きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.1.13 静岡県函南町・丹那断層




2010.2.28(日)


  その1

 今日も一日、西さがみ文芸展覧会の準備で追われていました。3月3日から始まりますが、搬入は2日午前9時半。あと2日しかありません。現職の頃も2月は月足らずで慌てふためいていましたけど、その当時の苦労をなにも勉強していないんだなあと思いますね。まあ、なんとか観てもらえるようなものにしたいと、がんばります!




堀内利美氏長詩『円かな月のこころ』
英訳 郡山直
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2010.3.25 東京都板橋区 コールサック社刊 2000円+税

<目次>
著者のプロフィール 3
感謝のことば 4
序詩 6
長詩「円かな月のこころ」 8
跋詩 80
楽譜「おかあさんの花」 掘内利美作詞 掘内清治作曲  84
著者の著書・翻訳書




 
序詩

いのち

こころ

一体
となって
かがやく


こころ

瑞々しくなり
いのち

あたため
血行

よくする

いのち

若々しくなり
こころ

躍動させ
血行

よくする

この
“いのち”

“こころ”

存在景

“詩考と思索の流れ”

映っている

 本編39章に序詩と跋詩が付いた長編詩で、さらに楽譜まで添えられた詩集です。本の半分は英訳が占めています。ここではこの長編詩の「序詩」を紹介してみましたが、この詩集の性格を端的に表現していると思います。〈いのち/と/こころ/が/一体/となって/かがやく〉とはどういうことか、それを具現化した詩集だと云えましょう。




隔月刊詩誌『サロン・デ・ポエート』284号
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2010.2.25 名古屋市名東区 中部詩人サロン編集・伊藤康子氏発行
300円

<目次>
作品
春の予感…………………横井 光枝…4    ロウバイ…………………高橋 芳美…5
ゆらり・ゆら・ゆら……田渕千恵子…6    ウォーミング・アップ…足立すみ子…7
ハッピーの病……………阿部 堅磐…8    日日薬……………………小林  聖…9
焦げた鍋…………………荒井 幸子…10    すてきな家族……………野老比左子…11
石段…………………みくちけんすけ…12    血の池公園………………伊藤 康子…13
おめでとう 他二編……福田実佐枝…14
散文
詩集「遠く呼ぶ声」を読む…………………………阿部 竪磐…15
詩歌鑑賞・岸上大作の歌〈高校時代〉より………阿部 堅磐…16
詩集「しらゆきひめと古代魚ゴンドウ」を読む…阿部 堅磐…18
同人閑話………………………………………………諸   家…19
受贈誌・詩集、サロン消息、編集後記
表紙・目次カット……………………………………高橋 芳美




 
ウォーミング・アップ/足立すみ子

腰が痛い
背中が痛い
今度は前に代わって鳩尾のあたり
代る代る
日を替えて発っせられるSOS

思えば
気の遠くなりそうな
太古から受け継がれ
脈々と
体内を巡る気血

行く手を邪魔され
たまりかねて上げた悲鳴だ
読点が言葉の流れを遮るように
体液の流れにも
点が打たれているのだろう

 私は九十歳の一人暮し
 耳が全く聞こえなくなりました。
 足腰不自由
 それはそれで
 新鮮な第三世界でもあります。
と、老詩人からの便りがあった
私には少し間があるようだが
この痛みは
第三世界を楽しむための
“ウォーミング・アップ”
気付けば
打たれた点を
消し去る技も受け継いでいる
この技をさらに磨けば
痛みにも耐えていける

 〈それはそれで/ 新鮮な第三世界でもあります〉と言う〈老詩人〉の発想もすごいと思いますが、それを〈第三世界を楽しむための/“ウォーミング・アップ”〉と捉える〈私〉の向日性にも敬服します。〈行く手を邪魔され/たまりかねて上げた悲鳴〉を〈読点〉と謂い、〈気付けば/打たれた点を/消し去る技も受け継いでいる〉と捉える感性にも励まされた思いのする作品です。




詩誌『木偶』80号
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2010.2.25 東京都小金井市
増田幸太郎氏編集・木偶の会発行 500円

<目次>
詩人たち(1)/中上哲夫 1        サンクタス(聖なるかな)/田中健太郎 3
初冬/野澤睦子 5             はつゆき/藤森重紀 7
電車の中で/落合成吉 9          合評会後、Nさんのくれたユズ/広瀬 弓 11
儀式/天内友加里 13            白い女/沢本岸雄 15
鶴の顛末/乾 夏生 17           中村銀之助一座異聞 出奔/土倉ヒロ子 21
わたしは複雑系/荒船健次 23        更衣/仁科 理 26
終着駅/増田幸太郎 29
評論「首都高速」と長谷川龍生/野寄 勉 33 受贈誌一覧 37




 
電車の中で/落合成吉

秋のある日
隣の町の大きな書店へ行くために
久しぶりに電車に乗った

待っていた電車が到着して
私が乗り込むのと同時に
若い女性が乳母車を押して乗り込んできた
乳母車には男の幼児が乗っていた

やがて電車は走りだした
男の児は目を閉じていて素足だった
両足を伸ばして
乳母車の外に出していた

男児を見るともなく見ていると
両足の五本の指を
伸ばしたり縮めたりし始めた
右・左とかわるがわる動かしている
そして気持ちよさそうな顔をしていた

男児は飽きることなく
足指の伸縮運動を繰り返している
車窓から外の風景を眺めている
若い母親はそれに全く気づいていない

私は男児の行為を見ていて
ふと 想った
彼の足指の運動は
彼が青年に成長した暁に
日本列島を隈なく歩き回るときに備えての
準備運動ではないかと

男児は 足指の伸縮運動を
繰り返し続けていた

 〈そして気持ちよさそうな顔をしていた〉という〈男児〉の顔が見えるような作品です。そこから〈彼が青年に成長した暁に/日本列島を隈なく歩き回るときに備えての/準備運動ではないか〉と想像するわけですけど、この人間を素直に見る眼に感動を覚えます。幼児の屈託のなさと、それを見る〈私〉の交感に、人間は信じられるという思いをした作品です。






   
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