きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.24(水)


 終日、西さがみ文芸愛好会の仕事で追われました。3月3日から8日まで、小田原の伊勢治書店3Fのギャラリーで「第14回西さがみ文芸展」を開催するのですが、今回の目玉は《播摩晃一の足跡》展です。昨年8月に亡くなった播摩さんは、本会の代表であったばかりではなく、小田原市を中心とする西さがみ地方の文芸に多大な功績があった詩人です。それを顕彰しようという企画ですが、調べていくと驚くような事績が次々と現われてきました。詩人、編集者としての足跡は存じ上げていましたけど、国語教育論者、創作民話・童話の作家でもありました。

 ご本人が生前お作りになっていた年表を元に、年譜作成や資料の整理をやっています。どうすれば見やすい展示になるか、頭を悩ますところではありますが、一面、楽しい作業でもあります。“楽しい”というのは語弊がありますけど、一人の文学者の生涯を俯瞰するのは、高村光太郎以来、私にとって二度目。ビジュアルな展示を試みるのは初めての経験になります。播摩さんの足跡を辿ることで教えられることも多く、追われてはいますが“楽しんで”います。




季刊個人詩誌『ぽとり』17号
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2010.3.1 和歌山県岩出市
きのかわ文芸社・武西良和氏発行 非売品

<目次>
17号特集〈糸そして網〉について 1
詩作品
クモの巣 2     クモの巣2 3    クモの巣3 4
ハチの巣 5     網戸 7       繭 8
蜘蛛 9       絡む糸 10      蜘蛛の糸 11

ぽとりの本棚・ベンヤミンを読む(7)12
ぽとりエッセイ(17) 15
既刊詩集案内 17




 
クモの巣

顔を
掻きむしりながら男は
暗がりに
糸の在りかを探していた

梅雨の雨で伸びたススキの間に
張られた巣は終
(つい)
獲物を捕らえた

顔を掻きむしりながら
自宅の玄関にあった
コガネグモの巣に白い糸の塊を
思い出していた

男がもがいている

クモは飛んだ間違いをしでかした

捕らえた獲物が
自分の力の及ばないものであったことに

だが 男はもう自分はクモの餌食だと
薄暗がりのなかに犬に紐を引かれ
糸にくるまって
堤防を駆け下りる

この情況から助け出そうとして犬は
階段を足早に駆け下りる

遠くの橋に赤いテールランプが
並んでいる
それらは赤信号に捕らえられた
束の間の獲物

近くの堰は
水嵩
(かさ)が増している
水は獲物になり得ない

 今号の特集で冒頭に置かれた作品を紹介してみました。〈クモの巣〉が〈顔〉にひっかかるという経験は誰にでもあることでしょうが、〈クモ〉にとっては〈自分の力の及ばないもの〉であり、〈男〉にとっては〈クモの餌食〉という、この両者の視点がおもしろいと思いました。また、〈赤いテールランプ〉は〈赤信号に捕らえられた/束の間の獲物〉というのも佳いですね。視点の多様性に感心されられた作品です。




詩とエッセイ『ネビューラ』11号
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2010.2.15 岡山市北区 壷阪輝代氏代表 非売品

<目次>
冬の窓………………………今井 文世 2   道が空に……………………田尻 文子 3
有頂天……………………岩アゆきひろ 4   根のスペース………………谷口よしと 5
駅……………………………下田チマリ 6   道の記憶……………………広畑ちかこ 7
人魚…………………………武田 章利 8   時には雲に乗って…………吉形みさこ 9
譲り葉………………………三村 洋子 14   記憶の端……………………西ア 綾美 15
労働…………………………武田 理恵 16   境界線の通路………………中尾 一郎 18
未明…………………………香西美恵子 19   年賀状のお礼に……………川内 久栄 20
二月…………………………日笠芙美子 21   吉備野の花詞(XV)−椿−…中川 貴夫 22
三日箸………………………壷阪 輝代 23
エッセイの窓
瞑想の生誕−日笠芙美子詩集『夜の流木』によせて−…日原 正彦 10
私のエクス・リブリス岡山読書案内二……………………行吉 正一 11
カナリアの歌…………………………………………………石原 美光 12
プラハの広場から始まった…………………………………井上けんじ 13
装幀・尾崎博志




 
三日箸/壷阪輝代

正月さまを迎えに行くぞ
祖父の恒例の声を待っている
大晦日

ちかくの山から持ち帰ったのは
樫の木の新しい枝
どんなかたちで正月さまが姿をみせるのか
祖父の手元をみつめていた

白い木肌が現れ
家族の数だけ作られていく箸
おとなは長く
こどもは短く
そして箸は
名前を記した箸袋に納められていく

元日の朝
雑煮より早く昇ってくる初日
香り立つ箸で掬う新しい年
三日のあいだに
一年分のねがいを染み込ませる

小正月
正月飾りと共に焼かれた三日箸
その炎の中を
ねがいごとが天に定住するように
立ち昇っていく

いま
わたしが作る三日箸
祖父の手さばきを真似ながら
心入れを呼び覚ましながら
正月迎えをするマンションの部屋

チャイムが鳴る
来訪者は祖父にちがいない

 〈三日のあいだに/一年分のねがいを染み込ませる〉〈三日箸〉という風習を初めて知りましたが、〈家族の数だけ作られていく〉というのが佳いですね。現代の私たちが失った〈祖父〉を中心とした家族の結束を知らされます。最終連もよく効いていると思います。最終連の、この作り方は学ぶべきでしょう。




詞花集『岩魚』4集
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2009.12.1 埼玉県飯能市  非売品
吉村明代氏代表・現代詩の会岩魚発行

<目次>
〈寄稿〉カクレンボ……………………………………………田中 順三 6
〈寄稿〉冬が釆て………………………………………………町田多加次 8
まどさん/呼ぶ/まんじゅしゃげ………………………いたがきひさえ 10
ピース探し/早春/スタッカート……………………………岡部 暢子 16
かき水屋/階段/しっぽを振る………………………………坂本美登利 22
さくら・・・ネックレス/さくら・・・スカーフ/早春…高橋 紀子 28
秋が終る/青い可憐な扉の向こうへ/あの日………………巴  希多 34
傷跡/礼装/空華………………………………………………西沢与志栄 40
天国ふたつ/ようこそ陸ちゃん/指定席……………………ヨ
..イチ 46
心配/待っていた時/マイバッグ……………………………増野 膺子 52
一日の終わりに/カモフラージュ/大名行列………………森住 貴子 58
雨/セピア色/漢字練習………………………………………柳沢 陽子 64
ぶどう畑に/夢で/おねがい…………………………………吉村 明代 70
鋼鉄の歌/橋渡し/月の入り…………………………………和田建一郎 76
遊泳…………………………………………………………………………… 82
あとがき……………………………………………………………………… 84




 
漢字練習/柳沢陽子

珍しく
私たち夫婦の前に座り
探し出した
古い漢字練習帳を
広げる娘

小学生の頃
書き順どおりではなく
漢字練習帳のマスに
クサカンムリや
ニンベンだけを
先に並べて書いていた
笑っているような文字は今も同じ

と、
漢字練習帳を
くるりとこちらへ向けて
「この人と結婚したいの」

この日から落ち着かない

 佳い詩だと思います。〈漢字練習帳のマスに/クサカンムリや/ニンベンだけを/先に並べて書いていた〉というエピソードは微笑ましく、〈古い漢字練習帳を/広げる娘〉さんの行動に、家族の幸せな来歴を見るようです。〈漢字練習帳を/くるりとこちらへ向け〉るところには娘さんの強い意思が感じられ、〈書き順どおりではな〉い人生を生きているだろう人柄まで読み取れるようです。最終連の1行も佳いですね。母と娘の、強くも、いずれは離れていく哀歓までも表出させていると思いました。






   
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