きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
100225.JPG
2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅




2010.3.13(土)


 午後から東大駒場で開催された日本詩人クラブの3月例会に出席してきました。会員の朗読と小講演に続いて、今日の主講演は司修氏の「私と詩とのであい」。司さんは画家・装幀家で、私の第6詩集の装幀をやってくれた方です。第6詩集は土曜美術社出版販売のシリーズ本の中の1冊という位置づけですから、私が直接装幀家と交渉するようなことはなかったのですが、気に入った装幀ですから、そのうち司さんに会える機会がないかなと思っていました。

100313.JPG

 写真は司さんの講演の様子です。画家はちょっと気難しい人が多いという印象を持っているのですが、司さんにはそんな雰囲気はまったくなくて、自分の生い立ちや詩人たちとの交遊をユーモアを交えてお話しくださいました。詩に影響されて絵を描きはじめたという、うれしいエピソードもあって、時間が経つのが早く感じられたほどです。
 ご本人と直接お話ししたかったのですが、次の予定があって懇親会をサボりました。またいずれ会う機会もあるでしょう。

 その足で秦野市の「とんがりぼうしホール」へ。NPO法人日本子守唄協会相模支部の幹事会です。昨秋の第1回コンサートの結果報告や2010年度の活動方針などが示されました。第2回コンサートをやりますが、会場確保に一苦労しそうです。




中原道夫氏詩集『ほのほのと 百四十歳』
現代詩のプロムナードT
honohono to 140sai.JPG
2010.3.1 東京都新宿区 北溟社刊 1905円+税

<目次>
 
T
独り者のぼくに  010   日常の狭間の中で 013   蝿        016
歯科医院で    019   白内障手術    022   どうぞ      025
十二指腸潰瘍   028   影        031   料理の本     034
電話       037   女の匂い     040
 
U
掃除機      044   桜湯       047   モーニングコーヒー050
女の故郷     053   極寒の知床で   056   空        059
夕焼け色の万年筆 062   鼻毛鋏      065   誕生日      068
花みずき     071   ポスター     074   「痛み」考
.    078
警告       081   白椿       084   豚        087
冬眠       090   殻        093   蟋蟀の声     096
携帯電話     099
 
V
会津下郷大内宿  104   朝焼けの中で   107   声        110
火の玉      113   蛇        116   屋久島で     119
掘炬燵      122
あとがき代えて  126
装幀 高島鯉水子
題字 著者




 
掘炬燵

同じものを食べているのに
別々の茶碗と箸を使っているんだよな
男が突然言った

それがどうしたっていうの
女は即座に切り返した

食事のときのことだけではない
いっしょに暮らしているのに
だれもが同じように生きるのは
難しいってことさ

ベッドもひとつ
お風呂もいっしょなのに
女は哀しそうに呟いた

死ぬときもけっきょく
独りぼっちで逝くんだな
男は小さな声で付け足した

しかたがないけど
それはそうよ
女は頷いた

酒でも飲むか
酒でも飲みましょう

外は寒いだろうな
でもお炬燵は温かいわ

 〈むかひあふ孤独の坐る掘炬燵〉

二人あわせて百四十歳
木枯らしの吹きすさぶ寒い夜であった

 試論集やエッセイ集が多数ある著者の、詩集としては12冊目になるようです。この詩集にはタイトルポエムがありませんが、紹介した詩の最終連から採っていると思います。〈二人あわせて百四十歳〉という夫婦の日常を多く扱った詩集です。〈いっしょに暮らしているのに/だれもが同じように生きるのは/難し〉く、〈死ぬときもけっきょく/独りぼっちで逝く〉しかないわけですけど、〈でもお炬燵は温かい〉のですね。挿入された句もよく生きている作品だと思いました。




詩誌『東国』141号
togoku 141.JPG
2010.3.1 群馬県伊勢崎市
小山和郎氏発行 600円

<目次>
●詩
自然のままにとは廃園ではない 2 堀内みち子 家庭医療事典「ウ」の項より 6 松浦宥吉
   晩春/ひとりきりの外食 12 中澤陸士            その男 18 綾部健二
          訛り/塊 20 奥重機             えひか 24 江尻潔
        二ヶ月/西陽 25 金井裕美子            監獄 28 小保方清
      オンリョウのひと 30 本郷武夫     犬の生活/現実の強度 32 青木幹枝
             酒 36 野口直紀             末路 38 柳沢幸雄
       「その他のゴミ」 41 大橋政人       漂流瓶日乗・(14) 64 小山和郎
         ぼうし/旅 68 高田芙美         ヨシオの青春 70 三本木昇
        手は膝の上に 73 若宮ひとみ         沼田まつり 80 堀江泰壽
             雪 84 斎藤光子      まろびでるヨロバシ 88 佐伯圭
  れくいえむ/白樺林/落下 91 福田誠           霜のように 98 愛敬浩一
        翡翠色の風と
.100 田口三舩       森、純銀もざいく.102 川島完
●ことばの花束
青山みゆき編訳詩集『ネイティヴ・アメリカン』 44 金子以左生
青木幹枝詩集『かめという女の記憶』を読んで  47 粒来哲蔵
●講座記録 岡田刀水士の初期詩篇       50 愛敬浩一
●針の穴
 以倉紘平詩集『フイリップ・マーロウの拳銃』 58 川島完
        石井藤雄詩集『梨作りの名人』 59
           嵯峨恵子詩集『私の男』 60 愛敬浩一
      山本博道詩集『ボイシャキ・メラ』 61
           長嶋南子詩集『猫笑う』 63 小山和郎
●あとがき 106




 
その男 〜クリント・イーストウッドに〜/綾部健二

男の名前は
アルファベットで一三文字
その並び順を入れ替えると
オールド・ウエスト・アクション
〈懐かしい西部劇〉ということになる

逆転する映画フィルムの中で
放物線のように遠ざかっていく
まっすぐな脚の
ひとりの 男

一八八センチの痩身が夕陽に映える
風に運ばれていく賞賛のきれはし
だが 語りうる言葉は少ない
砂時計の静かな逆流に
私もつま先の向きをかえる

色褪せた地図をたどり
幻想の荒野に立ちたいのだ
タフなガンマンと肩を並べ
砂塵を巻き上げて
駿馬をどこまでも疾駆させるために

空にはナイフのような三日月がひとつ
世紀を跨いで響く たしかな蹄の音
その馬のたてがみは白い
老いた乗り手は 今も未来をめざす

私の名前は
アルファベットで一〇文字
どんなに並び順を入れ替えても
八〇歳に手の届く その男の
照れたような微笑には 適わない

 〈
クリント・イーストウッド〉は私も好きな俳優・映画監督なのですが、その〈男の名前〉と〈私の名前〉の〈アルファベット〉の〈並び順を入れ替える〉とは考えもしませんでした。そこには特に意味はなく、単なる遊びと捉えればよいのでしょうけど、〈オールド・ウエスト・アクション〉という言葉になってしまうと、何か運命的なものさえ感じられます。最終連の〈どんなに並び順を入れ替えても/八〇歳に手の届く その男の/照れたような微笑には 適わない〉というフレーズは良いですね。〈私〉を低く置くところに詩人としての矜恃を知らされます。




詩誌『白亜紀』132号
hakuaki 132.JPG
2009.11.1 茨城県ひたちなか市
武子氏方・白亜紀の会発行 800円

<目次> 星野徹追悼号
●星野徹詩作品
蘭丸 2                  髪 3
伝承 4                  蜆蝶になればなったで 15
句集『聖痕』より 87
●星野徹追悼T,U
新井明 星野先生−この四○年 6      一色真理 「孤独」について質問があります 10
白亜紀同人 68
●星野徹論 溝呂木邦江 飛翔する想像力とメクモルフォーシス 18
●同人詩作品
大島邦行 余白に6 22           岡野絵里子 読まれない物語 24
黒羽由紀子 火之迦具土神 26        齋藤貢 失楽園 28
近藤由紀子 靴をめぐって 30        渡邉由記 結び・創世記 32
及川馥 夏の旅から 34           我妻信夫 源流の宿にて 36
硲杏子 詩神に 38             鈴木満 だます・帰ってくる 40
石島久男 ホタルブクロ 46         太田雅孝 なかずの池 48
北岡淳子 約束に佇むと 50         広沢恵美子 尾 52
宇野雅詮 この鳥 パンを食べるよ 54    真崎節 「静かな人だから。」 56
網谷厚子 ユビキタス畑で 58        溝呂木邦江 木漏れ日 60
鈴木有美子 夜の習作 62          橋浦洋志 逆光 64
武子和幸 美術館にて 66
●詩集評
加藤廣行 現在形の神話 42         齋藤貢 『
King Kongの尾てい骨』について 44
●装画 立見榮男 往交




 
蘭丸/星野徹

火の手は右からも左からも迫っていた
ゆらめく無数の指を衿に這わせ
元結に絡ませ
あまつさえ 咽喉のおくの暗い城
そのしのびがえしのあたりにまでとどいていた
天主閣を守らねば――
彼は必死に口をとざしていた
発火点にまで徐々に高まってゆく石垣の石
石を洗う血の分子の一つ一つ
武器を!
しかし口をひらくわけにはゆかなかった
ひらけば
焔の蛇が殺到し押し入ってくるだろう
じりじりと包囲される天主閣
意識の夜空に直立する彼の
形而上学
赤熱してゆく針のように
それは越後路からも堺からも
望見された
                詩集『PERSONAE』

 今号は昨年1月に83歳で亡くなった星野徹主宰の追悼号になっていました。ここでは巻頭に置かれた詩を紹介してみましたが、詩集『PERSONAE』は1970年、著者45歳の油の乗り切った時期の詩集です。〈蘭丸〉は本能寺で織田信長とともに死んだ森蘭丸でよいと思います。歴史上の事件を詩化するのは難しいものだと思っていましたけど、さすがは星野徹さん、見事に〈形而上学〉的な作品に仕上げています。改めてご冥福をお祈りいたします。






   
前の頁  次の頁

   back(3月の部屋へ)

   
home