きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
100225.JPG
2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅




2010.3.5(金)


 西さがみ文芸愛好会「第14回西さがみ文芸展覧会」の3日目。今日は受付当番でしたので、午後から詰めていました。今日は私がお誘いした方が5人も来てくれて、感謝!感激!。それも遠く調布市、茅ヶ崎市、静岡県伊豆の国市と、はるばるお出でくださり、お礼の申しようもありません。しかも調布市からお出での詩人は、その場で愛好会の会員になってくれました。以前、長く小田原市に住んでいた方で、小田原近郊とつながりを持っておきたいとのこと。もちろん大歓迎です。

100305.JPG

 今日の会場写真です。柱の右手が昨日アップした特別展「播摩晃一の足跡」のコーナーです。柱には間仕切りができるようになっていて、それをやると展示面積が増えるのですが、今回は採用しませんでした。一望のもとに見渡せる方が良いだろうという判断です。展示作品も余裕で収まりましたしね。
 今日も60名を超えるお客さまをお迎えしました。連日大勢の皆さまにご覧いただき、嬉しい限りです。




詩と散文RAVINE173号
ravine 173.JPG
2010.3.1 京都市左京区
薬師川虹一氏方・RAVINE社発行 750円

<目次>
詩■
中島 敦子 ジャムを煮る 2         牧田 久未 帽子の中の食卓 4
苗村 和正 蟹 7              白川 淑  ご近所さん(ち) 10
木村三千子 展示物 12            成川ムツミ 帰り道 14
ヤエ・チャクラワルティ
.下町の浮浪者(プリンス).17 薬師川虹一 黒い太陽 20
木村 彌一 パラダイス 22          並河 文子 桜葉が舞う−靖国神社遊就館にて− 24
早川 玲子 こだわり 30           古家 晶  時代祭りで 33
乾  宏  今年が終わる 36         山本由美子 季節 38
藤井 雅人 ワルキューレ−北欧神話から− 40 荒賀 憲雄 農事詩・芋 42
藤田 博子 管絃音義 45           村田 辰夫 カレンダー 48
堤 愛子  日めくり 50           名古きよえ 記憶のノート 52
久代佐智子 節分ではないけれど 54      中井不二男 メタセコイアもみじに抱かれて 57
石内 秀典 なにもない春です−さんぽ 60
同人語■
薬師川虹一 現代詩の言葉 26         山本由美子 一通のメール 27
荒賀 憲雄 下さいな・上げましょう 28    村田 辰夫 「ただ狂え」 29
エッセイ■
村田 辰夫 T・Sエリオット詩句・賛(41) 62
RAVINE合同出版記念会 56
<表紙>『天野大虹作品集 画と詩』より「河岸」(1983)




 
ジャムを煮る/中島敦子

うす黄色の小桃を集め ジャムを煮た
さっと茹で 皮をむき 果肉を刻んで
果肉もうす黄色のまま

ぐつぐつ煮ていると
きのう届いた 二通の残暑見舞いが
ぐつぐつ煮えている
一通は旧友から
 病気が再発しました
一通は元級友から
 これからは
 お付き合いを風の便りにします

 −レモンを忘れないでね
一緒に桃の実を集めた
友人の忠告だった
レモンを入れると ジャムは
桃色に色づいて来た
うす黄色の桃が桃色に還った

人にも還る色があるのかも知れない
私のジャムは 桃のように
懐かしい色を取り戻してはいないけれど

 〈ジャムを煮〉たことはありませんけど、〈うす黄色の桃が桃色に還った〉のは酸化還元反応でしょう。それを〈人にも還る色があるのかも知れない〉としたところが見事だと思います。第2連の伏線、特に〈これからは/お付き合いを風の便りにします〉というフレーズがよく効いていて、第3連へと上手くつなげた作品だと思いました。




隔月刊会誌Scramble104号
scramble 104.JPG
2010.2.28 群馬県高崎市 平方秀夫氏発行 非売品

<おもな記事>
○私の日常…谷淵彩菜 1         ○私の好きな詩…このために生きてきた 上林忠夫 2
○会員の詩…4
 背後の時計/新延 拳 3         呼び名/鈴木宏幸 4
 つまづき/金井裕美子 4         ふるさとは無い/遠藤武男 5
 月夜/福田 誠 6            遍歴/渡辺慧介 7
○インフォメーション…8         ○編集後記…8




 
背後の時計/新延 

プールの水面に雨が降り出す
(そういえば年表もはじめは疎ら)
多くの円ができ
互いに干渉し打ち消し重なり合う
そしていつのまにか雨はやむ

ありあまるほど手つかずの時間と空間があった
柱時計が家族を支配していたあの頃
誰もいないはずの二階で何か軋む音がし
冷蔵庫が得体の知れない音を出していた

あの夏の蛇口の滴りに
原風景が歪み始める
生者も死者も蠢いている
蠢いている
嬰児の蚕豆のような足も

ガラスケースの中
スパゲッティ・ナポリタンを
丸めて挟んだフォークが宙に浮いている
昭和の洋食屋
アイス最中を半分に割って差し出す
夢の中の昭和
西日を受けて家族が背負っていたもの
母さんという言葉は今でも断固固有名詞だけれど

ひたすら花を食べ続けた園田さん
言葉から衣服を脱がせてゆくのをなりわいにしていた
彼女の母親は歌に火をつけるのを
父親は神話に鳥を飛ばし
夢に翳をつけるのをしごとにしていたという

わが掌という不毛な地に涙をこぼし蛍の火をともせ
問うことは自分自身が問われることと知れ
物をこそ思え

二十歳のままのあなたに手紙を書く
縞馬の縞のような言葉の濃淡

目覚めると秒針に何か急き立てられている気がする
時計の針先だけでなく音まで尖っていて
妖精が秒針に合わせて踊っている
夢の中の履歴書にわが悪魔祓いのことを記入し
自分をあちらこちらに置いてきたのだが

合わせ鏡の中に移る無限数の私
どれかひとつの顔でも笑っておくれ
一日の初めにはまっさらな時間が自分を待っている
なんていうことはありはしないのだから

 第1連の〈プールの水面に雨が降り出す/(そういえば年表もはじめは疎ら)〉というフレーズから魅了される作品です。プールの水面の疎らな雨脚が見えるようです。〈あの夏の蛇口の滴り〉、〈夢の中の昭和〉、〈物をこそ思え〉などの詩語も佳いですね。最終連の〈合わせ鏡の中に移る無限数の私〉の“移る”は“写る”の誤植かもしれませんが、このままの方が良いと思います。“写る”はありきたりですけど、〈無限数の私〉が“移る”となると、この意味は深く拡大していきます。仮に誤植だとしても、誤植さえ詩語化する詩の力を感じました。




詩と批評『幻竜』11号
genryu 11.JPG
2010.3.20 埼玉県川口市
幻竜舎・清水正吾氏発行 1000円

 目次
<作品>
上野菊江 コンパニオン・アニマル…2     山本楡美子 波…4 抒…6
朝倉宏哉 三年連用日記…8
<イラスト>平野 充…11
<作品>
平野 充 祈祷書(烏)・祈祷…12        こたきこなみ ストリートビューを開くと…14
清水 正吾 百草丸…16 鳥兜(トリカブト)…18 空洞の鞄…20
<エッセイ>こたきこなみ 「遠野」の陰の人  佐々木喜善と山田野理夫…22
<コラム>清水正吾
.G茶房・シンク-タンクT…25
<作品>
弓田弓子 にがかった…26 祖母は…28 夏までどうする…30
斎藤充江 イサイ フミ…32          いわたにあきら 定位置…34 竜の戻り道…37
梅沢 啓 惑いの構図…40           舘内尚子 イヴの手袋…48 霧の銅版画…50 終焉の星…52
<イラスト>梅沢 啓…54
<評論>上野菊江 アフォリズムの系譜…55   竜舌欄・編集手帳
表紙デザイン・本文レイアウト/ネオクリエーション




 
竜舌欄

 昨夜のお電話。なぜそんなに悩むのだろうと不思議でした。
 人はみなそれぞれの言葉でそれぞれ気になったことがらを書くのですから、みんな違ってあたりまえ。現在、あんまり勝手な書き方の詩がありすぎておかしなものですが、これもおもしろいなと思うだけでいいじゃないですか。あなたの詩のどこがいけないのですか。へんなものにへんな反応を起こさないでください。
 私は『ガーネット』の詩群をおもしろいと思うようになりました。渡辺玄英氏の廿楽順治詩の評など、納得がいきます。それから、ある詩誌を読んでいたら、こんな詩に出会いました。
《結婚ハ判断力ノ欠如デアリ/離婚ハ忍耐力ノ欠如/再婚ハ記憶力ノ欠如ダネ》
 こんな言葉が詩なんですね。いえ、こんな言葉も詩として書かれているということ。(これはアフォリズム・箴言ですね)
 Y氏がY言葉で書くのも、一見さらさら書いているようで、本音は、うなっていることでしょう。
 私も、いま、うなりながら「イヴの手袋」を書き直しています。なるべく一行の終わりを名詞で切らず、説明言葉にしています。このほうが、なめらかで、好きなことどんどん書けるから。むずかしい言葉は現代的でないからです。
 ついにペンがうまく持てなくなりました。右肘が痛みます。手首も痛い。これが「年寄り」というものですか。くやしいから、えいやっと背筋をのばして、胸張って。 H・T

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 今号は詩ではなく「竜舌欄」というコーナーを紹介してみました。〈昨夜のお電話〉に関連した内容は推測の域をでませんけど、《結婚ハ判断力ノ欠如デアリ/離婚ハ忍耐力ノ欠如/再婚ハ記憶力ノ欠如ダネ》という〈ある詩誌〉の〈こんな詩〉はおもしろいですね。〈アフォリズム・箴言〉ですが、立派な詩だろうと思います。H・T氏の詩に対する考え方も好感をもって拝読しました。






   
前の頁  次の頁

   back(3月の部屋へ戻る)

   
home