から忍び入る
幾年もくり返してきたひげ剃りの所作
しかし次に目覚めるときには
じぶんが 家が または朝が
欠け落ちているかもしれない

相変わらずの小心者め
奥から養父の嗄れ声がする
じぶんは今やかれよりも年上だが
銃創という勲章をもつ者には終生敵わない
でもこれで戻れないかもしれないよ

小ざっぱりした雪面がしだいに濡れてくる
やがて 傷んだ臓腑をいじくり回した
端布細工のような地面の継ぎ接ぎが
開き直って姿をあらわすだろう

小さな咎を背負い込まされて
たくさんの白ひげの切れ端が
冷めた金だらいに浮き沈みする
そろそろ出掛けなくては
波立たせぬように器を雪面に傾ける

 〈
雪の朝〉に〈幾年もくり返してきたひげ剃りの所作〉をやった、というだけの詩ですが、内容はかなり深いと云えましょう。〈奥から養父の嗄れ声がする〉というフレーズからは、〈家〉の歴史と日本の歴史、そして〈じぶん〉の越し方まで見えるようです。さらに〈小ざっぱりした雪面〉の下の〈端布細工のような地面の継ぎ接ぎ〉まで見据えています。朝はいつでも特別なもの。それにも増して〈けさはとくべつの朝なの〉かもしれませんね。






   
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