きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.15(月)


 夕方から日本ペンクラブの2月例会が予定されていましたが、サボりました。呑み会が続いて、さすがに疲れています。午前中は歯医者に行って、治療に1時間半もかかりましたから、それが疲れを加速させたようです。午後からはいただいた本を拝読して過ごしました。




郡山直氏詩集『詩人の引力』
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2010.3.14 東京都板橋区 コールサック社刊
1428円+税

<目次>
T 詩のパン
乳搾り娘のように 12            詩のパン 14
詩人へのアドバイス 16           開いてくる蕾 18
柿の木への言葉 20             絵筆を持って来い 22
空の虹 24                 娘に詫びる芸術家 26
昆虫とペン 28               詩人への言葉 30
自力でたたきあげた評論家 32        秋の歌 34
一九八八年ミラノ世界詩人会議 36      じっと待っていろ 38
U 詩人の引力
時間と空間 42               詩人の務め 44
満月 46                  永遠なる壮大さ 47
原始人の夕月 50              星の観察 52
白鳥座へ 54                頭上の白鳥座へ 56
僕たちは白鳥座を探した 58         惑星地球を眺める宇宙飛行士 61
船長の独り言 64              天文学の教授 −弓先生の最終講義− 66
引力 68
V 僕のお祖父さん
思い出 72                 僕のお祖父さん 75
山の小川の辺で 78             詩人の独り言 80
馬のイメージ 82              島の馬たちの鎮魂歌 85
郷里の島の夏 88              恋歌 90
最後の点検 −小島の空港で− 92      風のない林 94
養殖真珠 96                ホイットマンは元気よく闊歩した 98
W 飛行機の影
庭師 104
.                 金閣寺 106
京都の庭園で                飛行機の影 110
 −遠い国から来た夫婦を見て− 108
.    大洋航路船上で 112
旅上手 114
.                ジェット旅客機 116
彫刻の大家ヘ                大沼湖 120
 −エドワード リーダーズ氏へ− 118    太陽に照らされたグランドキャニオン 122
抗議するペルシャ湾の鵜 124
.        一九九〇年十一月三日の文化交流 −クリステン デミングさんヘ− 126
馬の歌 −一九九〇年午年元日作− 129
.   猿の歌 −一九九二年申年元日作− 132
雄鶏の歌 −一九九三年酉年元日作− 134
.  犬の歌 −一九九四年戌年元日作− 136
猪の歌 −一九九五年乙亥年元日作− 139
X 今夜は月が泣いている
今夜は月が泣いている 144
.         君はムンタダール・アルゼイディを知っているか 147
君たちの遠い祖先は 150
.          戦争と平和 153
核の冬 156
.                核の伝説 158
特攻花 160
.                沖縄の岡の上の墓 −一九四八年に見て一九七九年に思い出して− 162
平和より大事なものはない          清しこの夜 −フランツ グルーバーヘ− 166
 −沖縄伊江島の絵葉書を見て− 164

解説「バイリンガル詩人 郡山直の存在景」 掘内利美 168
あとがき 192
略歴 196
初出掲載紙誌名および作品収録教科書名 204




 
引力

月は地球のまわりを公転し
十二の衛星が木星のまわりを回っている
そして木星自身は広大な軌道に乗って
太陽のまわりを公転している
このように空では
運動の法則と
引力の法則に従って
小さい天体が大きな天体のまわりを回っている

しかし、この家では
これと反対のことが起こっている
さいきん生まれた女の子が
幸福の引力の中心であり
そのまわりを喜びに満ちた家族の
大きな面々が取り巻いている

 1952年の米国留学中から英語で詩を書いていて、英語の詩集が多いという著者の初の日本語詩集です。ご出版おめでとうございます。
 この詩集にはタイトルポエムがありません。「
U 詩人の引力」全体がタイトルを現わしているように思えますし、紹介した詩から採ったとも考えられます。それはそれとして、佳い詩だなと思います。詩人もこのように〈幸福の引力の中心〉であれ、と謂っているように感じました。




『白鳥省吾研究会会報』9号
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2010.2.27 宮城県栗原市 佐藤吉人氏発行 非売品

<目次>
文学碑について その七 茨城県大洗町磯浜 山村暮鳥碑 1
第八回「白鳥省吾賞」最優秀賞受賞作品 エドワード・ユーダイ「しましまに濡れて」誕生記 5
詩の紹介 寄贈された詩誌、詩集より 6
寄贈図書の紹介 7
『日本詩人』と白鳥省吾 バックナンバーその七 8
あとがき 8




 
しましまに濡れて/エドワード・ユーダイ

一昨日のデモ行進を受けて
町はいっそう静かに冷たく感じられる
破れたプラカードの残骸を
夜露がしましまに濡らした
ぼくの暮らす住宅地のアーリントンには
毎月のように新しい亡骸が送られてくる
九・一一以降の闘争で死んだ
下層軍人の骨が中東から移送されるのだ
この町の出身者でもないのに
なぜか

きみはついに政治の一部になったのか

デモ行進は闘争の早期撤退と
この町を縦横に押し広げる十字架型の
新しい墓地拡充の反対を理由に行われた
行進者は代わりに十字架型の花畑を作った
植えられた花の気持ちになって
ぼくは思い出している
真夜中の公園で
まっすぐに投げ込まれる
硬く大きなバスケットボールのことを
なぜか

きみはそのボールで何かを象徴できたのか

じつは一昨夜ぼくも行進に参加したのだ
デモを何かの連携プレーとして
勘違いしている参列者と
時間を置いて
きわめて個人的な葬列をした
公園を同じ時間に通り過ぎたときに
きみはきみの見えにくい左目から
投げるスローインの難しさを語った
それをきみの死因と決めざるをえなかった
なぜか

きみはぼくに無言で逝ってしまったからだ

 
第8回「白鳥省吾賞」最優秀賞受賞作品を紹介してみました。受賞者はハワイに生まれの日系4世、21歳。3歳から16歳まで日本で育っていて、現在はウイリアム&メアリー大学(リンカーンの卒業した大学)に在籍しているそうです。白鳥省吾賞も国際的になったなと感じます。紹介した作品はイラク戦争の反戦詩。〈破れたプラカードの残骸を/夜露がしましまに濡らした〉というフレーズが斬新だと思いました。




個人誌『る』2号
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2010.2.10 横浜市磯子区 弓田弓子氏発行 非売品

<目次>
その日、一日は 1      消しゴム 3
苦笑いのような 5      さらに奥の者が振り向いた 7
あとがき




 
消しゴム

空き箱に集められた
消しゴムの中に
オカッパ頭の少女がいる
気がむくと
髪をばらばらにして
あかい唇から
ははははと
声を出している
年年顔は汚れていき
ふっくらした頬に
黒いすじが増えていく
なみだの年月が
こびりついて
どなたかの眼に会うと
戸惑って
ははははははは
いつもよりよけいに
ははははを
発する
少女はそのままに
消しゴムは老いていく
けずりとられ老いて
けずりとられ
仕事を終える頃には
かたちをなくしている
少女は
顔を消そうと老いた身を
けずる
消すほかに
なにであったのか
消すほかに

 発想のおもしろい詩だと思います。普通は〈消しゴムは〉〈そのままに〉〈少女は〉〈老いていく〉ものでしょうが、ここでは逆転しています。これは少女の精神面を謂っているのかもしれません。また、〈けずりとられ/仕事を終える頃には/かたちをなくしている〉のは消しゴムの宿命ですが、使い捨てになる私たちの喩であるようにも受け止めました。






   
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