きょうはこんな日でした 【 ごまめのはぎしり 】 |
2010.2.25 神奈川県南足柄市・枝垂れ梅 |
2010.3.26(金)
シャンソン歌手・金丸麻子さんが初めて横浜でライヴを行うというので、中区山下町の「シャンソニエ・デュモン」という店に行ってきました。中華街のすぐそばで、ピアノが1台あるだけ、客は30人も入ればいっぱいという店ですが、ヨコハマにすっかり馴染んだという雰囲気でした。オーナーの女性も少し翳を感じさせる、シックな佳人です。
写真は金丸麻子さん。相変わらず若い!
この夜は珍しい人に再会しました。金丸さんと出逢ったそもそものきっかけは、10年以上前に、詩人のNさんがクルージングに誘ってくれたことです。逗子からN詩人所有のクルーザーで相模湾を回り、釣を楽しんだりしていたのですが、金丸さんも誘われていました。クルーザーはN詩人が基本的に操縦するんですけど、出入港の難しいところはAさんがやっていました。Aさんは愛想も良く面倒見も良くて、ずいぶんお世話になりました。AさんはたぶんN詩人に雇われていたのかもしれません。そのAさんもライヴに来ていたのです。久しぶりに金丸さんと3人で盛り上がりました。
ライヴは観客もヤジを飛ばすという気さくなもの。私もヤジを飛ばしていたら、その話はおもしろいから皆に紹介しろと言われて披露したのが、埼玉・川口の詩誌『幻竜』11号に載っていた、《結婚ハ判断力ノ欠如デアリ/離婚ハ忍耐力ノ欠如/再婚ハ記憶力ノ欠如ダネ》という1節です。ウケました。
まあ、そんなこんなでヨコハマ初ライヴは椅子が足りなくなるほどの盛況で、大成功だったと思います。金丸さん、これからも良いライヴを続けてください!
○個人詩誌『刺虫』創刊号 |
2010.春
鹿児島県指宿市 宇宿一成氏発行 非売品 |
<目次>
予報/宇宿一成 雲霧林/宇宿一成 星座/宇宿一成
予報/宇宿一成
ほっかいどうからほくりくにかけてのにほ
んかいがわはきょうもゆきがつづくでしょ
う。たいへいようがわもきびしいさむさでし
よう。
きあつはいちがふゆをおしえる
テレビののこえはかなしみにゆれるでも
よろこびにふるえるでもなく
まっすぐに
きょうというひがこおりつくことを
ただつたえる
しらうめが六ぶほどほころんでいた
きのう、ふるいのうかののきさきで
そのいえはもう
すむひとをもたないことを
ぼくはしっている
おいたふうふは
もうながいこと入院している
それぞれのじかんをこおらせたまま
なにもふつごうはないのだから
はやくいえに戻りたいとうったえつづける
これはぼくだけがしっていること
Mばあちゃんは
むかしのつまの伯母にあたる
認知症で
いちじかんまえにたべたおひるを
もうおぼえていない
てんきよほうはさむいこえを
あるくぼくのあたまのなかに
ふぶきのようにふきつけつづける
ちいさなベッドの
窓ガラスごしのひだまりで
Mばあちゃんは
回診におとずれたぼくのかおを
まじまじとみて
まえにどこかでおせわになったなあと
しきりにつぶやき
病室をあとにするころになって
K・Yという名をせなかになげつけた
K・Yはぎりのちちだった
そのごたにんになってから
すうねんまえにしんでしまった
Mばあちゃんのおとうとの名まえ
こおりついたきおくはみずのように
すこしだけとけだす
みずはかせきしたようにねばりついて
ながれだすせせらぎのようではない
K・Y、K・Yとくりかえしこえにだす
Mばあちゃんに
かんごふは、
あら きょうはKさんなのねえ
となにごともないように
びょうしつのとびらをしめて
ぼくをつぎのへやへつれてゆく
つぎのへやにはなにがまっているのか
てんきよほうはさむいこえを
ふぶきのようにふきつけつづける
きびしいさむさでしょう
新しい詩誌の誕生です。創刊おめでとうございます。誌名は“いらむし”と読みます。誌名についての思いも書かれていましたので、それも紹介しておきましょう。
〈「いらむし」 はイラガの幼虫です。
果樹などについていてその毒棘に刺されるととても痛く赤く腫れます。脱皮した蛹にも毒棘が残っていて、虫には触れていないのに木の枝などに触れて被害を受けることもあります。ヒロヘリアオイラガという輸入種のイラガは、鹿児島から国内にひろがっていきました。そのイラムシは毒々しい極彩色で、毒があることをアピールしているかのようです。
私も、言葉の毒を磨き上げたいと思います。本誌は、不定期刊の個人誌とします。〉
〈言葉の毒を磨き上げたい〉という決意に感嘆します。紹介した詩は、作者がお医者さんですので、日常の風景と採ってよいでしょう。〈Mばあちゃん〉を主に据えて、〈てんきよほう〉を見事にからませた佳品だと思います。〈かんごふ〉の〈となにごともないよう〉な応対が場を和ませますし、詩作品としても安定感を与えていると思いました。
なお、第2連の〈テレビののこえ〉は誤植と思われますがママとしてあります。今後のご発展を祈念しています。
○詩誌『詩創』22号 |
2010.3.31
鹿児島県指宿市 350円 鹿児島詩人会議・宇宿一成氏編集 茂山忠茂氏発行 |
<目次>
詩作品
3 おぎ ぜんた ケニア 黒人の唄/存在は存在をやめて
7 筒井 星舟 向日市 ネアンデルタールの花
11 桑山 靖子 垂水市 自然の摂理/望むこと
14 野村 昭也 姶良町 季節が変わると/アンデルセンの予告/魔の川
22 桐木平十詩子 霧島市 湯上りの身体を/砂金のような
27 田中 秀人 鹿屋市 木の実 草の実
31 松枝 徹 姶良町 失う日々/朝の一日/記憶
36 植田 文隆 北九州市 痛み/心の剣
40 岩元 昭雄 霧島市 空き家
42 松元 三千男 住用郡 借景/お百度
45 岩元 しげる 鹿児島市 大晦日
47 海千 山千 鹿児島市 花を見たら
49 妹背 たかし 薩摩川内市 闇のアスファルト/迷走/新・広辞苑
52 茂山 忠茂 鹿児島市 手の記憶/自己紹介
56 園田 實則 指宿市 野良猫と私/夫婦椿/涙の思い出
59 江本 洋 直方市 小詩集 似顔絵師 詩21篇
73 徳重 敏寛 鹿児島市 繋がり/春の行方/愛の招き
76 宇宿 一成 指宿市 保護色/狩られる/忍耐の長さ
79 金蔵 拓郎 鹿児島市 エッセー 思うこと・感じること
83 米田 雄二 大分市 詩作品 梢
84 宇宿 一成 米田雄二「電球交換」書評 誰かの心を照らしたい
85 詩集評・詩誌評 培養室 桐木平十詩子/宇宿一成
94 植田 文隆 詩創21号読後感 若葉マークの感想文(2)
95 岩元しげる 詩創21号読後感 なんなん、ナノである
97 おたよりから
103 後記
104 受贈詩集・詩誌
季節が変わると/野村昭也
骨太の毛虫の集団が 森を占拠して
何十年も過ぎた
木々も緑も食い放題で
繁殖を続けてきた
美しい森の樹林の中には
葉を食いつぶされて枯死するものが
ずっと続いてきた
「森は虫たちみんなのものだ」
日陰に追いやられていた地虫の集団が
声を上げた
「このままでは森が食いつぶされる」
骨太の毛虫は遠い海の向こうの森の毛虫まで呼び込んで
陽のあたる樹林を差し出している
ひところの緑滴る森は
何年も何年も独占されて
立ち枯れの木が増えて
六分の一は枯れかかっている
森が危ない
地虫たちは自分の木と森を守ろうと声を上げた
陽のあたる樹林から骨太の毛虫集団を追い落とした
「森を復活させる」と
どの虫集団も声をそろえる
「あとは野となれ山となれ」と
食い放題に食い荒らした毛虫集団がはやしたてる
「枯れ木に花を咲かしてみせろ・・・」
おごりの年月で呆けたか
虫の風上にも住めなくなった骨太の毛虫集団が
右往左往しながらわめいている
典型的な寓話詩と云ってよいでしょう。〈骨太の毛虫の集団〉は独占資本家、〈日陰に追いやられていた地虫の集団〉は市民、〈遠い海の向こうの森の毛虫〉は米国資本、または米軍、あるいはその双方と読み取りました。最終連は放逐される〈骨太の毛虫の集団〉が描かれていますけど、これはまだ現実になっていません。彼らが〈虫の風上にも住めなくな〉る日が待ち遠しいな、来るのかな、と思った、分かりやすく詩的に高められた作品です。
○季刊詩誌『ゆすりか』84号 |
2010.4.1
長野県諏訪市 ゆすりか社・藤森里美氏発行 1000円+税 |
<目次> 表紙絵 伊豆好天 横田昌蔵・扉絵 ねぎぼうず 相馬 大
◆巻頭詩 ・天国のマキ 白石かずこ ・淵のほとり 伊藤桂一 ・ぼくにとって縄文とは 原子修
◆作品(1)
初夢 住吉千代美 6 天上大風 高橋順子 8
えびす 八木 忠栄 10 三月――悼歌 財部鳥子 12
残照 長岡昭四郎 14 砲弾 北原溢朗 16
サファリ・パークへ 上野菊江 18 俺の虫 根本昌幸 20
同じ時間に 瀬川紀雄 22 ひらがなの名前で くにさだきみ 24
●エッセイ(1)
沢渡朔の写真展とジャズのペーター・ブロッツマンとの出逢い 白石かずこ 27
詩の響きあう場所 三田 洋 31 詩の原点をさぐる 長岡昭四郎 38
◆作品(2)
竹やぶ 冨長覚梁 42 ドン・キホーテ異聞その七 うなぎ/口上 國峰照子 44
篠突くの雨 大石良江 47 水のひびく道 相馬 大 50
虹 原子 修 52 雪崩落ちる 丸本明子 54
途方もないもの/森 常治 56 屠殺人の 佐藤 敏 58
◆作品(3)
坐る 松尾静明 60 競わず 陳 千武 62
貝塚の崖の下潜る遠い日の列車 黒羽英二 64 残像 進藤玲子 66
私の心はいつもやさしい 莊 柏林 68 偽りのわく海(十二月八日) 小島寿美子 70
老犬/黄昏時 木村孝夫 75 冬の兎 まるやまいさむ 79
◆作品(4)
雷峯塔で出逢った日没 金 光林 82 蘭 谷口 謙 84
この国は どこへゆくのか 篠田味喜夫 86 恩河深耐無底 −賤母発電所− 藤森里美 88
廃棄した土の中から 香咲 萌 92 友 後藤正三 93
◆作品(5)
綿虫の唄/喧嘩 根本昌幸 96 ピンピン・アンサンブル 小島寿美子 97
見送る 木村孝夫 99 陶酔の町/鳥の影 まるやまいさむ 100
悲しき山の嶺 莊 柏林 102. 味噌造り 高林正英 102
丁半賭博 佐藤 敏 103. コリウス 谷口 謙 104
花あかり 藤森里美 104. 翅雪 瀬川紀雄 105
●エッセイ(2)
「風」シリーズ 風渡る狭山丘陵(4) 五味秀雄 106
名古屋大空襲を逃れて 宮崎宣義 110. 張作寮の夢(二) 宮崎宣義 114
◆書評 「ポエジーその至福の舞」三田 洋著 秋田高敏 118
金光林詩の研究(2)3.主知的抒情の深化 −中期詩の世界− 権 宅明 123
◆風信・あとがき 130 同人名簿 136
同じ時間に/瀬川紀雄
年末年始ずっと雪で積雪六十センチ
二〇一〇年は白の世界から始まる
雪の合間の十時過ぎにようやく雪掻きに出る
南隣りの祖父と孫が家の後方まで除雪している
明けましておめでとうございます
赤いスノーダンプが色鮮やか
子どもの声がなおさら新年らしくする
北隣りの夫婦が出てきて
明けましておめでとうございます
先隣の奥さんも向かいの主人も出てきて
皆近くの同じ空地まで排雪
そこは次第に傾斜を強める雪捨ての一本道
譲り合いながら どうぞ今年もよろしく
綿雪がふわふわと降り出してきたが
向かい両隣から夫婦や親子が出てきて雪掻き
遠くから おめでとうございます
あとは皆無言で除雪・排雪に精を出す
雪は次第にしんしんとなり人々の影が隠されてくる
やがて一人消え、夫婦も親子もぽつりぽつり消え
最後に向かいの主人の姿も消え
道路にこんこんと灰雪が降る
居間のサッシ戸の薄地カーテンも開けっ放しにし
粉雪が舞う白だけの景色を眺める
でもなぜかまた外に出たくなる
厳しい北国のお正月からの〈除雪・排雪〉模様ですが、こころ温まるものを感じます。隣近所の人たちの姿が生き生きと伝わってくるからでしょう。そして〈やがて一人消え、夫婦も親子もぽつりぽつり消え/最後に向かいの主人の姿も消え〉ます。この余韻も作品を深めていると云えます。最終連の〈でもなぜかまた外に出たくなる〉には作者の向日性も感じた作品です。