きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層 |
2010.2.2(火)
久しぶりに横須賀美術館に行ってきました。2年前に行ったときは企画展のアルフレッド・ウォリスが目的だったのですが、今回は常設展の萬鐵五郎や李禹煥をじっくり観たいと思っていました。企画展は横須賀市内の「児童生徒造形作品展」でしたから、まったく期待していなかったのです。ところが…。これが実におもしろいものでした。市内のすべての幼・小・中・高・ろう・看護学校の子どもたちが日頃の授業で創りあげた約3000点の作品、と銘打ってあり、その量には圧倒されました。量ばかりではなく、特に中学生、高校生の作品は素晴らしかったですね。若い感覚と技術力の高さには脱帽。思わぬ拾い物をしたという感じでした。生徒のおじいさんやおばあさんでしょうか、普段は美術館に無縁というような人(失礼!)も多く訪れていて、それもなかなか良い雰囲気でした。
写真は併設されている「谷内六郎館」から見た東京湾。赤い貨物船が印象的でした。今回は時間の余裕がありましたので、屋上広場や山の広場を散策して、海の広場の鉄の彫刻《ヴァリーズ》もじっくりと観てきました。天候は曇りがちながら時折強い陽射しもある、まあまあのお天気。海の見える美術館を堪能してきました。
○一人誌『粋青』60号 |
2010.2 大阪府岸和田市 後山光行氏発行 非売品 |
<目次>
詩
○――――海−地中海(9) ○―――――青い蜻蛉(10)
○――タイプライター(12) ○―――――――人生(14)
○――――――十月桜(18) ○―――――――萩花(19)
スケッチ (8)(17)
エッセイ
●中 正敏詩論 孤高に自由を編み込む詩人(8)(4)
●絵筆の洗い水【36】(16)
●舞台になった石見【50】詩人 栗原貞子(20)
表紙絵:93年8月 台湾 高速道路にて
タイプライター
すっかり忘れていた小型のタイプライターが
押入れの奥から出てきた
昭和四十二年か三年
私の給料一ヶ月分より高価だった
B社製のタイプライターを買った
手動でパチンパチンと音がする
英単語をそしてスペルを覚えなければと
自己流で打ち始めたタイプだから
コンピューターがこれだけ普及しても
五本の指は使えない
しばらくしてから海外の仕事をするようになって
会社にもまだタイプライターが無かったから
会社に持ち込んで使用したこともあった
あれから
私の住む家もいくつか変わり
家に帰ってまでも使ったこともあったが
いつしか押入れに入れてしまった
何時のことだったか記憶に無い
私を助けてくれたものを
今捨てようとしている
私が社会の仕組みから外されて
不要と言われたように
今私はお前を不要と
処分しようとしている平成二十一年暮
そういえば〈昭和四十二年か三年〉頃は〈タイプライター〉を使っていましたね。私の場合は自分で買ったのではなく、職場に備え付けのものでしたが、オリベッティ。たしか正式にはオリベッティ・バランタインだったように思います。〈B社〉とはそれかもしれません。作品は最終連の〈今私はお前を不要と/処分しようとしている平成二十一年暮〉がよく効いています。特に〈平成二十一年暮〉としたことで〈昭和四十二年か三年〉との差異を考えさせ、〈タイプライター〉に限らず、その間に私たちが〈今捨てようとしている〉もののあれこれに思いを巡らす効果を与えたと思います。しみじみとした余韻を感じました。
○詩とスケッチ画集『窓枠のない風景』3号 |
2010.2 大阪府岸和田市 後山光行氏発行 非売品 |
<目次>
絵(スケッチ)&詩
シンガポール・テキサス 4 釜山・クアラルンプール 5
ジャカルタ・バンコック 6 エッセン・シカゴ 7
バンコック・中国山脈(島根側)・ジャカルタ・豊原 8 大阪(岸和田)・ハノイ・クアラルンプール・北京 9
★ 自画像(2)(昭和57年・1982年発表) 10
グアダラハラ 11
★ 異文化世界から 12
クアラルンプール 13 大連・シンガポール 14
シカゴ・ソウル 15 バンコック・ニューデリー 16
マニラ・ソウル・プネ・シンガポール 17 ソウル・インディアナポリス・台北 18
★ 旅の途中で(平成元年・1989年発表) 19
マニラ・中国山脈(島根側) 20 ハンブルグ・台北 21
あとがき
表紙絵:96年7月 ベトナム ホーチミンにて
旅の途中で
夜景のきれいな町
視界のなかで小さなひかりが動く
二十度くらいの角度で飛び立つものがある
そんな風景を目前にして
ひとりだけの夕食の時をすごす
どこへも行きそびれて
スカイラウンジの豪華な雰囲気のなかに
席をたずねてみたのだ
旅の途中
せめて少しだけ一流の雰囲気を味わいたいと
読めない外国語のメニューに
手ごろな金額のものを注文する
旅のおもしろさ
だと ひとときを過ごしてみる
田舎育ちの私が
次元の異なる世界に入り込んだように
淋しくなる
そこにたたずむ
(平成元年 「月刊近文」6月号)
150回ほどの海外出張を重ねたという作者の〈旅の途中〉の一齣です。〈せめて少しだけ一流の雰囲気を味わいたい〉というような〈旅のおもしろさ〉はあるのでしょうが、そこには〈淋しくなる〉ものもあるわけです。その淋しさを〈田舎育ちの私が/次元の異なる世界に入り込んだよう〉だとしたところに、詩人としての矜恃を感じました。私の出張は国内に限られていましたが、それでも一人旅のおもしろさや淋しさを思い出した作品です。
○文芸誌『礁』13号 |
2010.1.31
埼玉県富士見市 礁詩社・穂高夕子氏発行 非売品 |
<目次>
詩作品
きぬがけの道/濱 泰雄 2 空洞の眼/濱 泰雄 5
目覚め/佐藤 尚 6 山へ/佐藤 尚 8
踏切り/穂高夕子 10 河口/穂高夕子 13
俳句 寒蝉(法師蝉) 川端 実 16
エッセイ
平成生き者奇談(11) 俳句と短歌/川端 実 17
平家物語の世界(8)−木曾義仲の功罪(一)−/川端 実 18
またもクリスマスがやってきた −クリスマスよもやま話−/秦健一郎 24
私の読書日記 −まどさん−/穂高夕子 30
作品 いづくんぞ死を知らんや 中谷 周 34
編集後記…40
表紙デザイン 佐藤 尚
踏み切り/穂高夕子
−安齋洋『開かずの踏み切り』によせて−
何がやってくるのと
鉄塔にぶら下がったなまけものの
丸い目が少年に訊いている
なかなか踏み切りは開かない
少年の横に すでに
多くの生き物が到着し
横幅いっぱいに並び始めた
この世界に生きる
いのちを持った者達が
南から 東から
極地から 砂漠の地からやってくる
少年と肩を並べ
それなりの声で
あいさつをし始める
もうどれ程経過しただろう
道の後ろまで 生き物が詰まり始めた
あらそうこともなく
種の中から一つだけ選ばれた
理知的な容貌は
代表者の誇りにはにかんで
静かな時間を共有している
あと どのくらい
共にこの星に生き続けることができるのか
少年の清潔な目が
時々腕の時計を見るが
多分時計でははかれない
踏み切りの棒(バー)に
羽を休めているオウムにも
やってくるものはわからない
先頭に立っている少年の
Tシャツの水色が
空のように 海のように
全てのいのちを抱えている
この少年になら 全てを託せる
〈安齋洋『開かずの踏み切り』〉という絵に刺激されて書かれた作品だろうと見当をつけて、ネットで調べてみましたら出てきました。まだ若い絵描きさんのようです。このタイトルの絵も見ることができました。この詩に書かれた通りの絵です。
絵に刺激されて出来た詩というのは意外に多いのですが、そのほとんどはあまりおもしろくないと感じています。それは、絵の説明に終始して、絵を超えることが少ないからだろうと思っています。紹介した詩もその危険性を孕んでいますけど、最後の1行で超えたました。この1行で詩になっていますし、おそらく若い絵描きさんの思いと同じなんではないでしょうか。いや、絵描きさんの思いすら超えたのかもしれません。絵と詩の新しい関係をも見たように思った作品です。