きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2009.12.7 神奈川県湯河原町・幕山




2010.1.20(水)


 3月3日から8日まで小田原の「ギャラリー新九郎」で西さがみ文芸展覧会が開催されますが、今日は展示作品の締切日でした。私は詩部門の担当で、すでに数人から出品目録を頂戴していますけど、常連の人たちから届いていません。これは締切りを忘れているなあと目星をつけて電話しまくりました。案の定、多くの人が忘れていました。その場ですぐにFaxを送ってくれたり、電話で内容を聞いたりして、どうにか予定の人数に漕ぎつけました。
 それにしても皆さん、意外にお知らせを見ていないんですね。これは西さがみ文芸愛好会に限らず、日本詩人クラブでも日本ペンクラブでも同様です。私だって役員をやっていない団体のお知らせをちゃんと見ているかというと、怪しいものです。どうしてそうなるのか、誰か社会心理学的にでも解明してくれないかなあと思います。もっとも、団体の運営者の言っていることを一字一句間違わないように聞いているというのも、それはそれで怖ろしい光景ではありますが…。「忘れた、ごめん!」と言ってくれている方が団体としては健全なのかもしれませんね。




季刊詩誌『天山牧歌』86号
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2010.1.10 北九州市八幡西区 天山牧歌社発行 非売品

<目次>
(訳篇)現代アフリカの詩…秋吉久紀夫訳
 モザンビーク リリノー・ミカイア
   ほんとの愛のうた…2            ぼくの祖母を思い出す…5
(詩篇)
奄美大島の毒蛇ハブ…秋吉久紀夫 8        伝統とは…稲田美穂 10
橋・順番…高橋英夫 12
世界文学情報…11 身辺往来…14  受贈書誌…14  編集後記…16




 
奄美大島の毒蛇ハブ/秋吉久紀夫

紺碧に輝く海と極彩色のアダンの花。
島に入って、先ず驚嘆したのが、
時計の針が止まってしまったかのような
静けさが支配する亜熱帯樹林と、
そこに生存する生物たちであった。

島の中央に広がる金作原原生林には、
いまだ見たことのない羊歯
(しだ)や、
ヒカゲヘゴが大手を広げて自生し、
深い森の樹林の間からは、
アマミノクロウサギが眼を輝かせている。

奄美には古来「ネリヤカナヤ」という
ことばがあるが、それは
「海の彼方に住む神々の楽園」という意味。
だが、この島を巡って
もっとも戦慄
(おのの)いたのは毒蛇のハブ。

ただでさえ、蛇は身の毛もよだつが、
毒をもつ蛇となれば。まして
頭が三角形で体長二メートルにも及ぶ
淡褐色の奄美の毒蛇ハブは、
上顎に猛毒を含み、噛まれると

立ちどころに神々の住む館に入るという。
ところで、なぜそれほどまでに
獰猛になったのか、必ずやかれらも
かつて為政者に過酷に苛
(いじ)められ、
その記憶が蓄積し習性となったのでは。
              (2010・1・9)

〈奄美大島〉には行ったこともなく、ましてや〈毒蛇のハブ〉も見たことがないのですが、この詩は〈ところで、なぜそれほどまでに/獰猛になったのか〉という視点がおもしろいと思いました。もちろん〈かつて為政者に過酷に苛められ〉たのはハブではなく人間なのでしょうけれど、それを言わずにあくまでもハブが、としたところがこの作品を詩たらしめていると思います。こういう書き方もあるのかと勉強させられました。




月刊詩誌『柵』278号
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2010.1.20 大阪府箕面市
詩画工房・志賀英夫氏発行 572円+税

<目次>
現代詩展望 アカデミックへの敬意と憧憬 沢田敏子『女性たちの大学院』をめぐって…中村不二夫 82
戦後史の言語空間 続・(1) ニューギニア戦‥‥砲撃…森 徳治 86
流動する今日の世界の中で日本の詩とは(60) 「マノリティ」から「列島」 日本の詩の国際化の未来…水崎野里子 90
風見鶏 かしわらさとる 壷阪輝代 斎藤正敏 新田泰久 柳沢さつき 94
現代情況論ノート(47) ナポレオンのダイナイト…石原 武 96

名古きよえ 消しゴムのような夕日 4    中原 道夫 初夢 6
江良亜来子 海と富士山 8         南  邦和 残照 10
肌勢とみ子 父のように 12         山崎  森 Y氏の近況より 14
松田 悦子 街角 16            進  一男 小さな砂浜 18
柳原 省三 落ちる 20           小沢 千恵 追憶 22
平野 秀哉 神在月 24           黒田 えみ 歩け 歩け 26
佐藤 勝太 朋友たちの墓標 28       小城江壮智 悔悟 30
長谷川昭子 石榴 32            小野  肇 オールド 34
織田美沙子 ピンクの送迎車 36       北村 愛子 にこにこしなきゃあ あかんなあ 39
笠原 仙一 遺言 42            森崎 昭生 色彩考 鈍色 46
月谷小夜子 一葉 48            中林 経城 対岸から 50
秋本カズ子 夜盗虫 52           赤嶺 盛勝 秋の日差しは柔らかくて 54
水木 萌子 最後の手紙 56         門林 岩雄 秋 しみることば 58
西森美智子 孟蘭盆会 60          鈴木 一成 無柳を慰める 62
米元久美子 ありがとう 64         八幡 堅造 悶々・淡々 66
安森ソノ子 和泉式部の霊と 68       北野 明治 想像的会話 70
今泉 協子 さんま 72           若狭 雅裕 立春 74
野老比左子 ロンドンの木鶏 76       前田 孝一 疲労 78
徐 柄 鎮 農村風景 80

世界文学の詩的悦楽−ディレッタント的随想(44) 「台湾詩集」より思考の描くイメージの結実…小川聖子 98
現代アメリカ韓国系詩人の詩(11) 美しいイバラの花 ヤン・ホ・パーク…水崎野里子 102
世界の近代詩人の横顔(1) ハイネ ヴェルレーヌ イエーツ…佐藤勝太 104
映画逍遥(1) ルキノ・ヴィスコンティの『山猫』…三木英治 108
「柵」の本棚 三冊の詩集評…中原道夫 110
 木村恭子詩集『六月のサーカス』110 清岳こう詩集『風ふけば風』111 宇宿一成詩集『固い薔衝』113
受贈図書 114  受贈詩誌 115  柵通信 116  身辺雑記 118
表紙絵 中島由夫/扉絵 申錫弼/カット 野口晋・申錫弼・中島由夫




 
消しゴムのような夕日/名古きよえ

その日の夕方
ビルの斜面は 夕日に照らされていた

なぜか小さく見える人々
細い木の枝のように私も
夕日を眺めていた

人だけが夕日を見るのではないだろう
サルやシカ 川で魚を捕っていた鷺
向こうへ逝った人たちも
夕日を眺めるだろう

昼のひと時
電線を張り巡らせたように
言葉が空を塞いだ

言葉で人を傷つける人がいた
性ない言葉で 人を名ざしで批評した
人の心は言葉に弱い

多くの人は触れば怪我をするとでも言うように
静かだった

赤い夕日は 街の上だけでなく
獣も人も一様に照らし
永遠のように
美しく
またね あしたと心を温める

怒った人も 泣いた人も眠るだろう
その夜 息を引き取る人もあるだろう

一刻一刻なんて
忘れて

 佳いタイトルだなと思います。〈昼のひと時〉は〈言葉が空を塞い〉でいたけれど、消しゴムのような〈赤い夕日〉が〈美しく〉〈心を温め〉てくれる、と採りました。最終連の〈一刻一刻なんて/忘れて〉というフレーズは、〈人の心は言葉に弱い〉ことも忘れさせてくれて、かつ、夕日が落ちる様も見えて、見事です。〈消しゴムのような夕日〉という詩語は将来に遺るかもしれませんね。




詩誌『現代詩図鑑』第8巻1号
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2010.1.1 東京都大田区 ダニエル社発行 600円

<目次> 表紙画「ハレルヤ」・・・・来原貴美
小林弘明・・・岩成詩学について・・・・・・・2
.   北野 丘・・安英晶詩集『虚数遊園地』評・・・8
高木 護・・・なんだろう二篇・・・・・・・・12   村野美優・・草はら/見知らぬ花・・・・・・・15
広瀬大志・・・現世紀[帰路]・・・・・・・・20   高澤靜香・・七回転木馬・・・・・・・・・・・23
山之内まつ子・神話・・・・・・・・・・・・・27   布村浩一・・窓の外・・・・・・・・・・・・・30
坂多瑩子・・・理想の町/ネコ・・・・・・・・33   若狭麻都佳・インフィニティーズチャイルド・・38
新延 拳・・・Quo Vadis・・・・・・42   岡島弘子・・黒いカワセミ・・・・・・・・・・47
有働 薫・・・まぼろし・・・・・・・・・・・50   森川雅美・・(わたしたちは人間の屑)・・・・・52
倉田良成・・・かよふ千鳥の・・・・・・・・・56   枝川里恵・・浜木綿のうた・・・・・・・・・・60
佐藤真里子・・太陽が欠けた日に・・・・・・・64   北野 丘・・棒杭・・・・・・・・・・・・・・67
松越文雄・・・がり版印刷・・・・・・・・・・71   眞神 博・・心が明らかになるとは何か・・・・75
神原芳之・・・鵜飼忌・・・・・・・・・・・・79   小野耕一郎・鳥の囀り・・・・・・・・・・・・82
あさのたか・・ワタシと夏こもごも・・・・・・85   原利代子・・虎よ 今夜は・・・・・・・・・・88
橋渉二・・・帰りなさい・・・・・・・・・・92   荻 悦子・・振り子・・・・・・・・・・・・・97
北川朱実・・・伊良湖・・・・・・・・・・・・103
.  阿賀 猥・・海に沈む/スタン・ノーフォーク・107




 
なんだろう二篇/高木 護(たかき まもる)

  本物

本物とはなんだろう
ニセ物ではない物を本物というのだろうか
このわたしも確かにわたしだから
本物に違いないにしろ
それはわたしだけのことで
他人には本物だという証明が必要だとしたら
わたしよりも
証明書だけが本物ということにならないか

  大物

大物とはなんだろうか
勢力や能力を持った人たちだけを
大物といわないで
ユーモアでいいから
図体の大きい人やふぐりの大きい人を
そのようにいって上げれば
世の中は明るくなってくるだろう

 高木さんの詩は日常の中から意外な視点を見せてくれて、いつも楽しみにしているのですが、今回も期待は裏切られませんでした。〈本物とはなんだろう〉、〈大物とはなんだろうか〉と考えたとき、〈証明書だけが本物〉だったり、〈図体の大きい人やふぐりの大きい人を/そのようにいって上げれば〉いいじゃないかと提示され、うん、その通りだねと思ってしまいます。ここには権威に寄りかからない〈本物〉の、〈大物〉の姿勢があるように感じました。






   
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