きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅




2010.3.1(月)


 明日から始まる西さがみ文芸愛好会の展覧会の準備で忙殺されましたが、どうにか完了しました。今回は特別展の「播摩晃一の足跡」を担当しましたので、その準備が一番大変だったんですけど、それもどうにか形になったかなと思っています。ポイントは播摩さんご自身がお作りになった年表の掲示です。出生から亡くなる直前までの略歴は詳細を極めています。年ごとにご家族一人一人の年齢と何年生になったかまで書かれていて、事実の記述の裏の、ご家族に対する愛情が痛いほど伝わってきます。飼った犬の生年月日や死んだ日まで書いてあるという年表を見て、何を主眼として生きた人なのかもよく分かりました。残念ながら展示ではそれらの私的なことを載せるわけにはいきません。文学的なことに限りました。それでも播摩晃一という詩人・庶民史家のアウトラインは充分伝わるのではないかと思っています。多くの皆さまにご覧いただければ嬉しいです。




嵯峨恵子氏詩集定本 おかえり』
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2010.2.23 高知県高知市 ふたば工房刊 1905円+税

<目次>
 
T
病院へ続く道 8               Tシャツの夏 11
走って走って 15               お墓まで 18
父のカレー 21                警察に火事を通報する 24
反響 27                   命の重み 30
LIKE A ROLLING STONE 33 夢では 36
プライド&サム・マネー 39          誤算 42
日々はしづかに発酵し… 45          三つ子の魂 48
悪い夢 51                  山吹のなぎなた一本 54
お別れ会 57                 置物 60
壊れゆく母 62                単純な世界 65
 
U
もう 70                   おばあちゃんのところ 73
顔 76                    シネマのように 79
時満ちて 82                 着物姿の母 85
毒を食らわば 87               盆休み 90
鳥葬 93                   おかえり 96
のぞきこまれる母 99             母に関するすべての出来事 102
あとがき 108




 
病院へ続く道

いつもなら通り過ぎる駅を降りる
会社からここまで
いくつもの階段を焦る心で上り降りした
街はすっかり夕暮れ
商店街を抜ける病院への道には
お団子屋さんがあり
電気屋さんがあり
ジーンズ・ショップだってある
パチンコ屋をすぎたあたり
自動販売機で熱いウーロン茶を買うのが
近頃の習慣になった
この暑いのに母は靴下を離さない
病院のベッドで熱いお湯と水を持ち
簡易トイレのそばで
体を拭き歯磨きをする
母の儀式のような時間が始まるのだ
汚れた洗濯物を抱えて
帰る道はもっと暗い
ひと足早く帰った
父は家で夕飯を作っているだろう
休日には部屋を片付けなくては
すでにスーパーの角は曲がった
明るいハンバーガー屋の店内を横に
母のいる病院は影の形で
目の前に近づいてくる
薬と病気の匂いに満ちた自動扉に立ち
私はなんでもない顔をして
二階の病室への
階段を上りはじめる
肩にカバンを掛けなおして

 2000年に刊行された詩集『おかえり』に9編を新たに加えて定本とした詩集です。『おかえり』は母上の逝去を扱った詩集ですが、それを出したあとも母上についた書いた詩があったため、今回ひとつにまとめたとあとがきにありました。『おかえり』も佳い詩集で、拙HPでは詩集のアウトラインとともにタイトルポエム
「おかえり」をすでに紹介しています。ハイパーリンクを張っておきましたので、よろしかったらご覧になってください。
 ここでは新たに加わった詩篇の中から、巻頭の作品を紹介してみました。痴呆が始まったもののまだお元気な頃の詩で、この作品が巻頭にあることによって時系列的な落ち着きが出てきたと思います。〈私はなんでもない顔をして〉というフレーズで母上に対する著者の心境が凝縮され、〈肩にカバンを掛けなおして〉では〈母の儀式のような時間〉への“戦闘態勢”を感じることができます。肉親の死に立ち向かう、奇麗事ではない詩人の魂の詩集だと思います。




詩誌『青芽』553号
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2010.3.5 北海道旭川市
青い芽文芸社・富田正一氏発行 700円

<目次>
作品――
富田正一 大雪山系詩人 燦燦 4      富田正一 ゆめのまたゆめ 4
沓澤章俊 枯木の時 6           宮沢 一 所有・考 8
村上抒子 父の木 8            本田初美 雪を見る 9
山田郁子 来歴・夢の中で 10        芦口順一 躍動の神髄 12
佐藤 武 ときめいて二〇一〇年代を 13   堂端英子 暗い海 14
倉橋 収 パウダースノウ・雪しるべ 15   倉橋 収 どこかで春が 15
森内 伝 ふみわけ道 16          四釜正子 五官のどこかで 17
浅田 隆 父の無念T/父の無念U 18
◇同人評論  森内伝論 沓澤章俊 20
◇ちょっと一言
本田初美 26 村上抒子 26 能條伸樹 27 文梨政幸 28 佐藤潤子 28 沓澤章俊 29 荻野久子 29 富田正一 30
■目に止まった詩「蛇蠍」91号 58
作品――
菅原みえ子 ぴ ぽん 31          佐藤潤子 化粧 32
小林 実 時間 33             オカダシゲル つぶやき 34
能條伸樹 迎春 35             荻野久子 少女 36
小森幸子 卵焼きの味 37          現 天夫 現象空間の断片 38
千秋 薫 帰省 39             岩渕芳晴 ありふれた日常 40
仲筋義晃 自然と同朋共生 41        村田耕作 墓守/一湾の鄙/差別地帯/流氷 42
文梨政幸 夜の果物/歳時記考/記憶 44
◇連載
青芽群像再見 第十三回 冬城展生 50    青芽60年こぼれ話(十) 富田正一 55
青芽の同人たち(4) 村田耕作 24
告知 30・49・54・59            寄贈新刊詩集紹介 46
青芽プロムナード 46            寄贈誌深謝 48
目でみるメモワール 60           編集後記 62
表紙題字 富田翠芳(日本習字教育財団正師範) 表紙画 文梨政幸  扉・写真 佐々木康成




 
所有・考/宮沢 

本の整理をする。
棄てるつもりはない から
古本屋さんか寄付にでも、と考える。
で、まずは手放す本を選択する。
が、これが思うようにはかどらない。
迷うのである、時折深く思い悩むのである。
しかし考えてみればこの種の悩みは
ずいぶん贅沢なのだと思う。
よほど高額でなければ私は本を買える。
困難な漢字に阻まれることはあっても私は本を読める。
時間を都合すれば私には読書の時間が許される。
しかし、買えず、読めず、瞬間の暮らしに追われる
そんな人たちも少なくはあるまい。
そして、さらに
サンダル一つ、聖書一冊、二枚のサリーしか
持たなかった人のことを私は思い浮かべる。
彼女なら例えば、本をどうしただろう。
読みたい本があったら借りただろう。
じっくり心に刻んだ後、返しただろう その人に。
もらい受けた本があったら読んで
読みたがっている次の人に
その人の手に、そっと差し出しただろう。
所有しない つまりそれは
それだけ多くの人とつながっているという事ではないか。
所有しない そのことの
豊かな広がりについて考える。
うん、これは詩になる。
なるほど詩になる。
しかし、積み上げてしまった本の山を
とりあえず、今はどうしよう。
これではいつまでも布団も敷けない。
 …所有に 逆襲される 自業自得 秋の夜

 〈本の整理〉については多くの人が悩んでいると思いますが、この詩は〈所有〉という切り口で考察していて、おもしろいと感じました。〈所有しない つまりそれは/それだけ多くの人とつながっているという事ではないか〉という発想が素晴らしいですね。〈所有しない〉ことで〈豊かな広がり〉があるというのも納得させられます。しかし、現実には〈積み上げてしまった本の山を/とりあえず、今はどうしよう〉…。〈所有に 逆襲される〉というフレーズに恐怖さえ覚えた作品です。
 なお、今号では拙HPに触れていただきました。御礼申し上げます。




詩とエッセイ『千年樹』41号
創刊10周年記念号
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2010.2.22 長崎県諫早市 岡耕秋氏発行 800円

<目次>

見えない境界線・平穏・秋の献立/わたなべえいこ 2 屈折 少女たちの詩と真実/和田文雄 8
点滴する時間/佐々木一麿 14            「北総台地U」の為の習作・退屈な時間帯/早藤 猛 16
タオル遊び・鬼火たき・生きている/高森 保 20   雪・現代墓事情・日和見主義者/松尾静子 26
透明時計・梨の花ひらく・昼と夜のはざまに・夜の地層/岡 耕秋 30
エッセイほか
森田薫エッセイ集『Tραγωδια−山羊の歌』/こたきこなみ 38
叔母が残した本から 〜洋服の少女と最後の特攻/中田慶子 40
自由の鐘(一二)/日高誠一44
有明海は甦るか/松富士将和 52           プルサーマル計画と佐賀(二)/満岡 聰 60
縄文人のことばを聞きたい(二)/早藤 猛 76    菊池川流域の民話(二八)最終回/下田良吉 80
千年樹の窓から 一〇年輪記念エッセイ 92
異形から光へと 鷹取美保子/詩作を志してより『千年樹』に到る 佐々木一麿/療養記 高森 保/一〇年という年輪 早藤 猛/僕がエッセイを書きはじめた頃 日高誠一/『千年樹』へ 松尾静子/明日かもしれない 森田 薫/自然のままに わたなべえいこ/花橘 和田文雄/『千年樹』の周辺 岡 耕秋
『千年樹』創刊一〇周年 創刊〜四〇号総目次 109  『千年樹』創刊一〇周年 執筆者総名簿 122
一〇年輪記念号(三七〜四〇号)執筆者紹介 124   『千年樹』受贈詩誌・詩集等一覧 126
編集後記ほか 岡 耕秋 128




 
タオル遊び/高森 

二歳の薫子が婆
(ばばあ)のところから来る
婆に捲いたかな 爺
(じじい)が相手するよ
さあ向き合って タオルをこう持って

くるくるっと手に巻いて手巻きで包帯だ
おなかにこうあて 腹巻きだ
首に引っかけ 首巻き 襟巻き 寒さよけ
頭にまいてこう結んで 向こう鉢巻き
ほどいて姉さんかぶり よく似合う

手巻き腹巻き襟巻き鉢巻き
自由自在 タオルでできる
爺は 向こう鉢巻き
すたこら駆けて一回り
ほどいて今度は綱引きだ
さあ、薫子と引っぱりこ
えんやこら えんやこら
さあの引っぱりっこ
上手だね 気が合ってきたよ
嬉しいね

手巻き腹巻き襟巻
今度は 薫子の姉さん被り
爺は向こう鉢巻き きゅっと締めて
こうして お餅つき
薫子 お湯に手をつけて
こんな風に 餅かえせ
できるかな
ほいほいとな それ
ペったんこ ほい ペったんこ

−なにしてるの ばかばかしい−
婆が顔出し顔しかめ
−変なこと教えなさんな−

 お孫さんとの〈タオル遊び〉ですが、〈手巻き腹巻き襟巻き鉢巻き〉、さらには〈姉さん〉に〈綱引き〉と、よくもまあこれだけのことができるものだと感心します。他にもお尻に敷いたりモノを包んだりと、まさにタオルは万能ですね。もちろん浴室では本来の役目。一本のタオルの素晴らしさは、それを使う人間の知恵の素晴らしさでもあるのかもしれません。最終連は、それを小賢しく言い募るのではなく、〈ばかばかしい〉というオチへ持っていって見事だと思いました。






   
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