きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層 |
2010.2.26(金)
特に外出予定のない日。西さがみ文芸愛好会の展覧会の準備を進めて、いただいた本を拝読して、過ごしました。
○松田悦子氏詩集『草色の雨』 |
2010.3.6 大阪府箕面市 詩画工房刊 1905円+税 |
<目次>
T ユリカモメ
春に咲く 8 白い花束 10 到着 12
ユリカモメ 14 小さな花唄 16 海 18
ナツコラエル花 20 さくら さくら 22 サネブトナツメ 24
白い満月 26 雨でも晴れ 28 喫茶ドンキホーテ 30
U 神の台座
電話 34 亀 36 ウル・シャリム(神の台座) 40
白い伝言板 42 再生 44 近況 46
朱夏 48 草色の雨 50 白い月 54
もし 58 朝焼けの富士 60 穴 62
V 馴致
座標点 66 握る 70 病室 72
ツルの蔓返し 74 馴致 78 あららの誕生日 82
あとがき 86
草色の雨
冬の朝 日曜日
曇天の空から 雨
石になるしかないと 呟いて
出発の戸口に座り込む
想い描く駅 交差する長い階段
欅の並んだ遊歩道
街路樹の黒い枝 垣間見る窓
嬉々と見上げるはずの道に
地下を伝う根幹の 再来を祝う声
耳に止め
辿り着けたと 胸開く
それらが約束されていると言うのに
出発の戸口 土砂降りの雨 ザンブラと
行く手を塞ぎ 冬の雨音 強くさせ
黒い人影 耳に 言葉に
留めおく事の叶わぬ今
それでも目は生きている
確かな紐は 此処なのだと
一心に紐 握り締め 暮らすけれど
曇天の空の 何処かしこから
草色の雨 激しく降り注ぎ
あの青い周り階段の
空を映す雨水溝に 流れ落ち
辿り着けない歌が 落下する
人の暮らし 強くあれよと落下する
11年ぶりの第3詩集のようです。ここではタイトルポエムを紹介してみました。何気ない言葉ですが、例えば〈出発の戸口〉という詩語に斬新さを感じます。〈嬉々と見上げるはずの道に〉というフレーズからは主語の交錯も感じられますが、この手法が詩集全体の特徴のようにも思います。最終連の〈人の暮らし 強くあれよと落下する〉というフレーズには著者の強い意思が伝わってきて、これもこの詩人の特徴のように思いました。
○個人詩誌『伏流水通信』34号 |
2010.2.20 横浜市磯子区 うめだけんさく氏発行 非売品 |
<目次>
一束の水仙の花……長 島 三 芳 2 野菊の香を嗅いで…長 島 三 芳 4
空っぽの唄…………うめだけんさく 6 城ヶ島にて…………うめだけんさく 8
*
フリー・スペース(33) 〈エッセイ〉
オリベ茶碗と蜜豆…生 出 恵 哉 1 「非在」と「非望」…うめだけんさく 10
*
後 記……………………………………12 深謝受贈詩誌・詩集等…………………13
城ヶ島公園にて/うめだけんさく
海が凪いで
小舟が帆を立てているが動かない
トビが七羽か八羽じゃれあって飛び回っている
雲はどこだ
雲はどこにもない
空が不気味だった
上を見ても下を見ても真っ青
旋回するトビを見ているオレも青くなる
利休ネズミの気配もない
咲き競う水仙の香りを楽しんでいると
茂みから太ったネコが飛び出してきた
茶色と白
尾を立てて見つめ合いうなり声を上げている
さかりのついた声
いやらしいほど喉を震わせている
たまりかねてその場を離れた
城ヶ島は雨が似合うのになあと思いながら
ネズミもいない青空を見上げるうち
眩暈を起こしそうになった
そのとき
旋回していたトビが
糞を落とした
〈上を見ても下を見ても真っ青〉なほどの上天気なのに、〈空が不気味だった〉という感覚はどうしてだろうと思っていましたが、〈城ヶ島は雨が似合うのになあと思〉っているからなんですね。そればかりではなく〈さかりのついた声〉にも嫌気がさしたようです。最終連の〈旋回していたトビが/糞を落とした〉ことも致命的なのかもしれません。一味違う城ヶ島をうたった作品だと思いました。
○季刊詩誌『GAIA』31号 |
2010.3.1
大阪府豊中市 上杉輝子氏方ガイア発行所 500円 |
<目次>
綯う縄のような/平野裕子 4 相依為命/竹添敦子 6
生きる(一)/熊畑 学 8 大野池/熊畑 学 9
器について/横田英子 10 お知らせ/中西 衛 12
石/中西 衛 13 落葉/国広博子 14
少年時代/海野清司郎 16 並木の上/立川喜美子 18
冬の馬鈴薯/小沼さよ子 20 雪虫/小沼さよ子 21
ベッド−孫に聞かせる昔話−/猫西一也 22 落日 明石海峡大橋/上杉輝子 24
忘れた箱/前田かつみ 26 現在(いま)/前田かつみ 27
四万十川への小さな旅 1 車窓から 2 屋形舟/水谷なりこ 28
同人住所録 30
後記 水谷なりこ 31
落葉/国広博子
褐色のもの いや茶褐色だ
表面が堅くなり 傷ついている
両手で すくおうとしたが 無理だ
あちらこちらに飛びはねる おどる
相当な数だ 数えられない
一足 しりぞいて見る
木の回りに 散らばった落葉
一周 二周して
木を取りまいている
枝には 残された葉が
まばらに 光っている
〈落葉〉を見ているだけの詩ですが、不思議な雰囲気が伝わってきます。〈木の回りに 散らばった落葉〉が〈一周 二周して/木を取りまいている〉というような観察力の鋭さがあるからでしょうが、それ以上に落葉との距離が近いからのように思われます。〈無理だ〉〈数えられない〉という作中人物の感情が距離を縮めているのでしょう。短い詩ですが魅力ある作品です。