きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり
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2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅




2010.3.20(土)


 銀座8丁目のジャズライヴハウス「銀座シグナス」で吉田義昭さんのライヴを聴いてきました。吉田さんは日本詩人クラブ、日本ペンクラブ会員で、都内の某私立高校の校長先生でもあります。ちょっと固いイメージを持たれるかもしれませんが、若い頃はナイトクラブで唄っていたこともあるという本格派。私も1曲、2曲は何度か聴いたことがありますけど、まとまったライヴは初めて。楽しみにしていました。

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 校長先生だからダブルのスーツかよ!と思いましたら、今日は卒業式だったそうです。その足で駆けつけたとの説明に納得。まあ、ジャズライウとは言っても「ジャニー・ギター」や「テネシー・ワルツ」、「恋の片道切符」もあるという柔軟なもので、スーツでも違和感はありませんでした。歌声もソフトで選曲に合っているのかもしれません。
 全18曲をたっぷり2時間聴いて、ワインを呑んでタバコを吸って、のんびりと過ごさせていただきました。土曜日の銀座の夜、なかなか良いものでしたよ。




『千葉県詩人クラブ会報』209号
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2010.3.20 千葉県茂原市 斎藤正敏氏発行 非売品

<目次>
平成22年度総会にご参加を! 1
平成22・23年度理事候補選挙 2
市民が参加しての集いに 「まなびフェスタ」の中で「詩の朗読会」 2
エッセイ 揺れながら進んでいく/岬多可子 3
会員作品特集 兆す春
 芽吹き/岡田優子 4           春を待つ/瓜生幸三郎 4
 ふるさとの春/高野利代 5        なつかしの全州市よ/川本京子 5
 風はそよ と/庄司 進 5
新会員紹介 5
『千葉県詩集42』感想文 5
ぜひ読んでください 本間義人詩集『その日その人々』/諫川正臣 6
風土に生かされる生 片岡伸詩集『なみだ雨』/山佐木進 7
最近の詩誌より 8
会員活動 9     受贈御礼 10     編集後記 10




 
芽吹き/岡田優子

大通りの街路樹が芽吹きはじめて
あたりが明るんでいる
こちら側のバス停から
筋向いのビルの二階がよく見える
看板に「やまなみ学習塾」の文字

帰り仕度が終ったのか
おそろいのカバンを肩に掛け
くったくのない笑顔で
窓の外を眺めている子供たち
やんちゃな小鳥が 並んでいるようだ

進学塾でなく
学習塾というのが素朴に思えている
やまなみという響きも好き
連なる山がぐんぐん近づいてくるようで

そういえばこのバス路線は
高低差が激しい
二十歳の時に辿った
八ヶ岳の尾根のように

不意に思った
すべては麓から始まるのだ
哀しくないのに涙が滲んでくる

子供たちよ 今がいちばんいい時
慌てないでね
急がなくていい
ひそかに わたしは呼び掛けている

 「会員作品特集 兆す春」の中の1編です。〈このバス路線は/高低差が激しい〉ので「やまなみ学習塾」なのかもしれませんね。事実はどうあれ、詩的真実として捉えることができましょう。第5連が特に佳いと思います。〈すべては麓から始まるのだ〉という発見は、〈窓の外を眺めている子供たち〉の現実の姿とダブって、子供たちが麓にいるのだという実感を与えてくれます。これが詩なのでしょう。〈今がいちばんいい時〉の子供たちに〈ひそかに〉私も〈呼び掛けて〉みたくなった佳品です。




詩誌『グッフォー』53号
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2010.3.31 札幌市手稲区
土屋一彦氏方・グッフォーの会発行 600円

<目次>
木本葉*春日 2              沖出利江*きわやかならず 4
入谷寿一*ぽっくり 6           土屋一彦*禍のもと 10
中村千代子*タペストリーV 12       清藤英子*二月 16
昌泉塔子*きせつはいつもうちがわからめぶき 20
松田良子*モノクローム 22         原雅恵*硝子のうつわのなかで夏のかけらはふるえ 24
金子啓子*満月に…気をゆるせば 28     日和佐忠*海鳴り 30
FUKURO-Gufo・編集後記…32




 
きわやかならず/沖出利江

うす切りの大根
と いったのは
誰だっけ

午後三時の
ふゆ空に
あおぎみる
白い月を

 かあさんが ひと切れの
 大根を
 甘いからお食べと

うす氷を貼り付けた
といったのは
誰だっけ

午後三時の
ふゆ空に
あおぎみる
白い月を

 氷を棒で とんと
 つついたら
 とがった破片がいくつも

定家のまなこにうつった
きわやかで、まろやかな
月の残像

見上げるわたしのまなこに
きわやかでも、まろやかでもない
白い月

 藤原定家の『明月記』を念頭においた詩と思われますが、〈誰だっけ〉というくだけた口語とおもしろくマッチした作品と云えましょう。〈白い月〉と〈ひと切れの/大根〉、そして〈氷〉のイメージが見事に重なります。第1連と第2連を繰り返す手法もおもしろいと思いました。朗読に向いているかもしれません。古風なタイトルも奏功した作品と思います。




詩とエッセイ『すてむ』46号
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2010.3.25 東京都大田区
甲田氏方・すてむの会発行 500円

<目次>
【詩】信じるひと■松岡 政則 2         コイのぼり■長嶋 南子 4
     千人針■坂本つや子 6        謎/ひこばえ■井口幻太郎 10
     やもり■藤井 章子 14        挽歌/雪物語■田中 郁子 16
     堂小屋■青山かつ子 21         同じ空間で■水島 英己 24
      侘助■閤田真太郎 27      雲の消えるところ■川島  洋 38
   暮れの匂い■甲田 四郎 33           わが町■松尾 茂夫 36
【エッセイ】
    詩と昆虫◆川島  洋 38         色が少ない◆閤田真太郎 42
すてむらんだむ 44
同人名簿 52                表紙画GONGON




 
挽歌/田中郁子

あのカエデの木がいつ倒れたのか
あなたが亡くなって一年過ぎた冬に気づいたのです
赤いナンテンをとりに来た時
雪の布団をふんわりきて地面に横たわっていたのです
寒いでしょうと声をかけると
もう 半身土に抱かれていますから暖かいのです
というのです

あの月桂樹の木がいつ枯れたのか
あなたが亡くなって三年過ぎた春に気づいたのです
いくら待っても新芽が出ないので切ってしまいました
あなたの後を追ったのかしらとつぶやくと
この切り株から若芽が伸びかけていますよ
というのです

それから何年後のことだったか
古い桜の木が台風で傾いたのです
次の年の五月 生き残っていた枝枝から蕾がふくらみ
少ないながら みごとな花が咲いたのです
誰かが見上げた花をあなたが見上げ
今 私が見上げているのです
どこかでウグイスがきよい声で歌うので
語りかける言葉がなくなってしまいました
この時 はじめてあなたがこの世から去ったのだと
はっきりわかったのです

あなたがうっとりと聞いた小鳥の声を
私はただ風景の中で聞いているのです

 〈カエデの木〉、〈月桂樹の木〉、〈古い桜の木〉と、滅びていくものと〈あなた〉が見事に重ねあわされた作品です。しかし木は〈半身土に抱かれてい〉たり、〈切り株から若芽が伸びかけてい〉たり、〈生き残っていた枝枝から蕾がふくら〉んだりしますが、〈あなた〉にはそのようなことはありません。それを気づかせてくれたのが〈語りかける言葉がなくなってしま〉ったときなのでしょう。立ち尽くし、〈あなたがうっとりと聞いた小鳥の声を〉〈ただ風景の中で聞いている〉〈私〉の姿が浮かび上がってくる作品です。






   
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