きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.1(月)


 昨日は弟の家で呑み過ぎたみたいで、今日は一日中きもちが悪かったです。日本酒の適量は3合までと決めているのですが、途中で気がついたときは一升瓶の半分が空いていましたから、かなり呑んだんでしょうね。最終的に何合呑んだのか分かりません。夕方まで本を読みながら寝て、読んでは眠ってのくり返し。お陰でHPは一日も進みませんでした。この歳になってもまだそんな呑み方をするのかと、海よりも深く反省するばかりですが、まあ、たまにはいいかあ、、、って、反省してないじゃん! 開き直って骨休みの一日としました。




池澤秀和氏詩集『奏葉』
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2010.2.7 東京都葛飾区 詩区かつしか刊 非売品

<目次>
 
T
われもまた… 8     夏・陽炎 11       たちばなもどき 14
実の果てに 17      あじわい 20       線引き 24
日脚と脚力 27      奏葉 30         裸木 35
日の出 さがして―― 38
 
U
まいご 44        交差点 47        横線グラフ 50
――つもり‥でも‥ 53  風圧 56         梅雨の履歴 59
剪定 63         漢数字“三”の呼吸 66  消息 69
わたり 72        還流 75         薬味 78
 
V
身の丈 84        背面からの… 87     加減乗除 90
食欲の内と外と溜飲と 93 片々 96         いま鳴るベルは…
 100
脈々と… 103
.      風 渡る里 106.     かぜを頭に ながれを胸に… 109
列島 112
.        通知 117.        手書き 120
問いかけられて…
.123
あとがき 126




 
奏葉

問わず語りに ひと なつっこく
うらも おもても うちも そとも
かくさずに はなしかけてくる

うら おもて ひかりに
あわせるものらとも
ともにうごき なじみながら
どこかちがう 手足のうごき

捨てられた陰まで
押し付けられている 様子
負の伝承は 優しさのなかに
つじつまを合わせていく

一筋縄が 三重だったり
自転が 他力だったり
まことしやかな うそ だったり
ちかごろ よくきく うらおもて

 ことしの こがらし一号も11月1日に
 やってきた
 例年よりも ずうっと早くやってきた

ひぐれも 速まるころ
おりおりの 負荷にそまり
肩や ふところに
ふりかかる

   U

銀杏並木の奏葉も おわりに近く
木漏れ日が ふえる度に
敷き延ばす 表情のゆたかさ

すでに 透視画像の 骨格はゆれ
五感を ひらき
足もとから まっすぐに つづく
未知の果てに
そらの かなたに――

明日への序章に 土の色はみえない
日々 厚みを増し
余光とともに 話しかけ
残り葉は 風もないのに
肩先に ことばをのこす

散りはじめから ずうっと つきあい
もう ひと月近いだろうか
饒舌だった語らいも 今日は袋に詰められ
道の 両脇につまれている

作業する 人たちの 五本の指 二本の手
その先で 器用に動く熊手の先が
地表を変え 地肌の感触ももどってくる

あの弾力のあった 足裏の感触が
耳に優しく 口当たりのいい
まつりごとの ことばと
脈絡もなく 結びついていく
                  08・12・20

 8年ぶりの第2詩集です。ここではタイトルポエムを紹介してみました。浅学にして「奏葉」をどう読むのか分からないのですが、意味は〈銀杏並木の奏葉〉から“奏でる葉”だろうと思います。銀杏の葉を〈うらも おもても うちも そとも/かくさずに はなしかけてくる〉、〈透視画像の 骨格〉としたところがおもしろいと思います。おもしろいだけではなく、〈まことしやかな うそ だったり/ちかごろ よくきく うらおもて〉、〈口当たりのいい/まつりごとの ことばと/脈絡もなく 結びついていく〉と、人間社会への批評もたしかな作品だと思いました。
 なお、本詩集中の
「線引き」「まいご」「横線グラフ」「薬味」などはすでに拙HPで紹介しています。初出から改訂された部分もありますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて池澤秀和詩の世界をご鑑賞ください。




詩誌『環』135号
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2010.1.31 名古屋市守山区
若山紀子氏方・「環」の会発行 500円

<目次>
加藤 栄子  しあわせ村 2        東山かつこ  アキアカネ 4
神谷 鮎美  おすねこ 6         若山 紀子  日だまり 9
さとうますみ 年老いたピアノ 11      高梨由利江  ひょっとして 14
安井さとし  猫語 16
<かふえてらす> 19
東山かつこ 安井さとし 加藤栄子 神谷鮎美 さとうますみ
<あとがき> 若山紀子 23
表紙絵 上杉孝行




 
ひょっとして/高梨由利江

店のドアを
チリンと鳴らして
冷たい空気と一緒に入ってくる人は
厚い上着を脱ぐと
隠していた触手を一度に広げる
  お客さん どちらの惑星から?
やわらかい触手は傷つきやすいので
すれちがう人にもふれないように
やっとここまでたどりついたのだ
  地球人のふりをするのは疲れる
耳を隠したり 口を隠したり
ここのお客さんはみんな異星人
隠しているものは みんなそれぞれだから
それぞれの
帰れない星を想うひとときを
コーヒー一杯分の時間に沈める
わたしは といえば
たった二本の手でいれたコーヒーを出しながら
隠した他の手を ここでは見せない
  地球人のふりをするのが疲れるなら
  地球人だと思いこめばいい
  いつか隠していたものを忘れてしまうかもしれない
店のドアを
チリンと鳴らして
冷たい空気の中へ帰る人の背中を
聞こえない声で押す
ひょっとして
地球上に ほんとの地球人なんて
もういないのかもしれない
そして ドアが閉まる

 〈ひょっとして/地球上に ほんとの地球人なんて/もういないのかもしれない〉というフレーズにドキリとさせられます。私たちは親や兄弟、友だちなどを昔から知っていると思っていますが、本当にそうだろうか…。〈異星人〉ではないと言い切れるのだろうか…。そもそも自分が〈地球人〉であることさえ忘れています。忘れているから他の星の人のことまで考えが及ばないでしょうね。それを展開させると、実は地球の上の他の生物について考えが及ばない、ということになるのかもしれません。作者の意図とは外れるかもしれませんが、そんなことまで考えさせられた作品です。




詩誌Void24号
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2010.1.30 東京都八王子市 松本氏方発行所
500円

<目次>
『詩』
火をつくる丘…浦田フミ子 2         ラ・プリエール…森田タカ子 5
take me out to the?…飯島研一 8
『詩集』同人評「かぜがやってきた」…飯島研一 10 松方 俊 16 森田タカ子 12 浦田フミ子 18 小島昭男 14
『詩』
悲の器…松方 俊 19             寅年…小島 昭雄 22
ニュードーン…中田昭太郎 24         ピース…中田昭太郎 27
後記…森田タカ子・中田昭太郎・小島昭男・松方 俊 28




 
悲の器 Kに/松方 俊

町の北のはずれ
暮らしそのもののように蛇行しながら川は流れていた

汚れた土鳩が河原の上を旋回しては
川岸のテトラーポッドの 失われた時の上に休み
真鴨たちは それでも
流れに写る遠い空を啄んでいた

堤防ぎわの
少し傾いた建て付けの悪い印刷所
朝帰りの夫を罵る女房の大蒜臭いヒステリックな声が
いつものように階下から聞こえて来る

聞き慣れた声のなか
二階の部屋で独りタイプライターを打つ
安い賃金でいつも遅くまでの残業に疲れていた
束髪に結い 黒のタイトスカートの似合う三十路を過ぎた
その女は

赤子を背負った市役所勤めの男の妻に
堤防に呼び出され詰られたりしていたが
男が放さず別れられない儘 月日が経ち
胃の癌を病むと一人寂しく亡くなった

若い日々からの月日には
木洩れ日の温もりに夢を見た日もあったろうが
死の床に不実な男は訪れず
哭いてくれる人は母をおいて誰もいなかった
(信ずるものが無かったとしても女には神か仏の恩寵はなければならない)

残された片親に 頭を下げ悔みを云ったのは
一駕籠の果物を提げた
酷使してきた小太りの半島生まれの雇い主だけだった

淫雨が河原を濡らし
土鳩の群も見あたらない日
印刷所の女房が 辺りを気にもせず
流れに芥を捨てる姿が見える

幾つもの小さな花といえない花をつけた
流れに沿って咲くたくさんの荒地野菊が
瀬音につつまれ雨のなか光って見えた

Kよ
昨日街なかでおまえに似た後ろ姿を見かけたが
戦死した兄さん達に逢えたのだろうか
今日も 夕焼けに染まって
おまえが好きだった河原がとっても綺麗だよ

   「罪人偈を説き閻魔王を恨みて云えらく、何とて悲()の心ましまさずや、
    我は悲の器
(うつわ)なり、我に於いて何ぞ御慈悲ましまさずやと、
    閻魔王答えて日く、おのれと愛の羂
(あみ)に誑かされ、悪行を作りて、
    いま悪行の報いを受くなり」           源信「往生要集」

 「悲の器」というタイトルを見て、まず想い起こすのは高橋和巳の『悲の器』でしょう。もう内容は朧になっていますが、この作品はそれに通ずるものがあると思います。もっとも、高橋和巳の難解な作品と違って、この詩は非常に分かりやすいですね。情景描写も〈暮らしそのもののように蛇行しながら川は流れていた〉、〈真鴨たちは それでも/流れに写る遠い空を啄んでいた〉と、下手な小説顔負けです。〈女には神か仏の恩寵はなければならない〉には共感し、作者の思想の一端を見る思いでした。〈K〉は〈その女〉で良いと思います。最終連の〈おまえが好きだった河原がとっても綺麗だよ〉は、呼びかけの〈よ〉が生きていて、小説では出来ない詩の世界を創りあげた作品と云えましょう。






   
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