きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
100113.JPG
2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.5(金)


 日本ペンクラブ「国際ペン東京大会2010」の第4回詩部会を開催しました。当初、事務局に参加を表明してくれた詩人は15人ほどでした。詩部会も回を重ねるごとに参加者が少なくなっていくのかなと心配していましたが、当日参加が多くて、結局いつもの30人ほどが集まってくれました。ありがたいことです。

 今日の会でも多くのことが決まりました。第1は詩アンソロジーに序文などを載せようということになった点です。これまで事務局が作ってくれた見本は、いきなり詩で始まって詩で終わっています。これではあまりにも味気ないし、どういう性格の本か分かりません。それで、冒頭には国際ペン会長と日本ペン会長の序文をいただこうじゃないかとなりました。本の性格を伝えるためには、最後に詩部会としての挨拶文のようなものを載せて、そこにこれまでの経緯なども載せたいねということにもなりました。もちろんいずれも日英対訳です。実現できるかどうかは国際ペン、日本ペン両会長の許可を得なければなりませんが、まあ大丈夫でしょう。ようやく本らしい本になりそうです。

 その中の議論で出てきたのは、村山精二の役割ってなんだあ!? というものでした。詩部会の責任者なのか、統率者なのか、よく分からない、というもの。正確に記せば、私の役割は詩部会の責任者なんだろうと思います。「国際ペン東京大会2010」の実行委員会で、詩部会を設置してまとめよ、と指示されています。それは理事会でも承認されていますから、組織上の問題点はないと思っています。しかし、それは上部で決めたことであって、詩部会に集まってくれる皆さんから承認されたわけじゃない、というのが発案者の意見でした。それもそうだなということになって、皆さんから決めていただいた役割は、世話人(^^; いいですね。オレは責任者なんだぞと威張る気持ちなんかこれっぽっちもありませんし、今までも司会者や事務方という下働きに徹してきたつもりです。世話人というのは良い響きだなと思います。

 その議論の中で驚いたことがありました。村山は日本詩人クラブの人間だから、という声です。ご存知のように日本の詩界では、日本詩人クラブと日本現代詩人会という大きな全国組織が二つ存在します。それぞれ1950年に創立されて、会の性格の違いから現在に至るまで別組織として活動を続けてきました。それぞれの会員も1000人前後で拮抗しています。いつも何かと比較される組織ですが、実は両方に入っているという人は多くて、正確に計算したわけではありませんが7〜8割はタブっているだろうと思います。私も一時は現代詩人会への入会も考えたことがあったのですが、歴代の理事長とは友人関係、行事にもたびたび呼ばれていますので、入会しなくても特に不都合はありませんでしたから、未入会のままです。
 その声は、現代詩人会の会員ではない村山が詩部会を取り仕切るのはケシカランという趣旨のようでした。すぐに、ここは日本ペンクラブで、詩人クラブであろうが現代詩人会であろうが関係がないという意見が出て、それで決着しましたけど、そういう声が出ること自体にビックリしています。詩人は個の仕事を大事にすると言いながら、実は意外とセクト主義の人が多いんですね。それが日本ペンクラブの中でも詩人の位置づけが上がっていない一つの要因だろうとも思います。もちろんすぐに反論があったように、多くの詩人はそんなことを考えていません。そこに安堵しています。

 まあ、いろいろありましたが、詩アンソロジーの校正などに協力してくれる人や、朗読会に関わってくれる人のお名前も把握させていただきました。個人の役割をはっきりさせないと皆さんも動きづらいでしょうから、次回からは具体的な役割分担なども決められるものは決めていこうと思っています。より一層のご協力をお願いする次第です。




詩誌『ひょうたん』39号
hyotan 39.JPG
2009.10.20 神奈川県横須賀市
相沢育男氏方・ひょうたん倶楽部発行 400円

<目次>
水野るり子 ネズの木の林…2          柏木義高  拾うひと…4
絹川早苗  谷戸、春から夏…6         小林弘明  似姿…10
岡島弘子  一滴のために…13          大園由美子 玉手箱…14
阿蘇豊   なぜここに…16           森ミキエ  夏の日のしずく…18
長田典子  朝…22               小原宏延  八月の終わりの西日にむかって…24
村野美優  風のなかのコンパクトディスク…26  村野美優  電信柱の赤い帽子…28
中口秀樹  生の…30              相沢育男  トレニアの花…33
水嶋きょうこ羊歯の森…34
細見和之  過激な分極化への期待 小林弘明『分極論』…39  装画−相沢律子




 
一滴のために/岡島弘子

胸をそらし
ひくひくするのどをいっぱいにひらいて
頭をのけぞらせ
両目をみひらき
片手に目薬を持ち
もうかたほうの手で さらにまぶたをおしひらく

どんな凶器も ふせげない
自分の内にかくし持っていたものも
このままでは あばかれる

あけっぱなしの むぼうびになりきったところで
ようやっと 天からの
一滴
目に受ける

 要は〈目薬〉を注したというだけの話ですが、おもしろいですね。〈ひくひくするのどをいっぱいにひらいて〉〈あけっぱなしの むぼうびになりきったところで〉ようやく〈一滴〉を注すというのは誰にでも経験があることでしょうが、〈自分の内にかくし持っていたものも/このままでは あばかれる〉とまで書いた人はいないんじゃないでしょうか。ましてや〈天からの/一滴〉などとは! 詩人の面目躍如たる作品だと思いました。




詩誌『ひょうたん』40号
hyotan 40.JPG
2010.1.20 神奈川県横須賀市
相沢育男氏方・ひょうたん倶楽部発行 400円

<目次>
村野美優  マルタ…2           相沢正一郎 帆…5
岡島弘子  灰色の天空…6         水嶋きょうこ旅立ち(他二篇)…8
中口秀樹  べたべた…10          相沢育男  朝…13
水野るり子 低い土地…14          小原宏延  大銀杏頌…16
大園由美子 まわる…20           阿蘇豊   船上の人(二)…22
長田典子  枯野…24            柏木義高  ワタリ…26
絹川早苗  ふる ふる ふるえる…30    絹川早苗  生む 産む 生まれる…32
小林弘明  テンペスタ…34         森ミキエ  電子レンジの扉…36
川口晴美  森ミキエ詩集『沿線植物』評
      名付けられないたった一人の体が、現れる…39
装画−相沢律子




 
旅立ち/水嶋きょうこ

白い服を着たみゆきさんと泉町の白洋舎の前でばったり会って、長話をしてしまった。白バ
イが目の前を通っていく。今日は「白」に関係のある日だ。白状。自白。白紙撤回。なんと
なく恐くなってきたので、ひとり帰り道を急いだ。白土、白露、白玉、白蟻。足で小石を蹴
飛ばして、転がる音を聞く。割れそうな地面。バランスをとりなおし、歩き続けると、白菊
の蕾が軒先で揺れていた。白長須鯨のような巨大な雲を仰ぎ見て、地上に目をやると四つ角
から犬のシロが飛び出してくる。白線をまたぎ、横断歩道を渡った。体が少し軽くなる。歩
くうちに白駒が過ぎ、 家々が消え、 山道になり、白樺の木々が見える。遠くで白煙があが
り。心細い。落ち葉を踏む音が聞こえ、いつのまにかわたしについてくる人々がいて。羽織
を着て、脚絆を巻き、白茶けた菅笠をかぶる者もいる。ざざざっと並ぶいくつもの足。話し
声も小さく白々と聞こえ。どこに行こうとしているのだろう。みゆきさんのうつむく姿も見
えたような気がして。皆、 懐かしい見覚えのある人の顔に思えてきて、 ぼんやりとかなし
い。白濁。漂白。白日の一線を越える。道の先。けわしい白刃のような峰がそそりたち、遠
い空で白雲を切りさく、仲間を呼ぶ鴉の声がこだまする。

 〈「白」に関係のある〉からというわけではありませんが、白昼夢を見ているような作品です。〈帰り道〉が〈いつのまにか〉〈旅立ち〉になってしまったわけで、〈皆、懐かしい見覚えのある人の顔に思えてき〉たのですから、死出の旅を暗示していると思ってよいでしょう。〈ぼんやりとかなしい〉という詩語がよく効いていると思います。〈けわしい白刃のような峰〉も情景が浮かんで来る作品だと思いました。




詩誌『真白い花』2号
mashiroi hana 2.JPG
2010.2.20 東京都日野市
村尾氏方連絡先・真白い花発行 非売品

<目次>
扉詩   中山 直子 小鳥のはねに…1
詩    田島  道 枝豆…2       ローカル線に乗って…4
     村尾イミ子 招待状…6      犬が吠える…8
     橋本悠久子 八月の花…10     ハートのお手て…12
     中山 直子 石ころ…13      伊東静雄に似た人…14      夕映えの都…16
エッセー 村尾イミ子 桂離宮など…18
     田島  道 季節のうつりかわり…20
書評   中山 弘正 馬場宏二・工藤章編『現代世界経済の構図』…21
     橋本悠久子 四竃 揚編『平和を実現する力−長女の死をめぐる被爆牧師一家の証言−』…24
私の憩ひ 中山 直子 自然について…27
     田島  道 鉄道馬車は走る…28
     村尾イミ子 お盆に…29
編集ノート…30




 
小鳥のはねに/中山直子

庭で拾った 鳥のはね
落ち葉のかげに
かくれていて
いま 手のひらに
しずまるかるさ
しなやかに あどけない
灰いろの光よ
きのうは ひとの
手にもとどかぬ 青い高みを
自在に 飛んでいたのだ
おまえの
もとの持ち主とともに

 今号の扉詩です。〈いま 手のひらに/しずまるかるさ〉の〈鳥のはね〉は、〈きのうは ひとの/手にもとどかぬ 青い高みを/自在に 飛んでいたのだ〉なあ、という感慨は誰もが持つかもしれません。しかし、〈おまえの/もとの持ち主とともに〉あったことまで思い至る人は少ないでしょうね。一枚の〈小鳥のはね〉から、作者の着眼点の良さや思考の深さが見える、扉詩にふさわしい佳品だと思いました。






   
前の頁  次の頁

   back(2月の部屋へ戻る)

   
home