きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.12.7 神奈川県湯河原町・幕山




2010.1.18(月)


 天童大人さんプロデュースの「
La Voix des poetes(詩人の聲)」に4回目の出演をさせてもらいました。今回は第1詩集『プラスチック粘土』の全編を読みましたが、今から30年以上前の詩集ですから当時の古い言葉も出てきて、我ながら古いなあと思う詩もありました。でも、聞いてくださった皆さんからは「当時の社会状況を思い出したよ」というお言葉もあり、なるほどそういう見方もあるのかと納得。まあ、そういう面では歴史的な詩集ではあるのかもしれません。1970年代の高度成長まっ盛りという時代でしたからね。私も物欲に駆られていた時代でありました。

 今回使わせていただいた「NPO法人 東京自由大学」は神田の駅から歩いて3分ほど。大学と言うよりは教室と言った方がよく、最大でも50人が入るかどうかという面積です。画廊と違って殺風景といえば殺風景ですけど、私のような殺伐とした詩には合っていると思います。寒い中おいでくださった皆さまに感謝、自由大学の担当女性にも感謝です。ありがとうございました!




橋爪文氏詩集
『地に還るもの 天に昇るもの』
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2009.12.18 東京都千代田区 砂子屋書房刊 2200円+税

<目次>
地に還るもの 天に昇るもの 10         死の街の夜明け 12
少年 14        校庭 16        おとうと 18
共生 26        冬の前に 28      鴉 32
夕焼 36        終りのとき 38     死ぬときは 40
声 44         荼毘 48        恐怖 52
水槽の中 54      原爆ドーム 58     似の島 62
或る教師への便り 68  夏の響 72       原爆忌 84
空はそらいろ 88
あとがき 91      装本・倉本 修




 
地に還るもの 天に昇るもの

その瞬間
鮮烈な閃光に土の粒子が総立ちした
数えきれない生命が塵となって宙へ消え去った

一灯もない広島に夜ごと星が降る
降りそそぐ星たちは
あのとき飛散した土の粒子
瞬時に消えたもろもろの生命だ
あおく あかく
光を放ち 声を発して
地へ還ろうとする 星
愛する人のもとへ
父の 母のもとへ
我が子のもとへ
生まれ育った大地へ

しかしそのとき
降りしきる星の光に洗われながら
今夜もいくつかの魂が昇天して行く

 14歳のとき広島の爆心地から約1.5kmで被爆した著者の原爆詩集です。瀕死の重傷を負いながらも奇蹟的に生きのびてきたとあとがきにありました。ここではタイトルポエムでもある巻頭詩を紹介してみましたが、不思議な静けさか感じられる作品です。声高に叫ばないことによって、悲惨さがより胸に迫ってきます。〈地へ還ろうとする 星〉というフレーズからは亡くなった犠牲者の皆さんの、〈生まれ育った大地へ〉戻りたいという思いが伝わってきます。しかし〈今夜もいくつかの魂が昇天して行く〉のです。体験者のみが書き得る、死者に思いを寄せた静かな怒りの作品と受け止めました。




詩誌RIVIERE108号
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2010.1.15 堺市南区 横田英子氏発行 500円

<目次>
引出し             泉本 真里(4)  家の声 7            横田 英子(6)
師走から新年へ         石村 勇二(8)  窓枠のない床までの大きなガラス窓 嵯峨 京子(10)
賛歌(福寿草)         小野田重子(12)  鳥のこえ             永井ますみ(13)
イムク・イムク         平野 裕子(14)  帝国主義の死           正岡 洋夫(16)
官舎の庭のヤマモモの木(譚)  河井  洋(18)
RIVIERE/せせらぎ 河井 洋/小野田重子/横田英子/石村勇二/永井ますみ     (20)〜(25)
海峡              立野 康子(26)  春を待つ             釣部 与志(28)
待っている           清水 一郎(30)  オーブについて          内藤 文雄(32)
彼岸花/十一月         藤本  肇(34)  アルディ             山下 俊子(36)
北海道を旅して         後  恵子(38)  ウインク             戸田 和樹(40)
奔放な女            蘆野つづみ(42)  時雨色            ますおかやよい(44)
夢のつづき           松本  映(46)
受贈詩誌一覧               (48)  同人住所録                 (49)
編集ノート           石村 勇二    表紙の写真/嵯峨京子提供・詩/嵯峨京子




 
引出し/泉本真里

開けていくと
入っているものの
色や匂いまで
掴めます

小学校の校庭の向こうには
火葬場がありました
体育の苦手な私は
飛箱が飛べなくて
練習で残されていたのです
火葬場の上空でカラスが鳴くと
肺結核で入院している父が
亡くなったのではないかと
夕暮れていく校庭で
悲しくなったものです

沢山の引出しの中の
数十年前の小学生の頃の場所
その場所では
代わりに母が勤めに出ていて
待ち侘びている三人の弟と私
貧しい暮らしと淋しさで
震えていた私が居るのです

大切に
積み重ねてきた
人生の入れ物
どの場所を開けてみても
鮮やかに思い出していける
私の顔

いまも
日々を畳んで
しまい込んでいく引出し
色や匂いも織り込んで

 私は自分の〈引出し〉でも中に何が入っていたか忘れてしまいがちですが、紹介した詩の引出しには〈数十年前の小学生の頃の場所〉があるので、忘れようとしても忘れられないのでしょう。このフレーズは上手いと思いました。そればかりではなく、作者は〈どの場所を開けてみても/鮮やかに思い出していける〉としています。さらに〈いまも/日々を畳んで/しまい込んでいく〉のですから、作者の引出しの容量の大きさには感心しました。記憶の引出しを巧みに表現した佳品だと思います。




詩誌『鳥』17号
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2010.1.20 さいたま市大宮区
力丸瑞穂氏方発行所 500円

<目次>
 神田川16・神田川17…金井節子 2
  ころびね・メタセコイア…力丸瑞穂 4
  春近し・誰のしわざ・時雨…八隅早苗 6
  立ち飲み屋・職人さんの休憩時間・女船頭さん…倉科絢子 8
  秋からのお知らせ・濃ピンクのカラー・マンション建設中…田嶋純子 10
  生命・さんまの頭が鋭い刃物のように…菊田 守 12
評論 この一篇(9)――村上昭夫…菊田 守 14
エッセイ
  私の好きな詩(3)…力丸瑞穂 16
  私の好きな詩(4)…田嶋純子 18
書評 菊田守詩集『天の虫』…石村柳三 20
小鳥の小径…24
  □八隅早苗  □田嶋純子  □倉科絢子  □菊田 守  □力丸瑞穂  □金井節子
編集後記…27
表紙 西村道子




 
時雨/八隅早苗

どんよりとした昼下がり
夫が
マッサージチェアに身を沈めたまま
転た寝をしている
軽い鼾がとまって
――煮物してるの?
目を覚ました
煮物?
私は先刻
(さっき)から
詩を書こうと机に頬杖を突いている

静まりかえった部屋の外で
知らぬ間に降り出した雨の音
シトシト 雨が敷石に当たって
コトコト 煮える音がする
シトシト コトコト

時間を煮詰めて尚白紙の上に
夫の口からあっさりと吐いて出た
詩の一行を置く

 〈転た寝をしてい〉た〈夫〉が〈知らぬ間に降り出した雨の音〉を〈煮物してる〉音と間違えたという詩ですが、それを遣って〈詩の一行を置〉いたというのは立派です。煮物から転化させて〈時間を煮詰めて尚白紙の上〉とした最終連の第1行がこの詩の命だと思います。〈時間を煮詰め〉るという発想は、台所に立たない男どもには出ないかもしれませんね。タイトルの「時雨」が生きている佳品と云えましょう。






   
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