きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.12.7 神奈川県湯河原町・幕山




2010.1.6(水)


 ある女性詩人から丁寧なお便りを頂戴しました。先日、彼女の属する英文詩誌の、彼女の詩を日本語に訳してみたのですが、それに対するお便りでした。私は英語がほとんど出来ませんので、インターネットの翻訳エンジンを使ったのですが、その正確さに驚いていました。私の訳が、ではなく、あくまでも翻訳エンジンの性能が、ですがね(^^; しかし、詩の言葉になっていないというので、正解を添付してくれました。いずれ直しておこうと思っています。

 それにしても英語の専門家から褒められるなんて、すごいなあ、翻訳エンジン! 会社で工業製品の英文取扱説明書を訳して以来ですから、もう20年も30年も翻訳なんてやってませんでしたけど、私でもなんとかなるという見本でしょうか。しかし、工業英語と詩はまったく違うことも実感しています。まあ、頭の体操で、これからも機会があれば挑戦したいですね。




飯嶋武太郎氏俳句評論集『おっぺしの歌』
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2009.12.16 東京都中央区 東京文芸館刊 2000円(税込)

<目次>
つくも二三五号(十七年十月号)……20
秋種や老いてなお守る小商い    菅澤 せい    天心に朝の月あり稲の花      時田眞作子
鬼百合や熟女の香り運び来る    高橋  永    水無月や笑いで飛ばす血糖値    名畑ハルエ
亡き人の傍に居るよな夕端居    向後  寛    今日一日精一杯の木槿かな     内山 久代
離れ住む孫はメル友夏の夜     真野美智子
つくも二三六号(十七年十一月号)……24
哀れとも潔しとも破れ芭蕉     千保 富子    風鈴の音にも涙す夕ベかな     石橋千枝子
病などに負けてはならじ夏の果て  梅沢 蓉子    甚平に雪駄姿の粋なりし      松本  保
涼しさやダム百丈の水落とす    富家 閑窓    主婦業も譲りたくなる盆三日    石橋 利子
黄金の稲穂や絹の雲流る      向後  寛    昼寝してあの世が一歩近くなる   石橋 三鈴
大の字で吸う青空や夏休み     杉田 萩月
つくも二三七号(十七年十二月号)……28
紅葉散る散るな負けるな漂人よ   篠崎 青童    光沢の良き秋刀魚にて人だかり   石橋ゆり子
爽やかに多芸多才の集いかな    染谷 佳子    怒という字忘れて介護天高し    吉野 昌子
弱者には住みにくき世や秋の暮   梅沢 蓉子    去年放ちし鈴虫の子か庭に鳴く   小林 美都
芒野やチャンバラごっこ知らぬ子ら 梶 佐一郎    句を友に生き来し八十路菊日和   土屋 国枝
そりゃ無いぜ郵政だけの筈だった  前田 俊秋
つくも二三八号(十人年一月号)……32
添い遂げし六十年や秋の雨     古内佐喜子    ロボットの自在に踊る小六月    渡辺 みつ
生きがいが挟みひと筋松手入れ   吉原 輝子    頼られる腕の確かさ松手入れ    斉藤 映子
故郷持たぬ男が歌う「里の秋」   鈴木 柳絮    君逝かばやがて吾も逝く里の秋   松本  保
妙手など有る筈もなし懐手     安井やすお    冬空を焼き尽くしたる大落暉    池田 逸子
冬ざれや寅の威を借る秘書の言   上代 白洋    百姓の片手間と云い紅葉宿     中村 節子
つくも二三九号(十八年二月号)……36
霜降るや夕餉の話題肉輸入     山本 孝男    老いてこの今年の寒さ身にしみる  磯部 きん
寒き夜の宮廷ドラマ観ておりぬ   京相千代野    研鑽の師に恵まれし去年今年    溝口 喜英
おっペしを語る人なし冬ざるる   内山 芳子    寒風や駅見送りの挙手の列     山根 嘉大
揺るぎなき楷書のごとき冬木立   池田 逸子    空っぽの電車が過ぐる枯野かな   園田 渓邨
着膨れて見栄外聞も無かりけり   大森アサ子
つくも二四〇号(十八年三月号)……41
初雪に豪雪地のこと思いけり    溝口ツヤ子    飽食の時代啄む寒鴉        染谷 佳子
韓詩集「宴は終わった」春の薔薇  溝口 喜英    駅伝の喜怒哀楽や息白し      高柳 昭子
夫と居て腹の底から初笑い     小川 茂子    歯切れ良き卒寿の母の初電話    小川 よね
健康を確かめ合いし初電話     斉藤 映子    百歳が中心に居る雑煮餅      富塚 閑窓
雪達磨円く真白く生きてゆく    石橋ゆり子    生かされて越えし山河や今朝の春  石橋 三鈴
つくも二四一号(十八年四月号)……45
春近し足鍛えねば鍛えねば     溝口ツヤ子    足萎えの歩歩に優しき春の草    石橋 富子
明るさは村が市となる春近し    有田 千鶴    マスク取りたちまち笑う顔がある  加藤 杏母
春寒やメールに揺れる永田町    上代 白洋    漂人は句集も編まず春惜しむ    園田 渓邨
介護する身にも待たれる四温かな  吉野 昌子    少子化に揺らぐ行く末水仙花    渡辺 みつ
煮凝りや夫婦愛とは摩詞不思議   大久保静子    四温晴自ずと畑を見回りに     川島 文子
労農の心高ぶり水温む       林   哲
つくも二四二号(十八年五月号)……49
医者変えてみても変わらぬ花粉症  坂本 桂馬    木瓜の花医者不足とは不安にて   有田 千鶴
麗らかや有機特産道の駅      山本 孝男    観音の見目うるわしく花おぼろ   石橋 富子
「朝の出がけ」上手かりし父山笑う  富塚 閑窓    春風の野にわだかまり流しけり   小林 美都
祖父母いて親いて子いて山笑う   大森アサ子    イナバウアー真似て笑って春うらら 小川 茂子
つくも二四三号(十八年六月号)……54
逝く春や何より怖い認知症     笠原 フミ    尾根白き甲斐路の空や風光る    松本  保
幾山河越え来し先も陽炎いぬ    鈴木 紫苑    行く春やお犬様めく保護過剰    高橋  永
春場所や日本力士の不甲斐なさ   梅澤 蓉子    大和魂外人力士に受け継がれ    山口  実
釣り人は釣れずともよし花吹雪   小林 美都    遠き日を想い行く春惜しみけり   内山 久代
行く春や映画主題歌ありし頃    内山 芳子    金貸しもアイフルこけりゃ皆こける 溝口 喜英
つくも二四四号 (十八年七月号)…58
老鷺の絶ゆることなき里の山    石橋 富子    貧富なき里の暮らしや姫女苑    伊藤みや子
風の無き田植日和を賜りし     安井やすお    大安より日和を望む田植かな    吉野 昌子
行進の古いフィルムと蟻の列    清水 文子    蟻の列賑やかだろうな声あらば   富塚 春野
風薫る百二歳とてパーマ屋へ    富塚 閑窓    指差して蕨の宝庫ここ全部     伊藤 好子
住み慣れし山里にして蕨摘む    古内佐喜子    夏服に替えて爽やか通学路     飯嶋 菜穂
新緑や己に気合かけて見る     石橋 三鈴    生きる力与えてくれる柿若葉    石橋 京子
つくも二四五号(十八年八月号)……62
黒髪の小股に過ぐる額の花     関根 和夫    偲ばるる逢瀬もありし青月夜    鈴木 礼女
何のため人は生き行く夏の風    石橋ゆり子    梅雨入りや心は浮き浮きドイツへと 松永 誠子
浴衣着た人も数居る夏祭り     飯嶋 菜穂    父の日の自分に褒美電子辞書    飯塚けいじ
父の日の一寸贅沢まぐろ寿司    石橋 利子    歩を止めて大夕焼けを惜しみけり  小川 よね
石女や山吹の黄に憂いあり     古内佐喜子
つくも二四六号(十八年九月号)……66
ミサイルに抗議西瓜の種飛ばす   染谷 佳子    父の日の娘に許さるる昼の洒    梶 佐一郎
プール出る女の自信足取りに    内山 タエ    足長の子を眩しめるプールかな   内山 芳子
羅の美形端座す砂被り       宍倉 道子    文明が危機を生み出す夏来たる   京相千代野
梅酒汲み老いても病無縁とす    土屋 国枝    誰待つと無く人恋し合歓の花    時田眞作子
光と風縫いてモネの「パラソル女」 橋本 哲夫    時鳥鳴くを待てども句のならず   吉原 輝子
夏草を退治し息を抜く女      吉野 昌子    物干して梅雨雲剥いでしまいたし  鈴木 紫苑
憧れは田中絹代の白日傘      吉野 昌子    七夕や未だ願いごと多々ありぬ   小川 茂子
七夕や幾つになっても願いごと   黒相かつ江    サッカーに敗れし日本梅雨しとど  園田 渓邨
つくも二四七号(十八年十月号)……74
甲子園汗と涙の砂袋        上代 白洋    八月や戦の回顧尽きぬまま     大田 稔子
語りても語りつくせぬ敗戦忌    岩柳 人子    盆迎え「つくも恋歌」読み返す   黒相かつ江
垂るる穂の匂い連れ来る配達夫   時田眞作子    袈裟たぐり急ぐバイクの盆の僧   富塚 一博
蛇叩く逃げも隠れもせぬものを   中村 節子    ビールの味知らず七十路半ば超す  鈴木 柳絮
夏痩せに負けては居れず鉢巻す   松本  保    夕涼しメールで交わす旅相談    吉原 輝子
バス降りてとぼとぼ蝉の大海へ   伊藤みや子    桐一葉突如と落ちし命かな     染谷 佳子
現し世をかくもあっさり落ちる蝉  君塚 一雄    立ち並ぶ虫駆除の旗稲の花     石橋八重子
帰らざる人重ね見る踊りの輪    富塚 閑窓    ひぐらしや水色の風流れ来る    鈴木 紫苑
つくも二四八号(十八年十一月号)……82
農廃めて妻も安堵の残暑かな    篠崎 青童    健やかに老いるは難し木の葉髪   菅沢 せい
都合よき耳と言わるる秋暑し    鈴木 紫苑    耳遠きことを武器とし蝸牛     土屋 国枝
秋雨の長く稲刈り捗らず      安井やすお    刈りかけて覆いのままの稲刈り機  石橋 利子
見舞わるる言の葉優し秋ざくら   石橋 富子    こぼれ種庭に華やぎ草の花     長瀬 さと
旅行けばシャッター通りに秋の風  山口  実    下校児の声弾ませて萩の道     石橋 京子
やる気とは根気良きこと秋の風   加藤みつゑ    銀河には無き降格や冥王星     斉藤 映子
氷塊の一語と成りて聞く余命    斉藤 利治    輝けるハンカチ王子時の人     松永 誠子
親王の生まれて日本の天高し    園田 渓邨    初秋や日本湧かせし男の子     石橋 利子
初秋や親王生まれて日本湧く    池田 逸子
つくも二四九号(十八年十二月号)……90
秋の蚊の悪女のように纏わり来   飯塚けいじ    中日か日本ハムかと百舌猛る    大森アサ子
枯芒昭和も遠くなりにけり     斉藤 映子    水澄むやわが地に届く核の揺れ   小林 美都
また訪えば輪廻の水車秋惜しむ   高橋  永    むずかしき近所付き合い秋の暮れ  黒相かつ江
控え目の野菊のような人が好き   高柳 昭子    靖国の桜紅葉をふところに     溝口 喜英
好景気どこ吹く風と目刺焼く    時田眞作子    過去未来貫く一本道花野      鈴木 柳絮
湯煙に秋色探し鄙の里       向後  寛    天高くバリバリ食べる生野菜    名畑ハルエ
つくも二五〇号(十九年一月号)……97
行く秋や泣けと如くに寄する波   篠崎 青童    泣けるだけ泣いても晴れぬ秋の空  鈴木 紫苑
黄落や未だ昭和の指を折る     笠原 フミ    大菊の花一片の乱れなし      川嶋  隆
晴れ渡る朝のコーラス草雲雀    上野 貴子    風邪引くなの一言胸に迫りくる   古内佐喜子
林檎売る婆に褒めらる和装かな   内山 芳子    末枯れや心の炎消すまじく     小川 よね
泡立草窓越しまばゆきばかりなり  梅沢 蓉子    老境の意見の割れて夜長し     川本 こう
諍いし夫と林檎を分け合いぬ    鈴木 礼女    過去形は捨てて見上げる鰯雲    内山日出子
日を浴びて一島埋めるおけさ柿   内山  光    誰彼を話の種におでんかな     山本  美
つくも二五一号(十九年二月号)……105
年の瀬や邯鄲の夢慮生ふと     向後  寛    計画はそのまま行かず年暮るる   真野美智子
江戸っ子の三味の音凛と年忘れ   内山 タエ    三味弾いて下手な句詠んで年忘れ  笠原 フミ
大人にもいじめあるらし枯野原   染谷 佳子    白人もお寿司を好きにマグロ高   山口  実
修正の利かぬ性格年暮るる     菅沢 せい    雪の竹幾度修羅場潜り来し     鈴木 柳絮
気休めの予防接種や流行風邪    山本 孝男    亡き妻に届け師走のメールかな   斉藤 利治
走者来る冬の日和を道連れに    茂木 義守    少子化や子は宝なり柚子たわわ   石橋 京子
つくも二五二号(十九年三月号)……111
病妻の初夢は何?良い鼾      上代 白洋    木枯らしに追い詰められてゆく齢  中村 節子
合掌す猟人もあり打ち止みぬ    君塚 一雄    除夜の鐘少し遅れて古時計     関根 和夫
久々に和服で過ごすお正月     岩柳 人子    元旦を和服で過ごす妻の幸     上野 貴子
大寒というも大気のあたたかく   林   哲    大寒や唐突に来る訃の知らせ    緑川 安英
嬉しさは天賞受けし初句会     小川 啄人    居直りて見張る半眼かまど猫    長瀬 さと
躓きて老いの深まる年新た     川本 こう    これしきの段に躓く年の暮れ    池田 逸子
負けまじと幼な早業歌留多会    内山日出子    身構えて獲物を狙う歌留多取り   古川 武榮
日脚伸ぶぐんぐんと沸く好奇心   時田眞作子
つくも二五三号(十九年四月号)……118
暖かや夫唱婦随の五十年      篠崎 青童    妻に詫ぶことのみ過去を霞ませて  篠崎 青童
桃咲くや闘病詩集世に出でし    溝口 喜英    質問を受ける鰯の野暮講師     小川 よね
何もかも手元に寄せて春炬燵    土屋 国枝    身ほとりに辞典歳時記山笑う    菅沢 せい
薄氷の解けつつ杭にしがみつく   溝口ツヤ子    部屋部屋に豆撒く百歳福の神    富塚 閑窓
背伸びせし恋もありけり蕗の薹   吉野 昌子    咳払い一つで分かる夫婦仲     大久保静子
菜の花や赤き電車と灯台と     内山 芳子    冬ざれの風音耳に一人の夜     川嶋まつゑ
そのまんま鳥インフルエンザが初仕事 山口 実    スキップやどこかで春を口ずさむ  内山日出子
鼻歌で動き軽やか春近し      松永 誠子    巨大マスク蠢いている巻かな    石橋ゆり子
囀りの声きわまりて今日の晴    上野 貴子    気は若く子に従えぬ老いの春    斉藤 映子
つくも二五四号(十九年五月号)……126
眼ナ裏に子規の横顔東風吹けり   渡辺 みつ    揺るぎ無き大地にしかと息吹くもの 伊藤 好子
万物は生かされ生きて涅槃西風   染谷 佳子    鈍感に生きて長寿や山笑う     笠原 フミ
山笑うミニスカートの声弾み    橋本 哲夫    恙無く米寿となりし山笑う     吉原 輝子
ロウ染めの牡丹芳し「つくも」展  伊藤みや子    白梅や寺の御堂の屋根の反り    斉藤 利治
春の色鴉に欲しき白斑       関根 和夫    レントゲンに胸預けいる余寒かな  梶 佐一郎
不器用な生き方でよし木瓜の花   緑川 安英    吾が髪の白きに馴れて木の芽風   君塚 一雄
春炬燵置き忘らるるように居る   鈴木 紫苑    啓蟄や三つ盛り上がる土竜塚    山口 祐子
百周年の母校の歩み語る春     小川 よね    メタボリのウエストサイズ物語   時田眞作子
つくも二五五号(十九年六月号)……111
新緑の風連れて入る国技館     篠崎 青童    老鶯や此処が私の理想郷      山本  美
水一杯ぐいと飲み干し夏来る    関根 和夫    老い二人風味いっぱい新茶かな   長瀬 さと
趣味持てば愚痴も吹き飛ぶ夜の短か 大田 稔子    土用の日桶の鰻のやぶ睨み     富塚 一博
母の日の忸怩たる手に贈り物    千保 富子    ぼうたんに見劣りはせぬ娘と歩く  宇津木栄治
飛び乗らん去年の春へと発つバスへ 斉藤 利治    日日草気になる人の句見当たらず  中村 節子
少子化を憂う五月の子安講     吉原 輝子    認知症草笛だけは上手く吹き    高柳 昭子
草笛のあやしき音色笑顔湧く    山口 祐子    米寿未だ人生半ば花は葉に     土屋 国枝
突然の客に麦飯言い訳し      黒相かつ江    食糧難に耐えし日もあり田を植える 橋本 哲夫
つくも二五六号(十九年七月号)……141
八十路なおお洒落が宜し花衣    笠原 フミ    春愁やちょっと読むにも老眼鏡   石橋 三鈴
曾孫生る五感の和む柏餅      千保 富子    春寒の闇を劈(つんざ)く救急車   鈴木 礼女
四字熟語問わるる婆や四月尽    吉原 輝子    マニキュアの綺麗な指や桜餅    富塚 一博
後継ぎのこと言い出せず種を蒔く  富塚 閑窓    春風に乗るごと小川を跳ぶ少女   中村 節子
花冷えや電話はまたも保険屋さん  坂本 桂馬    恐る恐る国旗を出して昭和の日   上代 白洋
春愁や箪笥に眠る妻(め)の和服   橋本 哲夫    田仕事に追われ行く春見失う    安井やすお
やはらかな医師の声なり春の午後  大久保静子    花日より血液検査百点なり     岩柳 人子
花廷座を立つ潮時の見つからず   土屋 国枝    人情の厚き人来る若布かな     小川 茂子
つくも二五七号(十九年八月号)……149
よしきりに青葦原は歌広場     小林 美都    禁煙の夫を励まし梅漬ける     清水 文子
夫の魂白夜になびく千の風     古内佐喜子    常しえに涙知覧の蛍かな      溝口 喜英
囀りに恍惚の刻ありにけり     石橋千枝子    はつ夏の晴れ渡りたる旅の朝    石橋八重子
夏空や潮の香りのバーベキュー   鈴木 睦子    家事数多乳房をすべる汗の玉    鈴木 礼女
乾杯を待ち草臥れしビールの泡   関根 和夫    プライドも人間性もミンチにし   時田 昌子
消費者の牛肉の名に釣られ買い   篠崎 青童    しょうがない首吊るよりは辞めるしか只野 盆暗
つくも二五八号(十九年九月号)……154
日韓の過去を御祓の「詩の祝典」  溝口 喜英    来客に風のもてなし夏座敷     菅沢 せい
侮りて治らずにいる夏の風邪    石橋千枝子    真殊には縁なき身より汗の玉    伊藤みや子
米寿とて心は乙女夏あざみ     土屋 国枝    汗手拭首から提げて気合入れ    伊藤 好子
西瓜切る団欒という遠きもの    内山 芳子    大安も仏滅もなき炎暑かな     池田 逸子
梅雨つづく不調話に花が咲き    黒相かつ江    夏休みの子等を黒潮待ち居たり   松本  保
屋敷神目覚むる気配朝の蝉     石橋 京子    選挙にも激震のあり梅雨長く    高橋  永
選挙戦活断層がそこここに     山本 孝男    コピーして何度も使える領収書   篠崎 純一
遠慮なくゴクゴクと飲むビールかな 桜井 宏樹
つくも二五九号(十九年十月号)……161
方恋の残り香はあり踊の夜     篠崎 青童    香水に縁無き生活(くらし)鍬振るう 富家 閑窓
冷房を効かせて熱き反戦論     染谷 佳子    敗戦忌平和の誓い新たにし     石橋ゆり子
潮騒はこころのゆりかご篭竹枕   橋本 哲夫    幸せはまたたく間なり揚げ花火   大久保静子
様々の声に揺らぐや終戦忌     林   哲    ここだけ話団扇に煽られる     坂本 桂馬
波涛千里水漬(みず)く屍や敗戦忌  向後  寛    コンバイン百羽の鷺を従えて    安井やすお
出せるだけ出す炎天の犬の舌    有田 千鶴    錆トタン屋根が呼び込むこの猛暑  川島 文子
熱帯夜己が手足の置き所      石橋 三鈴    真夏日や人も草木も疲れきり    黒相かつ江
新涼やあなた来る日を待ってたの  小川 茂子    賞罰の無く蕗味噌で飯二膳     斉藤 利治
精一杯生きよう妻よ夜の秋     桜井 宏樹
つくも二六〇号(十九年十一月号)……169
天高し学ぶこととは生きること   染谷 佳子    千の風お墓にもどれ秋彼岸     山口  実
身に入むや養豚場に豚肥えて    成島 公子    生かされて生きて仰ぎし今日の月  石橋 三鈴
永らえて八十八の今日の月     川本 こう    十六夜や地球の平穏祈りつつ    溝口ツヤ子
夫逝きて早十五年秋ざくら     川島 文子    曼珠沙華支えし茎の一本気     小川 茂子
世を叱る仁王の眼コ秋の風     伊藤 好子    四苦八苦笑い飛ばして敬老日    笠原 フミ
ツーカーと張り切る夫婦豊の秋   内山日出子    西暦に馴染めずに居る残り蝉    上代 白洋
待つという賢きこころ秋深む    石橋ゆり子    健康という宝物秋刀魚焼く     石橋 京子
朗々と『荒城の月』月高し     小川 啄人
つくも二六一号(十九年十二月号)……177
狭庭にも小さき秋の来たりけり   飯塚けいじ    賢明は自信となりぬ天高し     石橋八重子
耐え忍ぶ浅学非才草の花      鈴木 礼女    感慨の深き句集や金木犀      内山 久代
末枯れを行きつ戻りつ妻の愚痴   宇津木榮司    秋冷や夕日飲み込む瀬戸の海    大田 稔子
新米や死語となりたる俵積み    川島  隆    変わる世や膨れ蜜柑のたわわにて  川島 文子
来客の多きしあわせ秋の虹     君塚 一雄    満席の夜寒の中や村芝居      桜井 宏樹
稲架掛けし谷津田の景の懐かしく  菅沢 せい    予定とは違う人生夜寒かな     高柳 昭子
振り返る鈍行人生秋寒し      有田 千鶴    余生とは神のみぞ知る今朝の秋   高橋  永
「自由の涙」出版記念会菊薫る
.   溝口 喜英    岐阜城の見下ろしている鵜飼かな  安井やすお
天高く富士くっきりと京葉道    山本 孝男    背水の陣をわたるや月今宵     吉原 輝子
つくも二六二号(二十年一月号)……185
その日まで老いの品格冬薔薇(そうび)笠原 フミ    年波を顔に集めて秋酌めり     関根 和夫
行く秋や更地となりし工場跡    小倉 千江    斑鳩の釣瓶落としや五重塔     橋本 哲夫
鳥帰るだんだん遠くなる故郷    梶 佐一郎    届かざる思いの高さ烏瓜      富塚 閑窓
秋寒したらい回しの救急車     有田 千鶴    人声も物音もせず秋の昼      鈴木 紫苑
残る虫哀愁の夜の独り言      岩柳 人子    末枯れや老迎え撃つ朝歩き     緑川 安英
天地人天地人とて菊作り      伊藤みや子    柚子の実をたっぷり浮かべ田舎風呂 高柳 昭子
生かされて心行くまで柚子風呂に  京相千代野    呼び声に耳もて応え日向猫     成島 公子
喜びを分かち合う夫温め酒     内山日出子    07年偽装謝罪で年暮れる     山口  実
つくも二六三号(二十年二月号)……193
強風にじっと耐えてる枯芒     岩柳 人子    願わくばピンピンコロリ日向ぼこ  石橋千枝子
着膨れてピンピンコロリ願いけり  松本  保    日の丸を五輪に揚ぐと賀状来る   溝口 喜英
片仮名語増ゆるばかりや冬の鳥   千保 富子    興亡の地球見据えて冬銀河     染谷 佳子
取って置きの我が田の藁で注連を綯う安井やすお    我が家に伝え来しもの注連を綯う  林   哲
沢庵石ずしりと古稀の重さかな   時田眞作子    寒鯉の腹見せ跳ねる力あり     茂木 義守
賀状書く想い巡りて筆遅々と    山口 祐子    願わくば一日一句夢はじめ     山本 孝男
一言に篭もるぬくもり寒牡丹    古内佐喜子    高止まるコレステロール冬に入る  川島  隆
万両や祖霊とともに孫を抱く    斉藤 利治    薪割りをせし日もありし朝湯かな  君塚 一雄
つくも二六四号(二十年三月号)……201
良薬は腹の底から初笑い      小川 茂子    成人日外孫突然変身す       坂本 桂馬
物識りの来て白けたるおでん鍋   上代 白洋    除夜の鐘地図無き旅のいつ果つる  大久保静子
生かされて声掛けられて女正月   大田 稔子    百五歳へ美容院から年賀状     富塚 閑窓
わだつみの声揺るぎなき今朝の冬  石橋 三鈴    海鳴りをただ聴きにゆく冬の海   君塚 一雄
風邪の神家中食うて居座りぬ    中村 節子    父亡くも明るく生きて成人日    篠崎 青童
仮寝するホームレス打つ霰かな   成島 公子    成人日いくさ無き世を念じつつ   吉原 輝子
戦無き国に生受け成人日      清水 文子    息白く一人佇む無人駅       松本  保
此処だけの話漏れ来る温め洒    鈴木 柳絮    ひたむきに生きて新年迎えけり   伊藤 好子
道楽の歴史の道や冬日和      染谷 佳子    初夢の叱る母の日なみだ溜め    高柳 昭子
つくも二六五号(二十年四月号)……208
虎落笛春を待たずに逝きし夫    溝口ツヤ子    春の日や爺三人の艶話       吉野 昌子
水だけを飲んで又出る恋の猫    高橋 昭子    何食わぬ声して帰る猫の恋     富家 閑窓
冴え返る妻の小言を聞いており   飯塚けいじ    春一番ビニールハウスを薙ぎ倒す  安井やすお
寒の水六腑に活を入れにけり    川島  隆    亀鳴くや地球は万年続くべし    坂本 桂馬
乱調の地球が唸る春怒涛      椿  吉松    何もかも見抜く妻居て山笑う    関根 和夫
福寿草寡黙な夫のあたたかき    西山 律子    雪降れば村の子供は「ユギ」という 斉藤 利治
雨を吸う大地の鼓動下萌ゆる    菅沢 せい    二百年経し家リホーム山笑う    伊藤 好子
大空へ吸い込まれそう鳥雲に    梅澤 蓉子    シベリヤに耐え来し夫の厚着かな  内山 タエ
つくも二六六号(二十年五月号)……215
山笑う八十路まだまだ旅ごころ   土屋 国枝    めぐる春平均寿命延びていて    古内佐喜子
畑仕事できる幸せ山笑う      川島 文子    畑中の家一軒や春嵐        川島  隆
梅咲くや字「家之子」の渓深く   菅沢 せい    海見ゆる五十集(いさば)跡にも犬ふぐり内山芳子
春風のふわりと降りる停留所    上野 貴子    厨事六十年で卒業す        溝口ツヤ子
春愁や喜寿を迎えしバス旅行    鈴木 睦子
つくも二六七号(二十年六月号)……219
孫たちへ昔話や昭和の日      坂本 桂馬    おぼろ月亡夫の仕草の数々を    真野美智子
「さあ来い」と開き直りて五月晴れ
. 笠原 フミ    球春や楽天首位だよ七連勝     山口  実
春眠のまま逝けたらと口癖に    富塚 閑窓    牛飼いの未だ頑張るぞ喜寿の春   押田 喜一
シーソーの子が春光を蹴っており  茂木 義守    花見船追い来る鴎の乱舞かな    伊藤 好子
つくも二六八号(二十年七月)……223
春の夜の地震に目覚む二度三度   有田 千鶴    代々の里の医師(くすし)や鯉のぼり 内山 タエ
久々に針箱開けし昭和の日     小林 三都    卯月来て平均寿命超えにけり    君塚 一雄
女生徒の男言葉やみなみ吹く    梶 佐一郎    総の国に住みし冥利や初鰹     山根 嘉大
浮草にしがみついてる未完の句   富塚 閑窓    句に集う青葉若葉の古屋敷     内山日出子
芽吹くものばかり溢れて古屋敷   内山 芳子
つくも二六九号(二十年八月号)……227
南風吹くおっペしの歌遠くなり   吉原 輝子    地曳女の隠さぬ乳房南風吹く    内山 芳子
落梅やこんなに生りていようとは  石橋千枝子    梅雨空を蹴り上げ望む逆上がり   茂木 義守
一面の熟麦の香でありしころ    鈴木 紫苑    缶ビール真天に喉をさらしつつ   斉藤 利治
良き友は宝でありぬ花菖蒲     小川 茂子    万緑や歩いて歩いて一万歩     染谷 佳子
つくも二七〇号(二十年九月号)……23
四割の休耕つぎはぎの青田原    篠崎 青童    かなかなや食危うさの自給率    椿  吉松
三伏や道の真中に居座る大     吉野 昌子    夏草や句碑を読む人撫でる人    飯塚けいじ
飛行機の影の泳ぎし北京へと    溝口 喜英    きん斗雲の夢でも見よう熱帯夜   林   哲
見晴るかす松尾平野の稲田かな   押田 喜一    結い上げて女神輿の威勢かな    富塚 閑窓
路地裏の似合う駄菓子屋額の花   鈴木 柳絮    先見えて急ぐことなし蝸牛     石橋 三鈴
つくも二七一号(二十年十月号)……234
雷鳴のやがて篠付くような雨    菅沢 せい    一閃に夕立来たる阿修羅かな    松本  保
竹の春いつまでもある若さかな   篠崎 青童    終戦日闇に蠢くけものの目     大久保静子
かなかなやもうこれ以上求めない  椿  良松    サイロ詰め終えて牛飼い秋の風   押田 喜一
百五歳姉さん被りで草を引く    富塚 閑窓    虫干しや箪笥の中にある歴史    石橋ゆり子
消しゴムで消せぬ人生秋の風    有田 千鶴
つくも二七二号(二十年十一月号)……238
精一杯生きて悔いなし法師蝉    有田 千鶴    生き死には風に任せて花すすき   染谷 佳子
生き死には天のなすまま鳥渡る   椿  吉松    豊年やこれが最後の収穫か     安井やすお
儲かれば毒米も売る秋暑し     高橋  永    敏速は夫の遺伝子運動会      清水 文子
人もまたいずれ焼かるる捨て案山子 内山 芳子    自分では分からぬ失言秋暑し    古内佐喜子
つくも二七三号(二十年十二月号)……242
菊も句も地道に励む「菊暦」    山本 孝男    投句また没になりしかちちろ虫   川島  隆
後期高齢この名消したき秋日和   杉田 萩月    忘れじのおふくろの味栗おこわ   小川 啄人
秋冷や農ゆずりても農のこと    伊藤みや子    稲架(はざ)組むや薬王院へのぼる径 土橋 利貞
雨後の月黄泉への道を照らしけり  鈴木 柳絮    口だけは達者なるまま敬老日    京崎タミ子
蒸かし藷田舎暮らしによく似合う  石橋 利子
つくも二七四号(二十一年一月号)……247
うそ寒や喪中ハガキの続けざま   飯塚けいじ    うそ寒やまああの人が介護の身   古河 達也
逢いたくて女坂行く神の留守    関根 和夫    首振りて真似る尺八文化祭     吉原 輝子
結局は寂聴で済ます読書の秋    篠崎 青童    古寺やいくさ痕ある長寿松     伊藤みや子
心にも満ち欠けはあり十三夜    川島  隆    好きなことやや飽きて来し夜長かな 時田眞作子
障子貼る後から孫が穴開けて    高柳 昭子    小さき手で障子破りてにやにやす  桜井 宏樹
ダミ声で漢字読めずに英会話    溝口 義秀
つくも二七五号(二十一年二月号)……251
銀杏散る先を争うごとく散る    鈴木 柳絮    軍服の遺影ぽつんと冬座敷     土屋 国枝
北風が世界の景気吹き飛ばす    山本 孝男    身の程を知らず小粒の柿たわわ   石橋 利子
豊年を報じる国の自給率      富塚 閑窓    開戦日昭和は遠くなりにけり    向後  寛
県都いま燃ゆる紅葉や亥鼻城    小川 啄人    何もかも知りつつ黙す冬の海    岩柳 人子
つくも二七六号(二十一年三月号)……255
泌尿器も老化の兆し寒に入る    篠崎 青童    幻の影かたわらに日向ぼこ     鈴木 紫苑
すれ違う煙草の匂い初詣      時田眞作子    心まで老いてはならじ冬の薔薇   石橋千枝子
根っこから土好きなりし鍬始    林   哲    書き出しは孫のことから初日記   戸村 満雄
豆撒くや撒け撒け不況ぶっ飛ばせ  坂本 桂馬    初場所や瀬戸際にして粘り腰    山本 孝男
大寒や牛舎へ向かう朝まだき(七十八歳の牧夫)    幸せは妻唱夫随で干す布団     内山日出子
                 押田 喜一    熱爛や遺影そびらに四本目     斎藤 利治
見よという声ある如し寒の月    杉田 萩月    米寿まであと一息の日向ぼこ    笠原 フミ
初春や愛の兜を床の間に      向後  寛    踏まれても邪魔にされても草紅葉  飯塚 将栄
大寒や起床ラッパで起きし頃    上代 白洋    生き甲斐は身近にありて初句会   石橋ゆり子
つくも二七七号(二十一年四月号)……263
初詣しかと見据えし仁王の眼    古内佐喜子    何よりも夫の恢復春一番      染谷 佳子
三月や花粉黄砂の大空襲      坂本 桂馬    身の内に鬼住む予感「鬼は外」   斎藤 利治
春遠し音の消えたる町工場     関根 和夫    遮断機も警報も無視恋の猫     石橋千枝子
信号無視いのち賭けたる猫の恋   坂本 桂馬    上総野に天の声聞く春一番     石橋 京子
春一番神の怒りと思うほど     伊藤 好子    腹いっぱい食える幸せ目刺焼く   古河 達也
日脚伸ぶ歩けるうちは歩かねば   安井やすお    枯野行く日課となりしウォーキング 橋本 哲夫
着ぶくれて昔の夫のなかりけり   富塚 春野    帰らざる軍馬育てし大枯野     富家 閑窓
如月やもしもリストラあったなら  桜井 宏樹    冴え返る卒寿を越えし俳句道    石橋ゆり子
早春や村の人語の温みあり     鈴木 三鈴    無位無冠読書三昧春炬燵      土屋 国技
頃合は何時かいつかと冬芽かな   真野美智子    春が好き動物が好き人が好き    大森アサ子
つくも二七八号(二十一年五月号)……271
腰撫でて傘寿間近の畦を塗る    土橋 利貞    ふる里はすべてが良くて桃の花   内山 タエ
春おぼろふる里遠くなるばかり   西山 律子    薄氷やいつしか濁る世になれて   内山 芳子
春うらら現世に海賊騒ぎとは    梅澤 蓉子    大食いが芸となる世や四月馬鹿   上代 白洋
春彼岸忘却という薬あり      大森アサ子    名にしおう梅の香みつる天満宮   飯塚 将栄
籾種を浸して句座の人となる    石橋千枝子    靖国の咲いた桜に指を祈る     山本 孝男
まだ何かやる気十分老いの春    石橋 三鈴    啄木鳥のごとペン走る受験生    伊藤みや子
下萌えや重機は爪を立てながら   鈴木 紫苑    雑木山辛夷の花ではじまりぬ    真野美智子
棟上の槌音天へ風光る       溝口ツヤ子    健やかに夫との春の山路かな    小川 茂子
日本中侍ジャパンで盛り上がり   時田 昌子
つくも二七九号(二十一年六月号)……279
昭和史に白洲次郎や風光る     染谷 佳子    大家族なりし昭和や蓬餅      内山 芳子
春雷や初めて聞きし夫の唄     大久保静子    ランドセル重き期待の一年生    山本 孝男
父母の夢肩にずしりと入学す    内山 久代    行く春や大陸偲ぶ同期会      向後  寛
若き日を語る一座の花むしろ    小川 啄人    売り言葉ときには買うて散る桜   小川のり子
何もかも洗いたくなる五月晴れ   大森アサ子    余生いま流るるままに花筏     土屋 国枝
つばめ来る父の遺影の若かりし   緑川 安英    卒業歌「仰げば尊とし」子等知らず 山口  美
田に水の入りて農家の忙しなく   加藤みつゑ    痛み知る若きヘルパー風光る    梅沢 蓉子
身につかぬ俄か読書や花ぐもり   斉藤 映子    春風に誘われ犬も万歩越ゆ     石橋ゆり子
筍や何はともあれフルコース    西山 律子
つくも二八〇号(二十一年七月号)……287
田を植えてふんだんにある水と空  篠崎 青童    手をつなぐ若き二人に五月風    真野美智子
黄あやめの河川敷へとウォーキング 小川 茂子    城山の躑躅に染まり描きおり    小林 美都
忠敬の生まれし浜や雲の峰     椿  吉松    羽抜鳥こころは乙女のままなりし  大久保静子
元士官戦史を黙し田水張る     君塚 一雄    緑雨今インフルエンザ追い流せ   吉原 輝子
渋滞に忍耐まとう春の旅      山本 孝男    軽やかに運ぶペダルや若葉風    石橋 京子
曇天のいずこより鳴く時鳥     石橋ゆり子    裏表誰にもありぬ柏餅       川島  隆
老鶯を応援歌とし畑仕事      石橋八重子    噛み合わぬ二人の会話梅雨近し   池田 逸子
ふる里の訛りと逢いに春の旅    富塚 閑窓
つくも二八一号(二十一年八月号)……295
立花の碑を目指して飛べや不如帰  染谷 佳子    日韓を結ぶ「詩の会」麦の秋    溝口 喜英
ひもじさに耐えし頃あり麦の飯   大久保静子    我慢して今がありけり梅雨月夜   君塚 一雄
老いしこと俳句に綴る梅雨晴間   大田 稔子    軍服の遺影が見つむ夏座敷     桜井 宏樹
夏草や遠く満蒙開拓団       佐藤 満雄    紫陽花や大仏さまは薄ごろも    斉藤 利治
つれあいは似たもの同士麦の秋   内山 輝子    水戸は梅豊かに実り君何処     深瀬 智視
薫風や赤子背負いし若き母     吉野 昌子    言いそびれしままに納棺梅雨重し  坂本 桂馬
軍服のマネキン梅雨の古物店    清水 文子    梅干して邨の夜風は酢の匂い    安井やすお
雨の日も青梅椀ぎにいざ畑へ    伊藤 好子
つくも二八二号(二十一年九月号)……302
梅雨月夜ひばりも逝きて二十年   藤平きそ子    昼寝覚め邪馬台国は何処にある   染谷 佳子
腰痛にこころも暗く梅雨の日々   岩柳 人子    「老齢」という言い訳は嫌青嵐
.   笠原 フミ
炎帝やドーム被爆を語り継ぐ    上代 白洋    白百合や気品母から娘へつなぐ   大久保静子
白百合を生けて背筋を伸ばしけり  斉藤 映子    敗戦忌「勤労動員」死語となる   戸村 満雄
難病と闘う妻の髪洗う       茂木 義守    菊挿してあくなき試練の底に居り  伊藤みや子
古事記読む神代もあらむ蝉しぐれ  佐藤 三男
つくも二八三号(二十一年十月号)……310
生も死も罪という経孟蘭盆会    大久保静子    百日紅そびらに熱き選挙戦     染谷 佳子
みんみんと競うごとくに選挙カー  伊藤 好子    夏選挙公約不可は見えていて    京崎タミ子
白神の緑陰深きぶな林       石橋八重子    友の背を押して踊りの輪に入りぬ  吉野 昌子
背中より押されて入る踊りの輪   内山 タエ    炎昼やこの道を行く他はなし    緑川 安英
古傷の昭和すぐそこ敗戦忌     土屋 国枝    色づきし稲穂に声を掛けとおる   土橋 利貞
チョー美味いメチャ美味しいと西瓜の子笠原フミ    語り部の昭和は重し原爆忌     橋本 哲夫
原爆のきずあと探し終戦日     高柳 昭子    雑音のラジオ叩きて終戦日     吉原 輝子
豪掘りの学徒でありし敗戦日    安井やすお    復員の兄が次ぎ次ぎ終戦日     伊藤みや子
つくも二八四号(二十一年十一月号)……317
秋深し古墳の多き武射の国     染谷 佳子    独り身に慣れて来にけり萩の声   君塚 一雄
いわし雲北方領土離さだる     橋本 哲夫    心根はいつも青春敬老日      内山日出子
欲もなく雨にも負けず賢治の忌   大田 稔子    病む妻のこぼるる笑顔秋ざくら   茂木 義守
武家屋敷諸行無常を思う秋     伊藤 好子    萩の花整然とある武家屋敷     時田眞作子
高弟に関寛斉や堂の秋       安井やすお
書評 俳句という文芸を通した痛快な自分史「あこがれて」を読んで……325
跋 「おっペしの歌」出版を祝して 高田 柴秋……332
あとがき……339
表紙写真/古川幸男




   南風吹くおっペしの歌遠くなり 吉原輝子

 私は高校一年(昭和三十七年)の夏休みに、野栄町(現匝瑳市)野手の海岸で遊んだことがある。夕方浜辺に行ったとき、偶然漁から帰ってきた一艘の舟を浅瀬から浜へ上げている「おっペし」の現場を見た。そのときは「おっペしの歌」は聞かなかったが、舟を引き上げるたびに大きな声を掛け合っているのを聞いた。この句の「おっペしの歌」はおそらく漁師の妻たちが漁に行く夫の乗る舟が浜から海に出るとき、海から浜に上がるとき、掛け声のように歌ったものであろう。私はこのような俳句が作られることに大きな意義を感じている。それはこの地域の人々の生活や産業、しいては風土や歴史を語っているからである。次の句もここで生まれた人間でなければ作れない俳句なのである。

   地曳女の隠さぬ乳房南風吹く  内山芳子

 この句は九十九里浜で、まだいわしが大漁に獲れて地曳網漁をしていたころの働く女たちの鮮明な描写である。地曳網を引くには漁師の妻たちや子供まで借り出されたのだ。夏の日差しがぎらぎら照りつける炎天下での力のいる仕事である。女たちの身なりは腰巻かパンツだけで上半身は裸であった。網を引く女たちは威勢のいい掛け声をかけあいながら、体を前後に動かすたびにむきだしの乳房がブルンブルンと揺れるのだ。今でこそ女の裸はむやみに人に見せをものではないが、当時の浜の漁師の妻たちに、裸が恥ずかしいという思いはなかったであろう。もちろん「おっペし」も裸での仕事である。それが海辺に生きる漁師の妻たちの生業
(なりわい)であったのだから。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 千葉県山武郡市の俳句同人誌『つくも』に2006年10月号から2009年11月号まで載せられた句のうち、6百数十句を選んで論評した労作です。目次に論評したすべての句がありましたので、これだけでも1冊の句集になるという凄い本です。ここでは評論集のタイトルとなった句と関連の句、評を紹介してみましたが、〈この地域の人々の生活や産業、しいては風土や歴史を語っている〉言葉としてはおもしろいと思いますし、地域の力強さを感じさせる句だと云えましょう。
 なお、目次の表示できない漢字は平仮名にしたり、ルビも一部割愛してあることをお詫びいたします。




詩誌『鳥』54号
tori 54.JPG
2009.12.20 京都市右京区
洛西書院・土田英雄氏発行 500円

<目次>
緒家みわ子 傷んだ本のペエソス/シェル・コレクター 2
黒沢玲子 時差 6
佐倉義信 身につまされて読んだ『寡黙なる巨人』 8
竹山 香 なんにもない日常 13
あだち・かつとし 川/教員免許更新講習/公民館にて 16
植木容子 遺す 20
元原孝司 手術後 24
榎本三知子 黒い猫/さんぽみちで 26
土田英雄 こわれた野鳥時計 30
中東ゆうき 飛び立つ朝に/雑想−動物園にて− 34
なす・こういち 剥ぎ取る/確かに 38
岩田福次郎 喫茶去 42

雪花菜余聞 岩田福次郎 45
庭のトンボ 黒沢玲子 49
暁闇記・三 森鴎外 足立勝歳 50
作家の自殺を考える −二度も死亡した作家 火野葦平− 鬼頭陞明 52




 
さんぽみちで/榎本三知子

はだかのおとこが
ふくをきたいぬをつれてあるいてくるのです
はずかしくなって いそいでとおりぬけましたの

きのうなんて
なぞが ふくろをきておおぜいあるいてくるの
こわくてとんでかえりましたよ
わからないものほど おそろしいことがありませんから

こどもがふたりきました
わたしのほほがゆるんでいたのでしょうか
そのこらは とてもいいえがおをかえしてくれましたわ

いつもおもうのですが
かみさまはどこへいかれたのでしょうね
いつでも おるすのようです
とりい だけしかありません

なんだかんだといいながら
てんじょうがこわいわたしは あめのひいがいは
そとにでてさんぽをしていますの

 〈はだかのおとこが/ふくをきたいぬをつれてあるいてくる〉というのは現実にありそうですね。〈なぞが ふくろをきておおぜいあるいてくる〉のは、カルト宗教のようでもありますが、意外と私たち自身なのかもしれません。それにしても〈かみさまはどこへいかれたのでしょうね〉。これは私も同感です。〈てんじょう〉は天井でしょうか。自分の家に押しつぶされるという強迫観念と採りました。平仮名書きも成功している佳品だと思いました。




詩誌『この場所 ici』2号
ici 2.JPG
2009.12.5 東京都世田谷区
三田氏方・「
この場所ici」の会発行 500円

<目次>

ヤマカガシ 鈴木正樹‥2          アンデスの駅 北川朱実‥4
反響 柿沼徹‥7              鼻緒 青山かつ子‥10
ある日わたしはひらひらと 房内はるみ‥12  少女、さらし方 佐々木洋一‥14
背中、変身コバヤシ 作田教子‥18      予感 荒木元‥22
すきま風の通り路 谷口ちかえ‥25      爪を立てて 菊池唯子‥28
夏 斉藤なつみ‥31             沈丁花 尾崎幹夫‥34
むすびの神 三好由紀彦‥36         哀しい時空 三田洋‥38
 *
エッセイ
カナリアの歌 荒木元‥40          雲という種族 三好由紀彦‥45
感情とは意味である 三田洋‥46
 *
同人新詩集・詩論集‥47           編集後記‥48




 
ある日わたしはひらひらと/房内はるみ

たちたちと食器を洗う朝
わたしがいて わたしでない
だれかが呼んでいる
空の高みから光の手がのびてきて そっとつつまれる

オルゴールは鳴りつづけているのに 時刻
(とき)はすすまない
洗いおえたコップのなんという淋しさ
わたしからはなれ ものの世界にはいっていく

食器を洗う 衣類を洗う
洗うということは
使われていた時間をリセットすることだ
そうやって重ねられていく毎日

ある日わたしは ひらひらと
蒼い風をおいかけて 足先がつめたくなった
夏はいつも 洗われることなく 消えていく

ここは何かの谷間
陽射しがクロスし ミントの匂いのする風が吹き
悲しいほどの空が まぶしい
諦念が静かに燃えている

幾世紀もの九月がふりつもる谷底へ
やがて すべてのものの落下がはじきるだろう
むくげの花びらが さるすべりの花びらが コスモス
の花びらが
ひらひらと
  ひらひらと……

 〈洗いおえたコップのなんという淋しさ〉とは、なんという感性かと思います。温かい掌の中で洗われたコップが、掌を離れた瞬間から温度を下げていく…。それが〈淋しさ〉と詩人の眼には映るのでしょう。〈洗うということは/使われていた時間をリセットすることだ〉というフレーズも佳いですね。洗えば洗うほど初期の時間へと〈リセット〉されていく…。〈そうやって重ねられていく毎日〉を元に戻したいと思いながら私たちは生活しているのかもしれません。作品の本来の意図とは違いますが、そこに捉われてしまった詩です。






   
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