きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.12.7 神奈川県湯河原町・幕山




2010.1.12(火)


 日本ペンクラブ電子文藝館に吉本隆明氏の『高村光太郎』抄がアップされました。よろしかったら日本ペンクラブ
電子文藝館HPの「1月更新案内」からご覧ください。
 電子文藝館に掲載した「高村光太郎作品抄」の中に戦中・戦後の詩があるのはけしからん、という抗議を受けて、高村光太郎を理解するためには必要なこと、光太郎自身も望んでいたことで、決して光太郎を貶めるものではない、等々反論したことは何度か拙HPでもお知らせした通りです。加えて『九代目団十郎の首』や『暗愚小伝』抄などを掲載したことで光太郎の真意は伝わると思っていますが、今回あらたに吉本さんの許可を得て『高村光太郎』抄を載せさせてもらいました。これで理論的な裏づけもできたと思います。光太郎の戦中・戦後の詩についての評論はそれほど多くはないのですが、それらを採り上げることで光太郎精神の核心を突くものばかりと言ってよいでしょう。その中でも吉本さんの論評はピカ一です。さすがは現代随一の思想家と唸ってしまいました。分厚い評論の中から「戦争期」「敗戦期」「戦後期」の3章を抄録してあります。お読みいただいて、さらに『高村光太郎』全編へとお進みくださることを願っています。




詩誌『地平線』47号
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2009.12.15 東京都足立区 丸山勝久氏発行
600円

<目次>
息子のいない夏…遠藤芳子 1        無益…金子以左生 3
断章 −内の人から−…中村吾郎 5     サーカス団…秋元 炯 7
呼吸取締法違反…杜戸 泉 9        サラダ…山川久三 11
傷おとこ、鸚鵡嬢、ダンボール氏…野田新五 13 削る…大川久美子 15
詩人伝シリーズ(その6)詩人の運命 −明治の象徴詩人・蒲原有明…山川久三 17
居場所…沢 聖子 19            空のかなしみ…川田裕子 21
菖蒲の園…樽美忠夫 23           蝉しぐれ…小野幸子 25
カラスの早業…飯島幸子 27         拝啓 孤独様…福榮太郎 29
果て…山田隆昭 31             月蝕仕様…丸山勝久 33
編集の窓…35     同人名簿…37     編集後記…37




 
月蝕仕様/丸山勝久

闇と ひかり 笛を吹け
光と やみ  鐘をたたけ

うさぎのように ねずみのように
首が飛ぶ    糞が降る

闇のなかを
人間の魚雷が跳ねている

あれは 夢にうなされている
ぼくの形見だ

  八歳 千寿第七小学校入学
     御神殿に最敬礼
     御神影を拝む

  十歳 小学校は国民学校となり
     担任の教師より
     鬼畜米英から祖国日本を守るため
     一命を捧げる覚悟を叩き込まれる。

  十一歳 担任の教師から満蒙開拓義勇団少年隊
     に入隊するよう勧誘され応募する 父に
     叱られ 翌日 辞退を申し出て 担任か
     ら叱責される。

  十二歳 日本皮革株式会社 日本製靴株式会社
     東京電力千住火力発電所に勤労動員(成
     人は戦地に赴き、その代役として少年少
     女が動員された。)

  十三歳 中学生
     鹿島灘から上陸・進攻してくる無数の敵
     の水陸両用戦車に抵抗し、破壊するため
     の一個と囚われの身となってしまった時
     の自決用の一個、計二個の手榴弾を腰に
     巻き、身の丈を超える三八式歩兵銃を抱
     いて、匍匐前進の訓練に明け暮れた。

  十四歳 連日、連夜 敵の超重爆撃機B29の焼
     夷弾攻撃に晒された
     廣島と長崎に新型の爆弾が投下されて甚
     大な被害が出たらしいとの噂がながれて
     きた。
     八月十五日 麻布三連隊の兵舎
     広場で、終戦の詔勅を聴いた。

闇と ひかり 笛を吹け
光と やみ  鐘をたたけ

うさぎのように ねずみのように
首が飛ぶ    糞が降る

闇のなかを
人間の魚雷が跳ねている

あれは 夢にうなされている
ぼくの形見だ

隠岐 よ
八丈 よ
首塚 よ

そして
知覧の
少年たち よ

 *特攻隊員

 〈八歳〉から〈十四歳〉までの戦争に明け暮れた日々を回想した作品ですが、〈闇と ひかり〉〈うさぎのように ねずみのように〉と、「月蝕仕様」としたところが見事だと思います。月食の蝕まれた部分と、〈首が飛〉び〈人間の魚雷が跳ねている〉こととが重なり、他に例を見ない詩となっています。同じ4連が繰り返される構成も〈夢にうなされている〉〈ぼく〉を表現していると捉えられ、成功していると云えましょう。それほど年齢も違わないだろう〈知覧の/少年たち〉への思いも伝わってくる作品です。




個人詩誌『SUKANPO』6号
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2010.1.11 群馬県高崎市 田口三舩氏発行 非売品

<目次>
〈詩〉
おまじない・・・・・・・・2
風の画家はきょうも描く・・4
あしたがどこかへ・・・・・6
〈あとがき〉




 
風の画家はきょうも描く

失われた時が
ふたたび戻ってくるなんてことはない
そんなことは百も承知の
風の画家

透きとおったキャンバスには
花や草木をふんだんに置き
空には燃えるような太陽
路地の行き止まりには子らの泣き叫ぶ声
かすかな記憶を頼りに
おのれに似せた人影を描きたいのだが
風の画家はここで筆を止める

そこで風の画家
絵具の中に人のことばを
溶け込ませてみたりするのだが
わずかに狂いはじめた季節の中では
意味をなくした記号が
飛び交うばかり
風の画家は
とうに気づいているのだ
かつてここで生きた人たちが
喜びや哀しみ
色褪せた郷愁を
他愛もない予言や呪いといっしょに
あの空に解きはなしてしまったことを

だから根っから人好きの
風の画家は
ひゅるるんひゅるるん
こころを震わせながら
人っ子ひとりいないこの街を
きょうも描く

 〈失われた時が/ふたたび戻ってくるなんてことはない〉ことに改めて気づきますが、そういえば絵は〈失われた時〉を閉じ込めているのかもしれないなあ、と思います。その〈絵具の中に人のことばを/溶け込ませてみたりする〉というのは良いですね。これは詩的真実とでも呼びたいようなフレーズです。〈人っ子ひとりいないこの街を/きょうも描く〉〈風の画家〉とは、詩人そのものではないかとも感じた作品です。




詩誌『堅香子』6号
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2009.12.25 岩手県岩手郡滝沢村
吉野重雄氏方・「堅香子」の会発行 800円

<目次>

糠塚  玲 ことば 2
永田  豊 蝶 4  春耕 6  合歓の花 8
朝倉 宏哉 うなぎ 10
藤野なほ子 駐車場 13
佐々木光子 残照 15  零さぬように 17
藤森 重紀 黙契 18
斎藤 彰吾 悼みまたは一掬
(いつきく)の涙.21
大村 孝子 プーシキンの庭 24
八重樫 哲 樺山 4 28
上斗米隆夫 桜川 31
長尾  登 時代の子 34  脅える力 35  孫との隔たり 36  頌春 37
エッセイ〈詩とその原風景〉
澤田 鎮子 支えられて 38
永田  豊 わが詩の原風景 40
招待席  岩渕千満子 貝殻 42

金野 清人 土筆坊 44  夕暮れの村 46
蟹澤小陽子 チャンスの神様の秘密 48
かしわばらくみこ 癖 49
佐藤 康二 訪問 52  商談 53  冬の光 54  雪 55
森  三紗 幻化 56
斉藤駿一郎 鴉 58  平吉は愚かだ 60
松崎みき子 さえぎるものもなかったら 62  ミモザサラダ 64
黒川  純 寓居 66
澤田 鎮子 つつじの花を焚く68
藤井 美穂 花 72  村の季 73
渡邊 眞吾 秘花 74
千葉 祐子 旅の記憶に−鶴岡− 76  秘密の数字 78
吉野 重雄 最後のメール 80
詩集評
かしわばらくみこ 区切りの音、時の彼方から明日へ −藤野なほ子詩集『くるみの木』に寄せて− 84
八重樫 哲 平易平明な表現の中に現代文明批判 −渡邊眞吾詩集『平和街道』− 86
斉藤駿一郎 沢内雪譜 −吉野重雄詩集『隠れ里』に寄せて− 88
寄せ書き 90
受贈詩誌等の紹介とお礼 95
読者からのお便り 96
伝言板(かたかご・らんど〉 97
紙上合評会 98
編集後記 101
同人名簿 102
表紙題字・岩手墨滴会会長 阿部宏行  装丁・田村晴樹




 
ことば/糠塚 玲 Nukazuka-Rei

夕暮れ近くなると
隣の犬はよく吠える
山から羚羊でも下りてきたか
キツネが通ったか

私の犬はたいがい知らんふりだが
突然 物凄いスピードで走り出し
間に合わない時は吠えながら走る

隣の犬に
一番近い場所に陣どって
状況を見定めようとする
犬には犬の言葉があるのだろう
お前達は
いつのまにその言葉を共有したのか
言葉がなくても言葉がわかる

人間が住む街の空気の中にも
彼等の世界にはりめぐらされている
言葉のアンテナ

人は何を失くしたのだろう
テレビも携帯も友達も
あんなにたくさんの言葉を発しているのに
本当の事は何も通じていない

 今号の巻頭作品です。一読して佳い詩だなと思いました。〈隣の犬〉と〈私の犬〉の個体差は、そのまま人間の個体差でもあるように読み取れました。その犬たちは〈言葉がなくても言葉がわかる〉のに、本当に〈人は何を失くしたの〉でしょうね。文明の利器や社会生活によって〈あんなにたくさんの言葉を発しているのに/本当の事は何も通じていない〉。お見事としか言いようのない最終連です。犬と人間に共通の〈ことば〉を置くことによって表面的ではない、深みのある作品になったと思います。
 なお、今号の編集後記では拙HPについて触れていただきました。御礼申し上げます。






   
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