きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.27(土)


  その1

 3月3日からの西さがみ文芸展覧会に出品する写真をDPE店で四切に焼いてもらいました。文芸展で写真を展示するのは初めてになります。参加希望者は2人。それじゃああまりにも少ないので私も加わることにしました。写真の印画紙を製造する方はプロでしたが、見せる方はまったくの素人。写真教室に行ったこともなければ先生についたこともありません。まあ、枯れ木も山の賑わいというつもりです。

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 展示する写真には、芸もなく「足柄峠」というタイトルを付けました。拙宅の裏山にあたり、クルマで15分ほどの所です。晴れれば富士山の南麓が見事です。子どもが写ったことで、少しは見られるものになったかなと自画自賛。よろしかったら見に来てください。




対馬正子氏詩集『ほしの樹紋』
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2010.3.31 埼玉県所沢市 書肆青樹社刊 2200円+税

<目次>
 T
そらに生えて 10              あめの狂詩曲 14
青いしるべの樹 18             そらの翡翠 22
海と物語と 26               鰈 30
鳩 34                   刹那の夢に 38
風の絃 42                 風のつどい 46
天神さまの梅は散っても 50         雪の返信 54
このほしのどこかに 58
 U
道の晩餐 64                矮屋うらら 68
繕う 72                  そらのジュース 76
み・ち 80                 希望の譜 84
緋のはた 88                事務服エレジー 92
青紫
(パープルブルー)への階 96.        ミセスナオミ 100
やませの海 104
.              水の画布(カンバス)は渇いて 108
黒浜沼畔にて 112
あとがき 116
.               装幀 丸地 守




 
そらに生えて

初夏のまぶしい光が わたしの樹に
葉擦れのくさめを擽
(くすぐ)って葉脈を弾く

初めて詩を書いたのは中学三年生
病に臥す長期欠席の受験生だった
失意のどん底に張り詰めた窓に誘う
空の雲に紡がれるもう一つのいのちの譜
 あの雲はどこから来るのだろう
 わたしの知らない国からかしら

「へぇー 知らね国だなんてどごにあるべ」
「世界地ん図見ればみんなわがるべさ」
同級生の揶揄する言葉にさえ
病み上がりの身は 葉陰の心地よさを喫して
言の葉擦れに涼んでいた

あれから幾十の歳月が流れ その淵に
休んでは思い起し綴ってきた詩
言葉はいつしか
わたしの想いの樹を育てる葉となった
いのちを涵養するのぞみの葉となった

地上に生える樹の こだまのさみしさ
そらに生える樹の 土に逢うよろこび
夜の露に濡れた言の葉を
朝の光は鮮明な翠
(みどり)に咲かせ 偽りもなく
その真実の滴を葉脈に享け樹紋に刻まれた

流れるきょうの白い雲が
わたしの樹を 風の庭の饗奏に薫らせる
大空の注ぐ光のじょうろが
(みどり)の星の虫食い葉を スタッカートの綾にひるがえす

 8年ぶりの第3詩集です。この詩集にはタイトルポエムがありませんが、紹介した巻頭作品から採ったと思われます。〈樹紋〉は年輪と考えてよいでしょう。〈初めて詩を書いた〉〈中学三年生〉から、〈幾十の歳月が流れ〉た現在までの〈休んでは思い起し綴ってきた詩〉の来歴が簡潔にうたわれていると思います。〈大空の注ぐ光のじょうろ〉が著者にとっての詩であるのかもしれません。
 本詩集中の
「あめの狂詩曲」はすでに拙HPで紹介しています。初出から改訂されていますがハイパーリンクを張っておきました。合わせて対馬正子詩の世界をご鑑賞ください。




詩誌『ひを』14号
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2010.2 大阪市北区 三室翔氏発行
286円+税

<目次>
古藤俊子 夜明け 2
三室 翔 居場所 6  年越しって 8
寸感
古藤俊子 10      三室 翔 11




 
居場所/三室 翔 Mimuro.sho

ねむりのはじまりは いつもねむりと
ねむりをねむる瞬間の
繋ぎ目にたちあっているようだ

どこにいるのだろう

自分のばしょがわからない
窓ぎわだったか
ドアがわだったか

閉じた目はひらく目で
手を伸ばせば せかい中に
さわれるようなきもちになる

思いこみは
多産し
私は せわしなく
バクの餌を
稼ぎます

遠くから私のはなし声がきこえてくる
が、急に追いつかれ私のなかにストンと
落ちた

滲むづれがひたひたとすりよって
解かれた手足
の 向こうから
位置がゆるやかに
帰還します。

本当は 何処にも居ない私
という 錯覚にも落ちているのです。

 〈ねむりのはじまり〉というものはおもしろいものですが、それを上手く表現していると思います。〈閉じた目はひらく目で〉というのは、睡眠への目が開かれると採ってよいのかもしれません。〈私は せわしなく/バクの餌を/稼ぎます〉というフレーズは笑いを誘いますね。最終連の〈本当は 何処にも居ない私〉は〈錯覚〉であるかもしれませんが、そのまま存在論にまで繋がりそうな詩語だと思いました。




詩誌『二兎』創刊号
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2010.2.25 横浜市中区      500円
徳弘康代氏方・二兎の会 水野るり子氏発行

<目次> 『不思議の国のアリス』を読む
★詩★
穴……………………………………坂多 瑩子 2   夜ごとのアリス………………………水野るり子 6
氷砂糖………………………………中井ひさ子 10   お茶会へどうぞ………………………佐藤真里子 16
二つ月の二つ兎……………………徳弘 康代 20   帽子屋のお茶会に招ばれたら…絵 相沢 律子 12
★エッセー★
キャロルの写真と手紙……………坂多 瑩子 4   うさぎ穴の悪夢………………………水野るり子 8
赤い公衆電話………………………中井ひさ子 14   気まぐれなカッコウ時計……………佐藤真里子 18
アリスはダイヤと空の上…………徳弘 康代 22
ひとこと・住所録……………………………… 24   絵………………………………………相沢 律子




 
氷砂糖/中井ひさ子

渡る風に 呼ばれて
ベッドを 窓際に移し
映りすぎる
鏡は 部屋の隅っこに

ああ 疲れたと
座り込んだら
これ お食べ と
かあさんが
小さな壺から氷砂糖を
ひょいと 一欠けら
口にほりこんでくれた
横で見つめる
ネズミにも
ひょいと一欠けら

氷砂糖はからだの中で
透明になっていく
からだも
透明になっていく、
ネズミはもう見えない
わたしの頭はもうない
もうすぐ足も消えるな

楽になったかい? と
鏡の中で
あの子も 消えたまま
この子もと
指を折っている
かあさん

 新しい詩誌の創刊です。誌名の「二兎」は、詩とエッセイの二兎を追うところから付けられたようです。今号の特集(テーマかもしれません)は“『不思議の国のアリス』を読む”。『不思議の国のアリス』をマジメに読んでいませんので、紹介した詩が物語の中でどういう位置づけになるのか判りませんが、単独の詩としても充分通用すると思います。特に〈鏡の中で/あの子も 消えたまま/この子も〉というフレーズがよいですね。子どもたちがいずれは〈かあさん〉の前から、成長して“消えていく”喩のように思いました。
 今後のご発展を祈念いたします。






   
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