きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.11(木)


 久しぶりの雨。静かな雨で、9時までぐっすり眠ってしまいました。今日は特に外出予定もなく、終日いただいた本を拝読して、HPの更新に暮れました。ようやく実際の日とHPの日が同じになりました。




春木吉彦氏著  パンの歴史・パンをめぐる随想
『ベーカリーオペラ座の風車譜』
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2010.2.10 大阪市北区 竹林館刊 2300円+税

<目次>
T
詩「天使
(エンゼル)」 春木吉彦 8
絶版フランス翻訳詩集〈ルプール〉 10
詩「春木吉彦、あさのパンを焼く」 右原 厖 12
サイエンスメルヘン 魔法の水筒 14 小麦は黄金
(こがね) 風のうた 21 木蔭の白い椅子 32 川の音になんとなく微光が 40
エッセイ 一反風呂敷 48
U
詩「なんぼのもん」 春木吉彦 54
偽書『パン屋日記』朝まで雷がなる窓〈一つの紀行〉 56  ■業界略歴■
雨やどり 愛ですか 哲学ですか 若き日の 60
クリの花 63
柳 66
職商人
(しょくあきんど)にあるものは 70
パンはどうしてふくれるのか? 松本 博 74
パンの製造工程 75
覚書控えから 76
ベーカリー業界の法人申告所得額ランキング(順位のみ掲載1954年〜1957年) 78
V
詩「二番は二番 されど二番は一番 本町橋」 春木吉彦 80
噛々
(かみかみ)の呪文 82
〈わが文学の椅子 歌でなき短歌〉見ると見えるのうつくしごと――親の運、子役し―― 84
地獄の沙汰にあったパン ――別稿『びんぼうくじ』他について―― 対談/海谷 寛 88
ノート〈寸法〉――ある部(分)門―― 93
ザ・ダイアリー・オブ〈夕べ〉の紅茶 99
カルメンの初恋 105
アンダルシアのスープ 108
W
詩「私の大阪地理」 杉山平一 112
詩「大阪市電乗換え切符」 春木吉彦 114
来世紀の日本パン産業 藤本 徹 116
生椎茸それとも干し椎茸 架空対談 118
日本のパンの歴史を塗り替えたマルキ号製パンの水谷政次郎について 水知悠之介 124
『パンの源流を旅する』ロマン 涸沢純平 126
ビールとワイン パンの友 冨上芳秀 128
竹久夢二がパン屋さんだったら 左子真由美 132
風車譜によせて 春木吉彦 134
付録*年表 137
著者略歴 153
制作・装幀 工房*エピュイ




 
エンゼル
 
天使/春木吉彦

天使の上衣、黄金色の麦の穂の上を
神の存在を信じさせてくれる雲の影が
丘の上へ
遠い夢見る僕は、小径のなか
土を踏み、せせらぎをわたり
吹く風に 帽子をとられまいと、太陽を仰ぐ
大きな鈴は 大空に響け
小さな鈴は 心のなかに鳴れ
僕は沈黙に存在
(ある)いとなみを
自然に考えのない、僕にとれば神の都合行動
(しわざ)
けれど無限の愛をもつ、ひとり輝く天使が
魂のなか 小さい鈴のなかに
もっと遠く遙かに彼岸の世界までも
神の みこころにそって
聖なる青空の片隅で
時には駆ける駿馬の上で
鈴のゆれる 神学的瞑想にひたり
天使の漂う、いくえにもひだのある
麦の穂の裳は、夕ベに燃え
僕は はなれがたい好きな女のひとと
一緒にいる この幸せを
麦の穂よ 風には唄を
ビウエラのひびきで 鈴は鳴りだす
おお この麦の穂のカンタータ コラール
やがて ぼくは天使を想像する

 パン製造一筋65年という詩人の〈
パンの歴史・パンをめぐる随想〉に詩も加わった著書です。1945年からのパンに関する年表は初めて見るものであり、業界の人はもちろん一般の家庭でも読んでおく必要があるかもしれません。ここでは巻頭詩を紹介してみました。〈大きな鈴は 大空に響け/小さな鈴は 心のなかに鳴れ〉というフレーズに経営者らしい大胆さと繊細さを感じます。〈麦の穂よ 風には唄を〉からはパンに対する讃歌を見た思いのする作品です。




詩誌『花』47号
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2010.1.31 東京都中野区
菊田氏方・花社発行 700円

<目次>
評論
私の好きな詩人(10) 沖縄が生んだ第一級の詩人 山之口貘 沢村俊輔 22
私の好きな詩人(11) 吉原幸子 ひとときと永遠について 峯尾博子 26

野いちご 平野光子 6            空き缶 沢村俊輔 7
解離性 山田隆昭 8             放たれた魚 呉 美代 9
負けない男 秋元 炯 10           五重の塔から 山嵜庸子 12
重石 湯村倭文子 13             大田黒公園 −晩秋− 川上美智 14
死を思え 他一篇 吉田隶平 15        あなたの夕暮れ −追悼 菊地貞三先生− 岡田喜代子 16
老人と秋 神山暁美 17            空から降りそそぐ歌声 林 壌 18
春の雪 高田太郎 20             そ 宮崎 亨 21
水引草 都築紀子 30             妖し 和田文雄 31
寄り添う春 鈴切幸子 32           入る 青木美保子 33
谷のトポス 北野一子 34           酔芙蓉 水木 澪 35
止まったままで 佐々木登美子 36       西の甲斐路 中村吾郎 37
渡り 清水弘子 38              小さな愛も積もれば 菅沼一夫 40
霧の中で 塚田秀美 41            桐記  峯尾博子 収
今だけコスモス広場 さき登紀子 44      とりあえず、原田暎子 45
配給のワンピース 篠崎道子 46        私の物語 他一篇 柏木義雄 52
風土のかたち 天路悠一郎 54         饅頭ヤッパリ怖イ七五調 狩野敏也 56
はしり星飛ぶ 田村雅之 58          金色のいろ紙 甲斐知寿子 59
だんご虫 坂東寿子 60            人間らしいくらし 石井藤雄 61
基次郎の檸檬 酒井佳子 62          骨考W −ほろほろと 鷹取美保子 64
鷹の目 宮沢 肇 66             ふなばし 幻想 丸山勝久 68
花梨の木 他一篇 菊田 守 70
エッセイ
落穂拾い(12) 高田太郎 47          この一篇(7) ――自作・自註 平野光子 48
かなしく候\/−千利休絶筆の手紙− 山田賢二 50
書評
大いなる返礼 菊田守『天の虫』をめぐって 新井豊美 72
抒情のダイナミズム 宮沢肇詩集『舟の行方』を読む 平林敏彦 74
「でも…」は口ごもりではない −甲斐知寿子詩集『でも…』を読む 杉谷昭人 76
花窓 78       掲示板 79       同人会名簿 80
「花」後記 表4    題字 遠藤香葉




 
野いちご/平野光子

草が化けてゆくと
花になるのは
ふしぎなことです

風になびく草の葉を
踏みしだいて
あかい野いちごを
とりました
ひとつぶの実が
手のひらの上で
ひかる宝石になるのも
ふしぎなことです

冷たく触れる
あかい実をつぶしました

つぶれた赤い汁をみていると
泣きたくなりました
なにかを思い出すことがあるような
でもそれが
はっきりしないような
ただなみだが出てくるのです

ひとは化けて
なにになりますか

くさは花になります
赤い野いちごの実を
ひとつぶつぶして
家に帰りました
家はくらくしずもっていました

 今号の巻頭作品です。一読して心に残る詩だなと思いました。第1連の発想はどこかで見た記憶がありますが、第5連の〈ひとは化けて/なにになりますか〉というところまで深めた作品にお目にかかったことはありません。第4連の〈なにかを思い出すことがあるような/でもそれが/はっきりしないような〉というフレーズも佳いですね。そういう〈はっきりしない〉ものの中にこそ本当の詩はあるのかもしれません。最終連の〈家はくらくしずもっていました〉というフレーズも出色。これによって作中人物がなぜ〈ふしぎなこと〉に魅かれるのか、なぜ〈泣きたくな〉るのかが想像できます。読者との距離感という面でも一級の作品だと思いました。






   
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