きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.8(月)


 朝から忙しい一日でした。朝一番で歯医者に行ったあと、日本橋兜町の日本ペンクラブ会館に向かいました。「国際ペン東京大会2010」の実行委員会が午後3時から予定されていたのですが、その前にグリーン・ページのインタビューをしたいというので、1時半過ぎには会館に到着していました。グリーン・ページというのは、「国際ペン東京大会2010」関連のみを広報する、会員向けの機関紙です。これまで3号が発行されていて、次の4号で詩部門を採り上げたいとのこと。これまで4回の詩部会を開催してきましたから、その内容をお話しさせていただきました。近いうちに発行されますので、会員の皆さまはどうぞご覧になってください。

 3時からは予定通りの実行委員会。各部門の進度状況が報告されました。詩部門としては、5日の打ち合わせで決まった国際ペン・日本ペン両会長の序文をいただきたいことなどを報告しました。阿刀田会長は書いてくれそうですし、ロンドンの国際ペン会長には事務局から依頼してもらうことになりました。
 広報部会からは、7月に東京ビッグサイトで開催される「東京ブックフェア」に参加したい旨が報告されました。これは東京ブックフェアの主催者から打診があったもので、東京大会の宣伝をしてくれる代わりに、主催者側で企画する講演会に著名講師を派遣してくれないかというものです、タダで(^^; ご存知のように毎年の東京ブックフェアは大きなイベントです。その刊行物やポスターなどに東京大会の宣伝が載れば、これは大きな効果があるでしょう。前向きに検討することになりましたが、問題は著名講師だわなあ。まあ、ペンクラブには奇特な作家が多いので、誰かやってくれるでしょう。実現の可能性は高いと思います。

 5時に実行委員会が終わって、その足で東京會舘に向かいました。6時から「早乙女貢さん一周忌しのぶ会」がありました。もともと実行委員会は4時から6時の予定だったのですが、この会が入ってきたので3時から5時に早められました。しのぶ会の主催者側に多くの実行委員が加わっていますから、まあ、当然の処置でしょう。

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 写真のように会場には早乙女さんの等身大の写真も置かれ、多くの人が集まりました。壁には早乙女さんが描いた数々の絵も飾られて、画家としての側面も改めて知らされました。むかし、一度だけ早乙女さんの個展に行ったことがありますが、ご自分の著作の表紙に使うほどの腕前です。特に『會津士魂』に使われた絵が良かったですね。
 それにしても、亡くなってはや1年。月日の非情さを感じます。現会長の阿刀田高さんを日本ペンクラブに推薦したのは早乙女さんです。東京大会が成功するように見守ってください。改めてご冥福をお祈りいたします。




詩誌『歴程』565号
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2010.1.31 静岡県熱海市
歴程社・新藤涼子氏発行 572円+税

<目次>

冬の猿/アラバール…支倉隆子 2      贖罪・湖水婚…荒川純子 6
耳に包帯を巻いた自画像…渡辺みえこ 10   本人…池井昌樹 12
朝食…小笠原鳥類 14            雲のたいらか…川上明日夫 16
カフカの職場…近藤 洋太 18
エッセイ…相沢正一郎 22
版画…岩佐なを    写真…北爪満喜    鬼区…柴田恭子




 
本人/池井昌樹

ほんにんならばいたってげんき
あさはあさぼしよはよぼし
わがやへかえるそれだけが
さんどのめしよりたのしみで
おんなぐせほどもてもせず
さけぐせだけがたまにきず
ほんにんはそうおもっていても
きずならまだまだほかにあり
まわりにめいわくかけがちの
こまったおとこだったなあれは
きれいさっぱりはいにされ
こんなにちいさくなってしまって
ほんにんはでもいよいよげんき
くらいよみちをよみじへと
ひとりいそいそわがやへと
どんなにたのしかったか だとか
どんなにさびしかったか だとか
あとかたもないあたまのうえに
まんてんのほしちりばめながら

 〈きれいさっぱりはいにされ/こんなにちいさくなってしまって/ほんにんはでもいよいよげんき〉という視点がおもしろい作品です。亡くなってしまってもこれだけ元気なら本望でしょう。〈おんなぐせほどもてもせず/さけぐせだけがたまにきず〉に〈ほんにん〉の人間性もよく出ていると思います。でも、やっぱり〈いそいそわがやへと〉帰りたいんでしょうね。ここに〈ほんにん〉の本音がよく出ている作品だと思いました。




個人詩誌『魚信旗』68号
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2010.2.15 埼玉県入間市 平野敏氏発行 非売品

<目次>
禿
(ちび)た鉛筆 1.  きょうのテーマ 4  老人日和 5
風呂 6       下り坂 8      後書きエッセー 10




 
老人日和

やがて影が長くながく伸びていくまえの
ひとときの至福の時間
眠りを誘う温もりがやってきて
死の予行演習のようなものがはじまる。
向日性のわたしだから
つとめて明るい夢のある方角へ身を傾けて
この先にあるかなきかの安らいを期待して
まどろみに入る。
陽の温度がわたしを溶かし
燃えているような気分がみなぎってくる。
樹も燃えている
風鳥も飛んでいる
遥か遠くで死別したものたちの声がする
のんびりしているやつだなと聞える
もう人間から離れて
蒸発してしまう寸前まで来た日光浴
百年分のうたた寝をしているようないい気分
こくりこくりと頷
(うなず)きながら
高い叫びや密かな祷りのあった日を
(うべな)うように老いていく。

何事か眠りのなかを馳せるもの
虎だ 虎だ
今年の捕物わたしを騒がす。
またしても生き延びているのだ
ありがたき平成の日和。

 〈死の予行演習のようなもの〉を自覚するのは大事なことなのかもしれません。しかし〈遥か遠くで死別したものたち〉からは〈のんびりしているやつだな〉と言われてしまいます。〈向日性のわたしだから〉〈百年分のうたた寝をしているようないい気分〉になるのでしょう。ここには人生を達観した作者の姿が見えます。あやかりたいものだと思いながら拝読した作品です。




詩誌『エウメニデスU』36号
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2010.1.31 長野県佐久市 小島きみ子氏発行 500円

<目次>
エッセイ エロスのエチカ/小島きみ子 4
詩    交わらない円環の白と黒を/松尾真由美 10
     室町パッケージ/野村喜和夫 16
     スイートアリッサムの庭で/小島きみ子 22
詩論   (知恵を愛する事)と、(詩情)へ向かって/小島きみ子 28
エッセイ 詩への通路 −詩誌・詩集を読みながら−/小島きみ子 40
編集室  64




 
スイートアリッサムの庭で/小島きみ子

スイートアリッサムの庭に
モンシロチョウが舞ってきて
白い花の中に消えた
(蝶は どこへ?)

ビルの壁の修復をしている
その防護網の
地上約十センチのところに
羽が千切れたトンボが止まっていた
陽だまりでかろうじて生きていたのだけれど
日が閉じて次の朝がきて
そこにトンボが居たことを忘れた日
壁が白くなった朝だった
防護網とともにトンボも消えた
(あれはもしかして 枯葉だった?)

図書館でその人は
自前のフランス語辞書を引きながら
ノートに何かを書いていた
彼のダウンベストの右肩にはガムテープが斜めに貼ってあった
(目印が烈しすぎるよ)
注意深く席を替えて前方から見ると
もじゃもじゃに伸びた髪と日焼けした頬と乾燥した唇は
(逃亡者なのか)
けれども灰色の目は自分だけの文字を探しているようだった
(彼のダウンベストの右肩は何の文字を隠していたのか)

白い帽子を被ったまま「暮らしの手帖」を読んでいる老婦人は
夏も来ていた人だ
郷土史を読んでいる銀色の髪の人は
今年の春に国語教師を辞めた人だ
和室の座卓で新聞を読んでいる人は
孫と絵本を探しにきてそのまま自分の世界に浸っている
彼とも以前に会った

図書館の学習机で一生懸命に履歴書を書いている女性
こんなところでそんなことをしているのは
この師走に
急に面接が決まったからだろう
めでたいことだ
がんばれ
がんばれ
挑戦するあなたを応援しているよ
きびしい社会で、そのきびしさの軌範の側にいたワタシタチだから
図書館で履歴書を書いているあなたを応援する
がんばれ

スイートアリッサムの庭の
壁の修復工事が終わって
防護網が取り除かれた日
明け方の雪に朝日が当たって融けると
工事現場へ向かって県道を自転車で走って行く人がいる
右肩にガムテープを貼ったダウンベストを着ている
ああ、あの人だ
(きょうはどんな文字を隠して働くの?)

スイートアリッサムの庭は
きょうの雪が融ければ
またいつものように何事もなかったようにその花は香りながら咲く
厳しい社会の現実があるからこそ
やさしく香る花や
はかなく死んでいく蝶や昆虫はいとおしい
季節の変化のなかで
人生の変調を迎えながら
図書館の書物の間と生活の道路の間で
永遠を問いながら
私たちは応答を繰り返すのだ
(イエスとは誰のこと?)
(人間とは何?)
もっと、もっと新しく
きょうという日の烈しい愛を求めながら
きょうという日を正しく狂いながら
時間の光沢を昇りつめていくのだろう

ほら。
聞いて。
過去からやって来た光の光沢が
いま、耳に届いたよ。
(蝶は どこへ?)
(あれはもしかして 枯葉だった?)
(彼のダウンベストの右肩は何の文字を隠していたのか)
(きょうはどんな文字を隠して働くの?)
(イエスとは誰のこと?)
(人間とは何?)
いま、眼の中が
花の香りでいっぱいになる
スイートアリッサムのなかで
白い蝶になった言葉たち
聞いて
あれが
光の光沢(
light cone)の音だよ

 〈スイートアリッサム〉とは地中海沿岸原産のアブラナ科の花のようです。その花を横軸に、縦軸には〈モンシロチョウ〉〈羽が千切れたトンボ〉、その編まれた網の中に〈ダウンベストの右肩にはガムテープが斜めに貼ってあ〉る〈彼〉や〈図書館の学習机で一生懸命に履歴書を書いている女性〉など、という構図が浮かんできました。その構図の〈図書館の書物の間と生活の道路の間で/永遠を問いながら/私たちは応答を繰り返す〉というのがこの詩の一つのテーマのように思います。最終連の〈光の光沢(
light cone)の音〉という詩語に魅了されますし、これがもう一つのテーマなのかもしれません。散文では描けない、まさに詩らしい詩だと思いました。






   
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