きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅 |
2010.3.12(金)
夕方から都内で出版記念会があったのですが、行きませんでした。あるIT関連の著作ですが、出席すれば割引で売ってもらえるとのことでしたが、事前に本屋さんに注文して読んでおきました。読まないで出版記念会に行くのもヘンですからね。なかなか斬新な視点で書かれた本です。内容的にも良いので、せっかく誘われたことだから行ってみようかという気にもなったのですが、結局取りやめました。今週は西さがみ文芸展覧会が終わったばかりで、ちょっと疲れています。Sさん、ごめんなさい!
○コールサック詩文庫4 『吉田博子詩選集一五〇篇』 |
2010.3.25
東京都板橋区 コールサック社刊 1428円+税 |
<目次>
第一詩集『花を持つ私』(一九六〇年刊行)より
夢の中から 10 犬のとおぼえ 10
夜と私 11 モンナ・リーサ 13
花を持つ私 14 十六の曲がり角 14
まめむき 15
第二詩集『影について』(一九六八年刊行)より
弟 16 えんじ色の小菊 17
赤紫色に染まった空の中にもう一つの 私の湖 18
私の身体が流れこんでいます 17 ゆめ 19
私は多分軽卒だったろうか 20 すすき 21
竹原古墳の壁画を見て 22 古い山に向かって 23
第三詩集『石仏のように』(一九七四年刊行)より
風のように 24 思う姿勢のまんま 25
おとうと 26 わたしを貫くもの 27
三原市仏通寺の石仏を見て 28 岩堂阿弥陀磨崖仏を見て 29
石仏のように 29 春の家 31
第四詩集『雪をください』(一九七九年刊行)より
雪をください 33 まんさくの木 33
自分の翅でしんから鳴くのは 34 死 35
夢みる事 35 一本に 36
夕だち 37
第五詩集『わたしの冠』(一九八二年刊行)より
陣痛の時 37 分娩室 39
ふたり 39 麻酔の時 41
待合室 42 ひまわりのように 43
ふるさと 43 目を閉じる 44
朝顔とともに 45 におい 45
朝の郵便局 46 シーソーゲーム 47
わたしの冠 48
第六詩集『野鳥へのたより』(一九九〇年刊行)より
いのち 48 一日の終りに 49
夕だち 50 夜の闇がなぜか明るく 50
朝 51 ハエ 52
仕込み日(暑い日に) 53 みつけた一円 54
野生から人口へと 54 仕事場 55
嬉しい日 56 野鳥へのたより 56
わたしの詩を 57 人間であることがいやな日 58
潮(うしお)の時 59
第七詩集『月の夜』(一九九七年刊行)より
花梨 60 喫茶店にて 60
あこがれ 61 おんな 61
虹に 62 春の脇役 63
ルナ 64 鯉が窪の湿原 64
清らかに 65 もしも 65
彼岸へと 66 月の夜 66
樫 67 娘の星(こども) 67
第八詩集『立つ』(二〇〇三年刊行)より
立つ 68 生きもの 70
心がいろどられる 71 母 72
いつかそんな詩が 73 風の中に――詩友(とも)が逝って 74
星月夜 75 いのち T 75
いのち U 77 顔 77
雨がえる 78 その男 79
仮面 80 白夜のように明けそめて 80
エスポワール(希望) 81 川にも 81
サンピラー 82 目にみえない誰かに 82
第九詩集『咲かせたい』(二〇〇五年刊行)より
咲かせたい 83 ふるさと 84
ある時は 85 入院 87
川に落ちて 87 女とナベ 88
ばあちゃん死んだら 90 たっくん 90
みつめたら 90 しんの 91
早朝 91 青の人 92
旅して 93 白石踊 94
待つ 96 祈り 97
第十詩集『いのち』(二〇〇九年刊行)より
たっくんと娘 98 長靴を履いた娘 99
わたしの宝物 100. やもり 101
ハムスターのお母さん 101. 川の字に寝ていたら 102
牙をだしたナタ豆 103. いつも揺れて 104
奇跡の生命 104. 母と 105
母 105. 母を見つめる 106
今やっと 107. 畑で 107
そら豆 108. とうがたつ 109
祈りの姿 110. うしなう 111
まんさくの木 111. ほんとうに 112
無意識のようにした事 113. 備前へ 114
片上行き 116. ぼんささげ 117
痂(かさぶた) 118 音を聞く 118
空 119. 死のかたち 120
犬とわたし 120. 虹色にひかる 121
白い花びらのように 122. あかるいあかるい光の中で 123
その橋の黒ずみは 124. いのち 125
未収録詩篇
ガロアムシ 126. 母 127
畑で 127. 命の尊厳 129
ジョン 130. 婆藪仙人(ばすせんにん)像 131
血とわたし 131. 温泉にて(十二月八日の誕生日に) 132
この広い海のなかから 133
解説・詩人論
「吉田博子さんについて」井奥行彦 136 「吉田博子論」 三方克 139
「しんの優しさ」を共に生きる人 鈴木比佐雄. 144
略歴 154
花を持つ私
まあ きれいな花ねえ、
教室の花がかれてしまっているので
私は花屋を尋ね
朝早く 赤いバラと黄のバラ 白のバラなどを
二本とあとは一本ずつ花屋の花のついた包装紙にそっと包んでもらって
店を出ると
ひと通りの少ない通りや
それからようやくことこと起きだして 店の重い戸を開くねむそうな店員の動作
街のすべてのできごとは
私と花とをすっかり取り囲んでしまう
そうして 私の歩いた後には
いろんないじわるを言う友の顔も醜い人達もみな
美しく笑いかける
私がみんなの喜ぶ顔を一生懸命
心の中であたためながら
花を抱きしめて
学校の花瓶にさすと
友は くるりと取り囲みざわめいては口々に
甘い優しい言葉を私の耳もとに寄せる
まあ いいにおいねえ、
いつの間にか私と花は
世界の中心に置かれ
そしてふくふくとしてくる愛をかみしめる
一日中楽しいバラと 窓外の景色とは
かわるがわる心にしのびこんできて
もう私を嬉しさでものも言わせなくしてしまう
1960年の第1詩集から2009年の第10詩集まで、50年に及ぶ詩業の選集です。驚いたことに第1詩集は高校の文学部の発行、高校生での快挙でした。ここではそのタイトルポエムを紹介してみましたが、おそらくなかなか眼に触れられない作品だろうと思います。素材は〈学校の花瓶にさす〉〈赤いバラと黄のバラ 白のバラなど〉ですが、〈ねむそうな店員〉や〈くるりと取り囲みざわめいて〉いる級友たちを見る眼は確かです。数年前に“世界の中心で愛を叫ぶ”という言葉が流行しましたけれど、すでに半世紀も前に〈いつの間にか私と花は/世界の中心に置かれ〉と表現されていることに、詩人の先見性も見た思いです。吉田博子詩を知るには格好の詩選集だと思います。
○館報『詩歌の森』58号 |
2010.3.9 岩手県北上市 日本現代詩歌文学館発行 非売品 |
<目次>
資料に直接当たることの貴さ/篠 弘
第4回日本現代詩歌文学館館長賞受賞記念エッセイ 披講力/大木俊秀
詩との出会い25 すみれ/中津攸子
シリーズ 詩歌の舞台裏6 「大岡信ことば館」を開館して/岩本圭司
連載 現代短歌時評1 「不自由」「不自然」な文体を/川野里子
資料館情報
詩歌関係の文学賞 2009.10〜2010.1発表分
日本現代詩歌研究第9号(予告)
第4回現代川柳の集い
開館20周年記念展「啄木に献ずる詩歌」(予告)
'09年度常設展「食卓と詩歌」関連イベント 「美味詩歌!」開催
第16回雑草園祭
日本現代詩歌文学館振興会評議員動向 2009.9〜2010.1
日録 2009.9〜2010.1
後記
シリーズ詩歌の舞台裏6
「大岡信ことば館」を開館して 岩本圭司
昨年10月大岡信ことば館が、静岡県JR三島駅北口Z会文教町ビル1・2階フロアに開館しました。開館記念として6期に分けた特別展を企画し、現在その2「いのちにふれる」展(1/16〜3/30)を開催中です。この6期1年半にわたる特別展では、「詩」あるいは「ことば」の新たな可能性を探るべく、1階吹抜と1階メインの大空間に布などの素材を使った造形的な「詩」の展示を展開し、また大岡信さんの美術コレクションや若き日の生原稿など貴重な資料も多数展示していくつもりです。
館の立ち上げにあたり、およそ2年前に設立準備委員会を組織し、大岡信さんを核とした、「もっとも大岡信さんらしい館」を作るにはどうしたらよいか、侃々諤々の議論を交わしてきました。そして、そのなかで見えてきたのが、大岡さんの幅広い視点、幅広い仕事ぶりを反映した「文学館でも美術館でもない、世界のどこにもない館」を作りあげること。そして、大岡さんはことばの人なのだから、ことばを最も大切にしてきた詩人なのだから、「ことばを肌で学び、ことばの楽しさを肌で感じる館」にすること、の2点でした。「ことば館」という一風変わったネーミングも、「世界のどこにもない」「ことばの楽しさを肌で感じる館」をという私たちの熱い想いの表れなのです。
昨年末で第1期の展示を終え、この原稿を書いている今現在、第2期展示の真っ最中で、まさに大海原で黒く大きな波に揺られる日々といったところですが、ぽつりぽつりと小さな光が見えてきてもいます。大岡信ことば館があるのは三島という地方都市で人口もそれなりですから、なかなか大きな入館者数は見込めませんが、来館していただいた方々の反応がとても良いのです。アンケートにもことのほか嬉しいことばが並びます。「とても気持ちの良い空間」「楽しい雰囲気」「次の展示もまた来ます」などなど。もちろん現実的な多くの問題に直面して胃の痛む毎日ですが、こういった皆さんのやさしい「ことば」に救われる日々でもあります。
さて、私たちのこれからの課題としては、現在「館」と名前の付くところは皆そうだと思いますが、コミュニケーション力をもっともっと付けていくことだと思っています。気持ちの良い距離感を提案することで人の輪は広がっていくものですし、もともと「ことば」は人の最も大切なコミュニケーション・ツールですから、「ことば館」である以上、二重の意味で大いなるコミュニケーション力を必要とされると思うのです。 (いわもと・けいじ 大岡信ことば館副館長)
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「大岡信ことば館」の開館は知っていたのですが、まだ行っていません。いずれ行きたいなと思っているところにこの文章に出合いました。新聞などでそれなりに内容を把握していたつもりですけど、〈「世界のどこにもない」「ことばの楽しさを肌で感じる館」〉のようですね。〈大岡信ことば館副館長〉の文章に刺激されて、早く行ってみたいという気になっています。
○詩誌『衣』19号 |
2010.3.10
栃木県下都賀郡壬生町 700円 森田海径子氏方「衣」の会・山本十四尾氏発行 |
<目次>
残響/長津功三良 2 帯/うおずみ千尋 5
原野/青柳俊哉 6 木になった男/大磯瑞己 7
ポンペイ/大原勝人 8 守宮/相場栄子 9
早春ロンド/颯木(さつき)あやこ 10 二つの神話/岡山晴彦(はるよし) 11
ダルマ時計/岡山晴彦 12 寓話/小坂顕太郎 13
成仏/山田雅己 16 義母の姿/小森利子 17
春の風(五題)/喜多美子 18 生/千本 勲 19
飛天 後追い堕天 忘天行/石川早苗 20 海の対流の中に/貝塚津音魚(つねお) 21
デジタル付きアナログ時計/貝塚津音魚 22 ある塩の道(一)/又野京子 23
鳥の行方/山下貴実代 24 名曲喫茶 ライオン/酒木裕次郎 25
桃/酒井邦子 26 連なる/佐々木春美 27
ヨイトマケの唄/江口智代 28 時のなかで/須永敏也 29
新体の書・三一二句(五)/須永敏也 30 シルクロード/豊福みどり 31
茶/森 田 海径子(かつこ) 32 花毛布考/山本十四尾 33
同人詩集紹介 34
同人近況 35 後記 39
住所録 40 表紙「衣」書 川又南岳
生/千本 勲
ひもじいぼくの心情をほろほろと
フライパンで炒めたいのですが
どうもむみで無香なようで
おまけに七月の炎は
うららかな彩りをもって
ぼくの歳月をこがしてしまう
無色のままの純な
いじらしさが悶々流れる
ぬるくあかい精気を
蚊はこいしがる あなたの唇は
羨望をしらぬ 軽蔑をもたぬ
人間をおそれやしない
ひもじいぼくの心情をあなたに
捧げることで
ぼくの生はかすかに今、灼けている
〈ひもじいぼくの心情〉と〈蚊〉の対比がおもしろい作品だと思います。血を〈無色のままの純な/いじらしさが悶々流れる/ぬるくあかい精気〉としたことで、それを〈こいしがる〉蚊の存在感が増したと云えるでしょう。第1連の〈フライパンで炒めたい〉という詩語と、最終連の〈ぼくの生はかすかに今、灼けている〉というフレーズも見事に呼応した詩だと思いました。