きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2009.12.7 神奈川県湯河原町・幕山 |
2010.1.21(木)
天童大人さんプロデュース「La Voix
des poetes(詩人の聲)」の第441回に渡辺宗子さんが初出演するというので、京橋の「ギャルリー東京ユマニテ」に行ってきました。渡辺宗子さんは札幌在住。日本詩人クラブの地方大会には何度もご出席になっていて、その縁もありますし、主宰の詩誌『弦』も毎号いただいています。なにより札幌からわざわざおいでになるのに、観客が少なかったら申し訳ないなという気持ちです。まあ、枯れ木も山の賑わいで拝聴してきました。
写真は天童さんと。この企画は通常60分で終わることになっていて、出演者は途中で水など飲まないようにと指導を受けているのですが、渡辺さんは何度も水を飲んで、80分も声を出して、アレアレと思っていました。終わって天童さんが説明するには、途中で水を何度飲んでもよい、時間も大幅に超過してよいから思い切って声を出してごらんなさい、と言ってあったそうです。それで納得しました。わざわざ札幌からの初参加に、余分なことを考えずにともかく声を出すことに専念しなさい、ということだったのですね。
渡辺宗子さんの作品は、詩集もいただいていますし、毎号の『弦』で拝読しているのですが、正直なところ私は苦手でした。抽象的で固い言葉が多いのです。しかし、今日はじめて渡辺さんの声を聴いて考えを改めました。聴いていると言葉がどんどん頭に入ってくるのです。抽象的な言葉も固い言葉も、耳から聴く分には何の違和感もありませんでした。これが文字を追う詩と耳で聴く詩の違いかと驚きました。これは昨年暮に西野りーあさんの朗読を聴いたときも感じたことなのですが、文字を追うだけではダメなんだなとつくづく思います。その面でも貴重な一夜でした。渡辺さん、天童さん、気づかせてくれてありがとうございました!
○進一男氏詩集 『小さな私の上の小さな星たち』 |
2010.1.10 宮崎県宮崎市 本多企画刊 非売品 |
<目次>
小さな私 15 小さな星たち 16 詩のこと 17 何奴(なにやつ) 18
生きる 19 生の中で 20 ある生 21 脳の中に 22
顔 23 さすらい 24 人間大好き 25 母 26
歩く 27 足音 28 待つこと 29 彼方 30
小路 31 中折帽(1) 32 中折帽(2) 33 私 34
少女 35 子どもの問 36 便り 37 道化たち 38
黒い部屋 39 飛ぶ 40 夢と現 41 相反 42
夢 43 泉 44 追憶 45 ラムプ 46
光と闇 47 幼年 48 汀 49 赤い岬 50
子どもたち 51 囁き 52 芙蓉 53 木枯らし 54
ワーレニカ 55 雨 56 風 57 海 58
魚の死 59 海辺の墓地 60 空 61 星空 62
天 63 声 64 時代 65 苛酷な時 66
若い日のノート 67 時 68 明笛(みんてき) 69 あの時 70
その時 71 何を私は 72 夜 73 来たるべき時 74
その日まで 75 あれから 76 ヒューマニズム 77 生の軌跡 78
チェーホフ 79 あの年月 80 ドストエフスキー 81 地上 82
雨曇り 83 探す 84 路上 85 走る 86
散歩路 87 面影並木 88 地虫 89 道の辺 90
世の中 91 友の便り 92 原生林 93 あなた 94
香 95 指 96 塵塚 97 バラバ独白 98
二人の若者 99 物語 100. その人 101. 挿話 102
優しさ 103. その人と 104. 不安 105. 誰ですか 106
道を行く 107. 影絵 108. その後のバラバ 109. 小さな丘 110
見ること 111. 見つめる 112. 一日未来 113. 光 114
太陽 115. 音 116. 薔薇の家 117. 園 118
片隅から 119. 楽園 120. クロトン 121. 花のこと 122
彼 123. ギロギロギロ.チン.124.亡き母との対話 125. ある男 126
鏡 127. 別れ 128. 小鳥の死 129. 小鳥たちの国 130
母を想う 131. さよなら 132. 外部へ 133. 水夫と商人 134
詩人 135. 薔薇 136
制作年月日 139. あとがき 141
小さな私
風 しぶく中で ぽつり
彼は 言った 揺れながら
生きる ことは
生きねばならない ことなのだ
小さな星たち
有るか無いか定かでない
たまに密かに点滅する
かすかな光
私はここに在ります
すべての作品が3行から10行の短詩で編まれた詩集です。あとがきでは〈いろいろと書いていると、どうしても短い詩を書きたくなる〉〈実を言うと私は断片・覚書が好きである。だから自分の書く短い詩が単なる断片・覚書であるとしてもそれはそれでいいと思っている。もしもそれに多少なりとも詩の核みたいなものが秘められているとすれば、なおのこと、それでいいと居直った感じでさえある〉と書かれていました。ここではタイトルにしたと思われる冒頭の2編を紹介してみました。〈生きる ことは/生きねばならない こと〉という詩語に魅了されます。短詩は詩の核を端的に示すものなのかもしれません。
なお、97頁の「塵塚」の塵は草冠が付いています。きれいに表現できないので省略しました。ご了承ください。
○詩誌『阿由多』11号 |
2009.12.25
東京都世田谷区 500円 窪田房江氏方連絡先・阿由多の会発行 |
<目次>
阿吽 成田佐和子 4 空・天高く 冨成美代子 6
青の時代(ピカソ四) 野邑 栖子 8 ローソク島−島根県隠岐− 風里谷歌子 10
兄への鎮魂歌 前田 嘉子 12 短詩二題 宮本 智子 14
草原の中で 大内 清子 16 紫陽花 小関 秀雄 18
五月のパティオ 小川 淳子 20 小さなかけら 窪田 房江 22
けむりは海の色 関 和代 24 七回目の春(七歳のせつなへ)前田 一恵 26
草の実 近藤 明理 28 ねこみち さとうますみ 30
つゆ草 早川 通子 32 ガンジス河へ 田井 淑江 34
雲霞 志田 道子 36 ロンドンのホテルの部屋で 山田 玲子 38
心の奥の目で 中村 泰治 40 雨の向こう側 高梨 早苗 42
Cadenza 田中 聖子 44 うす青 新川 和江 46
あとがき 同人住所録 表紙篆刻文字 成田佐和子
海のお天気/宮本智子
低い雲がたれこめて
水平線が見えない日には
浜べの砂は
ぎゅっと
海のはしっこをつかんでいる
海が空に するすると
すべりこんでしまわないように
海と空がまざりあって
あした
気の荒い波がしらが
空をかけめぐったりしないように
短詩二題と題されたうちの1編を紹介してみました。私個人としては渚をいかに表現するかを昔から考えてきましたけど、〈浜べの砂は/ぎゅっと/海のはしっこをつかんでいる〉という表現には、マイリマシタ。なぜ〈海のはしっこをつか〉むかという理由が第2連に示されていますが、〈気の荒い波がしらが/空をかけめぐったりしないように〉するためだというのですから、納得させられます。この詩はメルヘンを装いながら、実は世界の秩序を謂っているのだと思います。もちろんそれには人間社会も含まれていて、他国への侵略も念頭に置いていると言ったら考えすぎでしょうか。〈海のお天気〉は“世界のお天気”でもあるのだろうと感じました。
○季刊『詩とファンタジー』10号 |
2010.3.1
神奈川県鎌倉市 かまくら春秋社発行 1000円+税 |
<目次> 記念特大号 表紙絵・やなせたかし
[やなせたかしの詩と絵] バッタ…4 キュン…6
特集 子どもって不思議
子どもって何? 日野原重明 絵・内田新哉…8
男の子って 角野栄子 絵・味戸ケイコ…10
知らないって事… 竹中直人 絵・スズキコージ…12
ママ、知ってる? 加藤登紀子 絵・岩崎千夏…14
こどもは霊能者 柳田邦男 絵・安西水丸…16
コウノトリのくちばし 中井貴惠 絵・伊藤正道…18
水の歌 長田 弘 絵・高橋幸子…20
九〇センチのちっこいにんげん 本上まなみ 絵・メグホソキ…22
子どもって不思議? 谷村新司 絵・建石修志…24
執筆者のひ・と・こ・と…26
2008−2009 詩とファンタジー賞発表! 詩部門…28 イラストレーション部門…30
[ファンタジー]
海のファンタジー 人魚の卵 星野智幸 絵・松永禎郎…51
風のファンタジー 草の海 蜂飼 耳 絵・後藤貴志…81
[対談] 「われら漫画家!」 里中満智子×やなせたかし…93
[シリーズ 少女だったとき 少年だったとき]
奔放の思い出 阿川佐和子 絵・矢吹申彦…98
少年老いやすく 石原慎太郎 絵・寺門孝之…100
詩とイラストレーション
ひこうきのりになりたいな いしだきみか 絵・宇野亜善良…32
海の色 河合彰子 絵・黒井 健…34
大根おろしと大根役者 吉田茉莉子 絵・峰岸 達…36
ハートレンジ 夜神楽 絵・山口はるみ…38
やなせ兎賞
雨の日には絵本を 典子 絵・網中いづる…40
悲しみと僕 クララ・ネスキー 絵・藤本 将…42
いろのうた やまねひろこ 絵・小池アミイゴ…44
規格 小林俊英 絵・倉部今日子…46
絵本 宮せつ湖 絵・水上多摩江…48
影遊び すみれこみち 絵・梅川紀美子…56
モグラの眼鏡 山本真二 絵・北村 人…58
やさしい休日 星野健太 絵・雨宮尚子…60
手紙 山口理々子 絵・小太刀克夫…62
拝啓… いとうちーこ 絵・葉 祥明…64
未来 輝 美和 絵・下谷二助…66
つぶやき 席 夏蓮 絵・アンディー・バーガー…68
オナモミ 咲いた 絵・小谷智子…70
なめくじ 五十嵐容子 絵・北見 隆…72
[歯とファンタジー] キューマルのしあわせ やなせたかし…74
[こころの交換詩(2)] つよいおねえちゃんになりたい。 日下 遥…76
[とおい国からの手紙] 絵・田沼利親、東 千代…78
[イラストレーション公募] イラストレーション入選作発表…87
[足みじかおじさんの旅] 第一話 チカコ平和賞 やなせたかし…96
[星屑ひろい] 絵・渡辺リリコ…102
[ほんの三行詩] 絵・なみきたけあき…104
[お便りのコーナー]…105
[執筆者・画家プロフィール]…106
[編集室だより]…108
[表詩記/編集後詩] やなせたかし…108
ママ、知ってる?/加藤登紀子
二番目の娘がまだ保育園に行ってたころ。
お風呂の中で教えてくれた。
「ママ、知ってる?
大きな魚は 小さな魚を食べている。
小さな魚は もっと小さな魚を食べている。
小さな魚は、
もっともっと小さな魚を食べている。
もっともっと小さな魚は?
プランクトンを食べている。」
娘は大得意!!
「プランクトンなんか知っているんだ!!」
私も大得意。すると、
「プランクトンは何を食べてるか?」
娘が叫んだ。私はちょっと困った。わからない。
「そうだ。プランクトンは水を食べてる」
と、私が答えた。
「じゃあ、水は何を食べてるか?」
また娘が言った。
「ええっ? 水は何を食べてるかって?」
私はすっかり困った。
すると、
「水はお陽さまを食べてる!!」
娘がうれしそうに大声で言った。
またある時、雨の中を歩いていた。
「雨が涙のように降ってるね」
私が言った。さすが詩人でしょ?
ところが
「雨は涙じゃないよ」
と娘が言い返す。
「だって雨は冷たいけど
涙はあったかいもん!!」
「特集 子どもって不思議」の中の1編です。これに解説を加えるのはヤボというものですが、それでも〈水はお陽さまを食べてる!!〉という言葉はすごいなと思います。水中の植物性プランクトンの光合成は、まさに〈お陽さまを食べてる〉と言えるでしょうね。〈雨は冷たいけど/涙はあったかい〉という言葉も単に温度だけではなく、精神へと転化させています。喩の転化は詩作の中でも難しいところだと思いますが、〈娘〉さんのしなやかな感性が何の苦もなく乗り越えていることに感心しました。