きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅




2010.3.16(火)


 午後から地元・西さがみ文芸愛好会の事務局会議が開かれました。4月に最高議決機関の運営委員会が開催されますので、その準備です。こういう組織は通常、総会が最高議決機関になるのですが、いつの頃からか総会が開かれなくなり、代わりに20名ほどの運営委員会がその任にあたってきました。100人ほどの会ですから、それはそれでいいのかもしれませんけど、私としては一応問題点として指摘しておきました。
 事業報告・会計報告を確認し、来年度の事業計画・予算案に加えて、新役員体制の検討を行いました。昨年8月に代表が亡くなったので、その後任を含めた人事を決めました。私は事務局長をやれと言われていたのですが、辞退したところ、3人の事務局次長のうちの1人で勘弁してもらうことができました。スミマセン。

 終わったあとは小田原市国府津にあるギャラリー「寄りあい処こうづ」の写真展を観てきました。会期は明後日からなのですが、すでにおおかたの準備は整っているとのことで、会期前の見学です。

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 写真は会場の一部。作家は地元の写真家I先生。箱根仙石原に長安寺という羅漢石像で有名な寺があるのですが、その写真が主でした。I先生のコンセプトは“人のいる風景”。石像ではさすがに人は出てきませんけど、左の写真のような人物像も展示されていました。やっぱり石像だけでは落ち着かないんでしょうね。
 会期前でしたから、かなりガランとしていましたが、その分ゆったりと観ることができたのはうれしい誤算です。多くの人が訪れてくれるといいですね。




月刊詩誌『歴程』566号
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2010.2.28 静岡県熱海市
歴程社・新藤涼子氏発行 600円

<目次>
詩 化身………是永  駿      漠然とした水…高見沢 隆
  逍遥遊……齋藤  貢      自×由…………伊武トーマ

某月某日………朝倉  勇      エッセイ………相沢正一郎
版画……………岩佐 なを      後記……………市原千佳子




 
化身/是永 駿

海の上の
雲の峰が
輝きながら
ゆっくりと炸裂をくりかえす
どこかでみたような光景
どこかで耳にしたような音
それは海を見晴るかす丘に横たわる
あの観音の
白い胸の高鳴り

手のひらに伝わる火照り
覚めやらぬ観音の
夢の渇きの通い路に
少年が騎乗する
一頭の白い象が
陽炎の中から現れ
南の川を渡っていった

 作品の“解釈”としては、〈少年〉または〈少年が騎乗する/一頭の白い象〉が「化身」であると考えられますが、そこを詰めてもあまり意味がないように思います。この作品ではむしろ〈観音の/白い胸の高鳴り〉というフレーズに新鮮さを感じました。観音様の胸など意識的に視野に入ったことはなく、ましてや胸の高鳴りなど思いもしなかったからです。〈夢の渇きの通い路〉という詩語も佳いですね。




詩誌『帆翔』46号
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2010.3.10 東京都小平市
《帆翔の会》・岩井昭児氏発行 非売品

<目次>
《詩篇》
土手道の朝…大岳美帆 2          待つ/手紙…坂本絢世 4
旅・素描U…吉本幸子 8          野分…………岩井昭児 10
《随筆》
足るを知らねば…大岳美帆 12
ピアニスト中村絃子さんの語る「悪魔の血の一滴」とは…坂本絢世 13
〇匹日のどぜう…岩井昭児 14
時代小説 暁闇の星(後篇・第5回)…赤木駿介 19
※受贈詩集・詩書等紹介…2〜14
◇あとがきにかえて/◇編集委員連絡先…24




 
土手道の朝/大岳美帆

犬を歩く河川敷の土手道で
毎朝
何人もの人とあいさつをする

おはようございます
おはよう
おはようございます

どこに住み
何をしている人かも知らないけれど
一日の産声のようなあいさつを交わす

犬を散歩させている人も
健康のために歩いている人も
顔なじみの人も
初めて会う人も

おはようございます
おはよう
おはようございます

広い川面や草むらに
朝の光がふりそそぎ
新しい命を迎えるような
わくわくした気持ちになる

そんな風景の中で交わす
朝のあいさつは
人のおかげで自分があるという
当たり前だけれど温かい
祈りにも似た気づきを
与えてくれる

 〈河川敷の土手道〉での〈朝のあいさつ〉から〈人のおかげで自分があるという〉〈祈りにも似た気づきを/与えて〉もらったという作品ですが、この“発見”が爽やかに伝わってきます。挨拶にはたしかにそういう効果がありますね。〈広い川面や草むらに/朝の光がふりそそ〉ぐのを見て、〈新しい命を迎えるような/わくわくした気持ちになる〉という作中人物の気持ちにも好感を持ちました。
 なお、1行目の〈犬を歩く〉は“犬と歩く”かもしれませんが原文のままとしてあります。




詩誌『坂道』6号
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2010.3.15 さいたま市見沼区
坂道の会・ささきひろし氏発行 非売品

<目次>
ささきひろし
 詩    消えゆく学舎 4          北の『田舎教師』 6
 エッセイ ふるさと母校の閉校 8
曽根よし子
 詩    石棺 10              カンナの花 12
 エッセイ 古い日記から 14
月谷小夜子
 詩    夜桜にゆれる 16          大寒 18        緩衝 19
 エッセイ 専業主婦のトイレ掃除 20
結城 文
 詩    一週間前は 22           黒揚羽 24
 エッセイ 胃ろう 26
秋田芳子
 詩    種子 28              団地の猫 30
 エッセイ いちじく 32
ささき ひろし詩集『海の血族』特集
書評
松井 郁子−交錯する望郷の念と深い兄弟愛 34  村山 精二−閉塞した現代詩に風穴を開ける 36
登  芳久−熱い思いをはぐくむ海 37      小見山 恵−民話や神話のような語り 38
会員による書評
秋田 芳子−血の繋がりへのひたむきな愛 39   曽根よし子−とびちる愛が波しぶきのように 39
月谷小夜子−ささきひろしさんの出版によせて 40 結城  文−北の海の語り部 40
編集後記 42
会員名簿




      
まなびや
 
消えゆく学舎/ささき ひろし

−海原は はるか ひろけく
 かぎりなし我らが希望
(のぞみ)
 日に新らた光をかかげ
 若き日の理想も高く
 この庭に われら学ばん学ばん (増毛高校校歌)

開校七十年の伝統ある
ふるさと道立増毛高校が
過疎や少子化の影響で生徒が集まらず
卒業生を待って閉校するという
いまだ秋鮭が遡上する
暑寒別川の辺りの丸いモダンな校舎もいずれ取り壊される
鮭たちの眼からも学舎が消えるのだ

かつてメルボルンやローマ五輪で
メダル選手三人を輩出したレスリング部
全国高校総体で二年連続優勝した山岳部
詩人の教師の指導による盛んだった文芸部
卒業生には文芸評論家もでた
六千名にのぼる卒業生の思いは複雑だ

ひたすら走らされたランニングやウサギ跳び
重い足をひきずった全生徒参加の暑寒別岳の登山
吹雪の中のしごきのようなサッカー授業も
しなやかな心と青い身体に しっかりと刻まれた
味わい深い教師たちが多かった

ふるさとの風景から
光かがやく学舎は消えるが
「学ぶことは生きる事である」(校訓)は
若き日の理想となって
鮮やかに 心の中に生き続け
いまも ふつふつと 燃えている

 拙宅のある地域の中学校も少子化のためこの3月に廃校になりましたから、身につまされる作品です。子を産まないのは、産んでもロクな世の中ではないという親の本能的な読みがそうさせているのだと思っていますが、そこを改めて感じさせられました。それとは視点が違いますけど、〈鮭たちの眼からも学舎が消えるのだ〉というフレーズが佳いですね。斬新な着眼点だと思います。
 なお今号では、ささきさんの詩集『海の血族』の書評を書かせていただきました。ありがとうございました。






   
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