きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅




2010.3.2(火)


 午前中は西さがみ文芸愛好会の「第14回西さがみ文芸展覧会」の準備を、小田原の「ギャラリー新九郎」で行いました。私は今回はじめて特別展を担当し、「播摩晃一の足跡」の展示をやってみましたけど、用意したA3用紙6枚の年表が意外に小さいことが判明。急遽さらに2倍に拡大コピーしました。それを壁にブチブチと貼り付けていったのですが、ただ紙が貼ってあるだけですからね、ちょっと淋しい感じでした。そこへ登場したのが実行委員長。「周りを紙テープで囲みましょう!」
 青色の紙テープで囲んだだけですけど、グッと見映えが良くなりました。私はそういうセンスにとぼしいので、本当に助かりました。餅屋は餅屋で、皆さんそれぞれにセンスをお持ちなんですね。勉強させてもらいました。

 午後からは久しぶりに新幹線に乗って、日本ペンクラブ会館に向かいました。第5回の電子文藝館委員会です。議題の主は、国際版の電子文藝館を構築すること。9月に開催される「国際ペン東京大会2010」に向けて、新たに英文のHPを公開します。当面は歴代会長の英訳された作品を載せる予定です。ちなみに歴代会長は初代の島崎藤村に始まって、正宗白鳥、志賀直哉、川端康成、芹沢光治良、中村光夫、石川達三、高橋健二、井上靖、遠藤周作、大岡信、尾崎秀樹、梅原猛、井上ひさし、そして現会長の阿刀田高の諸氏。海外にも名を知られた作家・詩人ばかりですから、きっとアクセスも増えるでしょう。亡くなっている方が多く、著作権継承者や翻訳者の許諾が大きな壁になりますけど、趣旨はご理解いただけるのではないかと思っています。

 今日の委員会はオブザーバーが3人で、珍しく13名も集まりました。HPリニューアル関連の人と、新しく文藝館委員に加わってくれる人がオブザーバーでしたが、懇親会にも出てくれて良かったと思っています。公式な委員会はもちろん大事ですが、そのあとのフランクな懇親会も、メンバーのお人柄に触れられるという点で大きな意義があります。まあ、私は単なる酒好きなだけかもしれませんけどね。最後までおつき合いくださった皆さん、ありがとうございました!




詩誌『馴鹿』52号
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2010.2.28 栃木県宇都宮市
tonakai・我妻洋氏発行 500円

<目次>
*作品
歩く      …矢口志津江 1      空/春宵    …大野敏   3
ブルームーン/蔓…小太刀君子 5      ふり      …和気康之  7
晩秋のカサコソ …入田一慧  15      虫の一章    …金子以左生 19
切られる    …斎藤新一  23      あまや     …村上周司  27
苦い風     …和気勇雄  29      乱れ      …青柳晶子  31
昼の回廊から  …我妻洋   33
*書評
喩体としての身 …金子以左生 25
*橇−同人のエッセイ欄−
山百合     …青柳晶子  12      もう一歩    …斎藤新一  12
言挙げ     …我妻洋   14
後記                    表紙 青山幸夫




 
歩く/矢口志津江

引っ越してきて
毎日 朝夕 犬と散歩する
公園 ショッピングモール 神社 教会 大学のグランド
東西南北 てくてく歩いた
銀行 郵便局 整骨院 皮膚科医院 ペット病院
必要な施設を確認しながらきょろきょろ歩き回った
とぼとぼ歩き回っているのは過去の町
ぐるぐる歩き回っているのは自分の中
いるはずもないのに
知り合いに会いたいと思いながら

近道や毛細血管のような路地をみつける
立ち入り禁止 この先行き止まりの札にも出くわす
新参者を拒否されたような気分
柵を潜って抵抗する
迷ってしまった時
集団下校の小学生のあとをついて行き
かつて畦道だったと思われる傘もさせない細い道を知った
飼い犬も私もこの道が気に入った
すこし町に馴染んだ気がしてくる

「書道教室 筆耕」の看板がある家の玄関先
タチアオイの花が 梅雨空の下
まっすぐ空に向かって咲いている

草木が根付く場所を選べないように
植えられたところで折り合いをつけ
また歩き回ろう
顔を少し上げ ゆっくりと

 私はもう20年近く「引っ越し」をしていないので感覚が鈍くなっているのかもしれませんが、〈とぼとぼ歩き回っているのは過去の町/ぐるぐる歩き回っているのは自分の中〉というフレーズは分かるように思います。〈立ち入り禁止 この先行き止まりの札にも出くわす/新参者を拒否されたような気分〉というのも分かりますね。〈迷ってしまった時/集団下校の小学生のあとをついて行き/かつて畦道だったと思われる傘もさせない細い道を知った〉というフレーズには、なるほどと思いました。小学生ならば狭い道も知っているのでしょう。最終連の〈草木が根付く場所を選べないように/植えられたところで折り合いをつけ〉るのが引っ越しというものかもしれません。久しぶりに自分の町についても考えさせられました。




詩誌GATE218号
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2010.2.27 茨城県つくば市 塚本敏雄氏方 非売品

<目次>
【詩】
居酒屋にて          塚本敏雄……2  大池寺の女          生駒正朗……5
手打ちそば 那由他      柴原利継……7  ラブラブラブ         福田恒昭……10
【ゲスト招待作1】
Check-Up           Chris Hale…12  健康診断(日本語訳)     塚本敏雄……14
クリス・ヘイル詩集「ミッシング」太原千佳子…16
【特集】エロスの神が振り返る ………‥……17
海峡の神【ゲスト招待作2】  磯村英樹……19  騒ぐ水            生駒正朗……21
夏の終わりに         福田恒昭……24  おりじん           柴原利継……27
フィンガー・ピッキング    塚本敏雄……29
【エッセイ】断章集 EDGE8  塚本敏雄……32
【同人短信】From the GATE
.  福田恒昭……38  生駒正朗…39 柴原利継…39  塚本敏雄……39




 
居酒屋にて/塚本敏雄

入り口の外では凩が舞っていた
わたしはカウンターの席に座り
煮奴を肴に酒を飲んでいる
隣の席には
わたしよりも先に来ていた
物静かな中年男が背を伸ばし
まるで酒に向かって
含み笑いをするかのような趣で
自らの杯に酒を傾ける
他の客も一様にもの静かに
酒を飲む
男は
お銚子を二本
目の前の板わさと
うなぎのくりからやきを食べ終えると
静かに勘定を済まし
去っていく
ちょうど入ってきた二人連れと
入れ替わるように
こちらは三十前後の男性と
それよりは少し年上に見える女性
女性の方が甲斐甲斐しく見えるのは
気のせいだろうか
わたしも二本目の銚子を空にして
自分の肴を片付けたところ
先にやって来た者が先に去るのは
何の不思議もないことだ
二人連れも
店の雰囲気に合わせるかのように
静かな語らいを啄んでいる
がたぴしと音をたてて
戸を開ければ
そこはまた凩の舞う路地
やって来ては去っていく者らの
一人になって
わたしは後ろ手に戸を閉める

 〈居酒屋〉での何でもない風景ですが、それぞれの客の人生が透けて見えるような作品です。〈物静かな中年男〉、〈三十前後の男性と/それよりは少し年上に見える女性〉、そして〈わたし〉がたまたま居合わせた〈店〉は、乗り合わせた舟のような存在なのかもしれません。人生のある一瞬で隣同士になった客たち。そこは日常の延長ながら、ちょっとした非日常。ささやかな非日常を過ごす庶民が爽やかに描かれた佳品だと思いました。




文芸誌『言の葉倶楽部U』4号
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2010.2.28 山形県上山市
書肆犀事務局・言の葉倶楽部刊行会発行 非売品

<目次>
◎黒い布 をゝさわ英幸 2
◎短歌 ひと・こと・わたし 高橋美代 4
◎茂吉の愛した万葉の歌びと 鎌上 宏 7
◎「JIモンテディオ山形」ひねくれ観照記 高 啓 12
◎詩 青い時間/考察 日塔貞子の詩情について 大江利知 20
◎「関ヶ原」への壮大なるリベンジ? 岩井 哲 23
◎二〇〇九年十二月 静かに釣り糸を垂れる 安達敏史 27
◎詩 居留守/午後の釣り人たち 尾崎まりえ 32
◎クラスメートH君 佐藤藤三郎 36
◎前略 広末涼子様 高橋英司 42
◎ぐうたら草[四] 萄地隆三 47




 
午後の釣り人たち/尾崎まりえ

長椅子がずらりと並ぶ堤防の釣り人たちは
どれだけ時間が経っても諦めない
ねらった魚がかかるよう念じ
黙々と待っている
波風に煽られ釣り糸が絡んでも
そこは場馴れた者同士
収め方を心得ていて
慌てることなく解きほぐす
ピクピクッ、
中りが来た者は意を決して立ちあがり
高鳴る鼓動を抑えつつ
懸命にリールを巻く
何が釣れたのか
期待どおりなら
思わず相好がゆるむ
午後の堤防はいつもの顔ぶれで
話さなくても
おめあての魚の見当はつく
いよいよ「Gさん」が現れて座った
時計を見れば
「Eさん」はもう二時間以上
「Fさん」でも一時間になる
目の前の海を彷復う獲物たちは
そのへんの魚屋では手に入らない
長椅子がずらりと並ぶ外科の釣り人たちは
家族の期待を一身に背負い
消毒の匂い漂う堤防で
か細い血色の糸を垂らし
じっと座ってひたすら待ち続ける
それぞれに 明日の命を釣り上げるまで

 〈長椅子がずらりと並ぶ堤防〉とは珍しいなと思いましたが、〈外科〉の待合室の長椅子でした。それで〈どれだけ時間が経っても諦めない〉し、〈目の前の海を彷復う獲物たちは/そのへんの魚屋では手に入らない〉ものばかりなんですね。おそらく作中人物もその中の一人なのでしょう。〈明日の命〉も考えなければならない状態なのかもしれません。深刻なはずなのですが、それをサラリと描くところに作者のお人柄を見た思いのする作品です。






   
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